私は澤木鉄哉。吸血鬼だ。
 私は大蒜の利いたステーキが好物だし、アクセサリーとして十字架を身につけているし、銀の食器を怖がらない。鏡に全身が映るし、昼間も活動しているし、薔薇の花は私が持っても枯れることはない。もちろん、蝙蝠に変身したりもしない。
 だから私は極めて特殊な吸血鬼なのだと思う。もしかすると吸血鬼ではないのかもしれないが、人間ではない。
 なぜなら、私は不老不死であり、他者の血液を舐めることに依存しているからだ。
 自殺は色々と試してみた。
 最初は、ナイフを使った。一息に胸を刺し、痛みの後、意識は途切れた。次の瞬間、私は床に転がっていて、傍らに落ちているナイフを見つめていた。刺したはずの心臓は動いていた。シャツにはナイフを刺した穴が空いているのにもかかわらず、胸には傷痕も残ってなかった。何度やっても同じことだった。
 意識を失っている時間に何が起こったのか?
 映写カメラの発明が、私の疑問に答えてくれた。
 俳優のようにカメラをセットしてから、わたしは演技ではなく本当に胸を刺した。そしていつものように蘇った。摂理に反し蘇った私はフィルムを見た。
 それで、ようやく謎が解けた。
 心臓にナイフを生やした私は棒のように倒れた。胸には確かにナイフが突き立っている。しかしそのナイフが何者かに抜き取られるように――実際には復活する肉体に押し出されて――私の体内から抜け落ち、音を立てて床に転がった。ナイフが落ちるのと同時に私は目を開き、起き上がると、間の抜けた表情でカメラを見つめた。
 ナイフ自体に重りをくくりつけても無駄だった。切り傷はすぐに治った。毒物は効果がなかった。酸を浴びたが、皮膚はまたたくまに正常な状態に戻ってしまった。
 一番酷い目にあったのは、首吊りだ。
 一般に、首を吊って苦しむのは数分間もないのだという。
踏み台を蹴り、全体重が一気に首に集中すると、気道が瞬間的に圧迫され、血液の流れが遮断され、頚骨が折れる。意識を保てるはずがない。苦しみは、続かないようになっている。
 しかし、私は違った。
 踏み台を蹴った私は苦しんで意識を失ったが、次の瞬間には意識を取り戻して窒息しかけていた。また意識を失ったが、次の瞬間には窒息しかけていた。意識を失い、意識を取り戻し、苦しむ。それを何度も繰り返した。
 つまり、意識を失うと吸血鬼の蘇生力によって、ロープに絞められた首の組織や潰れた血管、折れた骨が復活し、その際にロープを押し広げる。その状態で意識と肉体は回復するが、首を吊っている状態には変わりがない。意識を取り戻せば、再度ロープが首に食いこむことになる。
 ロープが細ければ、肉体が蘇る力で切れていたかもしれない。だが、私が用意したのはナイロン製の登山用ザイルだった。切れなかったロープは、力を加えられ、輪の大きさを広げた。広がった輪が再び締まることで、私は苦しんで死に、蘇っては苦しんで死んだ。
 ロープが摩擦によって切れなければ、私は今でもあの無限地獄から抜け出せずにいただろう。
 考えただけでも身の毛がよだつ。

 私には血が必要だ。
 自分が吸血鬼なのだと思いたいから、という理由ではなく、私はいつも、血の香りを貪り、血の甘さに酔っていたい。覚醒剤中毒者がスピードを必要とするように、私には血液が必要だ。私にとって、他者の血液は、ドラッグの一種なのだ。
 血を舐めた瞬間のあの歓喜――香りと甘さ、全身に広がる痺れるような感覚、覚醒と力、満ち足りた思い――あの歓喜は筆舌にしがたい。どんなドラッグも、どんなセックスも、あの喜びには適わないだろう。
 血液が私に及ぼす作用は凄まじい。舐めた瞬間から、恐ろしく高圧的なパワーが身体に漲り、力の塊となるのだ。私の全身の血が沸騰し、肉がダンスする。とにかく、痺れるほど最高なのだ。
 スポーツの世界に、血液ドーピングという方法があるのを知っているだろうか?
 精神的にも体調的にもピークにある選手の血液を抜き取って保存し、試合当日にその血液を注射するのだ。すると、選手の肉体と精神を最高の状態に持っていくことができる。コンディションの調整はスポーツ選手なら誰もが行っていることだが、そのピークを試合当日に絞って持ってくるのは至難の業だ。
 ところが、この血液ドーピングなら自在にコンディションをコントロールできるのだ。
 これは、血中に流れるホルモンによる効果だと推測されている。人間の身体の中では、様々な化学物質が製造されている。脳内麻薬・ホルモン・情報伝達物質であるタンパク質。これらの物質がもたらす効果について、未だに科学は全てを解明できていない。
 人体実験でも行われない限り、不可能だろう。血液が私に影響を与える可能性も、また、同じようなものだと思っている。
 単に血を採取するよりも、催眠により過去の記憶を呼び出し、感情的に複雑な状態に誘導した人間の血のほうが味が濃いのだ。
 そういう血は素晴らしい。
 強い覚醒の感覚が全身を見たし、同時に他者の感情と完全にシンクロする。精神が解放され、全てに対して開かれ、全てと繋がっている感覚が芽生える。身体の深い場所まで沈みこみ、それでいてオープンになる、あの感じ。

 全ては陽介のせいだ。
 陽介が、私をこんな人外の存在に変えた。
 彼のおかげで、私はこの覚めることのない悪夢の世界を、彷徨することとなった。
 陽介は私の義理の兄だ。
 その名の通り、陽介はいかなる困難にぶつかろうとも、常に明るさを忘れない、魅力的な男だった。誰からも一目を置かれる、人が数人集まれば自然にその中心になる、朗らかで弁舌爽やかで、様子のいい、知る限り彼を嫌う者などいなかった。子供のころから病弱で、性根の捻くれている私とは、まるで正反対の人物だった。
 だから私は陽介という人間を知って以来、ずっと彼の人間的な弱点を探していた。
 私は他人に自分と同じ劣悪さを見出さなければ、どうにも安心して関われない性質だったのだ。人の弱みを知ることでしか、私は他人を理解できなかった。私は陽介に、私に持てない全てを陽介が独占しているという、嫉妬とも恨みとも、敬意とも愛とも、判別しがたい感情を抱いていた。もっと単純な言葉にすれば、そんなはずはない、というものだったかもしれない。私はこんなに愚劣でしかありえないのに、あんな存在が許されるはずがないのだと。そんなことはあり得ないのだと。
 私はそう思いたかったのかもしれない。
 陽介の存在は、私という存在を否定する。私は否定されることを喜びつつ、しかし、それを受け入れることに抵抗していた。私は陽介の秘密を掴もうと、やっきになっていた。それが、間違いだった。

 陽介が年に一度、九月初旬に里帰りする三日間を余所で過ごしていることを知った私は、後に何が待ち受けているのかも知らず、有頂天になった。
 雇っていた探偵が調べ上げた。陽介の実家に本人はもう十年近くも帰っていないのだと報告書には記されていた。調査を続行し、本人を尾行して行き先を突き止めるかどうか、探偵は電話で問い合わせてきた。
 八月の終りのことだった。
 私は尾行を断った。調査はここで終りだと告げた。受話器を置いて、私は探偵の言葉を噛みしめた。やっぱりそうだ、と思った。完璧な人間などいるはずがないのだと思った。私だけが屑なのではないのだと。陽介の行き先不明の旅行。そこには濃密な秘密の匂いがした。もちろん本人に問い質すような野暮な真似はしなかった。掴んだ事実を握り締め、胸の内に収めておいた。
 そして、忘れもしない九月十一日、里帰りと称し家を出た陽介の後を、私は自らで尾行した。
 尾行には晶子も同行していた。
「連れて行かないなら、陽介さんに告げ口するわよ」
 晶子が私にそう言ったからだ。
 水沢晶子は、私の閨のパートナーだった。彼女との関係は、知り合ってから二年近く続いた。私は肉体関係を結んだ相手と関係を継続する、ということがなかったから、それは驚異的で記録的な長さだった。それまでの女という女が一定の期間を過ぎると性急に結婚を迫ったのに対して、晶子は一度も結婚を仄めかすことがなかった。彼女は結婚を唾棄すべき風習と考えているようだった。そして、不思議なことに私を好いていてくれるようだった。晶子が口にする言葉は、嘘も脅しもない。そのことを身に沁みて理解している私としては、頷くしかなかった。軽々しく、寝物語に陽介の話をしてしまった私が悪いのだ。だが、つい口を滑らせてしまうくらいに私は浮かれていたし、そして晶子に心を許してもいた。私は晶子が、好きだったのだと思う。
 陽介を乗せた黒塗りのハイヤーは、市街地から山道へと進んだ。
 何度もつづら折りのカーブを越え、北へ北へと進んで行く。私と晶子はほとんど喋らず、熱に浮かされているようにハイヤーの後を追った。やがてハイヤーは急な峠道を越えたところで、小さな村に入って行った。村の外れにまで進んで、ようやく停まった。
 家を出てから、六時間後のことだった。午後一時を過ぎていた。
 ハイヤーが停まったのは、古びた洋館の前だった。まるで誰かから隠れるために建築されたかのように、周囲に民家はなかった。このような小さな村に、と驚きを禁じえないような瀟洒な外観の、しかしかなりの年数を重ねたことがわかる洋館だった。煉瓦を使った外壁に、枯れかけた蔦が絡みついている。遠目にそれは、煉瓦に入った罅のようにも見えた。
 壊れかけた、古びた洋館。
 陽介はしばらく玄関前に佇み、二階建てのその洋館を見上げていた。軋むような音を立てて、玄関の巨大な扉が開いた。大柄な男が滑るような足取りで出てきた。くすんだ灰色のスーツに身を包んだ巨漢は、恭しく陽介に頭を下げ、荷物を持つと奥へと進んでいった。陽介はなおも同じ場所に立ち尽くしていたが、やがて足を引きずるようにして館へと消えて行った。
 再び、扉の閉じる音が辺りに響いた。
「さあて、どうする?」
 頬を紅潮させ、息を弾ませて晶子が言った。目が、きらきらと輝いている。
「忍び込むんでしょう? 早く行こうよ」
 私は首を左右に振った。
「情報を集める。あの洋館に人が何人いるのか、まずそれを把握しておきたい」
「そんなのどうだっていいじゃない」
 晶子は潤んだ大きな目で、訴えるように私を見た。
「ねえ、焦らさないでよ」
 言葉の通り、晶子は相当に焦れていた。しかし、晶子に増して焦れていたのは、私の方だった。早く陽介の秘密を知りたくて、知りたくて、仕方なかった。
 それでも、何事にも最低限度の準備は必要だ。それが人の恥部を覗き込むような行為であっても、その原則は適用される。
私は原則に従った。

「あそこにゃあ、誰がおるんかよう分からんねえ」
 野菜を大八車に乗せ売っていた老婆は気味が悪そうに言った。
「とぉきどき、ようけ買うてくれるけど、いつもは誰おらんみたいじゃけえ、化け物屋敷いうて、みんな言いよるんじゃ」
 礼を言うと、老婆は可愛らしい笑顔を見せた。
 大八車を引く足取りは、しっかりしていた。
「あそこにはねえ、近づかないほうがいいと思うわ」
 親切そうな薬屋の中年の女性は言った。戦前から続いているらしい、古い木の看板をぶら下げた薬屋だった。
「どこかのお金持ちの別宅らしいけど、見るからに薄気味悪いでしょう。陰気だし。本当かどうか、あたしは知らないんだけど、女の悲鳴が聞こえてくるって噂もあるのよ」
 本人は否定するだろうが、その女性は心の底では他人を詮索することに喜びを見出しているようだった。店を出ようとする私と昌子を、未練がましそうに見送る目が、それを語っていた。
「良く知らんな、わしは」
 気難しそうな駐在所の警官は、禿げ上がった頭を掻きながら言った。
「噂は色々とあるようだが――とにかく、犯罪が行われているという証拠はない。わしは、良く知らんことは口にしたくないんだ」
 実直そのものという答えを口にすると、義務は果たしたというかのように、老警官は奥に戻っていった。
「結局、どういうことになるの?」
 うんざりしたように晶子が言った。
「誰に聞いても、どこに行っても、返ってきた答えはひとつだけなのよ。良く分からない。要約すれば、たったのひと言でまとめられる」
 その小さな村の大通りの真ん中で、晶子は腰に手を当て、挑戦的な目つきで私を睨んだ。大通りとはいえ、車どころか、人も通らないような道で、周囲にあるのは数件の小さな商店と、水田だけだった。傘を頭に被った農家の人間が、仕事の手を休めてこっちをみていた。それほど晶子の声は大きかったし、それにもともと晶子は大声で喋る女だ。
「もういいでしょ。気がすんだでしょう。とにかくあたしはもう真っ平ご免だわ。貴方が行かないのなら、あたし一人で行くから」
 言い放つが早いか、晶子は背中を向けると早足で歩き始めた。晶子は勝気で、大声で話すうえに、凄く短気だった。そういう所が、私はとても気に入っていた。だから私は晶子の後を追った。実際、晶子の言葉は正しかった。陽介とあの巨漢は、かなり秘密を守るために気を配っている。これほど小さな村で、ここまで徹底して隠し事ができるものではない。閉じた社会の情報網は、素早く緻密なものだ。狭い世界での情報伝達は、細かい点まで恐ろしい速度で駆け巡る。その速度は、時に機械的な先端通信技術さえ凌駕するかもしれない。その網を、陽介は易々とかいくぐっていた。
 逆にいえばそこまでして隠さなければならないことを、陽介は行っているのだ。
 それが何か、どうしても見極めたかった。

 むずがる晶子をなだめになだめ、夜になるのを待って、私たちは洋館に向かった。
 洋館の明りは全て消えていた。人の気配がなかった。洋館の内部には確実に二人の人間、陽介とあの巨漢がいるはずだったが、少なくとも外から感じ取る限り、見捨てられた廃墟のように静かだった。私たちが夜を待っている間に、陽介が逃げ出していないことを祈った。
「開いてる」
 喜びを押し隠した声で、晶子が言った。
 確かに私の背丈の二倍以上はあるかと見える鉄の門は、鍵がかかっていなかった。足音を忍ばせ、門をくぐる。玄関に向かった。植え込みの影や、雨ざらしになった彫刻の影から誰かが飛び出してきそうな気がしたが、どこからも誰何の声は上がらなかった。誰何の声が上がらないことが、かえって緊張を高めるようだった。玄関の頑丈そうな、重厚なドアは、鉄門同様に鍵がかかっていなかった。不審に思った私を押しのけるようにして、晶子が細く扉を開けた。晶子の後ろから、中を覗きこんだ。
 誰もいない。
 静まり返った闇があるだけだ。薄青い月明かりが、明り取りの窓から差し込んでいる。
「妙だな」
 ドアを開け放とうとする晶子の手を押さえた。
「何がよ」
 晶子が猫のように目を光らせ、邪魔された怒りをぶつけてきた。
「鍵がかかっていないのは、妙だ」
「きっと、忘れたのよ。秘密の儀式に興奮して」
「秘密の儀式が行われているのかどうか、まだはっきりしたわけじゃない。それに、昼間はこのドアは開け閉めする際、ぎいぎいと軋んでいたはずだ」
「油を差したのよ」
「罠かもしれない」
「ねえ」
 晶子が振り向いて、腕を組んだ。
「貴方は何を言っているの? ここまで来たら進むしかないし、罠だったら逃げればいいのよ。そうでしょう。そうじゃない? 怖いんだったら、帰ったらどうかしら。あたしは送ってあげられないけど」
 皮肉たっぷりな口調で言うと、しばらく晶子は黙っていた。たっぷり十秒は沈黙してから、再び口を開く。
「本当は貴方、貴方の憧れが穢れてしまうのが、嫌なの? 貴方の英雄が汚れてしまうのが怖いんじゃない? もしも本当にそうなのだったら、凄く残念なんだけど、貴方とはここでお別れね」
 私は言葉に詰まった。返す言葉を思いつかないのか、それとも晶子の言った「お別れね」という言葉が思った以上に応えていたのか、判断できなかった。返事をする代わりに、私は蛮勇を奮い起こし、扉を開けて中に入った。二歩、中に入ったところで、そっと後から手を握られた。晶子だった。晶子の手の温もりが届いて、私の心は思っていたよりも震えた。私は晶子に好かれたいと望んでいるのかもしれないと、そう思った。
 玄関は吹き抜けのホールになっていた。晶子の手を取り、足音を忍ばせて前に進んだ。食堂を抜け、長い廊下に出た。突き当たりに螺旋階段が見えた。寄木細工のような造りになっている。階段を登り切ると、廊下沿いにドアが並んでいた。
 一つ目のドアを開けた。
 寝室らしかった。人はいない。精緻な絨毯と天蓋つきのベッド。深い草色のクッションが置かれた椅子と書き物机は、飴色をした木で作られていて、由緒正しい価値の高いものに思えた。書き物机には鈍く光る金色の小箱が置かれている。本棚には革で装丁された分厚い書物が並べられている。
 一通り眺め、その部屋を出た。
 二番目と三番目の部屋には鍵がかかっていた。
 四番目のドアにも鍵がかかっていたが、そこからは物音が聞こえてきた。
 水が床に落ちる音だ。
「たぶん、お風呂場ね」
 晶子が囁いた。晶子の目は、もう次のドアに向けられている。そちらを確かめたくて、仕方がないように見えた。
 その部屋は廊下の一番奥に位置していた。それまでの意匠を施したドアと違う、何の飾りもない無骨な鉄製の扉だった。その部屋からも、何かの音がした。それに何か、背筋が寒くなるような香りが漂ってくる。
「ここじゃないかしら」
 晶子が言った。わずかに声が高くなっていた。ここ、の意味が私にも分かった。陽介の秘密は、この扉の向こうにあるのだ。賭けても良かった。この扉の奥にこそ、私が求めた、私が見たいと狂おしく切望していた、陽介の隠している何かがあるのだ。
 晶子を見つめ、小さく頷いてからノブに手をかけた。
 鍵はかかっていなかった。
 そして、私は扉を開けた。

 そこは貯蔵室だった。
 いや、抽出場と呼ぶべきだったのだろうか。
 薄暗い部屋だった。天井に近い壁に、明り取りの窓が一つだけ開いている。酷い臭いが充満していた。しばらくし、闇に慣れた私の目に、人の姿が映った。
 その部屋には十六人の女がいた。だが、私にはそれが人間であることが少しの間、理解できなかった。
 その部屋の天井には何本かの鉄パイプが平行に渡してあった。鉄パイプには鎖が取り付けられていた。鎖の先には足枷が溶接してあった。足枷には足がついていた。天井いっぱいに、裸の女が両足を上にして吊り下げられていたのだ。髪の長い女、短い女、痩せた女、きれいな女、少女、様々な女が吊り下がっている。どの女も顔をどす黒く充血させていた。目玉が飛び出しそうなほど目を見開いている。首筋に致命傷ではない小さな傷があるようで、そこから血が、顔を伝い、髪を伝い、床にゆっくりと落ちている。かろうじてどの女も生きているようだった。苦痛の呻き、目の輝きが、私に彼女たちの生を伝えてくれる。力なく腕も動いているようだったが、ただ揺れているだけにも見えた。
 床にビニールシートが敷いてあり、四隅が床より高い位置で固定されている。中央が弛んでいて、だから滴り落ちた血液はそこに集まってしまうようだった。
 いや、とよく観察して思った。違う。
 私は勘違いをしていた。血は集まってしまうのではない。集められているのだ。中央に集まるように、他の場所にこぼれてしまわないように、わざとビニールシートの四隅は高い位置で止められている。そのことに気づき、私は戦慄に貫かれた。
 その時、後ろで声がした。
「私の屋敷へようこそ、鉄哉君」
 隣で晶子が小さく悲鳴を上げた。続いて悲鳴に重なるように、人の倒れる音がする。晶子は失神できたのだなと思った。
 それまで私は隣に晶子がいることすら忘れ、目の前の光景に見入っていた。見入って衝撃を受け、硬直していた。私は悲鳴を上げることもできず、かといって晶子のように意識を失えずに、石のように身体を強張らせ突っ立っていた。無理やりに、ぎこちない動きで振り向くと、陽介がいた。陽介の後ろに、あの灰色のスーツを着た巨漢が、付き従うように控えているのが見える。
 陽介がちらっと後を見てから口を開いた。
「この田島が、一年かけて攫ってきた娘たちだ。私のために集めてくれたんだ。良く働いてくれる、忠義なやつなんだよ、田島は。私の到着にぴったり合わせて、娘たちを吊り下げてくれた」
「義兄さん――」
「私が風呂に入っている間に、集めた血を漉して、デカンタに入れてくれる。だから私は、血で満たされたワイングラスを傾けるだけでいい。飲むことを楽しむだけでいいんだ。なにしろ田島はここの掃除もやってくれるからね」
「義兄さん……どうして」
 陽介は、ちょっと眉を上げた。
「だからね、鉄哉君。君も田島に任せておけばいい。心配しなくても万事ちゃんとやってくれるから。実を言うと君たちが尾行していたのは、知っていたんだ。黙っていたけどね。招待しても良かったが、きっと素直に応じてはくれなかっただろう? 君はかなり天邪鬼な人間だからね。ただ、歓迎してないなんて思わないで欲しい。私は君の来訪を心から喜んでいるんだ。だから玄関のドアを開けておいたんだ。油まで蝶番に差してね」
「どうしてこんなことを」
 私は吊るされた女たちを指差した。
「ゆっくり死んでゆくことに恐怖する人間の血は、とても甘いんだ。だからだよ、鉄哉君」
 陽介の口調は、当たり前のことを質問する私を不思議がっている、そんな口調だった。
「彼女たちは水分を断っているし、腸も洗浄して空っぽになっている。これでなかなか純粋な甘い血を味わうのも大変な手間がかかるものなんだ」
「そんなことを聞いているんじゃない」
「おやおや」
 陽介はゆっくりと微笑んで見せた。
「あまり感情的になるのは似合わないよ。情熱だとか、激情だとかは他の人間に任せておけばいい。君にはもっと相応しい振る舞いというものがあるんだ」
 もう一度、私は同じ言葉を繰り返そうとした。だが、できなかった。陽介の言葉が正しいことを私は認めていた。私は感情的になるということがとても苦手だし、不似合いだとも思ってもいた。
「なるほど、やはりそうか」
 陽介はそうつぶやくように言った。眉間に皺が寄っている。
「聞き分けがいいね。良い傾向だよ。ついておいで」
 冷たい口調で言うと、陽介は当然ついてくるものだと確信しているかのように、背中を向けて歩き始めた。いつの間にか、田島と晶子は消えていた。私は陽介についていくことの他に、何も思いつかなかった。忌まわしい部屋の扉を閉め、陽介を追った。陽介は暗い廊下を歩き、あの寝室へと私を導いた。
「かけたまえ」
 精緻な彫刻を施された椅子を勧められたが、私は座らなかった。立ったまま、陽介を睨んだ。陽介は肩をすくめて、それから金箔の箱を書き物机から取上げた。小さなオルゴールほどの大きさだった。良く見ると、細かい螺鈿が施されていて、凝った造作になっている。陽介が箱の蓋を開けた。中から、何か茶色い、妙につやつやと光る、何かを取り出した。
「洗礼の牙だよ」
 うっとりと陶酔するような声で陽介が言った。
「これがね、鉄哉君」
 崇めるような視線で歪曲した、確かに牙のような刺が並んでいる茶色い骨を持ったまま、陽介が言った。
「これが私をこういう存在に変えたんだ。吸血鬼の牙なのだそうだ。横浜に住む華僑の実力者が贈ってくれたものだ。もちろん、件の華僑の老人は冗談のつもりで送ってきた。彼はこの牙の真価を知らなかったからこそ、私に贈呈してくれたんだ。彼はきっと箱の裏に記されているアングロ―サクソン語を読めなかったのか、それとも本気にしなかったのだろう。だが、私は本気にした。つまり、この牙を自分の首筋に押し付けてみたんだ。すると、次の朝、目覚めたら」
 陽介は嬉しそうに言った。
「こういう人外の存在に変化していた」
「どうして」
 私はゆっくりと言った。
「どうしてそんな話を聞かせるんだ」
 陽介は滅多に見ることのかなわない珍しい動物を見るかのように、私を長い間見つめていた。それから下を向いて、虚しそうにため息をついた。
「君が私の救いだからだ。君と私は同類だからだ。君が私を選んだように、私も君を選んだからだ」
 陽介が言った。
 私は口が利けなかった。
 私は至福を味わっていた。陽介が私を認めてくれたことで。
 私は失意を味わっていた。陽介が私を無視しなかったことで。
 陽介の言葉は、私を有頂天にさせ、幻滅させた。
 私は、私という人間が、私自身にも分からなかった。私は自分がどう思っているのか、どう感じているのか、きちんと整理して理解することができなかった。私は混乱していた。陽介の言葉を疑おうともしなかった。その場で、陽介が私の首に牙を突きたてることすら、予想してなかった。
 だから反応が遅れた。
 急に形相を変え、飛びかかってきた陽介を、避けることができなかった。肉体的な力を跳ね除けることができず、無様にベッドに押さえつけられた。
「何を」
 するんだ、と叫びたかった。
 だが、陽介が押しつけた牙が、私の口を塞いだ。
 目の前が瞬間的に暗転し、私は意識を完全に失った。

 翌朝、目覚めた私は座敷牢にいた。閉じ込められていた。
 陽介が太い木の格子で区切られた外側に立っていて、目覚めた私に絶食を命じた。
「どういうことだ」
 汚れた畳の上を、百足が這っているのが視界の隅に映った。
「どうして飯を食べさせない。どうしてこんな場所に閉じ込めるんだ。晶子はどこだ」
「洗礼のためだ。君を逃がさないためだ。ちゃんと大切な客人としてもてなしている」
 陽介は薄笑いを浮かべ、平然と答えた。上等そうな絹のシャツに、見るからに高価そうな生地の茶色のズボンをはいている。とても殺人鬼には見えない。座敷牢の外側にいるのが当然に思える。私は、自分がここに閉じ込められていることこそ当然なのだ、という理不尽な理屈に頷きそうになっていた。それほど、陽介は自信に満ちていた。私は毛羽立った畳を拳で叩いた。百足がびっくりしたように這う速度を早め、壁の隙間に消えて行った。
「洗礼だと」
「私のように血を楽しむための儀式だ。絶食して、それから限界近くまで水分を断つ。全てが始まるのはそれからだ」
「どうして僕がそんなことにつきあわなければならないんだ」
「言っただろう?」
 小さな子どもに言い聞かせるように、陽介はゆっくりと言った。
「君と俺は似ているんだ。君と俺は同じ種類の人間なんだ。俺の立っている場所に立てるのは、君だけだ。だからだよ」
 私はあきれて口も利けなかったが、陽介は気にした様子はなかった。楽しそうに、部屋を出て行った。座敷牢を見回すと、汚れた甕が置かれているのが見えた。水をたたえ、底があるかなきかの青に染まっている。三日で、甕は空っぽになった。
 甕が空っぽになっても、陽介も、田島も、もちろん晶子も姿を見せなかった。渇きと孤独に、私は突き落とされた。

「他人の嫉妬は許すが、自分の嫉妬を嫌悪する」
 私はまどろんでいた。水が欲しかった。
「感情的になりそうな自分を、常にコントロールできるよう意識している」
 陽介の声だった。
 私は膝を抱え、壁にもたれて目を閉じていた。動きたくなかった。話をしたくなかった。私の無言の抵抗など気にもしないように、陽介は一定のリズムに添って言葉を発していた。私に語りかけ、効果を計るために時間を置き、再び語り始める。合図する指揮者がいるのかもしれない。
「君は情緒面の発達を停止させ、知性のみを発達させてきた」
 指揮棒は、私を攻撃しろ、と命令しているのだろう。
「バランスを考えて、人と接する。いつも、誰に対しても」
 陽介の声に重なるように、ぴちゃぴちゃという音がしていた。それは意識を取り戻したときから、ずっと続いていた。そのことに気づいた。
「人を本当に愛することを恐れている。バランスを崩したくないからだ」
 陽介は静かな声で話していた。けっして高くなったり、諭すような調子にはならない。全く劇的ではない、情報だけを伝達することに専念した喋り方だ。
「だが、そういう考えが、本当にバランスを取っていると言えるのか? バランスを取ることに縋ることが、すでにアンバランスだと思わないか? 君は知るべきだ。この世界に完璧な人間などいないことを」
 私は動きたくなかった。このまま死んでもいいとさえ思っていた。諦めて、自分の内部に閉じこもっていた。動きを止め、静けさを求めていた。
「本当の君は、血の熱い、感情の濃い人間だ。気づいていたか? だが、君は感情に身を任せることを禁じている。誰かを好きになれば、その人が去っていくのが辛くなる。誰かを好きになれば、嫉妬する。誰かを好きになれば、裏切られるのが恐ろしくなる。誰かを好きになれば、傷つく。これまでがずっとそうであったように」
 これまでがずっとそうであったなら、これからもずっとそうであるはずだ。
 私は心の中で、陽介に反論した。
 もう、ずっと以前から、私は誰にも認められていないのではないか、誰も私をちゃんと見てくれてないのではないか、と考えている。そういう否定的な想いがつきまとって離れない。振り切ろうとしても、必ずその言葉は私に追いつく。私を徹底的に傷つける。私は、時に心細くなる。どうしてこんなに生きていくことが苦しいのだろうと、時に落ち込む。それをやめられない。人は誰もがそうであるように、辛い体験が繰り返されると、ある部分では悲観的にならざるを得なくなる。
 つまり、これは、永遠に続く運命なのだ、と。
 運命を受け入れなければ、生きていけない。私はいつの頃からか、傷つくのを恐れ、他人から一定の距離を保つ努力を心がけるようになった。距離を保つ私を、私という人間に近づくこともできない人間が否定する。離れた場所から相手を否定する人間を私は認めないので、そこに問題は生じなかった。苛立って、わめいている人間を観察するだけだ。
 だけど、もしかするとそういう相手が言うように、私は冷たい人間で、感情のない人間なのかもしれないと思うことがある。相手が正しくて、自分が間違っているのかもしれないと考えることがある。
 本当は、誰かにそんなことはないと言って欲しかったし、そんなことはあり得ないんだと保証して欲しかった。だが、そんなことを人に頼めるはずがないし、誰もそんなことは言ってくれない。それを望むのは間違いだとずっと思ってきた。
 私が距離を埋めることはないし、誰も私に近づけないのだと思っていた。
「何かを必要としなければ、失望することはあり得ない。依存しなければ喪失は存在しないことになる。君は経験から学習した結果、そう考えた。感情を理性で制御することが習慣となった。好きになる前に、必ず相手の欠点を探すのはそういう理由だ。そして、そういう自分を嫌悪している。極端なくらい君の自己評価が低いのはそのためだ。だけど、いいか、澤木鉄哉。自分はだめなんじゃないかと思う事くらい、人間を傷つけるものはない。そういう事を考えはじめたら、大きな深みにはまってしまう――」
 陽介の言葉の数々は、直接私を揺さぶった。そこに距離はなかった。陽介の言葉は、私の目をこじ開けた。
 そこで何が繰り広げられているのか知ったとき、私は目を開けたことを後悔した。
「リチャード・マニュエルの言葉だ。真理だね。だから私が君を、その大きな深みから拾い上げてあげるよ。君の感情を鞭で叩くことでね」
 座敷牢の外にいたのは陽介一人ではなかった。そこには二人の人間がいた。陽介と、もう一人は女だった。女は衣服を身につけてなかった。女は陽介の足元に跪き、陽介の両足のつけ根に顔を寄せていた。ぴちゃぴちゃという湿った音は、女の口元からしていた。陽介が愛しそうに、女の髪を撫でた。
「もういいよ。いい子だ」
 女が、含んでいた陽介を吐き出すと、顔を上げた。陽介に蕩けるような視線を向けたのは、晶子だった。しなだれかかる晶子と、手馴れた扱いで抱きしめる陽介を、声も出せずに見ていた。陽介が晶子を格子につかまらせ、背後から晶子に繋がった。晶子の細い声で、繋がったのが分かった。
「陽介」
 残っていた力を振り絞った。
「今すぐ晶子から離れろ」
 陽介は笑った両手を広げた。そのままの姿勢で腰を動かした。
「見ての通り」
 陽介が愉悦を堪えた声で言った。
「私は無理強いをしているわけじゃない。晶子の要望に応えているだけだ」
「やめろ」
 晶子は顔を伏せていたが、陽介を味わうことを楽しんでいるのは明白だった。濡れた声が、貪欲に蠢く腰が、そのことを物語っていた。怒りに、視界が歪むのを感じた。
「やめろッ」
「嫉妬しているな。いい傾向だ。なぜ嫉妬するのか考えろ。感情を、無理やりに押さえつけるような真似はもう止めろ。晶子を必要とする自分を認めるんだ」
「黙れッ」
 晶子に駆け寄った。格子を掴む晶子の手に触れた。晶子の手が、まるで水に溺れていた人のように、私の手を求めた。求めて、格子の隙間から私の手に触れた。晶子の手を取り、指を絡めた。すると、晶子はそれまでより高い声を漏らした。力強く握り締めてくる晶子の爪が、私の手に食いこんだ。
 晶子が声を上げた。腰を振っている。その動きに合わせるように、陽介が腰を律動させた。
 二人の動きが、晶子の手を通して伝わってきた。
 何もかもが歪んで見えた。何度名前を呼んでも、晶子は顔を上げなかった。行為に没頭し、喘ぎ、身体をくねらせていた。最後に晶子は大きく絶叫すると身体を痙攣させ、床に崩れるようにして倒れた。
 もう私の手を握ろうとはしなかった。すり抜けてゆく手が、私の心を砕いた。
 陽介を見た。
 陽介は慈しむような目で、晶子と私を見ていた。
「殺してやる」
 私はありったけの殺意を込め、声を張り上げた。
「殺してやるッ」
 どうして自分が血を吐かずにいられるのか、理解できなかった。言葉を発するたびに、鋭く身体の内側に痛みが走るのに、血は流れなかった。こんなにも痛むのに。こんなにも苦しいのに。
「殺してやる、お前を」
「やってみろ」
 陽介が言った。
 唇に、あるかなしかの笑みが浮んでいた。
「必ず、どんなことをしても、お前を殺す」
 私は、その言葉を自分の心に刻みつけた。
「楽しみにしているよ」
 朗らかに陽介は言って、部屋を出て行った。
 音も立てずに田島が現れ、失神している晶子を抱えて行った。一人になった私は自分の手を見た。晶子の爪が傷つけた手の甲。それをいつまでも眺めていた。不意に、手の甲に水滴が一粒落ちてきた。涙だった。それで私は視界が歪んでいた訳を覚った。怒りではなく、涙が視界を滲ませていたのだ。私は目に涙をたたえていた。そして、そのことに気づいていなかった。泣きたい誘惑に耐え、体力を温存するために目を閉じた。
 夢の中で、何度も晶子と陽介が交わっていた。

  ※

 私は動けなくなっていた。周囲はとても静かだった。時折、聞こえてくるあの声以外、何も聞こえない。
「鉄哉」
 私の名を呼ぶ、この晶子の声は幻聴だ。そのことを私は充分に心得ている。だが、幻であることを充分に心得ているにもかかわらず、声に反応してしまう。
 無視できない。
「鉄哉」
 その声は、私の願望に添った、私の聞きたかった言葉を、私に与えてくれた。
「目が覚めた? うなされていたわよ」
「うなされていた?」
 私は目を閉じたまま、うっとりと答えた。
「悪い夢でも見ていたの?」
 私はそっと目を開けた。そこは座敷牢ではなかった。私は豪奢にも天蓋つきのベッドに寝そべっていて、私の隣には晶子がいる。窓の外は柔らかい、明るい光に満ちていて、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「寝ぼけてる」
 いたずらっぽく晶子が笑った。私は空腹にも喉の渇きにも苦しんでいなかった。体調は優れていて、何も悪いことなど起こっていないように思えた。悪いことなど、起こるはずがない。これは私の願う仮想世界なのだから。本物の現実ではなく、私の望む、私の欲する、私を傷つけない、安物の嘘なのだから。
「違うわ」晶子が真顔で言う。「これが現実なのよ。こっちが本当。ちゃんと目を開けて」
 晶子が私を抱きしめてくれた。温かく、柔らかい晶子。突然、何の前触れもなく晶子は泣き出した。ごめんなさいと泣きながら、晶子はしがみついてきた。私はあまりにも幸せで、声を上げて泣き出してしまった。
 それで私は、これはやはり夢なのだと悟り、目を覚ました。自分が自分に都合の良い夢に埋没していたことを、痛みと共に自覚する。私はやはり座敷牢に閉じ込められていて、身動きできないくらいに衰弱していて、渇きに苦しんでいた。灯りはなく、夜だった。意識が朦朧としている。物音は聞こえてこない。とても静かだった。
「鉄哉……」
 どこからか声がした。
「鉄哉――」
 幻聴はここでも聞こえるらしかった。
「鉄哉ッ」
 激しい晶子の声に目を向ける。晶子が座敷牢の格子にしがみついて、私に向かって叫んでいた。
「逃げよう。今鍵を開けるから」
 晶子が乱暴に鍵を開け、座敷牢に入って来る。駆け寄った晶子は口移しに水を飲ませてくれた。
「ごめんなさい」
 晶子は泣きながら、何度も私に謝ってくれた。
「ねえ、しっかりして鉄哉。お願い」
 晶子の言葉は、私を泣かせた。月と太陽が対になって空に浮ぶことがないように、私の頬が滂沱の涙で濡れることはない。
 ――だから、これも夢だ。

「目が覚めたかい」
 陽介の声がした。それで、私は目を開けた。陽介が格子の前に立っていた。私を興味深そうに見ている。
「私を殺してくれるんだろう? その元気はまだあるかい?」
「死ねよ」
 私の声は小さく、聞き取りにくいものだったが、陽介はその意味を把握したようだった。顔に満面の笑顔を浮かべる。
「結構」
 これが現実だ。
 これが本当だ。
「もうすぐだ」
 陽介の声は喜びに満ちていた。
「もうすぐ洗礼を行うことができる。そうすれば君は……」
 不意に陽介は呻いて言葉を途切れさせた。そのまま崩れるようにして倒れる。陽介が倒れたために、後に立っていた人間の姿が露になった。立っていたのは晶子だった。晶子はその手に血に濡れた小刀を持っていた。
「逃げよう」
 晶子の叫びが座敷牢に木霊した。
「許して」
 晶子は泣きじゃくっていた。
「逃げて」
 晶子は必死に叫んでいた。
 私は――。
 私は泣きながら考えていた。私は泣いて謝る晶子を欲している。後悔し、私を助けに来る晶子を見たがっている。自分が間違っていたと縋りつく晶子を、許してくれと懇願する晶子を、自分に都合のよい晶子を求めている。私が正しいのだと、思いたがっている。
 目を開いた。
 もちろん私は泣いていなかったし、陽介も、晶子もいなかった。何もかもが私の見た幻想に過ぎない。私が欲しがっているものは、何も手に入らないのだ。昼なお暗い座敷牢を見回した。誰もいない。静かだった。私は一人だった。
「鉄哉――」
 遠くから、私を呼ぶ声がする。晶子の声が聞こえてくる。それで私は。

  ※

 どうしても、逃げることができなかった。
 もう、私の望みは座敷牢からの逃亡ではなかった。そうするには、私はあまりに衰弱しすぎていた。もちろん生き延びることが可能であるならそれを拒みたいとは思わなかったが、その可能性はあまりに低すぎた。私が望んでいたのは幻からの脱却だった。私は相変わらず、夢に翻弄されていた。夢だと分かっているのに、現実に起こりうるはずがないと承知しているはずなのに、私は晶子が泣いて許しを乞い、私を助け出そうとしてくれる夢を見続けていた。
「ねえ、頼むから目を覚まして」
 晶子の声が聞こえてくる。
「鉄哉」
 これは、夢だ。
「鉄哉。目を開けて」
 目を開けたとしても、これは夢なのだ。
「鉄哉ッ」
 これは夢だ。それを私は知っている。それでも私は、目を開かずにはいられなかった。夢の脚本は決定しているのだ。私は、名前を呼ばれ、目を開けることになっている。定められた脚本に従い、私は目を開いた。いつのものように、座敷牢の格子に全身を押しつけるようにして晶子が中を覗き込んでいた。もちろん、落涙が頬を濡らしている。いつもの夢の通りに。
「鉄哉……」
 これは夢だ。これは夢なのだが、しかし、この夢はなんと美しいことだろう。なんと安らかなことだろう。あまりに美しく、あまりに切なく、そしてあまりに甘いから、私は何度もこの夢を見てしまう。
「晶子」
「鉄哉」
 私たちは互いの目を見つめあい、互いの名前を呼び合った。まるで、引き裂かれた恋人同士の逢瀬のように。現実には存在しない恋愛小説の一場面。私はこんなにも安っぽい幸福を望んでいるのだ。あまりにちっぽけで、泣けてくるほどの望みだ。
「鉄哉。今出してあげる。鍵を盗んできたから」
 この晶子は本物の晶子ではない。私は自分に言い聞かせた。これは私の見たい、私の欲する、現実とは似ても似つかない、私の心の脆弱さが生み出した晶子だ。この晶子は私に都合が良すぎる。本物の晶子は助けになど来ない。鍵を盗んだりはしない。
 晶子は弱っているように見えた。頬がこけ、手が小さく震えている。そのせいで、なかなか上手く鍵を開けられないようだった。顔色も悪い。覚束ない手つきで苦労して鍵を開けると、晶子は一歩一歩踏みしめるようにして私に近づいてきた。
足首に赤い跡がついている。縄で縛られた跡のように見えた。私同様に、晶子も陽介に自由を奪われていたという設定なのだろう。衰弱し、ふらついている晶子はまるで大病をわずらった患者のように見えた。違うのは、晶子を晶子たらしめているあの真っ直ぐな瞳と、どんな苦境にあろうと絶対に伏せられることのない、前を向く晶子の顔だった。
 この夢は、なかなか細部にまで神経が届いている。
「鉄哉――」
 私の顔に手を触れ、晶子は再び涙を溢れさせた。
「晶子」
「なに」
 小さな声で、晶子が問い返す。子どものように純粋な問い。汚れることのない晶子。
「これは夢なのに、それでも君に会えたことがすごく嬉しい」
 これは夢なのに、覚めなければいいと私は願っている。
「鉄哉?」
 晶子は眉を寄せ、私の肩を強く揺さぶった。
「鉄哉」
「痛いよ」
「鉄哉」
「どうした?」
「鉄哉、しっかりして」
 早口になろうとするのを堪えるように、晶子は一瞬素早く息を吸って、言葉を止めた。それから殊更にゆっくりと喋ることを心がけているかのように、言葉を継いだ。
「これは夢じゃない。しっかりして、お願いだから。これから――これからあたしたち、ここから一緒に逃げるんだから」
「ここからは逃げられないよ、晶子。これは夢なのだから。夢からは逃げることができないものだ」
「ねえ」
「いつもの展開だよ晶子。もうすぐ現実に戻ることになる。同じ事の繰り返しなんだ。君は本当の晶子じゃない」
「何を言ってるの、鉄哉。お願いだから正気づいて」
「だから、これは夢だと言っている」
「現実よ。あたしは正真正銘、本物の水沢晶子よ。貴方の見ている夢の中の住人じゃないわ」
「と、いつも夢の中の晶子は言うんだ。決め台詞なんだよ」
「鉄哉」
「この夢は出来がいい」
「鉄哉、お願い。話を聞いて」
「聞かなくても分かっているよ。同じ結果が待っているだけなんだ」
「鉄哉ッ!」
 冷静でいようとしていた晶子はその一瞬で消え去ってしまった。そこに立って私を見ていたのは、火のように燃え上がる、短気で気性の激しいいつもの晶子だった。私を見ているのは、燃え盛る火の気性を映す目だ。私の知っている、私の惹かれた晶子だった。
「ただでさえ時間がないんだから、いつまでも寝惚けたこと言わないでよッ」
 啖呵を切って、晶子は私の頬を叩いた。
「目が覚めた?」
「痛くないな」
 私は答えた。
「痛くない」
「それはこれが夢だから、だから痛くないという意味なの」
「そういうことだ」
 言い終わらないうちに、晶子が両手で私を叩いた。顔中をはたかれる。晶子の手には一切の手加減がなく、容赦のない怒りが込められているようだった。途中から、晶子は怒りのあまりか、平手ではなく拳骨で私を殴打した。長い間、晶子はそうして私を殴っていた。晶子が手を止めたのは、その嵐のような怒りが収まったからではなく、単純に体力が尽きたからだった。晶子は荒い呼吸を繰り返し、しかし目に稲妻のような鋭い光を宿して私から目を逸らそうとはしなかった。唇を噛んで、私を睨みつけていた。
 私は、怒りの表情を見せる晶子に見とれた。晶子はもう泣いてはいなかった。前々から、私は内心、晶子は怒った時の顔が一番目を惹きつけると思っていた。怒った顔の晶子は魅力的だった。泣いている晶子の何倍も。こんな時に、そしてこんな状況ではあったが、私は呑気にも改めて晶子の美しさを確認した。
「痛くないんだよ、晶子」
 何故か心の中が温かかった。それは、この夢が私を癒してくれるからかもしれなかった。私は、私の下らない思考を殴ってでも止めて欲しいと思っている。私は、私がこのままでは駄目なのだと誰かに言って欲しいと思っている。それじゃいけないのだと。目を覚ませと。こっちを見ろと。陽介が私に言った言葉は正しい。私がいつも願っていたのは、陽介の言葉通り、たったひとつのことだった。私は、私を救ってくれる人間を欲している。
 そして、だからこそ、私は、晶子に縋れなかった。
「痛くないんだよ、晶子」
 それが本物であろうと、夢の中の登場人物であろうと、晶子にしがみついて晶子を汚したくなかった。晶子は私を切り捨てるべきであって、ここに来てはならないのだ。私は救いのない道を一人で歩くべき人間で、道連れを求めるべきではない。
「これは幸福すぎる夢なんだ」
 晶子の瞳に、絶望が降りるのを私は見た。満足だった。
「私は病んでいる」
 私は病んでいる。助かる見込みはきっとない。だから陽介は私を隔離せねばならなかったのだろう。晶子は陽介と寝なければならなかったのだろう。私は自分には受け入れがたい現実を、自己犠牲精神という柔らかな布で覆い隠そうとしていた。それでも、裏切られ、見捨てられたのだと思うより、自分が身を引くことで最愛の二人が幸せになるのだと考えるほうがましだった。もうここから逃げ出すことは、体力的に考えても無理だ。私はここで、この座敷牢で死ぬ。だったら、最後に少しくらい自分だけに都合の良い考え方をしても、罰は当たらないだろう。
「あんた、馬鹿じゃないの」
 晶子が――あの晶子がうつむいて、吐き捨てるように言った。
「このあたしが頼んでいるのよ……こんなこと誰にも言ったことなかったのに……逃げてって頼んでるのに」
「帰れ」
 私は言った。
「二度と、ここへは来るな」
 晶子は顔を上げて私を見た。表情が一切なかった。信じられないという声にならない悲鳴が聞こえてくるような気がした。自分の心に鞭を打ち、口を開いた。
「早く行け」
「どうして……どうしてそんな……」
 非道なことが言えるのか。そう晶子はなじりたかったのだと思う。私は思い切り息を吸い込んだ。晶子に追い討ちをかけるために、晶子を深く傷つける、最も効果的な言葉を探した。やがて、私はその言葉を見つけた。見つけた言葉を、私は躊躇わず口にした。
「この売女」
 その瞬間、まるで時間が止まったかのように、晶子は動きを止めた。息もしていないように見えた。永劫とも思えるほどの間、晶子はそのままでいた。やがて、晶子はゆっくりと動き出すと、手に持った何かを思い切り畳みに投げつけた。投げつけ、走って出て行ってしまった。一度も振り返らなかった。晶が投げつけたものは、短刀だった。護身用らしい、小さな朱塗りの鞘に収められた、細身の短刀だ。私はそれを懐に入れ、遠ざかっていく晶子の足音を耳にした。安らかな幸福を覚えていた。夢の中であれ、晶子の誘いを拒絶した自分自身に感心すらしていた。愚かで救いようがない私だったが、死ぬ前に一つだけ良い行いをしたものだと思った。本当はもっとずっと早くに、そうすべきだったのだ。私と違い、晶子は幸せになるべき人なのだ。
 私は裏切られたのではない。信頼を損なったのは、陽介と晶子ではないのだ。
 裏切り者は私だ。世界中の人間がそれに賛同するだろう。誰もが裏切ったのはお前なのだと断言してくれるだろう。悪いのは私だ。私の捻くれた性根が全ての不幸を生み出した。そう実感できて、やっと私は現実を飲み込めた。穏やかな気持ちで目を閉じながら、私は思った。懺悔した罪人は、こういう気分を味わうのかもしれないと。

  ※

 顔中が痛くて目が覚めた。
 澄んだ水のように、意識が透明だったが身体は動かなかった。もう終りが近いということなのだろう。たとえ外は雲ひとつない青空が広がっていたとしても、座敷牢の中にはいつもわずかな光しか差し込まなかった。薄暗く、黴臭い臭いがする。ナメクジの這った跡がそこここに残っていて、虹色に光っている。あまり、居心地のいい場所とは言えない。ここから出られるのであれば、たとえ死体になったとしても受け入れられるような気分だった。それくらい私はうんざりしていた。座敷牢にも、生きることにもうんざりだった。
 まだ、眠っているほうがましだ。夢の世界には、晶子が私を訪ねてくれる。
 もうすぐだ、と私は思った。もうすぐ、何もかもとお別れになる。陰気な座敷牢とも、嘘つきの陽介とも、下種の私自身ともおさらばだ。晶子ともお別れだ。しかし、それはかえってさばさばとして、すっきりするようだった。何もかもを捨てて、全てを断ち切るのは、さっぱりしていて良かった。何が悪かったのか、今でもそれが分からない。
 分からなかったが、私は人を不快にさせる存在だった。だとすれば、私自身の死によってそれが取り除かれるのは、悪いことではないはずだった。それは、私が初めて人の役に立つということなのかもしれなかった。私は、私自身の死を対価として支払うことで、人に幸せを与えるような、そんな存在だったのだ。
 顔がとても痛かった。手で触れてみると、熱を持っているようだった。ひりひりと痛む。どうしてそんなことになったのか、見当もつかなかった。眠っている間に何が起こったのか、私にはそれを確かめることができない。だが、それも些細な問題だ。もうすぐ私は死ぬのだから。
 死ねば、苦痛は終わるのだから。
 私の痛みも、私の苦悩も、私の罪も、私の抱えている問題も、私のもたらした問題も、空腹も、怒りも、見栄も、虚栄心も、果たせなかった望みも、流せなかった涙も、渇きも、欲も、私にまつわる全ての事象は、私の死によって閉じられる。
 消えて、無くなって、終わる。死が、全てを飲み込んでくれる。飲み込んで、消化してくれる。跡形もなくなるというのは気持ちがいい。そうなれば、もう苦しむこともない。楽になれる。
 それにしても顔が痛かった。
 何かを忘れている、という気がした。大切な何かを忘れてしまっている。答えは喉元まで出かかっているのに、そこから出てこない。いっそのこと喉に手をつっこんで、答えを引きずり出してしまいたかった。頭の中に、霧が立ち込めているようだった。答えがその真っ只中で立ち往生している。束の間、私は時を忘れ、答えを求めて霧の中をさまよった。
 やがて、私は答えにぶち当たった。
 それは、不意に目の前に現れた巨大な壁のようだった。
「晶子」
 答えはそれしかなかった。壁が私に向かって倒れてくるような気がした。
 懐に手を入れた。じれったいほどに身体が動かなかった。華奢な造作の短剣は、そこにあった。私は這った。這って、座敷牢の扉に触れた。扉は音もなく開いた。扉を開けたまま、私はしばらくその場に突っ伏していた。
 あれは夢ではなかったのだ。気がつくと、私は廊下にいた。夢遊病者のように、廊下を這っていた。わずかな距離を進んだだけで、息が切れた。腕と足が体重を支えられなくなり、何度も顎を廊下にぶつける羽目になった。それでも進むのをやめることが出来なかった。晶子に会いたかった。会って晶子を抱きしめたかった。陽介を殺したかった。
 あれほどに傷つけてしまった晶子にどうやって謝罪すればいいのか分からなかったし、陽介を殺してどうなるのか、私には皆目見当もつかなかった。
 しかし、私には晶子が必要で、陽介を殺すしか道が見えなかった。
 晶子を抱きしめ、陽介を殺す。
 そのことだけを考え、虫のように廊下を這いまわった。のたうっていた、というほうが正確だったかもしれない。私はのたうちながら、唸りながら、少しでも身体を前に進めた。もう、迷いたくなかった。本当の本音はそんなところだったかもしれない。晶子の心を計りあぐね、陽介の意図を必死で理解しようとすることに、私は疲れていた。人の心が分からない自分自身に愛想が尽きていた。だから、もう思う通りに行動するしか、何も思いつかなかったのだ。生きたかった。生きて、晶子を抱きしめ、陽介を殺したかった。だったらそうするだけだ。理屈を並べたところで意味などない。生き延びたいから逃げるし、晶子を抱きしめたいから抱きしめる。陽介が邪魔だから殺す。耐えられないから逃げる。
 我慢できないなら逃げてしまえばいい。
 もっと感じるままに。
 もっと自由に。
 生きることしか考えられなかった。
 地を這う虫が生きることしか考えないように、私も生きることしか考えることができなかった。くそ、と何度も下品極まりない、野卑た掛け声を自分自身に言い聞かせた。それは自分自身への罵倒だった。自分自身への応援でもあった。本音でもあったし、自分を騙すための嘘でもあった。言葉を出しながら移動するのは、より体力を消耗する行動だった。無茶な考えなしだったが、それが気力を掻き立ててくれた。無茶ではあったが、無駄ではなかった。生きるんだ、と思った。
 声をかけられるまで、側に陽介が立っていることに気がつかなかった。
「ご苦労さま」
 白々しい、心の全く篭ってない拍手が聞こえた。陽介が私を見下ろしていた。
「五日間、君はよくやったよ鉄哉君。洗礼のための準備は、これで終りだ。拍手を君に贈ろう」
「陽介ッ」
 腹が立ったら、怒鳴ればいい。
 腹が立ったら、殴ればいい。
 全身の力を振り絞って、私は立ち上がった。猿が二本足で立ち上がろうとするかのように、滑稽な動きだっただろう。だが、私は真剣だった。よろめきながら、陽介に殴りかかった。
「元気だね」
 突っかかった私を軽く避けて、陽介は笑った。笑いながら、陽介は私の足を払い、倒れた私の顔を蹴りつけた。反動で壁に後頭部がぶつかった。手をついたが、力が入らなかった。もう一度、陽介の革靴が容赦なく顔面を襲った。ほとんど後頭部を壁に固定されたまま、直撃を食らった。目の玉が飛び出るような衝撃を受けた。
「運べ」
 短く命令し、陽介は私に背中を向けた。側に影のように控えていた灰色のスーツ姿の田島が私に素早く近づくと、軽々と私を抱え上げた。逆らう力が、もう私にはなかった。遠ざかる意識の中、晶子のくれた短剣を隠すのが、精一杯だった。
 手の平の上で躍る猿には、そのくらいが関の山だ。

続く(かもしれない)

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