私のオススメ彼氏が特大ブーメランを投げつける #2 【創作大賞2024恋愛小説部門】
あすかが帰ったあとで、私はデパートの包み紙を手に取った。中には白いブラウスと細かい花柄のプリーツスカート。服を新調するのは久しぶりだ。
一週間前、他部署の女性社員に声を掛けられ、数が合わなくてと急遽参加することになった合コンで、「こいつは優良物件ですよ」と男性側の一人に勧められた人と、明日初めて二人でご飯に行く。東雲卓郎さんはたぶん私より少し年上で、ウェーブがかかったミドルヘアに色白な肌、奥二重の優しそうな目は笑うと垂れ下がりそれがまた愛おしい。男女とも他の参加者が場を盛り上げてくれたため、合コンの場で話をする機会はほとんどなかったが、連絡先が聞けてラッキーだった。
ブラウスとスカートをハンガーにかけカーテンレールに吊るしてみる。こんな時くらい奮発してもよかったのだが、ついコスパが気になりそこそこの服で妥協してしまった。とはいえ仕事終わりのデートなのだし、デート服とオフィスカジュアルの兼用と考えればまずまずの選択ではなかろうか。試着した時の自分を思い出し、スカートの端を膨らませる素振りをしてみる。
「実に美しい召物だな!俺は気に入ったぞ!」
突然男の声がした。私は身構え、誰かが入ってきたのかと玄関を覗いたがそんな気配は無い。警察に電話しようとスマホを手にしたとき理由が分かった。画面の中のたろう氏が話しかけていたのだ、満面の笑みで。
「実に女性らしい召物だな!気に入ったぞ」
「待って、あなたに服が見えるの?」
「見えるぞ!カメラが付いているからな!」
「そんな機能あるなんて聞いてないんだけど」
「電源を落とさない限りはいつでも見てるし、いつでも話しかけるぞ!だって俺はお前の彼氏だからな!ぐはははは!」
「とりあえずその気に障る話し方、止めてくれない!?」いい加減、腹が立った。
「…すまない」
たろう氏、意外と素直である。
ともかく、こんな調子で話しかけられては生活ができない。これではオススメ彼氏ではなくオススメストーカーではないか。さっそくあすかに連絡して改善してもらおう。
「明日は意中の男性と会うのか?」
「意中?」不意を突かれどぎまぎしてしまった。
「あるいは既に恋仲なのか?」
「違うよ、会うのは二回目だし。相手がどう考えているかも分からないし」そう言ってごまかすつもりが急に不安になってきた。浮かれて服まで新調したが、まだ何も始まっていないではないか。
「そうか」
「ねぇ」私の中のいたずら心が疼いた。「なんか言ってよ。オススメ彼氏なんでしょ?」
「なんかとは、なんだ?」
「だから…明日、男性と会うのを応援するような言葉よ」
画面の中のたろう氏が考えている。
「よし、言うぞ」
「なに?」
「可能性は広く持て、諦めることはいつだってできる!」
「なにそれ」
「やめること、諦めることはいつだってできる。そう思えば、新しい挑戦に伴う恐怖心は幾ばくか和らぐだろう」
案外的を射た回答に押し黙ってしまう。会って話してダメそうならそれっきりでいいじゃないか、諦めるのはいつだってできるのだから。
「お風呂入るから見ないでくれる?」私は照れ隠しにそう返した。
「心得た」そう言うとたろう氏は画面から姿を消した。
久々の恋の予感。存分に楽しめばいいじゃないか。私は足取り軽く風呂場に向かった。
例の箴言の元ネタはすぐに見つかった。「可能性は広く持て、諦めることはいつだってできる!」は第5話に出てくるらしい。ゾンビに江戸を支配された時に備え、ゾンビの真似ができれば襲われないのではないかと考え、動きや表情を練習する際のセリフらしい。
いやゾンビと戦えよ主人公なんだから。ちなみにこの「ゾンビのフリ作戦」は全く効果が無いことが分かり早々に諦めたそうだ。
オススメ彼氏の言葉に心を打たれた自分がバカらしくなり、「やっぱりアプリ削除してほしい」とあすかにLINEして布団に入った。
