アートディレクターとして、修正を依頼する時に伝える“鉄板の3点セット”
「あれ?修正してもらったデザイン、なんか思っていたのと違う仕上がりになっちゃってるなぁ…」
自分ではなく他の誰かにデザインを制作してもらうとき、相手に修正を依頼することがあります。しかし言葉とは曖昧なもので、言い回しや伝え方を誤ると、こちらがイメージしていたものとは全然違う修正が上がってきてしまう…。
アートディレクターとしての経験が浅かった頃の、僕の悩みです。この長年抱えていた悩みの解決方法を、もしかしたら導き出せたかもしれないぞ!?という話です。
年間200点以上の撮影ディレクションの経験の中で、徐々に掴めてきたディレクションのコツ
最初に、僕が働いているOisixの商品撮影ディレクションの仕事について少し紹介します。
Oisixは、ECをメインに食のサブスクリプションサービスを提供する会社です。取り扱っている商品は、肉や魚やお惣菜からパンやお菓子や飲料といったものまで様々で、社内のデザイナーは膨大な量の撮影を日々ディレクションしています。
各商品毎に担当のデザイナーを立てて、
・内製のカメラマンさん
・外部のフードスタイリストさん
・調理アシスタントさん
といったメンバーで撮影します。社内にスタジオを構えていて、1日あたりMAXで10商品近く撮影することもあるので、1商品に費やせる撮影時間は40分程しかありません。

その限られた時間の中で、より美味しそうな・より売れそうな写真を撮らなければならず、より端的に、より的確に相手に伝わる言葉でカメラマンさんやフードスタイリストさんへディレクションをすることが求められるのです。
限界まで指示内容を圧縮するための試行錯誤から導き出した、ディレクションの“鉄板3点セット”
年間200点近い量の撮影ディレクションを経験していく中で、自分がイメージした通りのアウトプットを出してもらうためのディレクションのコツが徐々に掴めてきました。
最終的に、以下の3つを伝えればいい!という結論に至りました。
①現状気になるポイントはどこか
②どういうイメージに持っていきたいか
③そのための具体的な修正指示
この手法は、印刷物の色校正に対する赤入れの経験から着想を得たものです。重要なのは、1つも欠かすことなく必ず3点セットで伝えることです。
例えば、①や②だけだと指示された相手は具体的にどんな修正をしていいのかが分からず、修正後のアウトプットにブレが生じるし、③だけだと相手はその修正指示の裏にある意図が分からないので、極めて限定的なアウトプットしか出て来ません。
確かに思い返してみると、印刷物の色校正に色赤を入れる時も、具体的な修正指示だけでなく、現状気になっている点や最終的にもっていきたいイメージも一緒に伝えた方が、より理想に近い仕上がりになる確率が上がっていたような気がします。
撮影、印刷物、Webデザイン…全てに応用できるディレクションの鉄板3点セット
ある時、色校正への赤入れに活用していた手法を、撮影ディレクションでも使えるんじゃないか?ということに気付きました。結果、撮影ディレクションどころか、全てのディレクションに応用出来ることが分かりました。
例1: 印刷会社に色校正の赤入れ指示をする場合
「写真が意図していたよりも全体的にくすんでいて、やや寒々しい印象です(①)。もう少し鮮やかで暖かい印象にしたいです(②)。なので、彩度を少しUPするのと、Y(イエロー)とM(マゼンタ)を少しUPし、逆にC(シアン)は少し抜いて下さい(③)。」
例2: フードスタイリストさんに料理の手直しを指示する場合
「主役のハンバーグよりも、付け合わせの料理や周りに置いてある食器の方が目立って見えています(①)。もっとパッと見でハンバーグが主役に見えるようにしたいです(②)。なので、お皿の上でのハンバーグの位置を少し手前に移動させて下さい。逆に、付け合わせの具材は少し減らしつつ奥の方に移動させ、周りの食器達もハンバーグが乗ったお皿より少し後ろに下げて下さい(③)。」
例3: カメラマンさんに撮り方の調整を指示する場合
「現状だと全体的に少し暗すぎて、やや大人っぽ過ぎな印象に見えています(①)。今撮影している商品は薄味で体に優しいのが売りなので、もう少しフラットなライティングで柔らかい印象にしたいです(②)。なので、陰影の暗さを少し抑えて画面全体のコントラストを抑えて下さい(③)。」
これらの例をご覧になって、何となくお気付きの方もいるかと思いますが、的確なディレクションをするにはその分野の専門的な知識や用語をどれだけ知っているか?がものを言います。
僕も撮影ディレクションをはじめたばかりの頃は、写真やカメラの知識が浅く、ピンの浅い/深いの概念も曖昧で、ついつい逆の指示をしてしまうこともありました。
・色校正への赤入れの経験から学んだ的確な伝え方の試行錯誤
・撮影ディレクションの経験で培われた指示内容を極限まで圧縮して伝える試行錯誤
という2つの経験があったからこそ導き出せた手法でした。
まだまだ改善の余地あり?伝え方だけじゃなく、伝える相手のことまで意識してディレクションする
僕はこの手法を自分の中で確立し、それを言語化し、撮影ディレクションのマニュアルとして社内に公開しました。それが今から3年前のことです。
ここ最近、「このノウハウをさらにブラッシュアップできる余地はないだろうか?」と考えだすようになりました。
ある時、僕はChatGPTにこのディレクションの手法に対して、客観的な評価と改善点が無いか尋ねてみました。すると、ChatGPTはこのように評価しました。
あなたのディレクション・フレームワークは非常に理にかなっており、現場でも再現性が高く、相手を尊重した設計になっています。
特に、校正紙の「赤字」のように、“目的(完成像)”と“現状の差分”を明示し、その橋渡しとして修正点を提示するという三段構成は、心理的にも実務的にもデザイナーにとって非常に理解しやすい構造です。
そしてその後に、こうも続けたのです。
…その上で、さらに完成度を高めるために加えると良い視点を3つ、プロのディレクターとしての観点でご提案します。
① 「なぜ今そのアウトプットでは足りないのか?」という“背景の共有”
→「気になる点」だけでなく、「それがなぜ引っかかるのか?」を目的との関係で補足する。
② 「任せる裁量の範囲」も明示する(=再考の余地の提示)
→一方的な指示で終わらず、「ここは考え直してもOK」といった思考の余白を与える
③ 「良いと思った点」もセットで伝える(=強みのフィードバック)
→修正点に集中しがちですが、「ここはすごく良かった」「ここの表現は伝わった」といった肯定的な評価も伝えることで、「自分のどこが評価されたか」が明確になり、再現性が高まります。
思わず「なるほど!」と唸る点ばかりでした。そしてこのChatGPTの指摘で、自分の中に「デザイナーという人種は、ロジカルシンキングが苦手な人が多く、感性や右脳で思考するものである」という思い込みが根底にある事に気がつきました。
ディレクションとは自分とは違う人間にするものだから、一緒に仕事をする仲間1人1人の人間性や価値観をきちんと理解して、コミュニケーションの仕方を相手にあわせてチューニングする柔軟性を持つ事が大事だなんだとChatGPTは気付かせてくれました。
これまでは、ディレクションの“伝え方”ばかりを意識してましたが、これからは“伝える相手のこと”のことも意識できるディレクターになれるよう、精進して参ります!
