プロジェクトを炎上させないための、もう一つのコツ
先般、プロジェクトマネジメントに関連して、こちらの記事を上げました。
記事タイトルに「たった一つのコツ」と挙げているくせに、さらに別のコツを挙げるのはロジカルにどうなのか?という反論はさらりと横に受け流して、この記事では「もう一つのコツ」についてお話ししたいと思います。
それは「人選」についてです。
人選 プロジェクトの成否の50%はここで決まる
著述家のジム・コリンズは、彼の著書「ビジョナリー・カンパニー2」において、人材と経営計画の関係について、次のように指摘しています。
一般には「良い経営計画があって、それに沿って適した人材が集められ、結果として事業が成功した」と考えられているのに対して、成功した事業では多くの場合、「まず優秀な人材が集まり、その人々がああだこうだと議論しているうちになんとなく計画が固まっていき、結果として事業が成功している」ことを指摘しています。
コリンズはこの発見を、「行き先を決め、そのあとでバスに人を乗せるのではなく、まずバスに優秀な人材を乗せ、とりあえずバスを発車させる」というたとえで表現しています。コリンズが指摘しているのは、要するに「計画が先、人材が後」という一般的によく知られている考え方は誤りであり、「人材が先、計画が後」だということです。
筆者は、同様のことがプロジェクトマネジメントについても言えると考えています。
良い人材を集めてチームが組めれば、それだけでプロジェクトの成功確率はグッと高まる。こう書けば「それは当たり前のことだろう」と思われるかも知れませんが、この事実はよくよく肝に銘じておく必要があります。
というのも、多くのプロジェクトリーダーは、優秀なメンバーを確保するための努力をせずに、上からの指示で割り当てられたメンバーを所与のもの、仕方がないものとしてそのまま受け入れてしまう傾向があるからです。
ここにはいくつかの「考えるべきポイント」があって、たとえば、プロジェクトに必要な人材の質と量に対して、ちょうど100%になる様なチーム体制では必ず破綻します。
なぜか?
危機対応できないからです。プロジェクトに必要とされる人材の質的・量的な要件というのは、プロジェクトが定常飛行をしている状況を前提にしています。
ところが、プロジェクトというのは大概の場合、何らかの想定外の事象が発生するわけです。この想定外の時、ギリギリのメンバー構成では対処できず、プロジェクトが破綻することになります。
プロジェクトメンバーの質と量とが、必要とされるプロジェクトが要求する水準に対してギリギリだと思われる時は、それをすんなり受け入れてしまうのではなく、「このメンバーでは戦えません。是非○○さんをください」と交渉しなければならないのです。
プロジェクトリーダーは「ゴネてナンボ」
ここまで読んで、おそらく多くの方は「みんな少ない人員数でなんとか戦っているのに、自分だけがそんなことを言うとわがままだと思われるのではないか」とか「現在の状況を考えたら、そんなことを言ってもどうせ受けれて貰えないだろう」と思っているのではないか、と思います。
気持ちは大変よくわかるし、自分自身もかつてはそう思って、メンバー増員の申し出を思いとどまったこともあったのですが、僕自身の経験から言えば、こういう時に何も言わないのはトータルで考えれば損だろうと思っています。理由は大きく二つあります。
一つ目。メンバーの増員や交代を申し出ていようがいまいが、プロジェクトが成功すればそれはリーダーの評価になり、失敗していればやはりリーダーの評価になるからです。
あなたが仮に、このメンバーでは戦えないな、と思いながらも、周囲にはばかってメンバーの増員や交代を申し出なかったとしましょう。
結果として、プロジェクトが頓挫する、あるいはテコ入れが必要な状況が発生したとして、その時に「最初から、このメンバーでは戦えないなと思ってたんです」と周囲に言っても、周りからは「はあ?今さら何言ってんだ、こいつ。だったら最初に言えよ」という反応が返ってくるだけで、むしろ言わないほうがいいくらいでしょう。
一方で、同じ状況で、メンバーの増員や交代をプロジェクト開始前に交渉していたとしたらどうでしょうか。確かに、その時は「うーん・・・ウルさいやつだな」と思われるかもしれませんが、結果的にプロジェクトが成功すれば、それは全て水に流されるのです。
プロジェクトの成功・失敗は、理由が何であれ、全てプロジェクトリーダーの履歴に残り、その記録は同じ会社にい続ける限り風化することはありません。
よく「何度でもやり直せる」とか「失敗は成功の母」と言われますが、こういった言われ方は、限定的な条件下においてのみ成立するということを忘れてはいけません。限定的な条件というのはつまり、所属する人間関係を離れることができれば、ということです。
結果的に成功した経営者はビジネスパーソンのキャリアを調べるのは僕の一種の趣味になっているのですが、こういったキャリアを横に並べてみると二つの特徴が浮かび上がってきます。
一つは、どこかでキャリアの転機となるような失敗や試練を経験しているということ。そのあとで、その試練となった場所から転じて人間関係をリセットしている、ということです。この転機は必ずしも転職を意味しないのですが、例えば大きな会社であれば別の事業部に異動する等、要するに「印象や噂」が希薄化されるような所属コミュニティの転換が行なわれている、ということです。このことは、キャリアや仕事の成功における「印象」の重要性を示唆しています。
人間は、一般に私たちが考えている以上に、「印象」によって人の評価を左右しています。
印象は何によって決まるか?様々な研究が行われていますが、ひっくるめて言えば「ぱっと見」と「噂」です。ずいぶんいい加減に思えるでしょうし、場合によっては「自分だけはそんなことはない」と反論したくなる人もいるかもしれません。
でも、多くの研究は、人間が驚くほどに印象に左右されやすい生き物なのだということを示しています。
例えば、社会心理学者のナリーニ・エムバディとロバート・ローゼンタールは、臨床心理学、社会心理学にまたがる幅広い分野で、印象の妥当性を調べるメタ分析を行っています。
その結果、5分にも満たない短い時間のふるまいに対する判断が、その後の人物評価とほぼ一致していることを明らかにしています。ちょっと脱線しますが、米国において人事制度の、中でも評価制度に関する手法が異常に発達したのは、こういった認知心理学に関する知見が同国において先端的に発展したことと無関係ではないと僕は思っています。
人の評価があてにならない、ということが明らかになった以上、人の評価能力に頼るのではなく、制度によって担保しようというのは当然出てくる発想だろうと思うわけです。
話を元に戻しましょう。もともとはプロジェクトの開始段階において、メンバーの質・量が不足していると思うのであれば、それをしかるべき人に訴えてメンバーの交代・増員を交渉するべきだという話をしていました。
その上で、メンバーの交代・増員に関する交渉をすると、「わがままな奴だ」と思われてしまうという懸念はあるものの、トータルで考えてみれば二つの理由から「言った方が得だ」というのが筆者の主張で、その一つは、プロジェクトが成功すれば、すべては丸く収まり、プロジェクトが失敗すれば、すべてはリーダーの責任になる、ということでした。
期待値のコントロールがカギ
さて、二つ目の理由は、「このメンバーでは戦えない」と強硬に主張することで、関係者の期待値をコントロールすることができる、ということです。
どういうことかというと、「このメンバーでは戦えない」と主張することで、周囲の関係者は、プロジェクトの難易度や成功確率に関する楽観的な期待を改め、緊張感を持つようになります。こうすることで、あとで実際にプロジェクトが危機的な状況になった時に、メンバー増員や交代の交渉をしやすくなるわけです。
逆に言えば、初期段階で何のウォーニングも出していないと、プロジェクト途中で危機的な状況になった時にメンバーの増員や交代を申し出ると、周囲の関係者には唐突な感じ、プロジェクトが行き当たりばったりに運営されているという印象を与えることになります。
そして先述した通り、この印象は、そのままその人の人物像として定着していくことになります。どちらの方が、長い目、大きな視点で考えれば自分にとって得かはいうまでもないでしょう。
メンバーの増員や交代を交渉するのは、確かに気の重い仕事です。だからみんなこれを避けて、まあとりあえず始めてみるか、と自分をごまかしてプロジェクトをスタートさせてしまう。要するに気の重い仕事から逃げているんですね。
これは目の前の気の重い仕事を避けて、プロジェクトの成功確率を下げるということに他なりません。リーダーにはプロジェクトを成功させるという責任があります。その責任に向き合う事で「わがままだと思われるかもしれない」などという小さな懸念を是非乗り越えて欲しいと思います。
なんといっても、私たちはみんな「自分の人生というプロジェクト」のリーダーなのですからね。
