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クロモリフレームの「しなやかさ」に関する一考察 (サイスポ2025年9月号を読んで)

こんにちは
自転車が大好きなsilicate meltと申します。

サイスポ 2025年9月号
サイスポ 2025年9月号
菊池武洋氏の連載「自転車バカ、はじめての再考の時」


サイスポ 2025年9月号、菊池武洋氏の連載
「自転車バカ、はじめての再考の時」の第五回が
パナソニック サイクルテック 商品企画課の伊藤隼也氏へのインタビュー記事で、クロモリユーザー的に興味深いことがいろいろと書かれていた。
それを読んで少し考えたことがあるので、noteにまとめてみた。



1.Panasonicのオーダーシステムについて


POSの最初の広告(1987年)

Panasonicはクロモリとチタンに特化し、セミオーダーバイクの販売を続ける、唯一の国産マスプロメーカーだ。
Panasonic Order System、略してPOSと呼ばれている。
POSはナショナル自転車工業がPanasonicに改称した1987年に誕生した。

POSのフィッティングスケール(1987年)

誕生当時のPOSは次の5つの特徴があった。

 基本的に完成車販売であり、ロード、トライアスロン、ファニーバイク、トラックの4車種から選べた。
全国の販売店にフィッティングスケールが置かれ、これに跨ってサイズを決めることができた。
フレームカラーとデザインを70通りの中から選べた。
トップチューブにネームを入れることができた。
納期が二週間だった。

それまでロードレーサーのオーダー車は、ビルダーのいる店舗や工場に出向いて、何度も打ち合わせを重ねた上で発注し、納期が数ヶ月から1年位かかるのが普通であった。
POSではそれをシステム化し、気軽にオーダーできるようにしたことが当時としては画期的で、新聞や経済誌などにも取り上げられたりした。
POSの成功を見て、ミヤタはミヤタオーダーサイクル(MOC)、ブリヂストンはテラーメイドシステムを立ち上げ、その販売方式が模倣された。

ただし、こうしたマスプロメーカーの「オーダーシステム」は、スケルトン(ジオメトリー)に関してはシートチューブ長を10mm刻みで指定できただけで、フレームの各部位のサイズや作りを細かく指定できた町工場ビルダーのオーダー車とは全くの別物として位置付けられていた。

なお現在のPOSはフレーム販売のみで、その他のパーツはショップの人と相談をしながら選んで完成車とする売り方になっているようである。


2.Panasonicの最初期の頃の話


サイスポの記事では菊池氏が伊藤氏に色々と突っ込んだ質問をしている。
個人的に印象に残った質問とその回答を要約すると次の通り:

-- -- -- --

(質問)なぜ80年代の欧州プロロードチーム「Panasonic」はPanasonicのフレームに乗らなかったのか?
(注:Panasonicチームは1984-1985にRALEIGH、1986-1987にEddy Merckx、1988-1989にCOLNAGOと契約していた)

(回答)当初から機材供給をオファーしていたが、話し合いのテーブルにさえ着いてもらえなかった。

まぁ、日本製なんてそんな評価だったんでしょうねぇ。

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(質問)Panasonicチームは90年からPanasonicブランドのフレームに乗るようになったが、これはどのようにして実現したのか?

(回答)粘り強く交渉を続けて、89年に転機が訪れた。Panasonicが開発していたカーボンモノコックの試作品を、当時の契約ブランド(COLNAGO)のカラーリングにして、他のフレームに紛れ込ませて選手に使ってもらう機会があり、その時に良い評価を得た。それで90年から本格採用することになった。

当時のプロ選手のマシンの一部には、こうした「A社のロゴがついているけど、実はB社が製造している」的なフレームが時々あった。
あまり表には出ないのだけれど、プロ選手にしかあり得ないスペシャル感があって、そうしたスクープ記事は楽しかったですね(笑)
Panasonicもそれでチャンスを掴んだとのこと。

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(質問)オーダーの意義とは? 1mm単位で寸法を決めることに意味はあるのか?
(注:現在はシートチューブのみ10mm単位のオーダーだが、もしも各部位で1mm単位のオーダーが可能になったら、そのニーズはあると思うか? という問い)

(回答)「自分のための一台」という満足感は大きいものです。

寸法を細かく決めて作ることではなく、「オーダーをする」というその行為それ自体に価値があるのだそうだ。

フィッティングとは何か?
その意味を問い直す必要があるな(笑)

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(質問)Panasonicはカーボンフレームを早くから手掛けていたのに、なぜ止めてしまったのか? なぜチタンとクロモリにこだわるのか?
(回答)オーダーバイクを提供するのがミッションだから。チタンやクロモリは加工しやすいが、カーボンは商品化が難しかった。

Panasonicのカーボンフレームは1990年頃のごく短期間しか販売されなかった。既製サイズのカーボンフレームで十分なら、サイズオーダーの意味がなくなってしまいます。そうした理由からカーボンからは撤退せざるを得なかったのでしょうね。


3.クロモリフレームの「しなやかさ」とは何か?


菊池氏の伊藤氏への質問はクロモリフレームの性質へと移る。

(質問)クロモリフレームの「しなやかさ」ってなんですか?

(回答)脚力に応じた最適な剛性感があって、反発力を利用してペダリングしていく、いわゆる「バネ感」がしなやかさとも言えます。
バネ感の正体は、ギヤ側のペダルを踏み込むと、右側から力が加わり、フレームが左側に少し寄ります。この時、フレームは元の位置に戻ろうとします。その際、戻る力がペダリングの動きと重なり、推進力を得たような感覚が生まれます。これがバネ感の正体であり、人車一体の走行感覚を生み出していると考えています。


(質問)しなやかさを定数化できるとユーザーにも、メーカーにとってもメリットが大きそうですね。

(回答)明確に数値化できていませんが、官能試験などからおおよその目安はあります。ペダルの踏み方は人によって大きく違いますが、3時(ペダル位置が水平)付近で強く踏み込む人は、しなやかさを肯定的に捉える人が多いですね。

フレーム剛性の計測装置は昔からあるし、やろうと思えばできるはずだ。
でもやりたくない理由、秘密にしておきたい理由があるのだろう…
などと穿った見方をしてしまうワタクシ😅



さて、ここから先は、このクロモリフレームの「しなやかさ」のことについて少し考えてみたい。

ワタクシのNationalレーサーはパナモリの祖先、ザ・クロモリフレームです。これに乗っていて思うのは、「しなやかさ」や「バネ感」的なものはあるのだけれども、

LOOKのカーボンとさほど変わらない

ということ(注:ここで言うカーボンとは18年前のLOOK565, 595など昔のラグ組カーボンのことで、現代のカーボンモノコックではないです)。
これが「普通の乗り味」だと思っているから、特にバネ感が気持ちいいとか、そういうのはない。


Nationalレーサーに乗っていて、最も「しなやかさ」を感ずるのは登坂時です。
登坂中にフレームがしなることが原因でリヤメカのシフトケーブルが引っ張られたり緩んだりして張力が変わるらしく、それを繰り返しているうちに

インナーローで登坂中、踏み続けていると
ギヤが勝手に一段重くなってしまうのです
😅

インデックスレバーなら止まるのだけど、
フリクションレバーなので、締め付けボルトを
最大限のトルクでキツく締めておかないと動いてしまう


記事の中で菊池氏は、クロモリフレームは最終的には治具に乗せて精度を出すから、そこでの残留応力が必ずしも左右では等しくならず、左右での「バネ感」が異なる可能性を指摘していた。

しかし、そもそもチェーンステー側はリヤメカのシフトケーブルの存在がフレーム変形の妨げになるから、固定ギヤでない限り、クロモリの「バネ感」は左右で異なるのが当然なのかもしれません。



4.走り方による「しなやかさ」の違い


パナの伊藤氏が言うように、そしてワタクシも体感しているように、クロモリ特有の「しなやかさ」や「バネ感」は強く踏み込むことで発生する。

ここで少し思ったのは、

最近の走り方をしていると、そうしたクロモリ特有の「しなやかさ」や「バネ感」は感じとれないのかもしれない

と言うことです。

サイスポ2018年8月号特集
前乗り時代のポジション改善術


サイスポ2018年8月号に「前乗り時代のポジション改善術」と言う特集記事があった。話を聞いたのは欧州のプロチームで長年マッサージャーを務めた中野善文氏

「前乗り」が最初に流行したのは1990年頃だった。
トライアスロンでDHバーを使うようになり、上半身の重さをペダルではなく肘置きにかけて前輪荷重とし、ペダルを一定のケイデンスでクルクルと回せば楽に早く走れると言うことで、トライアスロンにて「前乗り」が大流行した。サドルを大きく前に設置できるシートポストが発売されたり、シート角が極端に立ったオーダーフレームを作る人が出てきたりした。

ロードバイク界では数年前からこの「前乗り」が再び流行っているらしい。中野氏によると、これは走り方が高ケイデンスになったことに関係していると言う。

80年代、例えばベルナール・イノーはヒルクライムで「後乗り」をしていた。この時代のギヤ比は、通常のレースではインナーロー 42x21や23、ヒルクライムでも39x25くらいで乗っていた。
サドルの上で腰を引き、重いギヤを高トルクでガシガシ踏みながら登坂をする。90年代まではそんな走り方が普通であった。

ベルナール・イノー(1985年)
当時のツールのヒルクライム動画でケイデンスを計測すると68rpm


走り方が変わったのは、ランス・アームストロングが登場してからだ。
アームストロングはヒルクライムでペダルをクルクルと回す登り方した。
当初これは、「奇妙な走り方」、「カッコ悪い走り方」とみなされていた。
ところがツールを連覇(その後ドーピングで撤回されたが)するにつれて、アームストロングの高ケイデンス走法が注目されるようになった。

ランス・アームストロング(1999年)
当時のツールのヒルクライム動画でケイデンスを計測すると86rpm

90年代以前にロードレーサーに乗り始めた人は、
イノー流の低ケイデンス走法
2000年以降にロードバイクに乗り始めた人は、
アームストロング流の高ケイデンス走法で走る人が多いかもしれない。

ちなみに、自分は普段は 70rpm くらいで走っている(走行中はケイデンスは全く気にせず、メーターの表示も見ていないが)。
高ケイデンス走法も試してみたけれども、自分には無理であった。もう完全に「70rpmくらいのペダリング」が体に染みついてしまっているようだ。

現代では、ケイデンスは 80-90rpm くらいが望ましいとされている。
中野氏によると、低トルク・高ケイデンスでの走り方をする場合は、前乗りが適しているのだそうだ。

これを、サイスポ2025年9月号でのパナの伊藤氏の回答
ぺダルの踏み方は人によって大きく違いますが、3時(ペダル位置が水平)付近で強く踏み込む人は、しなやかさを肯定的に捉える人が多いですね
と組み合わせると、次のようになる。

  • 低ケイデンス・高トルクの走り方をする人は、クロモリの「バネ感」や「しなやかさ」を感じ取りやすい。

  • 高ケイデンス・低トルクの走り方をする人は、それらを感じ取りにくい。


クロモリに初めて乗ってみた人のコメントとして、
「カーボンからクロモリに変えてみたけど、乗り味は大差がなかった」
「バネ感は感じ取れなかった」という意見をたまに見かける。
その原因のひとつには、その人が現代風の高ケイデンス走法で走っていることにもあるのかもしれない。


5.オーダーバイクの意味とは?


サイスポ2018年8月号の特集「前乗り時代のポジション改善術」では、前乗りポジションのセッティングの仕方やパーツの選び方、プロ選手の実例など、30ページにわたって詳細な解説がなされているのだが、興味深かったのは中野氏の最後の"結び"のコメント

強い選手はポジションにはこだわらない

のだそうだ。
世界のトッププロでパーツやポジションにこだわりがあった選手でも、実際には変えてみても何も影響はなかったという事例も多いのだとか。

ポジションについての大特集なのに、
"ポジションはそれほど重要ではない"
という、ちゃぶ台返し的な結論で終わるのであった(笑)
では、何が重要かというと「体のケア」と「強くなるためのトレーニング」なんだってさ。そりゃそうだわな😅

ここで思い出すのは、
サイスポ2025年9月号 菊池氏の質問とパナの伊藤氏の回答
(質問)オーダーの意義とは? 1mm単位で寸法を決めることに意味はあるのか? 
(注:現在はシートチューブのみ10mm単位のオーダーだが、もしも各部位で1mm単位のオーダーが可能になったら、そのニーズはあると思うか? という問い)

(回答)「自分のための一台」という満足感は大きいものです。

オーダーをして自分の身体にピッタリな一台を作れることではなく、「オーダーをするということ、それ自体に価値がある」という考え方。
POSに対する伊藤氏の考え方は、この点で終始一貫しているんですね。
そしてこれが「ポジションは実はそれほど重要ではない」という、マッサージャー中野氏の意見とも合致しちゃうワケ(笑)

ちなみに、ケルビムの今野真一氏などは、1mm単位でオーダーできるクロモリレーサーの素晴らしさを説いているが、それは彼がそれで飯を食っていることと、競輪のピストフレームは規格があらかた決まっていて、寸法くらいしかイジるところがないからなのであろう…
とワタクシは邪推するのだが、違っていたらゴメンね🙏



6.高ケイデンスの利点


さて上にも書いたように、ワタクシ自身は高ケイデンス走法ができず、諦めてしまったのだけれども、理論的には高ケイデンスの方が望ましいのだろうなとは思う。

まず、高ケイデンス・低トルクの走り方は身体を一定の位置に保ちやすい。
つまり、人の重心がバイクに対して相対運動をしない。
よくあるロードバイクの物理モデルでは人とバイクをひとつの剛体として近似するけれども、それは言い換えれば「高ケイデンスで走る」ことを意味していることになる。そしてその場合、加速後に一定の速度になれば、その後はバイクやホイールの重量差は速度にほとんど関係しなくなる。

一方、低ケイデンス・高トルクの走り方は、3時の位置から強く踏むことになり、クランク1回転ごとに微妙な加減速を繰り返すことになる。
重いギヤに体重をかけてグイグイ踏めば身体が左右にも振れる。
身体の重心がバイクの重心に対して前後左右に微妙に相対運動をするので、質点系の運動となり、よくある「ロードバイク+身体の剛体モデル」は成り立たなくなる。自動車にあるようなバネマスモデルを考えなければならない。
そして、そのようにロードバイクが走りながら微妙な加減速を繰り返すときは、バイク全体の重量やホイール外周部の重量が走行時の速度とパワーの関係にも影響してくることになる。

サイスポ2019年4月号 特集
「ロードバイクの軽量化を問い直す: 軽さは正義」より
バネマスモデルの説明


大雑把にまとめると
高ケイデンス走法: 空力抵抗の低減が重要。軽量化はそれほど気にしなくても良い。
低ケイデンス走法: 空力抵抗の低減と軽量化のどちらも重要

こんなところか。

最近では、34Tや36Tなど、かつては乙女ギヤと揶揄されていた大径のローギヤをシマノが標準仕様として採用したことで、多くの人がそれを使うようになった。
これはヒルクライムでは重いギヤで微妙な加減速を繰り返しながら進むのではなく、軽いギヤの高ケイデンス走法で一定ペースで登ったほうが、ロスが少ないためであると考えれば、納得がいく。



7.まとめ


以上をまとめると、次のようになる。

(1)高ケイデンス走法は身体がバイクに対してブレにくいために速く走ることができるが、低トルクなのでクロモリフレームの「しなやかさ」や「バネ感」を感じ取りにくくなる。
逆に、低ケイデンス走法は身体の重心がバイクに対して相対運動をしやすいのでロスが生ずるが、トルクが大きいためにクロモリフレーム特有の「しなやかさ」を感じ取りやすくなる。

(2)高ケイデンス走法は前乗り、低ケイデンス走法は後乗りが適しているが、こだわりすぎる必要はない。オーダー車はオーダーをすることそれ自体に意味がある。mm単位のポジション合わせやフィッティングはそれほど重要ではない。ポジションの多少のズレはそのうち慣れる(笑)

(注;ここでの高ケイデンス走法とは85-100rpmくらい、低ケイデンス走法とは65-75rpmくらいを大体の目安とする)



厳密に言えば、単にケイデンスの大小ではなく、足の筋肉の使い方の問題ですし、人による違いも大きいと思われます。詳細な実験をした科学論文もいくつかあり、高ケイデンスは非効率だと主張している文献などもあるようです。

ただ、現代の「高ケイデンス」の走り方は、世界中のライダーが何十年もかけて、多くの経験と試行錯誤を重ねた上で得られた結論であり、単なる流行り廃りの問題とは違うと思うのです。
そうしたことを踏まえた上でサイスポ2025年9月号と2018年8月を読んでみますと、とりあえずは大雑把には上のようにまとめられるのではないかと思った次第です。

タイトルを "クロモリフレームの「しなやかさ」に関する一考察" としましたが、何の考察もせず、思いついたことを適当に書き殴っただけになってしまいました💦
では今回は、この辺で失礼させていただきます。

(終わり)


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