【空想教室】やさしさの記憶
午後のカフェは、いつもより少しだけ静かだった。
秋の光が窓辺に傾き、テーブルの上を金色に染めている。
カウンターの端の席に、白いコートの女性がひとり座っていた。
両手の中には、小さな花束。
包み紙の端がしわくちゃで、何度も握りしめた跡がある。
「この花ね、誰に贈るつもりだったかしら」
女性は照れくさそうに笑った。
その言葉に、店員のユミはそっと頷く。
彼女がこの店に来るのは、これで五回目。
けれど、いつも“はじめて”のようにドアを開けるのだった。
ユミは、彼女が注文するメニューを知っている。「深煎りのブレンドコーヒー」を一口飲むたび、女性は必ず目を細めてこう言う。
「この香り、好きなのよ」
それは、忘れてしまっても残る“心の記憶”のようだった。
名前も、道順も、季節さえも曖昧になっていくのに、湯気に混じるコーヒーの香りだけは、きっと心の奥で、やさしく灯っているのだろう。
ユミはカップをそっと差し出しながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。
——忘れることって、悲しいことばかりじゃないのかもしれない。
もしも、記憶が薄れていくことの中にも、誰かを想うやさしさが息づいているなら、それは「失う」ではなく「返す」ことなのかもしれない。
思い出は形を変えて、ぬくもりとなり、香りとなり、また世界のどこかに、そっと還っていく。
カップを持つ女性の指先が、秋の光の中できらりと揺れた。
その瞬間、ユミは微笑んだ。
「またお待ちしていますね」
「まあ、また来てもいいのかしら?」
「もちろんです。いつでも。」
ふたりのあいだに、静かな笑みが灯る。
まるで、その場にやさしい記憶が降り積もるように。
忘れてしまっても、
心が感じた温度だけは、きっと消えない。
こんにちは😊
ごきげんいかがですか?
今週のテーマは「忘れること」でした。
“忘れる”という言葉には、どこか
寂しさや切なさの印象がありますよね。
けれど、心理学的には
「心を守るための働き」
とも言われていて、
それは人が前に進むための、
やさしい仕組みでもあるんです。
たとえ記憶の形が薄れても、
そこにあったぬくもりや思いは、
心の深いところで
静かに生き続けています。
香り、音、光。
ふとした瞬間に感じる懐かしさは、
きっとその名残りなのかもしれませんね。
忘れることは、愛を手放すことではなく、
愛のかたちが少し変わるだけ。
そのことを、少しでも
感じてもらえたらうれしいです🍀
本日も最後までお読みいただき
ありがとうございました。
あなたの心にも、
やさしい灯がともりますように✨
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