高校野球実況のポイント
今年も夏の甲子園が始まりました。
私は2007年からほぼ毎年、甲子園で高校野球を実況する機会に恵まれています。
今回は、プロ野球と比較して高校野球実況で気をつけているポイント、
こだわっているポイントについて書きます。
気をつけているポイント
①思考のテンポを速める
プロ野球と比べて、ピッチャーの1球1球の間が圧倒的に短いです。
普段のプロ野球実況の感覚で喋っていると、見事に置いていかれます。
プレーについていけなくなります。
頭の中の準備を前倒ししながら、考えるスピードを相当速めて臨んでいます。
毎年、自分の最初の担当のときには、かなり強く意識して思考のスピード感を速めています。
あらゆるところに視点を移動しながら実況していますが、そのテンポも速めます。
②名前は慎重に
プロ野球の場合、もはや意識せずとも選手の名前を瞬時に実況することができます。
長年に渡ってプロ野球に触れ続けているため、相当な人数の選手の名前が脳に刷り込まれていて、自分にとって馴染みのある名前ばかりです。
高校野球の場合、ほとんどが初めて実況する選手たち。
ここは慎重に。
打球が飛んだ瞬間に、コンマ何秒だけ手元の資料に目を落として守備の選手の名前を確認しています。
③予測は幅広く、何が起きても慌てない
1アウトからの送りバント、スリーバントスクイズ、1・3塁のダブルスチール。
プロ野球と比べると、こういった作戦に出会う確率が高いのが高校野球です。
思わぬエラー、ピッチャーが突然ストライクが入らなくなる、と思ったらアウトローに最高の1球を投げる。
こういうことも珍しくありません。
意識的に次のプレーを幅広く予測するようにして、何が起きても慌てず1つ1つ描写していく。
プロ野球の常識にとらわれない、これは高校野球実況の鉄則です。
こだわっているポイント
①可能な限りフルネームで
清水俊輔という選手がいるとします。
我々にとっては「清水」でも、家族、友人、地元のおじちゃんおばちゃんにとっては、「俊輔」です。
「あのかわいくて小さかった俊輔が、堂々と甲子園でプレーしている!!」こういう思いで観ている人が、たくさんいます。
スタメンで出ている選手は名前を言う機会も多いので、毎回必ずフルネームというわけではありません。
一方で、伝令の選手は必ずフルネーム、加えてエピソードも1つ入れるようにしています。
②ミスをしたら、名前は最低限に
野球というスポーツを伝えている以上、エラーなどミスをした選手の名前を言わないわけにはいきません。
ただ、最低限の回数にします。繰り返し言うことはありません。
もしその選手がその後にファインプレーをしたりヒットを打ったりしたら、
今度は必要以上に(?)名前を言います。
ミスをしても引きずらずに、必死に取り返す姿を讃えたい。
そういう気持ちで実況しています。
③負けているチームに寄りすぎない
高校生のスポーツであり、3年生は負ければ引退。
そういう意味では負けているチームをメインに実況すること自体は間違っていないと思います。
ただ、勝っているチームの素晴らしさをしっかり表現することを忘れてはいけないと常に思っています。
それこそがスポーツ中継の基本であり、高校野球でもそれは同じです。
加えて、スポーツ実況のテクニカルな観点での理由もあります。
負けているチームの守備の時 → これ以上の失点は防ぎたい!
その裏の攻撃の時 → 守った!さぁ反撃したい!
その次の回の守備の時 → 点とれなかったけどまだ攻撃は残っている、3人で抑えてリズムを!
その裏の攻撃の時 → 3人で抑えた!いいリズムで反撃へ!
このループにハマってしまうと、野球実況としてのメリハリがなくなってきます。
主語を入れ替えながら様々な視点を組み込むことにより、奥行きのある豊かな野球実況になります。
一方のチームをメインにして実況し続けると非常に単調になってしまうのです。
今年も甲子園の放送席に座ります。
ワクワクが止まりませんが、一方で不安いっぱい。
実況アナンサーの考えていることを少しでも知っていただけると幸いです!
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