見出し画像

月並み|片想い文芸部

こちらに初めて参加させて頂きます。

月を前にして筆をとろうとしたとき、どうしても陳腐になってしまう。

それもそのはず、これだけ古今東西老若男女問わず人を魅了してきた天体もなく、たいていのことは私が言う前に誰かがもう月に伝えてしまっている。
それどころか夏目何某という方は月を利用して遠回しな愛の告白をするというドラスティックなやり方までしているらしい。この出来事ですらもう130年ほど前の話だ。
いまさら、私ごときが月に対して言えることなど何もない。

月が明るく光ることを知ったときはどこか不気味な印象を受けた。
だって夜は暗いものとして教えられたし、自分自身もそう思っていた。
花火見物の帰り。その日は満月で、自分の形の影が地面に落ちているのを見て驚いた。
空は黒に近い紺色をしているのに、影を落とすほどの明かりが降っていることが不思議で仕方なかった。
月明りとはもっとほのかなものだと思っていた。

そんな第一印象をもったものの、目を離せずにいたのは事実だった。
人が打ち上げた花火のあとに、夜空に散り散りになった光をひとところに集めたようにして煌々とあるその存在は、いくら不気味に思ったとしても抗いがたいような魅力を放っていた。

あれ以来、夜空に月を見つけると、それがどんな形であっても目で追いかけてしまうようになった。

こんなきっかけですら多分月並みなものだ。
書いていてなんだかとても恥ずかしくなってくる。
私自身はこんなにも月を意識しているというのに、月の方はおそらく私に何の感情も持っていないのがまた恥を上塗りしていく。
もうかれこれ30年近くは続いているこの幼い片思いを表に出すのはこれが精いっぱい。
十三夜の今日、空を見上げるのが少し気まずい。

いいなと思ったら応援しよう!