【小説】『Dystopia 25』~楽園~Phase Ⅷ
Everyone's next step
とにもかくにも、レイアは大きな一仕事を終えた。
パトラの一件・・・レイアはリサにこれ以上の詳細を聞くことはしなかった。
レイアが抱いていたパトラの印象は、パメラとは正反対で「野心家」「狡猾」「肉食」「コミュ強」など、良くも悪くも個人の意思主張は無く、打算的に生きている。損得勘定で自分の行動や意志を曲げることが安易に出来て、長いものに巻かれるように初代の意思を貫く『フェミス党』に属していた。
パメラも個人の強い主張はないが、どちらかといえば傍の人に同調し感化されてしまう面があり、そんな所は姉妹として似ているとも言える。男尊女卑な第2出身の女性は、生きぬく知恵のようにそのような特性を無意識的に持ってしまう傾向にある。
そんなパトラが、自分で自決・・・?
という疑問は、彼女を少しでも知っている者なら全員がその違和感と不信感を感じる。
レイアは凡そ、パトラを殺ったのはリサだと思ってはいるものの、それはそれで女帝としての自尊心が高すぎるとも考えて、双方にとってこれ以上の追及は野暮だと振り切った。ただ、ずっと不思議だったのは、なぜそもそもにリサはそんなパトラと懇意な関係になったのか。過去に何かあったのだろうが、その話はまたずっと先の未来、お互いが生き残り、状況が安定しバカみたいな酒の席にでも思い出として語り合おうと、愛情や友情、上下関係をも越えた関係と想いを胸に秘めて、レイアは長年の家城を背に外壁扉へと歩き出した。
リサの心中でも過去との振り切りとケジメ、そしてレイアやみんなの想いを背負って、ここ、第3の長として歩むことを決意したのだった。
愛情、愛着、恨み、痛み。
情念、怨念、執念、失念。
様々な感情が入り乱れ、頭もおかしくなる程の心情ではあるが、一人でも幸せになれる未来を見据えて自分とレイアの信念に集中し、その他の感情は昨夜の涙に置いてきた。そうしなければ、そうするしか自分を保てなくなっていた。
この感情と思考に至るのは、ここの|Prober《プローバー》達やここへ逃げ込んでくる者たちもそう乗り越えてきた道なんだ。自分だけが、ここ第3だけが悲劇なんかじゃない。悲劇のヒロインの様にそう思い、悲観に逃げ込みたくもなる。しかし、自分がそれをしてしまうと多くの犠牲が伴うことになるのが現実だ。中立派が統制を無くし、フェミス党とリベラル自由同盟との一騎打ち。どちらかが、もしくは両方が全滅するまで、幾度となく戦いが始まり多くの命を失うだろう。そして、自分の大事な人たちが真っ先に殺されてしまう・・・・・・
甘えたい、逃げたい、閉じこもりずっと泣いていたい。
誰かを待ち、王子様が現れ、代わりに全てを無しにしてくれる。そんな夢物語を描く少女はここには要らない。
そんなことを教えてくれたレイアが、リサが降り立つ屋上の眼下で歩きながら、その背中で語っている。
そんな気がしていた。
Thought
レイアが第3を立ち去ろうとしてる最中、左手にある第2コロニーから血気盛んな多くの雄叫びが聞こえてくる。
「ふっ、またか・・・本当に”お互い様”、だな」
第2の夜空を見上げながら、不敵な笑みで呟く。
『好色男爵』の出現が物語るように、第2では第3の男バージョンの構成で内乱が同じ頻度で起こっており、レイアは第2をまるで自分達の鏡のように見据えながら、そしてこのような世界の矛盾を感じて争うのがバカバカしく思うようになっていた。女帝として君臨した当初はとにかく女性の為、男が憎く、存在自体が邪悪だと思って・・・いや、思わされていたのだが、第3の長としてどのような仕組みで上手くコロニーの歯車が回るのかをずっと、毎日の様に考えてきた。が・必ずと言っていい程にその思想の『矛盾』が生じてくる。
女が女をずっと生み続けることが可能であれば問題はない。が、自然がそうさせてくれる訳もなく、血筋、家系が途絶えどうしても外部因子から調達しなければならない。そこにはまた、様々な陰謀や策略を考える者も少なくはない。そして滅びては一から再建し、そしてまた滅びる。結局はそれぞれが独自の世界を、個人単位であれ組織であれ、一種では生きてはいけずに何某ら頼ることになる。なので、暗殺者時代ではフェミス党並みの厳格思考から、自然の様に『中立派』へと変わっていったのだが、それでもまだ多くの案件の問題が解決することはない。
世界はバランスで成り立っている。
極端な思考とは、その反動と反発を生みそれが右へ、左へと揺れ動く。その揺れが大きければ大きい程、争いの火が大きく死者の数が無情にも比例する。食事のバランスが偏ると、体調も悪く病気になり寿命も縮むのと同じだ。目の前の災害、例えばスズメが人間の稲作にとっての害獣で、徹底したその駆除をしたとしても次はイナゴという害虫が大量発生した。元の木阿弥どころか、対処が可能だった大きさであるスズメの方がマシだったことのように、自然の摂理に反したところでより複雑な世界での苦しみを作り出してしまう。物事を単純化し0や100、白か黒、敵か味方かと対処をシンプルに二分化すれば、事態をより深刻化するだけなんだ。
それは隣の第2でも同じだろうと、既に過去のことの様に振り返りながらタワーの中央扉と同じ、鉄製の厳重な外門を元部下たちに開けさせて懐かしむように第3を去って行った。
メインストリート通りを歩む途中、どこから聞いたのか多くのレイアを慕ってくれていた民衆が、様々な贈り物や花を渡しに来てくれて、その気持ちの品々が自分が今までやってきたことは決して間違いではなかったと痛感し、目には涙が溜まる。
「さて・・・と」
多くの荷物をその気持ちと共に足元へ一時的に置き、想定していた通り立ちふさがるフェミス党、リベラル、どちらかも分からない殺し屋たちとの戦闘を開始する準備として、剣を抜き森へと走り抜けた。
Each thoughts
ウェルバーとライトは何とかプローバーらを蹴散らし、そして振り切り、無事にパメラ達と合流ができた。
ライトが必死にタワー側中央で何があったかを説明し、全員で急いで外へ、森へと逃げ出していく。
「のんびり扉を開けている時間はない。悪いが全員で外壁を登って抜けるぞ。食われながら殺されるよりマシだと思ってくれ!」
「「は、はいぃ!!」」
「セーラさん!パメラさん!三人で紐を繋ぎましょう!万が一の時、残る二人でならなんとか支えて助かるかもしれないから」
「「はい」ありがとう・・・・・・」
「俺はこいつを担いで先に行く。直ぐに戻って上から引っ張り上げてやるから俺の腕の目指して来てくれ!」
セーラは高所恐怖症だが、二人の配慮により恐怖は薄れて勇気が湧いてくる。思春期以降、男性と関わる事が殆ど無く、第3周りの話や子供の頃に出会った女々しい第4の男の記憶しかなかったので、それらとは種類の違うウェルバーとライトの逞しさと優しさを始めて感じ、イメージとの違いがまるでカルチャーショックかのように衝撃を受け続けていた。レイアのような正しい男性が実際には存在していて、そしてまた違う力強さが女性の本能を呼び覚ましていく。
「早く!」
ライト、パメラ、セーラが紐を繋いでいる間に、ウェルバーは既にもう乗り越えて壁の頂上で腕を伸ばし待っていた。
「今はまだ遠くだが、松明の火の灯りがどんどんと広がってきて、やはりこっちまで来ようとしている。足を踏み外さない様に慎重に、落ち着いて、しかしできるだけ急いで!」
ウェルバーが中央方向の遠くを見ながら手を下に伸ばす。
ライトが誘導しながら、二人は無言で手足元を確認し木組みを上がっていく。
「いいぞ!その調子!」
ライトが頂上へ着き、紐を引っ張り少しでも女性陣の負担を軽くしようとする。ウェルバーの手がセーラに届き、軽々とセーラを引っ張り上げて頂上へと着地させる。
そして続いてはパメラも。
吊り橋効果なのか差し迫っている恐怖によるものか、疲労からかもわからないが、セーラの胸はドキドキと鼓動が激しくなる。
「ライト、紐をほどけ!外側は敵などに登られない様に杭や支えの建付けが無い。彼女達にとっては内側のような訳にはいかないだろう。お前は先に降りて、万が一に備えて受け止めれるように下で待機しててくれ。俺が上から紐で降ろしていく」
「わかった」
「いいか、二人ともよく聞いてくれ。この紐は『ねじり紐』と言って見た目よりもかなり強い。ちょっとやそっとでは切れやしない。二人の体重ぐらいじゃどうってことはないから安心してくれ。混乱して暴れてしまうと、俺がひっくり返ってしまうぐらいだ。だからずっと上を、俺の顔を見続けててくれ、大丈夫だから」
「「はい!」」
ウェルバーはセーラの方の目が生きていたので、セーラから降ろすことにした。それは一度の成功事例さえ見せれば次の心配をさせないためである。
「・・・いいか、下を見るな。じっと俺だけを見てろ」
「はい、ウェルバー様」
ゆっくりと、力強く、慎重に紐を伸ばし降ろしていく。
下でライトが受け止め、紐を解いてそれを手繰り寄せ続いてパメラへと結ぶ。
「・・・これから、どこへ行きますか?ウェルバー様」
パメラは浮かない表情で紐を通してるウェルバーに話しかけた。
「・・・あいつらは図ったようにずっと中央の扉を破ろうとしていた。そして第8との壁が破られ新たなルートからなぜかゾロゾロと奴らが・・・恐らく第2も危ない。森の方がマシだ」
「・・・第2、も・・・・・・」
「さぁ、OKだ。足元に気を付けて。俺を見ろ」
「はい。ありがとうございます」
パメラはウェルバーの方を見ることをなく、壁を見つめながら降ろされて行った。
Colony Ⅰ usefulness
全員が無事に第1コロニーから脱出し、プローバー軍団からの奇襲をさけることが出来た。
ウェルバーは第1の外壁、扉の左右に設置してある消えた篝火からいくつかの炭を取り、松明を作っている。
残りの三人はウェルバーが寝かせてきた|Forester《フォレスター》の子の状態を確認しにいくと、そこで少年は立ち上がりこっちを見ていた。
「あっ!!」「え?!」「大丈夫?!」
少年はこっちを見た途端に逃げようとするが、すぐに足がもつれて倒れ込む。パメラ、セーラが駆け足で少年の元へ行き、容体をチェックする。
ライトはウェルバーに知らせに行くか、女性たちを見守るか、迷いながらも少年の元へ行く。
「・・・また、気を失いました」
「熱がまだ高いし、傷の処置も儘なっていません。意識が戻ってもまだ歩けませんよ・・・・・・」
「・・・どうした?」
「ああ、兄さん。さっき、一瞬意識が戻ったんだよ、この子。でも直ぐにまた寝ちゃった」
「・・・そうか。じゃあ命には別条はないってことだ。後は回復を祈るだけだな」
そう言って作った松明をライトへ渡し、引き続き少年を抱き上げる。少年は自身が持ち上がった浮遊感でまた少し気が付くが、薄い意識の微睡み中、逞しい背中の温もりを感じ安らかな気持ちでまた夢の中へと誘われて行った。
「とりあえず、またあの最初の洞窟を目指そう」
暗闇と漆黒の森は、また三人の恐怖を煽ってくるように深く待ち構えている。
洞口の入口側で火を焚いた。外で焚火をすると、一本で立ち上る烽火の如く敵への合図となる。かといって、洞窟の奥だと吹き抜けていなければ全員が酸欠か一酸化中毒で全滅も有り得る。
ウェルバーが小さな松明を一つ持ち、奥の地面へと火をやると途端に火が消えた。これは洞口の深部は高濃度の二酸化炭素が地面に沿って滞っていて危険である証拠で、完全に奥へと潜むことも出来なかった。
みんなで同じく洞口の入口付近で座り込む。
ライトがずっと火に照らされ神妙な面持ちで、何かを話しかけても浮ついた返答しか返ってこない、パメラのことを心配していた。
「・・・第2に、家族が残っていたりするの?」
ライトは相変わらずに的を得ながら思ったことをすぐ口にする。パメラが少し驚いた顔を示す。しかし、気づかれない訳もないと思い、素直に答え出した。
「・・・はい。父が・・・私をチーターから救い、なんとか第3へ送り届けてくれた父が、一人・・・・・・」
「そう・・・か。それは心配だね」
「あ、でも、第2は屈強な男性ばかりですし、大丈夫です。きっと・・・・・・」
「前に、第1と第2の友好関係は問題が無い、って言ってたと思うんだけど、それはいつ頃の話だったの?」
「何年も前の話です。私がまだあっちに居た頃ですから」
「なるほど。じゃあ第8が『鎖国させられている』って言うのもその頃の話だね。あの時はバタバタしてて聞けなかったけど、これってどうゆうことだったの?」
ライトはパメラが考え込まない様にと、話をさせて頭の整理が出来るよう
に誘導しようと思った。それに、第8の状況も過去の話からでも推測が可能だとも踏んでのことだった。
「第1コロニーの特徴としては、当時、主には『工場地帯』。配給品を加工していく用途が盛んでした。特に発酵させたものからお酒、アルコールを『嗜好品』として普及してきたと聞いています。ただ、お酒に溺れた者たちの粗暴も多くなり、それらの対処が問題となり禁酒法を定めるまでに至ります。ただ、製造はそれまで通り作らせるけど、第1での飲酒は禁止。そんな安易な決まりを強制するけど、そんなルールを守る人は第1コロニー上層部ぐらいだけで、第1内の犯罪率が減ることもなかったらしいのです」
「・・・その、第1の環境が第8に影響するってこと?」
「はい。その後、アルコール製造そのものを禁止する流れが生まれたのですが、裏で密造酒が作られて流通するようになり、上層部と裏社会がハッキリと別れただけだったのです。そうして犯罪の質がどんどんと過剰に加速していき、どうしようも無くなった上層部は、第8コロニー全域を『監獄エリア』として設定しコロニー自体を「閉鎖」「鎖国」させたのです」
Colony Ⅷ
「・・・その決定は第1だけの一存ではなさそうだな」
疲れ果てて洞窟に着いて直ぐに寝ていたはずのウェルバーが、いつの間にか起きていて話に割って入ってきた。
「どうゆうこと?兄さん」
「コロニー全域を閉鎖するなんていう決定は、少なくとも一片側だけの意向で出来るものではない。反対側の第7、そして上層界フロアからも同意が必要なはずだ」
ライトの目が点になり、その目はパメラに向けられた。
「・・・これも『噂』なのですが、第1のお酒は上層フロアの人たちにも重宝され、犯罪傾向にあった第1をそのまま監獄にすれば早かったのにも関わらず、第8に設定したのは上層民の意向だった。そして当時の第8の代表たちはその条件を呑む取引として上へと登った、なんて話が皮肉のように囁かれてました」
「・・・あり得なくはない話だな。第7の「野菜」の話は聞いたことはあるか?」
「野菜?ニンジンや白菜とかの話ですか?」
「第7の特徴は「農業」で、様々な野菜を栽培していた。その中にアルコールのように高揚感や理性を落とす効果がある特別な「野菜」が作られていた」
「そうなんですね・・・流通や趣向が反対側では全然違うのですね」
「第6は医療が盛んだったからね。僕も先生と様々な麻酔や薬草の類を第7から調達していたよ。兄さんはお酒ってやつを飲んだことがあるの?」
「ああ。レイアとよく飲んでいたよ。第4ぐらいまでは広まっていたな。どちらも過剰摂取が問題であって・・・いや、砂糖や塩でも過剰に取れば命に関わる。それはどれも同じだ。ただ依存性というのが強く、禁断症状がかなりキツイ事から一定の者にしか渡せない、渡してはいけない物としての暗黙の常識、良識みたいな風習があったが・・・・・・」
「・・・ってことは、第1の「お酒」、第7の「野菜」・・・それに挟まれた第8を各々の無法者、犯罪者を収監していった『監獄エリア第8コロニー』の誕生・・・その中ではどんな生活と文化が繰り広げられてきたのか・・・想像すると恐ろしいけど、その扉が今、破られたってことだよね」
セーラだけが眠る静寂の夜の中、この三人だけがこの世界『コロニア』の全貌を知っていく。
「センター教の中枢の保守派は、どこまで把握しているのだろう?」
「「・・・・・・」」
Colony Ⅱ
「よし、第2コロニーへ行こう」
翌朝、ウェルバーは腹を決めたように言い出した。
「え、でも、チーターとか色々さぁ・・・・・・」
「なにも全員でとは言わない。俺一人で行ってくる。そして、第1の現状を第2のみんなに伝えて壁の強化や警戒をさせないと、また多くの死者が出てしまう」
ライト達は沈黙し考える。
「・・・あの、私もご一緒させて下さい。やはり、父が心配で」
ライトが話を遮るように
「いや、兄さん、パメラさん・・・僕が行きます。二人とも第2では色々と顔を指すでしょう?僕なら殆ど、というか全然、眼中にも入っていないはず・・・誰よりも安全に行けるでしょう。セーラさんは、ここでこの子を診てて下さい、お願いします。兄さんの森での生活術もここのみんなには必要ですし。必ず、僕がパメラさんのお父さん、見つけてみせるよ」
「しかし・・・・・・」
「今も、思い出すと手が震えてるよ、兄さん。矢が貫く感触がまるで槍で刺したかのように残っている・・・でも僕は昨日、二人もプローバーを倒せたんだ。こんな細い腕でも・・・心の奥では勇気と自信が溢れている。そんな気がするんだ。僕も強くなれる。いや、強くなりたいんだ」
「・・・そうか。分かった。お前も『漢』になったな」
そう言ってウェルバーは笑顔で、ライトが強く見つめている目先のパメラを見ながら、ライトの肩に手を力強く叩いた。
「本当に大丈夫ですか・・・ライト様」
「ああ。森の獣たちから身を隠すのよりか簡単なんだって、第1で実感できたよ。隠れたり存在を消すのは兄さんよりも僕の方が優秀なんだよ、実は」
笑顔でみんなにウインクし陽気に見せた。
「ああ、確かに。こいつの気配はイタチ並みに読みにくいな」
みんなが少しづつ穏やかになっていく。
「・・・では、ライト様、これを・・・・・・」
パメラが首に掛けている麻紐の綺麗な石を取り出し、ライトへと渡す。
「この石は父から私へと頂いた物です。これを見せれば直ぐに私からだと分かってくれるでしょう」
じっと見ていると、吸い込まれそうになるような菱形で「深紫色のクォーツ」が、差し込む朝日を反射させライトの顔を彩った。
「わぁ・・・キレイだねぇ」
「大事な私の宝物です。必ず、生きて帰ってきて下さい。そして、それを失くさずに私の所にまで絶対に返しに来て下さい。約束です」
パメラの目は力強く、そして顔は優しくも悲しい表情でライトの目を見つめながら、両手でライトの石を持った手を強く握りしめる。
ライトは少し、鼓動が早くなった気がした。これは異性に対する反応なのか、それともこれから巻き起こる未来への緊張からなのか、ライト自身にもまだ分かっていなかった。
Intruder
ライトが弓矢と深紫色のクォーツだけを持って去っていったその日中、フォレスターの子供が意識を取り戻した。しかし熱で朦朧としながらなんとか水を飲み、三人の顔を怯えながら確認しつつも、大人しく横になっていた。
「大丈夫よ。敵じゃない。安心して」
抵抗をしても無駄だと観念した諦めなのか、うな垂れながらパメラの言葉を聞いているのかどうかもわからない表情で、何故かウェルバーだけを見つめていた。
「お家はどこ?仲間の所へ帰してあげるからね」
「足の怪我だけど、綺麗な水で洗って傷に効くの薬草を塗り込んではいるけど、洗浄がどこまで出来ているか・・・お父さんお母さんがいるのなら、そこでしっかりと治療した方がいいの。分かる?」
セーラが自身の容態の説明をするも、反応は薄い。何とか残っていた木の実などを食べさせ、水と手作りの薬を飲ませてその後、また熱の疲労からか直ぐに寝入ってしまった。
「・・・まぁ、大丈夫そうだな。俺は・・・レイアの様子を見に行きたい」
「え??」
「ああ・・・第3の中までは行かないよ。そろそろレイアも俺たちを探している頃かもしれない。この第2エリアから第3の森周辺を回ってこようと思う。ついでに何か食べ物も採ってくるだけだから。安心してくれ」
「・・・そうですね、レイア様がもし、何も知らずに第1に行くようなことがあれば流石に危険ですし・・・是非、お願いします」
ウェルバーも、ライトに続くように足早に去って行った。
パメラは残された不安と、男二人へと期待と、何も出来ない自分に気が滅入ってくる思いでもあった。
しばらくして、陽が落ちてこようとするその時刻、洞窟の入口から人影が入ってきた。パメラたちはウェルバーの帰宅かと思ったが、その人物は全く違っていた。
Receiving
「すいませーん、開けて貰えますかー」
ライトは第2コロニーの外壁、その門扉の前で無感情に声を上げた。
何人かの門番が外壁扉の上部から顔を出す。
「何だ、貴様は?!」
少しここでライトは悩みます。どう答えるかを。
前もって考えていたのは
①素直に深紫色のクォーツを見せてパメラの父へ謁見をお願いする。
②ここも素直に第6から逃げて来たと言う。
③Nomadsといった関係が無い者を装う。
しかしライトは直感的に
「隣の第1から逃げて来た。助けて欲しい」
そう答えた。すると
「・・・・・・」
ガン!・・・ギギギギギギギミシミシ・・・・・・
無言で扉が開かれていく。
ライトは少し緊張しながら入って行くと、変わった髪型の男とその脇には見窄らしい小男が向かえ立つ。
「まだ第1の生き残りが居ったのか。今までどうしてた?」
「まだこいつ子供ですぜ。女みたいにひょろひょろでさぁ」
ライトはまた、気転を効かす。
「父と母に納屋で隠れて居ろと言われたんだけど、何日経っても帰ってこず・・・外へ出ても誰も居なくなっていて、塔には変な奴らがわんさかと・・・・・・」
ライトは少し年齢のサバを下に読むことにして、幼い風の喋り方を装った。長い髪を全て旋毛辺りで束ねた、変わった髪をした男が同情したような顔で近づいてくる。
「・・・そうか、分かった、みなまで言うな。辛かっただろう。ついて来い」
髪を束ねた男は振り返り、中央の道を毅然と歩く。小男はそのまま門番を担当するのか、壁内側の櫓を登って行った。
案内を受けてついていくライトは、また初めて見る世界に興味津々できょろきょろと周囲を見渡す。建物や建築物は他とそんなに変わりは無いが、女性の殆どはみんな大きな布や生地で顔や全身を隠し、男の大半がライトの前を歩いて行く男と同じく、髪を束ねて生活をしていた。
ただ時折そうじゃない人、つまり男性で髪を降ろしている人や女性で顔などを隠していない人も数人は居て、ライトにはその違いが分からなかった。
「ここに入れ」
男は立ち止まり、小屋に案内された。中には椅子と机だけが置かれて、生活感は一切感じられない。応接室や尋問室といった雰囲気だった。
案の定、お互いに向かい合わせで座り、色々と質問をされるような流れに入るという所で、ライトは先に口火を開き捲し立てる。この男はただの第2の民という訳では無く何らかの任務、仕事として門番をやっていたと判断したのもある。
「あの、すいません。至急、ここの偉い方に謁見をお願いしたいのですが、重要で急ぎなんです。第1と第8の壁が壊れました。そして多くの狂ったプローバーが大量に入り込んで来たんです!ここも急いで何らかの対策をしないと、危ない・・・僕はそのことを知らせに来ました。誰か、防衛か治安の責任者・・・出来れば『マイオス』さんに会わせてくれませんか?」
ライトは真剣に、そしてなんとか思いが伝わるようにと真っすぐに目をみて話した。
「なんだって!?・・・壁が、か」
「はい、僕は見たんです。まるで死者かのようにぞろぞろと壁から奴らが・・・塔の中央付近の人たちはきっと、塔の中へと逃げ込んでいったと思われます。それらを狙うかのように入って来た奴らは群がっていました。僕らは壁が壊れてぞくぞくと入ってくる奴らの波に追われるように外へと逃げて、ここへ来ました。塔は石壁、レンガ、扉は鉄製の頑丈な作りなんで今はまだ大丈夫だと思いますが、外門はここと同じく木材です。外から奴らがやってくるのも時間の問題かと」
「僕、『ら』とは?他にも仲間がいるのか?」
「・・・はい」
ライトはパメラから預かった「深紫色のクォーツ」を見せながら、パメラから預かった経緯を話した。
「そうか・・・『マイオス衛将軍』の娘さん、か。分かった、案内しよう」
Village
パメラとセーラは、連行されてしまった。
獣の毛皮で作った服を着て、木の皮などで作った装飾品、髪や顔髭などは伸びっぱなし。
二人とも見たことは無かったが、明らかにその姿はフォレスター達の”それ”だという事が直ぐに分かった。
洞窟内で何度も説明はするが、彼らとは言葉がもう全く異なっていた。手にしたヤリや弓で威嚇され、二人は抵抗することなく捕まるしかなったのだ。
手には蔓で出来た紐で縛られ、もう大分と歩かされている。
セーラはフォレスターの少年が気がかりでならなかったが、後ろを振り返るとフォレスターにその都度ヤリの柄で小突かれて、したいように確認が出来なくて歯がゆい思いで歩かされる。どうなることかと、絶望を感じていた。
コロニーの二つ分ほど森の中を歩かされていると、ノーマッド達が作るような簡易なテント、小屋のような建築が見えてきた、どうやらここがこのフォレスターの”巣”のようだ。
子供達や女性が、何を考えているのか分からない目で二人を見つめて来る。そんな中をまたどんどんと歩いていく。
二人の顔面は蒼白となり、顎はガタガタと震えだす。殺されるだけならまだいい。食われるのか、犯されてここの子を腹まされるのか。それとも・・・・・・
センター教ではフォレスターをそんな野蛮人だと教えられている。人食い族。ハンター。敵の肛門からヤリを口から出るまで串刺し、それを集落の入口に飾って踊るとか、首を狩っては敵にその首をヤリに串刺した頭ごと投げてくるだとか・・・そう聞かされているので二人の恐怖と絶望は計り知れない。
二人の足までもが震えだし、涙が止めどなく流れて来る。それでも急いで歩けとヤリで小突かれ、集落の中心部へと辿り着く。
二人は紐を解かれて、様々な動物の頭蓋骨が飾ってある小屋へと放り込まれた。部屋の中心には小さな松明が焚かれ、室内は薄暗い。
パメラは恐るおそるその小屋の奥へと忍び寄る。するとそこには一人の人影が寝転がっていた。
その顔をよく見ると、その正体は傷だらけで寝込んでいる『レイア』だった。
The Three Chosen partⅦ
シェーファー
「毎日、やってらんねー」
チャーリー
「あの『作業』って、何の為にやってんの?」
ジム
「一応、自分達の食料などの経費に充ててるのでしょう」
シェーファー
「あの監督、偉そうなんだよ」
チャーリー
「分かる。あいつ、天罰が下るだろう」
ジム
「それにしても、後1年半もこうやって暮らすのか・・・もっとここを広くして欲しいものだ」
三人は最近、よく会話をするようになってきた。
「大分と良くなってきましたねぇ、ロキッチ先生」
「・・・・・・」
「どうされたんですか?」
「うーむ・・・いや、会話、対話は我々も望む所なんだが・・・『重要』な会話がずっとされていない」
「重要?」
「ああ、宗教感や『神』の会話が、全く無くなった。それでは意味が無い。まるで避けているようだ、な」
「・・・まぁ、でも、もう少し様子を診てはいかがでしょう?いずれは、きっと、ねぇ?」
「・・・・・・」
『NEXT』⇩
