『不合理だからうまくいく 行動経済学で「人を動かす」』 読書共有【第79弾】
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はじめに
今回はダン・アリエリー『不合理だからうまくいく 行動経済学で「人を動かす」』(櫻井祐子訳、早川書房、2014年)からの共有です。
本書は前回紹介した著作『予想どおりに不合理』の続編です。前作に続き、本書はより具体的に職場や家庭で行動経済学を役立てることができるようパワーアップした内容となっています。
基本的な考え方としても前作を引き継いでおり、私たちの意思決定は必ずしも合理的ではなく、むしろ「不合理さ」が行動や選択の際に働いている点が強調されています。
従来の経済学では人間は合理的に行動すると考えられていましたが、実際には「不合理」な選択をしてしまうのが人間です。この「不合理」を独創的な実験を通して解き明かし、行動経済学の知見を職場や家庭での意思決定に役立つ形で紹介している点が本書の功績と言えるでしょう。
前回記事でも書いたように、人間が「不合理」な側面を持つ存在である以上、そのパターンを理解しておくことは、自己理解や他者理解、また人間関係をよりよくするためにも極めて重要であると言えます。
本書においても興味深いテーマがたくさんある中、今回は「自前主義バイアス」と「イケア効果」について共有し、またそれらとの関係でパーソナルジムの在り方をも考える機会にしていきたいと思います。
自前主義バイアス
まずは「自前主義バイアス」についてですが、要点はおよそ以下の通りです。
・自分で生み出したアイデアには愛着を感じ、高く評価してしまう
・自前主義バイアスは、自分で考えたという思いこみでも生じる
・愛着が過ぎると、他人の優れたアイデアを排除してしまうおそれがある
・自前主義バイアスを利用して、目の前の課題に打ちこめるよう工夫できる
⇒「自分がそれを生み出した」ということが一番大事!
このように、「自前主義バイアス」は「自分で生み出したアイデアには愛着を感じ、高く評価してしまう」という性質があり、「目の前の課題に打ちこめるよう工夫できる」仕組みを作り出すのにも役立ちます。これは私生活や仕事を含めて様々な場面で応用がききます。
私のようなパーソナルトレーナーの場合、お食事案内やセッションの場面でも「自前主義バイアス」は役立ちます。例えばお食事改善のアイデアをお客様ご自身で考えてもらい、トレーナーは答えそのものではなくヒントを提示することによって、最終的にお客様が自分自身で考えたというように演出することも有効でしょう。
またトレーニングメニューについても、例えば自主トレメニューをお客様ご自身で考案していただいたり、セッションの一部種目(最終種目など)をお客様のアイデアで決めてみるなど、お客様が自分自身のアイデアでやり切った感覚を大切にしていただくことも有効かもしれません。
特に最終種目をゲストに考えてもらうのは、上述「自前主義バイアス」と、「ピーク・エンドの法則」(※)を組み合わせたものとしても面白いでしょう。
(※ )ある事柄に対して、記憶や印象に残っているのは感情が最も高ぶったピークの出来事と、その終わり頃の出来事だけで、それらが全体的な影響を決定づけるという法則。
例えば最終種目をお客様自らで考えていただいた場合、セッションの記憶や印象を「自分で考えて頑張った」というふうに方向づけることができるかもしれません。また、自分で考えるという自主性を引き出すことにも役立ちそうです。いつでもこの方法が有効だとは限りませんが、セッション展開のバリエーションの一つとして持っておくのもいいかと思います。
あと「自前主義バイアス」の注意ポイントしては、「愛着が過ぎると、他人の優れたアイデアを排除してしまうおそれがある」ということで、そうだからこそ対お客様、対スタッフでもお互いのアイデア出しやフィードバックが大切になってくるかと思います。
さらに、少しシビアな例になると成功事例の共有などにも「自前主義バイアス」が働いている場合があるでしょう。例えばある人が「成功事例の共有」をしたとしても、共有を受けた側は「それは自分で考えたアイデアじゃないし」という理由で成功事例に愛着も感じず低い評価を下してしまうといったケースです。
これへの対策としては、他人の成功事例に自分の+αを付け加えるなど、自分で+αを考えて新しいアイデアを生み出すのも有効かと考えられます。例えば私の手紙(メッセージカード)習慣なんかも、元は過去のエリア(数店舗で構成されたチーム)での取り組みが発端で決してオリジナルなものではないのですが、きちんと愛着が湧くように自分なりに発展させてきた経緯があります。
この「自前主義バイアス」のおかげで、私の中で手紙習慣が確固たるものとなり、実績なども含めて全国的に注目していただく機会も増えることになりました。また、過去にはとあるTV番組で私の試みの一部が放映されたこともあり、社外にも知っていただく機会にも恵まれました。
そして何より、この手紙習慣はお客様との関係を築く上で大切な役割を果たすようになっています。諸事情により手紙をお渡しできない場合でも、根底にある思いやマインドを大切にしつつ接するよう心がけています。
イケア効果
次に、「自前主義バイアス」と関連して、「自分で物を作ると、それを高く評価するようになる」という「イケア効果」というものもあります。
世界最大の家具量販店として名高い「IKEA(イケア)」の製品を知っている人なら、おそらくピンとくることでしょう。自ら組み立てる必要があるイケアの家具には、「自分で物を作ると、それを高く評価するようになる」という効果が付随するわけです。
「イケア効果」の事例としては料理、プラモデル、DIYなど身近な例をたくさん挙げることができますが、そのプラス面について、著者は次のように説明しています。
「プラス面としては、プロジェクトやアイデアに時間と労力をかければ、所有意識や誇りが生まれることを利用して、自分や周りの人が目の前の課題にもっと打ちこみ、関心をもてるように、工夫することができる」
ここで、著者は以下のような分かりやすい例を提示しています。これは日常生活でも「イケア効果」を役立てることができる観点と言えるでしょう。
「子どもと一緒に、庭に野菜を植えてみよう。自分で育てたレタスやトマト、キュウリで、夕食のサラダを作らせたら、野菜をもりもり食べること(おまけに大好きになること)まちがいなしだ」
このように見れば、食事やトレーニングで筋肉を育てることも立派なイケア効果と言えるのではないでしょうか。これは私自身の経験からも納得できることですが、おそらくボディメイクで人生が変わったと証言する人たちは、少なからずその人なりの「イケア効果」を実感していると思われます。
たとえパーソナルジムでのフォローがあったとはいえ、食事やトレーニングを含めた自己管理をどこまでやるかは、究極的にはその人自身の思考や行動によるものです。そういった意味で、ボディメイクは自分自身を心身ともに作り込んでいく過程であるとも言えます。
そんな日々の実践の中、ボディメイクの成果実感と共に良い意味で筋肉含めた自分への愛着が湧いてくるというのは、自然な結果であるとも考えられます。
もしボディメイクの意義を感じることができない人がいれば、次のような一撃を放つことでおそらくは響くはずです。
「行動経済学の観点からするとボディメイクにはある種のイケア効果が含まれており、ボディメイクに長い時間と労力をかければ筋肉への所有意識や誇りが生まれ、人生におけるコントロール感も生まれて健康かつ幸福になることができるのです」
十中八九ドン引きされるフレーズが爆誕してしまったかもしれませんが、アレンジしてお使いいただけますと幸いです。このフレーズさえもアレンジして使いまくることでいつしか「自前主義バイアス」化し、愛着を感じられるようになるかもしれません。
みんなで作り上げるサードプレイスとしてのジム
前回の共有で、「サードプレイス」としてのスターバックスについて書きました。つまり、「自宅でも職場でもない、第3のリラックスできる場所」を切り拓いたのがスタバの功績だということでした。
これまでどこにもなかった場所を実現させる試みとして、色々な方面でこの「サードプレイス」の概念は重要な意義を持ってくると私は考えています。例えば、パーソナルトレーナーである私にとっては、「サードプレイス」としてのパーソナルジムという理念に心惹かれます。
このパーソナルジムの理念をスタバ風に表現するならば、「自宅でも職場でもない、第3の自己実現できる場所」と言えるでしょうか。この「自己実現」には、心身の「健康」や「幸福」も含まれるものとして考えられるならば、これは人生100年時代に生きている私たちのリアルなテーマにもなり得ます。
そして、こうしたパーソナルジムの理念が実現されるには、自分たちでこの場所を作ってきたという思いがジム側にもお客様の側にも芽生えていることが必要であると私は考えています。つまり、「自前主義バイアス」や「イケア効果」が、「愛着」という良い形で活かされてくることが大切だと思うのです。
人生100年時代、ボディメイクを通して自分の人生を健康かつ幸福に送りつつ自己実現を果たしていくにあたってパーソナルジムが役立つならば、そこに通い続ける感情的な要素として「愛着」は強い動機づけにもなり得るでしょう。
パーソナルジムでは、トレーニング提供時間のことを「レッスン」ではなく「セッション」と呼ぶことが一般的な傾向として定着しつつあります。この「セッション」という語は、トレーナー側からの一方的なサービス提供を意味するのではなく、お客様と共に作り上げていくという共創的な意味合いが強いと言えます。
私の場合、事前準備として予めセッション内容を決めておくことはしますが、お客様のそのつどの心身の問題を読み取り、また傾聴することで、トレーニング種目や会話の内容などを柔軟に変えていくようにしています。つまり、セッションは私が一方的に完成させるのはなく、お客様と共に作り上げていくというスタンスがここでは重視されています。
ときに私が言う「人間関係」や「信頼関係」というとき、上記の関係性も想定されています。お客様とのセッションから自分が思ってもみなかった何かが生まれるかもしれないという信頼がいつもなければ、これだけ仕事も楽しめていないでしょうし、また結果も出ていなかったように思うのです。
セッションはじめ仕事全体を上記のようなマインドで考えることで、その思いがお客様にもスタッフにも伝わり、こうして共に作り上げていくという共創関係が成立すると私は信じています。
今いる店舗のスタッフは私1名のみとなってしまいましたが、この店舗をこれまでのお客様やスタッフと共に作り上げてきたという強い愛着があるからこそ、またここで育ててもらったという強い感謝があるからこそ、私一人になってもこの店舗を守りたいという強い思いが自然と溢れてくるのです。
先ほど、自分たちでこの場所を作ってきたという思いがジム側にもお客様の側にも芽生えていることが必要であると書きましたが、これは上記のような文脈においてはじめて理解されることでしょう。
おわりに
今回も最後までお読みいただきまして誠にありがとうございます。
日々少しずつ閲覧数やリアクション数、フォロワー数も増えてきて嬉しい限りです。今後も最低週1回の更新を目指して頑張ってまいります。
あえて本の要約といったことはメインとせず、私なりの観点から面白いと思った箇所の共有という限定的な内容にしております。それが少しでも皆様の記憶に残り、日々の読書体験の深まりや具体的な行動・実践に繋がるのであれば幸いでございます。
それでは今後とも宜しくお願い申し上げます。
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