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はた迷惑なインスタおばさん

会社を退職後、コロナ来襲までに数回海外旅行に行きました ── いずれもラクチンなグループツアーで。
1週間を超えるほどの長さになると、一行のメンバーがどんな人物かがわかってきます。

個性的な人物 ── 有害でなければ ── にはひそかに綽名あだなをつけるなどして、けっこう愉しい。
「ねえ、さっき見た? AAさんがさあ……やってただろ?」
「ああ、BBカップルのダンナの方でしょ?」
なんてね。

単に個性的な人にはニュートラルなニックネームを付けるけど、迷惑なヒトの名付けには、やや悪意がにじむ。

その昔、ソ連領中央アジアに旅した時、一行の中で毎日衣装を変えるにもかかわらず不思議に桃色系で統一されていたオバサン(最終日の朝、添乗員ジジイが彼女の部屋から出てきて愛人関係が判明)を、
『ピンクババ
と陰で呼んでいて以来定着した習慣かもしれません(↓↓)。

さて、あるツアーで一緒になったのは、いやあ……かなりウザイオバサンでした。ツアー参加はカップル4組+女性のひとり参加4名、全員がいわゆるシニアでした。
添乗員は、50歳ぐらいの男性で、ウザ子からの迷惑を最も受けていたでしょう。彼女は相当なクレーマーであることが見てとれ、とにかく丁寧に対応するしかない。

この時思ったのは、添乗員がトンデモツアー客を描写したらかなり面白いエンタメ小説がかけるはず、と。

ウザ子は、あちこち海外に行っているようで、
「**は良かったわよう!」
「##旅行社は1度使ったけど、全然ダメ!」
とにかく、声高にしゃべり続けるし、やたら口を出す。
レストランでも空港でも、キンキン話し続ける。とにかく、思ったことを全て口に出さずにはいられないようだ。

往路の中継地で一行をラウンジに送り届けた添乗員氏にウザ子は、自分たちの席に来るようしつこく言い張る。
(……ウザ子の横でゆっくり休めるわけないだろう! 日本への連絡など仕事もあるだろうし……)
同情していたが、あまりのしつこさに添乗員氏、
「いえ、私は一人で静かに別の場所で」
ついにきっぱり告げて去った。

ウザ子はツアーひとり参加に慣れているようで、他の3人を『おねえさま方』と呼び、『(勝手に)仲良しチーム』を結成したようで、レストランでも4人で座るのはいいけれど、グループ写真も撮ろうとする。
最初は快く応じていた『おねえさま方』も、次第にそのウザぶりに辟易としたこと、かつ、どうやらインスタアップするらしいことがわかり、徐々に、かつ、敏感な『おねえさま』からひとりずつ、ウザ子と距離を置き始める……。

いくつかの街を歩く中、そのウザぶりは誰の目にも明らかになってきた。
イスラムの古い街が多く、道が狭い。ウザ子はインスタアップのため写真を撮りまくる。風景よりむしろ自撮り、それも、音声入りビデオにも時間をかける ── 当然遅れるよね。
狭い道でグループが長くなり、添乗員氏が気遣って、声をかける頻度が高まり、ついに、一行中の某夫人が、
「写真ばかり撮ってるから遅れるんだ!」
と叫ぶシーンもあった……が、ウザ子はまったく気にとめず、逆に添乗員氏の苦悩は深まる……。

ウザ子は一行中唯一フリー男性である添乗員氏にやたらと親し気に話しかけるが、彼はビジネスライクに、
「いえ、私は土産物を買わない人間なので」
「いえ、私は写真を撮らない人間なので」
と一定の距離を保つ。これも後日他の客からクレームを受けないための職業ルールなのでしょうね。
── その添乗員氏を、ウザ子は(自撮りでさんざん撮った上に)個人専属カメラマンのようにこき使う。
とにかく呆れるのはその『自己中』ぶりで、例えば私が人がいなくなるのを待って、同行者の写真を撮ろうとしているアングルに割り込んで来て、ちゃっかり自撮りして去る。
(あの傍若無人 ── 信じられん!)

ウザ子は自撮り棒で自分を撮る際、カメラとの距離から上半身のみの時でも、片足を爪先立ちにして下半身までしっかりポーズをつけていて、これは笑えましたね。

旅の終わり頃になると、『おねえさま方』はウザ子との行動頻度が減り、食事も他のカップルととるようになった。
ウザ子が、
「おねえさま方、一緒に撮ってもらいましょ!」
と専属カメラマンにスマホを持たせて手招きしても、
「あ、……私はいいです」
と入らなくなった ── 一番気の弱そうな『おねえさま』は仕方なく参加していたが……。

大都市のホテルに夕刻到着した時、添乗員氏が、
「治安がよくないので歩きはダメ、タクシーのみ」
とバスの中で釘を刺した。
するとウザ子が、夕食後に買い物に行きたいので添乗員氏に同行して欲しい、とごね始めた。
添乗員氏は仕事があるので……と暗に断りつつも、
「夜、外出したいんですか?」
と再確認すると、
「お姉さま方が……」
と他人にかずけようとする。
「どうしても行きたいなら私がタクシーで同行しますが、私は買い物したいわけではないし……」
そして、
「夜、買い物に外出したい方、手を挙げてください!」
さすがに呆れた気配の『おねえさま方』を含め、誰も手を挙げない。
……ここでさすがのウザ子もようやく諦めた。

添乗員 ── たいへんな仕事であーる。この面倒なステップを踏まないと、クレイマー・ウザ子にどう通報されるか、わかったものではない。

夕食のレストランでもひと悶着あった。とある映画の舞台になったというその店はけっこう狭く、予約してあったテーブル席に、
「奥から詰めてください」
と添乗員氏が言った。
いつものように先頭に立ったウザ子は片側を進み始めたが、そのままいくと、自分の苦手な某カップル(「写真ばかり撮ってるから遅れるんだ!」の方)と同席になってしまうことにハタと気付き、
「お姉さま方と4人で座りたい!」
と途中のテーブルで椅子の背を握ると動かなくなった。
添乗員氏が困り、
「じゃ、申し訳ありませんが、奥にお願いします」
私たちに声をかけた。
「……いいですよ」
しかし、ウザ子がその途中でフリーズしているため、その先に進みようがない。
(お前は小学生か!)
いや、遠足の班決めでもこれほど子供じみた振る舞いはないだろう……いやはや本当に呆れた ── おそらく一行全員が。

帰国便の中継地ラウンジでも、往きとまったく同じことが繰り返され、今度は添乗員氏、ウザ子にきっぱり、
「私は別のラウンジで、一人でゆっくりさせてください!」

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