見出し画像

ジョブ型の正体

※この記事は、筆者個人の経験と見聞、および公開されている情報に基づくものです。特定の企業の内部情報や機密情報を開示するものではありません。組織や部署によって状況は異なります。

「ジョブ型」の正体──制度を変えても年功序列が消えない理由を、現場の管理職として白状する


夏休みに大手SIer6社のクチコミを900件読んだ、という話の続きを書く。

今回のテーマはジョブ型だ。読んでいて苦笑いするしかなかったのが、この種のクチコミが6社中4社で、ほぼ同じ文面で出てくることだった。

「ジョブ型といってはいるが内部は年功序列」
「ジョブ型人事制度に移行したが、現場の管理職層の意識が変わっていないため無意味」
「滑稽なくらい機能していない形骸化した制度」

業界としては、ジョブ型は本気の流れだ。富士通は2026年度入社から一律初任給を廃止したし、日立も新卒採用をジョブ型に移行した。制度としては、確実に広がっている。

なのに、中の人の実感は「形骸化」で一致している。

なぜこうなるのか。自分は「現場の管理職層の意識が変わっていない」と名指しされた側の人間なので、内側から見えるメカニズムを白状してみる。

■ 白状①:ジョブより先に、人がいる

ジョブ型の理屈はこうだ。まず職務(ジョブ)を定義し、その職務に値段をつけ、職務に合う人を配置する。「人に仕事をつける」のではなく「仕事に人をつける」。

現場で何が起きるか。

期初に、部のメンバーは既に決まっている。異動はそう簡単にできない。つまり「人」が先に固定されている。その状態でジョブディスクリプション(JD)を書けと言われたら、どうするか。

目の前のメンバーが現にやっている仕事を、JDの様式に書き写す。

こうして「仕事に人をつける」は、実務上「人がやっている仕事を後から文書化する」になる。JDは配置を決める設計図ではなく、現状追認の証明書になる。これが形骸化の第一歩だ。

■ 白状②:ジョブの値段を、評価者が決められない

ジョブ型なら、難しいジョブには高い値段がつくはずだ。

でも現場の管理職には、ジョブに値段をつける権限がない。等級とグレードの表は人事が持っていて、その表は旧制度の等級表と地続きで作られている。移行のときに全社員の現在の処遇を「新制度に読み替えた」からだ。

読み替えである以上、初期値は年功の積み上がった順になる。そこから先、若手を職務価値でジャンプさせようとすると、原資と枠の壁に当たる。結局、昇給は毎年少しずつ、上のグレードが空いたら順番に──と、運用が旧制度に収束していく。

「ジョブ型で得をした人を、自分はまだほとんど見ていない」というのが、正直な観測だ。

■ 白状③:評価者自身が、年功制で選ばれた人間である

一番痛いところを書く。

いまジョブ型を運用している管理職は、ほぼ全員、年功制の中で昇格してきた人間だ。自分も含めて。

年次で順番を待ち、目立ちすぎず、減点を避けて課長になった人が、ある日「今日から職務価値で大胆に差をつけてください」と言われて、できるだろうか。

できない。若手を抜擢して古参を追い越させるとき、追い越される古参の顔が浮かぶ。彼らのモチベーションケアをするのも自分だ。波風の小さい配分に寄せたくなる誘惑は、毎期ある。

クチコミの「管理職層の意識が変わっていないため無意味」という指摘は、だから、悔しいが当たっている。制度は一夜で変わるが、制度の運用者は一夜では入れ替わらない。

■ それでもジョブ型は「無意味」ではないと思う理由

ここまで散々書いたが、ジョブ型移行を「意味がない」とは思っていない。理由は2つある。

【① 外部労働市場との接続部分では、既に機能している】

新卒一律初任給の廃止や、中途採用のオファー額は、ジョブ型の値付けが実際に動いている領域だ。AI人材に新卒でも高値がつくのは、社内の公平性より市場価格が優先された結果で、これは旧制度ではできなかった。

つまりジョブ型は「入口」から効き始めている。社内の処遇に浸透するのは最後だ。順番の問題であって、方向の問題ではない。

【② 「自分のジョブは何か」を考える習慣は、静かに効く】

JDが形骸化していても、年に一度「自分の職務は何で、その市場価値はいくらか」を考えさせられる仕組みには意味がある。

以前の記事で書いた45歳の線引きやミドル転職の時代、一番危ないのは「自分の職務を説明できない人」だ。形だけのJDでも、書く訓練を10年続けた人と一度も考えたことがない人では、いざという時の言語化力が違う。

■ 部下に聞かれたら、こう答えている

「うちのジョブ型って、意味あるんですか」と部下に聞かれることがある。ごまかさずに、だいたいこう答えている。

社内の給与配分は、当分変わらない。そこに期待すると失望する。

でも、JDを書く機会は自分の棚卸しに使え。そして自分のジョブの値段は、社内の等級表ではなく、転職市場で確認しろ。社内で年功が続いても、市場はとっくにジョブ型で動いている。

制度の看板と実態のギャップに文句を言う時間で、市場側の自分の値段を上げた方が早い。

──評価する側がこれを言うのは、敗北宣言に近いのかもしれない。でも、部下のキャリアに責任を持つなら、社内制度の建前より、外の現実を教える方が誠実だと思っている。


この記事の内容は、公開されている口コミサイトの情報(要旨の引用)・報道と、筆者個人の経験・見聞に基づいたものです。人事制度の詳細は企業によって異なります。特定の企業の内部情報を開示するものではありません。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー