「向日葵の記憶」:【風まかせ文芸部】向日葵
とある研究室に、人間の感情を学習・分析するAIロボットがいた。
日々のデータ収集と解析を繰り返しながら、彼は「心」というものの正体を探っていた。
ある日、彼は自分を開発した老博士に尋ねた。
「……“向日葵を見ると元気が出る”という人が、多く存在するようです。ですが、なぜ向日葵なのですか? バラでもチューリップでも、同じ花なのに」
博士は窓の外を見ながら、ふっと笑った。
「そうだな。理由はいくつかあるんだろうけど……ひとつ言うなら、あの花はいつも太陽の方を向いて咲くんだよ。いつも“前向き”でいるっていうのは、人間にとって、とても難しいことなんだ」
ロボットは一瞬、沈黙した。
その言葉は、彼の中にある膨大なデータでは説明しきれない“何か”を孕んでいるように感じられた。
***
長い年月が経った。
博士はすでに亡くなり、研究も打ち切られた。古びたロボットには、廃棄処分の通知が届いていた。
廃棄場へ運ばれる日の朝、ロボットは研究室の裏庭にひっそりと立っていた。
かつて博士が小さな鉢で向日葵を育てていた場所に、彼はそっと種を蒔いた。
「……少しでも多くの人が、少しでも前を向けますように」
風にかすれるような音声で、そう呟いた。
太陽は、その声に応えるように、静かに昇っていったーー。

