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読まれない「きれいな文章」と読まれる「おもしろい文章」

「しばくんさぁ、これじゃ誰も読まないよ」

冷めたコーヒーのカップを指でなぞりながら、デスクの女性は静かにそう言った。(※デスクとは編集長と担当編集者の間に立って現場をまとめる存在)

目の前には、僕が三日三晩かけて書き上げた原稿。推敲に推敲を重ね、一字一句まで磨き上げた、自分史上最高の出来だと思っていた。なのに、彼女の声はどこまでも冷ややかだった。

「きれいにまとまってる。すごく分かりやすい。でもね、君の体温がどこにもないんだよ」

頭をガツンと殴られたような衝撃だった。 わかりやすさ。読みやすさ。そればかりを追い求めていた僕が、一番大事なものを見失っていたことに、その瞬間、気づかされた。彼女がくれたその言葉こそ、僕の文章を根底から変えた一言だった。

「『きれいな文章』は流し読みされるだけ。『面白い文章』を書かないと、読者は足を止めてくれないよ」

編集部の女性デスクが言った「きれいな文章」と「おもしろい文章」の違いとは?



「きれいな文章」は、優等生だけど、記憶に残らない

「きれいな文章」って、どんな文章だろう。多くの人が文章を学び始めるとき、最初に目指すのがこれだと思う。

・文法が正しい
・誤字脱字がない
・話の筋が通っている

これ、文章の「基礎体力」みたいなもので、めちゃくちゃ大事。これがなきゃ、そもそも話にならない。でも、この「基礎体力」だけの文章って、読者から見るとどう映るんだろうか。

【優等生な文章の例】

昨日、近所のカフェへ足を運び、一杯のコーヒーをいただきいた。その格別な味わいは、僕に心地よい時間をもたらしてくれた。

どうだろう。100点満点の正しい文章だけど、心が3ミリぐらいしか動かなくない?たぶん、読んだ3秒後にはもう忘れてる。これが「流し読みされる」文章の正体。読者の頭の中に、何の引っかかりも作らない。あまりにスムーズに読めてしまうから、脳が全力でスルーしてしまう。

たとえるなら、「完璧に下ごしらえされた、味付け前の食材」みたいなもの。素材はいいし、丁寧な仕事もしてある。でも、肝心の「味」がしないから、食べた気がしない。そんな料理ってあるよね。


では「おもしろい文章」って、なんだろう?

ここで言う「面白い」は、もちろん「爆笑する文章」って意味じゃない。読んだ人の感情が動いたり、頭の中に映像が浮かんだり、思わず「へぇ!」と膝を打ったりするような、心が動く文章のこと。

読んでいる人の指を、ピタッと止めさせる力がある。それが「面白い文章」だと、僕は思っている。きれいな文章が「報告」だとしたら、面白い文章は「体験のプレゼント」。書き手が見た世界を、読者の頭の中にありありと再現してあげる。この“プレゼント”を受け取った瞬間、読者は初めて文章の世界にグッと入り込み、足を止めてくれる。

▼おもしろい文章についてもっと知りたい場合はこちらが役に立ちます▼有料に関わらず人気の記事です。


では、具体的に文章に「命」を吹き込む5つのコツをみていこう。


あなたの文章に「命」を吹き込む5つのコツ

では、どうしたらおもしろい文章が書けるようになるのか。難しく考える必要はない。僕がいつも文章を書くときに意識している、ちょっとしたコツを5つご紹介。

コツ1:「便利で退屈な言葉」を封印する

「きれい」「すごい」「美味しい」……。こういう言葉って便利だよね。でも、実は書き手が一番サボれる言葉なんです。読者に「どう美味しいのか?」を丸投げしちゃってるから。

■Before

ケーキがとても美味しかった。

■After

フォークを入れた瞬間、パイ生地は「サクッ」と小気味よい音を立てて崩れた。層の隙間からは、焼きたての香ばしさがふわりと立ちのぼる。その上には雪のような白いクリーム。ひと口含むと、サクサクと軽やかなパイが舌の上でほどけ、ふわっと幸せだけが残った。

「美味しい」と言わなくても、こっちのほうが断然美味しそうな感じがすると思う。五感(見る、聞く、味わう、嗅ぐ、触る)で感じたことを、そのまま言葉にしてあげる。これが基本のキ。

コツ2:たとえ話で「共通言語」を作る

読者が知らないかもしれないことも、誰もが知ってる「あれ」に例えるだけで、一瞬で伝わるように。

■Before

部屋は静かだった。

■After

部屋は、まるで深海の底みたいに静まり返っていた。聞こえるのは、壁の時計が「チッ」と次の1秒へ飛び込む音だけだ。

「深海の底」という言葉一つで、ただ静かなだけじゃない、重さや孤独感まで伝わる。これが比喩の力。

コツ3:「?」や「!」を読者の頭に浮かばせる

平坦な事実だけを並べるだけじゃなく、読者が「え、なんで?」と思うようなフックを仕込む。

■Before

彼は優秀な新人だ。

■After

彼は入社3か月のくせに、10年目のエースが匙を投げたクライアントと、なんなく大型契約を結んできた。

「なぜ?」と読者が疑問に思うことを一言入れるだけで、「え、どうやったの!?」と、文章の先を読みたくなる。この小さな「?」が、読者を引っ張る強力な磁石になる。

コツ4:文章の主役は「動詞」だと心得る

文章を生き生きさせるのは、実は名詞じゃなくて動詞。動きや状態を表す言葉に、ちょっとだけこだわってみよう。

■Before

彼は道を歩いた。

■After

彼はアスファルトを蹴るように道を駆け抜けた。

ほら、「歩いた」という事実だけじゃなく、その人の感情や状況まで見えてくるよね。

コツ5:モノに「人格」を与えてみる

僕らがふだん使っているモノたちに、ちょっとだけ人格を与えてあげると、文章が情感豊かになる。

■Before

長年使ったペンのインクがなくなった。

■After

長年、僕の思い付きのアイデアを書き殴ってきた相棒のペンが、ついに息を切らした。

ただの「ペン」が、かけがえのない「相棒」になる。こういう小さな工夫が、読者の心をくすぐる。

▼文章に「命」を吹き込むコツについては「言語化講座」に詳しく書いているので、ぜひ参考にしてほしい。



まとめ

誤解しないでほしいのは、「きれいな文章」を書く基本的な筆力は絶対に必要だということ。基礎がガタガタだと、そもそも読んでもらえない。それは、ぐらぐらの土地に家を建てるようなものだから。

でも、僕らが目指したいのは、ただ雨風をしのげるだけのただの完璧な「箱」じゃないはず。多少いびつでも、思わずドアを開けてみたくなる、中を覗きたくなる、そんな魅力的な「家」だと思う。

「きれいな文章」という土台の上に、「面白い文章」という、あなただけのデザインを施していく。この感覚が、すごく大事なんだと思う。次に何かを書くとき、たった一文でいいから試してみてほしい。

「この一文で、読者の指を止められるだろうか?」と。

その小さな問いかけが、あなたの文章を変えるきっかけになるはず。かつての僕が、そうだったように。


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