疲れると感覚過敏は強くなる?音も光もつらい日の脳で起きていること|切り替えとストレスの話
夕方、料理を始めようとキッチンの蛍光灯をつけた瞬間、光が刺さるように感じる。
換気扇の音、食器がぶつかる音、食材のにおいまで、全部が一斉に入ってきます。
私は昔から、キッチンの蛍光灯が苦手でした。できるだけ明るいうちに料理をして、ライトをつけずに済ませることもあります。
感覚過敏は、単純に「人より耳がいい」「光がよく見える」という話ではありません。
ほかの人なら次第に意識から外れていく刺激が、弱まらずに残ったり、不快なものとして強く受け取られたりする状態です。
そして、その強さは毎日同じとは限りません。
疲れている日ほど、音も光もにおいも流せなくなることがあります。
感覚過敏は「気にしすぎ」ではない
以前、探し物の記事で、目の前にあるものでも脳が「今は重要ではない」と判断すると、見えているのに気づけないことがあると書きました。
感覚過敏では、反対に近いことが起きているのかもしれません。
本来なら背景に下がっていく蛍光灯の明るさや冷蔵庫の音、服が肌に触れる感覚が、ずっと前のほうに残ります。
研究でいう「感覚の過剰反応」は、感覚器の性能だけではなく、
刺激に対する不快感や注意の向き方まで含む言葉です。
ASDの診断基準にも感覚への強い反応や弱い反応は含まれていますが、感覚過敏があるだけでASDと判断できるわけではありません。
私の場合、強くなると「何も見たくない、聞きたくない、においも嗅ぎたくない」というモードに入ります。
視覚過敏を無理やり例えるなら、「ハウルの動く城」で荒地の魔女が元の姿に戻されたとき、壁一面から光を浴びているような感じです。
聴覚なら、ライブ会場のスピーカーが部屋の中に置かれているような感覚。嗅覚なら、鼻の近くで香水を何度も吹きかけられる感じでしょうか。
かなり大げさな例ですが、ひどい日にはそれくらい逃げ場がありません。
布団をかぶって、ミノムシになってます。
なぜ刺激を流せないのか、考えられている3つの仮説
感覚過敏の原因は、実はまだわかっていません。
ここからは、研究で考えられている説明の候補です。
1.同じ刺激に慣れにくい
通常、同じ音や光が繰り返されると、脳の反応は少しずつ下がります。
冷蔵庫の音を最初は意識していても、しばらくすると気にならなくなるような働きです。
ASDの研究では、この「慣れ」や、繰り返された刺激への脳反応の低下が小さい場合があると報告されています。ただし、すべての刺激、すべての人に当てはまるわけではありません。
これは「学習が苦手」という広い話ではなく、その刺激を背景へ下げるまでに時間がかかる、と考えるほうが近そうです。
食べ慣れた料理なのに、毎回ひと口目の驚きが続くような感じです。
2.刺激の優先順位をつけにくい
脳は、入ってきた情報をすべて同じ強さで扱っているわけではありません。「これは今すぐ見る」「これは後ろに置いてよい」と、ある程度振り分けています。
感覚過敏では、刺激そのものを受け取る部分だけでなく、注意や不安、危険を知らせる働きとの結びつきが強い可能性があります。
2026年に発表された研究でも、自閉スペクトラムの人の感覚の過剰反応と、予測に関わる脳活動との関連が調べられています。ただし、これは両者の関連を示した研究であり、原因を一つに決めるものではありません。
つまり、本人がわざと音を気にしているのではなく、脳が「これは無視してはいけない」と判断し続けているのかもしれません。
小さな刺激でも警戒モードが続けば、そりゃ疲れます。
3.予測と実際の刺激の差を大きく受け取る
脳は、世界を毎回ゼロから読み取っているわけではなく、「次はこうなるだろう」と予測しながら処理しています。
予想した音と実際の音の差を強く受け取ると、わずかな変化も「重要な予想外」として残る、という考え方があります。これは「予測処理」と呼ばれる研究枠組みです。
ただし、有力な仮説の一つではあるものの、感覚過敏の原因として確定したわけではありません。
「次に何が来るかわからないので、ずっと身構えている」みたいな感覚に近いかもしれません。
疲れると、感覚過敏も強くなるのか
私自身、疲れた日ほど切り替えがうまくいかず、すべての情報が目や耳に入ってくる感じがあります。
ASDの人を対象にした聞き取り研究でも、強い疲労やバーンアウトの時期に、感覚のつらさが増したという経験が報告されています。
一方で、「疲労が直接、感覚過敏を引き起こす」とまで証明されたわけではありません。感覚の負担が疲労を強めることもあれば、疲れて刺激に対応する余力が減ることもあり、両方向が重なっている可能性があります。
考えられるのは、刺激を流したり、気持ちを立て直したりする余力が減ることです。
普段なら耐えられる音でも、その日の予定、睡眠不足、緊張、空腹などが重なると、最後の気力を振り絞ることなります。
だから、体力をつければ全部解決する、とも言い切れません。
疲れる予定がわかっている日は、その前後に静かな時間を入れる。
照明を落とす、においの強いものを避ける、イヤーマフや耳栓を使う、早めにその場を離れられるようにしておく。
刺激に「慣れさせる」より、まず負担を減らすという方法があります。
子どもの場合も、耳をふさぐ、服を脱ぎたがる、店に入ると荒れるといった行動を、すぐにわがままと決めなくてもよさそうです。
「何が嫌だったのか」だけではなく、「光、音、におい、人の多さのどれが重なったのか」と見ていくと、理由が見つかることがあります。
休むことは、逃げではない
感覚過敏は、外からは見えにくいものです。同じ部屋にいる人が平気だと、「少しくらい我慢できるのでは」と思われやすくなります。
いつ、どこで、どの刺激がつらくなり、その後どれくらい疲れたかを簡単に記録すると、自分や子どもの限界が見えやすくなります。
感覚のつらさが続き、睡眠、食事、登校、仕事、外出など日常生活に影響している場合は、医師や作業療法士などへ相談する目安です。
少なくとも私は、そうやって刺激から離れる時間を「怠け」ではなく、脳を休ませる時間として扱っています。
参考文献
Marais, A.-L., & Roche-Labarbe, N. (2025). Predictive coding and attention in developmental cognitive neuroscience and perspectives for neurodevelopmental disorders. Developmental Cognitive Neuroscience, 72, 101519. https://doi.org/10.1016/j.dcn.2025.101519
Yosef, B., Burgess, V., Banchik, M., Ceballos, J., Dapretto, M., & Green, S. (2026). Atypical Predictive Processing Is Associated With Sensory Over‐Responsivity in Autism. Autism Research, 19(7). https://doi.org/10.1002/aur.70283
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