10.好きに弾きな
エレクトーンに加え
ピアノも習い始めた 私が
レッスンで 最初に言われたのは
音が汚い だった。
次に 言われたのは
左手の伴奏を 右手の旋律よりも小さく
と いうことだった。
右と左の バランスなんて
考えたことも なかった。
私は レジストを買って
エレクトーンを 弾く。
売っている レジストは
すでに バランスが調整されている。
左を 小さくしようとしたけれど
できなかった。
右の旋律の音は 1つだけど
左の和音は 3つ。
「物理的に 左が大きくなるんじゃないの?」
先生は まあねと言った。
「みんな 左が大きくなりがちだけどね」
でも
それを 何とかするのが
ピアノなのだ。
「右を大きくしたら だめなの?」
私は 聞いてみた。
先生は ちょっと考えてから
「左を 右にあわせて
小さくしたほうがいい」と言った。
「右手には 気持ちがのっているから」
ふうん。
気持ちがのっているのか。
先生が そう言うのなら
そうなのだろう。
そうはいっても 小さくは弾けない。
その箇所に さしかかるたびに
「左を小さく」
と言われるレッスンが 続いた。
ある日 私は言ってみた。
「左は右よか 力がない。
だから コントロールできないんだよ」
小さく弾くには 意外と力が必要で
しかもその力を 1ミリ単位で
調整しなければ ならない気がする。
私が 言い訳してからは
先生は 左の大きさには触れなくなった。
曲は
だんだんと 弾けるようになっていった。
そろそろ
ストリートピアノでも 弾けるかも。
そうなってくると
「左が大きい」のが
俄然 気になるようになった。
その箇所は
その曲を 知らない人でも
息をひそめて
聞くようなところなのだ。
とうとう 私は
次のレッスンで 先生に助けを求めた。
「やっぱり左 大きいよね?」
先生は
私の目を まっすぐ見て言った。
「好きに弾きな」
私が あんまり口ごたえするから
見放された わけではない。
先生は
できるようになるのなんか
待たなくていい
と 言っているのだ。
自分の演奏の至らなさに 気づけたなら
いつか それは改善される。
でも
私には 時間が必要だから
今 この瞬間も
好きに楽しく 弾きなさい。
できないのを 気にして
消極的な演奏なんか してくるんじゃないよ
と 先生は言っているのだ。
わかった 先生。
スキに弾くね!
私は
左を小さくしようとするのは やめた。
でも キレイに弾こうとは
いつも 思っている。
