閉じ込めた香り|風まかせ文芸部
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焼きたてのパン。
どれだけの経済効果が乗せられているのだろうと思うほどに、エネルギーとパワーを持った言葉だ。
この言葉の前にはあらゆる選択が優先されるといってもいい。
とはいえ。
パンを買う動機は明日の朝食のためだったりおやつのためだったりするため、買う時点で焼きたてであったとしても食べるタイミングがズレてしまうことがしばしばある。
先日もつい焼きたてのPOPにつられて食パンを買ってしまった。
そこからあちこちに寄り道する予定があったのだが、ふとしたときに手に持った袋から焼きたてのパンの香りがする。
しっかりと袋に閉じ込めておいても漏れ出るその香りは、せかせかした気持ちを少しばかり落ち着けてくれるのだ。
しかし荷物が増えるうちにパンの袋が微妙に圧縮されたのだろう、家に帰ると食パンはギリシャ文字でいうところのΣに近い形になっていた。
焼きたてだとこういうこともあるか、とそのままの形で切り分けて翌日の朝にトーストにして食べた。
あの焼きたての香りには及ばないが、まるでカプセルに詰められたパンの香りが弾け出すように、ダイニングに広がっている。
それだけで、Σ型になったような気持ちもまた落ち着いた。
私にとって、パンの焼ける香りは日常への落ち着きを取り戻すセーブポイントになっているのかもしれない。
とはいえ、いつかはちゃんと焼きたてのパンを買ってすぐ食べる贅沢も味わってみたいものだ。
