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「『問いに答えること』に必要なもの」を再考する!~『読み手に届く文章技術』(石黒圭)の感想を添えて~【小論文対策】

更新日:2025/11/28

 小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、作文・小論文・志望理由書作成における実践的な技法をレクチャーするのが、このシリーズ【文章作成の実践】。

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(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)


問いにしっかり答えた小論文を書くために必要なことを改めて考える

 以前から私は、「大半の失敗している小論文は『課題や問題に答えていない』」ということを述べています。その小論文の論として質うんぬんの以前に、「そもそも課題文や問題文が正確に読めていない」ために、「課題や問題に正確に答えられていない」小論文がほとんどなのです。これ、一般の方は驚くかもしれませんが、私のような、作文や小論文の指導をされている塾・予備校や高校の先生にはきっとご理解いただけることと思っています。

(失敗している小論文は「課題」・「問題」に答えていないのが9割!)

 したがって、受験小論文で評価を得るためには、ここをクリアしないわけにはいきません。つまり、どのように課題や問題を読み解き、またどのように課題や問題に答えるのかは、「小論文作成におけるスタートライン以前の問題」であり、ここがしっかりできなければ「質の高い小論文の書き方」どころの話ではなくなるのです。受験小論文も入試で課される一科である以上、「試験問題に正確に答えること」がまず要求されます。「よりグレードアップした小論文をどう書くか」はその次の話です。

 本日は、こうした小論文で「問いに答えるために必要なこと」を、石黒圭氏が書いた『読み手に届く文章技術』にある、これに関連する内容を踏まえながら、お話ししていきたいと思います。

本題の前に本の感想を……

 ……と本題に入る前に、この『読み手に届く文章技術』を読んだ感想について書き綴っておきたいと思います。

 感想を一言で言うと、「こんな切り口の文章技術本があるんだ」という驚きですね。私は仕事柄今まで多くの「文章の書き方本」を読んできましたが、こういうアプローチをあまり見たことがありません。

 普通、「文章の書き方」について、というと、「一文は短くまとめましょう」とか「助詞や接続詞を正しく用いましょう」とか単語や文構成単位のミクロの話から始まって、「段落のまとめ方」とか「基本の文章の『型』」などのマクロの全体の文章構成の話に押し広げて展開していく本がほとんどです。手前みそですが、私もnoteではこの順番で記事を書き進めていきました。でも、この本はそういう内容ではありません。この本は、こうした展開の本なら最終章に来るような「読み手を意識して書く」ということをむしろ起点において、そこから「読み手に届く文章を書くには何に注意すべきか」について論じていった本です。

 「読み手を意識して文章を書こう」なんて、ほとんどの「文章の書き方本」には書いてあるマスト事項です。これ自体は何の奇抜さもない、いわば基本中の基本。だから、たいていの「文章の書き方本」では「読み手を意識しよう」の一言で終わります。しかし、この本はむしろそこから始まって、そのテーマを深く掘り下げていった本です。「なるほど、こういう文章の書き方本の書き方があるのか」と驚きました。

 また、「読み手に自分の考えを届けることが全ての文章の基本」である以上、この本の「守備範囲の広さ」も特長の一つです。体験感想文、料理のレシピ文章、物語文、意見文と受験小論文、学術論文やレポート、Wikipedia記事などの各種文章の書き方から、テキスト生成AIの活かし方、SNSメッセージの注意点、日常生活での敬語の使い方に至るまで、トピックは多岐にわたります。どんな文章であろうとそれは「読み手に届く」ことが最重要課題だからです。筆者の言葉を借りて言えば、この本は、どんな文章を書く上でも求められる「書き手から読み手への着実な『考えの引っ越し』を実現する力」とは何かについて論じた本と言えます。

 したがって、こういう本なので、どんな方でも参考になる本ではないかと思います。私のように作文教育の関係者はもちろんですが、論文やレポートを書く高校生や大学生、noteで感想文や料理レシピ、小説やエッセイを書いている方、AIを文章作成に用いることに興味がある方など、どなたでも何かは引っかかるトピックがある本だと思います。私も大変参考になりましたので、みなさまにもおすすめしたい一冊です。

 しかし、このように多様なトピックについて扱っている本なので、ここでは、意見文や受験小論文のことについて述べた章に限って扱い、本題の話に入りたいと思います。

二つの問い―「Yes-No型」と「WH型」―

 これは以前、私も別の記事でお話ししましたが、大学受験の小論文で問われること、つまり「問題文の問い方」は、「Yes-No型」か「WH型」かに分かれるということです。イエス(賛成)かノー(反対)かで答えるものと「それは何か」、「それはどのようにすべきか」で答えるものと、この二つに大きく分かれます。

(問題文の問い方には「Yes-No型」と「WH型」がある)

 たとえば「環境問題に対して、あなたは日ごろの生活の中でどのように取り組むべきか」と問題文にあったとします。当然これには「私は、これこれこのように取り組むべきだと考える」と答えないと「問題文に答えた」とは言えません。しかし、小論文初学者の中には、この問いに対して「私は課題文の筆者の意見に賛成だ」と答える人がいるんですね。これは、問題文を正確に読んでいないと言えますし、また問いに答えたとは言えない「ちぐはぐな答え」と言えます。ここから、小論文作成が始まってしまうと、その小論文は評価や得点につながる小論文にはならなくなります。

 こうしたことを、私も以前、上掲記事でお話ししたわけですが、この本の中でもこれについての話題を「第4章 根拠―主張を支える根拠の選定」でとり上げています。

石黒氏の指摘―「Yes-No型」を「WH型」に読み替えることー

 つまり、「何を(What)」や「なぜ(Why)」、「どうやって(How)」など、空白になっているWH型の要素を補填するのが説明文です。一方、意見文はYes-No型の疑問文に答える文章です。あるいはWH型であっても、すでに選択肢が存在する「どちらが/どれが(Which)」に答えるのが意見文です。意見文ではYes-Noどちらを選ぶか、あるいはWhichのどれを選ぶかを示し、そのいずれを選んだ理由を述べるという形を取ります。つまり、どちら/どれを選ぶかが主張、選んだ理由が根拠になるわけです。
 このため、小論文では、WH型の疑問文の形で出題されていても、Yes-No型やWhich型の疑問文に置き換えて考えるのがポイントです。説明文としてでなく意見文として文章を書くためです。

(〆野注)石黒氏は、受験小論文を意見文として扱っている。

『読み手に届く文章技術』(石黒圭)

 つまり、石黒氏の指摘はこういうことです。「そもそも意見文(受験小論文)は、主張と根拠によって成り立つもので、それは説明文ではない。しかし、WH型の問いにそのまま答えると、それは説明文(事象の一般的な解説)になってしまう。そのため、WH型の出題であってもYes-No型に読み替えないと、自分の主張(意見)を立てて根拠づける意見文として答えることはできない」

 たしかに、この指摘はもっともだと思います。現に、WH型の問いに正確に答えている小論文であっても、「事象の一般的な解説」にとどまり「説明文」になってしまっている答案を、私も目にします。先に挙げた「環境問題に対して、あなたは日ごろの生活の中でどのように取り組むべきか」を再び例として用いれば、これに正確に答えていても内容は「一般的な環境へ配慮した取り組みの説明」になっているものが多いです。

 本来、主張とは「その個人の意見」であり、是々非々がある問題に対して「それについては、私はこう考える」と自分の立場を表明するものであり、「すでに常識となっていることに対する一般的な説明」は主張とは言えません。また、そういう人によって意見が分かれる問題であるからこそ、「自分がなぜそう主張するのか」、といったその根拠を明示する必要があります。「明らかに大多数の人が意見を同じくするような常識的なこと」であれば、他者を説得するための根拠など必要ないのです。

 これを前提とすると、たしかにその小論文(意見文)を小論文として成立させるためには、WH型の問いをYes-No型に、つまり「是々非々の分かれる問題構造」へといったん読み替える必要があると言えそうです。そうしないと主張も根拠も必要のない、単なる説明文になってしまうからです。

 石黒氏は、この後でその「読み替え」の例を挙げています。

 たとえば、次のような小論文の課題が出題されたとしましょう。

・2050年、AIの発達によって人間の仕事はどう変わるのか
・日本の少子化問題は、どうすれば解決できるか
・リモートワークの功罪は何か
・現代の社会における幸せとは何か

 (中略)たとえば、次のように直してみてはいかがでしょうか。

・2050年、AIの発達は人間からすべての仕事を奪ってしまうのか
・日本の少子化問題は、子育て費用の全面無償化で解決できるのか
・リモートワークは業務を効率化するのか
・現代の社会を生きる子どもたちは、はたして幸せか

問いが具体的になって焦点が絞られ、文章が書きやすくなったことがわかります。

『読み手に届く文章技術』(石黒圭)

〆野の補足説明―その読み替えには「国語力以外のもの」が必要だ―

 ただ、この石黒氏の提案にはたしかに賛成しますが、これをすぐに実行できる受験生はなかなか稀有ではないか、というのが、教育現場にかかわる私の肌感覚での意見です。なぜなら、この「読み替え」を行うためには、「読解力」や「文章作成力」といった「国語力」とは異なる力も必要だからです。

 一方で、この読み替えは、「小論文ができる、少数の生徒」は無意識かつ自然に行っていると考えます。先に挙げた例「環境問題に対して、あなたは日ごろの生活の中でどのように取り組むべきか」を再びとり上げると、「できる生徒」は環境問題という問題群を頭の中で俯瞰して「それは何が問題なのか」を明確にし、その問題の解決策として「自分がそれにどう取り組むべきか」を考えるのだと思います。それは、その問いに脊髄反射的に答えるというよりも、それがなぜ小論文の問題として出題されているのかを考え、そこにある「是々非々の問題」を抽出してから、問題文の指示に従って答えているのだと思います。

 かりに私がこうした技術を生徒に教えるなら、「読み替えしろ」とは言いません。私なら「出題者の出題意図を読み取ろう」と言います。入試問題の意図を考えれば、「『燃えるごみ』と『燃えないごみ』の分別に取り組みたいです」のような「誰もが一般的に環境への配慮として正しいと考えている取り組み」が入試問題で問われるわけがない、ということはわかるはずだからです。「ごみの分別に取り組むこと」に一般常識的に「是々非々」はないわけですからそこに「議論の余地」などなく、それを小論文の問題として出題者が聞くとは考えにくいからです。

 ただし、「読み替え」であっても「出題の意図を読み取る」であっても言い方はどちらでもよいのですが、この技術を会得するには「国語力以外の力」が必要です。それは「社会問題を理解し考える力」です。

 たとえば、石黒氏の例にあった「2050年、AIの発達によって人間の仕事はどう変わるのか」という問いを「2050年、AIの発達は人間からすべての仕事を奪ってしまうのか」という問いに読み替えるためには、「AIの発達にかかわることで今の社会で何が問題とされているのか」を知っていないと難しいです。また、「日本の少子化問題は、どうすれば解決できるか」についても、「子育て費用の無償化による子育て支援策が今の日本社会で講じられている」ことを知らないとこのような読み替えはできません。さらに、「リモートワークの功罪は何か」についても、たしかにこの問いを額面通りに受け取ってしまうと「リモートワークのいい点はこうです。悪い点はこうです。」という「リモートワークの解説」となってしまいますが、「コロナ禍が終わり今リモートワークの是非が問われている現状と問題」を知っているのであれば、「自分ならリモートワークの導入に賛成か反対か」という問題として読み替えることができるかもしれません。

 つまり、小論文の勉強として「日ごろから社会ニュースにふれていること」ができているかどうかが、この技術を会得できるかどうかを左右するのです。現代社会の問題に対してどれだけ知っていてどれだけ普段から考えているか、これなくして、石黒氏の「WH型の問いをYes-No型の問いに読み替えること」は難しいと言えます。そして、これは「国語力」とは少し異なる力です。

まとめ~小論文を書くのに必要な「現代社会への理解」~

 石黒氏にケチをつけるわけではないですが、前述のような考えに至ったときに、私は「それって文章技術の有無の問題じゃないじゃん」と思ってしまいました(笑)。しかし、だからこそ石黒氏は「問いの読み替え」という話にとどめたのかもしれません。なぜなら、私のようにもう一歩踏み込んでしまったら、それは文章技術の話を越えた話になってしまうからです。

 思えば、小論文の対策勉強として、「日ごろから現代社会のニュースにふれておくこと」は必要な勉強の一つとして、どの小論文の参考書にも書かれていることですし、私も別記事で述べています。小論文の問題としてとり上げられるトピックは、いずれも「今、社会の中で問題となっていること」なのですから、そうしたことについて学習することが必要なのは言うまでもありません。

(時事問題について知ることの重要性)

 だから、全く驚くようなことではないのですが、文章技術の本を読みながら文章技術について考えていたら、くしくも「文章技術以外のことの大事さ」が痛感できたというお話でした(笑)。

 小論文学習者は、小論文を書く練習だけでなく、新聞やネットニュースなどで「現代社会に対しての理解」も十分に行うようにしてください。

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