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ネコもお役に立ちたい

 「ネコも人の役に立ちたいと思っている」と言ったら、あなたは信じるだろうか。警察犬や盲導犬などでわかるように、イヌは人の役に立つ。でも、私の見立てでは、勝手気ままに見えるネコも実は人の役に立ちたがっている。実際役に立つかどうかは別にして。そう考えたきっかけをここではお話ししたい。

 私の母は、20数年前、私が20代のときに突然の脳出血で亡くなった。そのときの話だ。……と言っても湿っぽい話ではない。もうあれから長い年月が経ち、私はすでに日常の生活を取り戻している。よって、気楽に読んでいただければ幸いだ。

 朝、ネクタイを締めようとしている私の背後で、バタンと大きな物音がした。びっくりして振り向くと、母は床に倒れていた。頭を押さえて横向きに倒れたようだった。

「どうしたの!?」

 私は、ネクタイを放って駆け寄り母に話しかけた。しかしろれつが回らず母は何を言っているかわからない。とっさに「これは脳疾患だ」と思った。私は父を同じ病気で亡くしていたので、その「初期症状」に見覚えがあった。

 急いでケータイで119にかけた。電話の先の職員に母の症状を伝えるために傍らに寝そべる母に目をやった。すると、知らないうちに母の横にネコがいた。また、母が家に入れたのだろう。ちなみに、これ、よその家のネコである。しかし、うちには度々遊びに来ていた。いわば、常連の客だ。

 ネコは倒れている母の背中に向かって何やら鳴くと、その返答しない母の着ているカーディガンの肩口を口で嚙み、上に向かって思いっきり引っ張り上げていた。無謀にも、倒れた母を起こそうとしたのである。ネコでもこの尋常ではない事態を理解したらしい。

 どのくらいの時間が過ぎたのか、ほどなくして救急車が来た。私は家の玄関に来た救急隊員の対応をするとすぐさま、母のところに連れた。そのあとから二人の別の隊員が担架を持って続いた。

 母の症状を一通り見て私からのヒアリングを簡単に済ますと、救急隊員が言った。

「玄関先の担架台までお母さまを運びます。」

 持ってきた担架に母を移すため、複数名の救急隊員がしゃがんで両腕を差し入れ母を抱きかかえようとした。そのときである。

 母とある救急隊員の間に、知らぬうちにネコが割って入っていた。母の体と救急隊員の胸でネコをサンドイッチするていになった。

 「持ち上げるのに邪魔だよ!」

 一刻一秒を争う中で思わず怒鳴るように言った私は、腕を伸ばして隊員の胸元にいるネコを雑に抱きかかえると横の床の上に放った。ネコは心配そうに鳴いたが、かまっていられない。さて、今度こそ……と救急隊員が持ち上げようとするとまたネコが母と隊員の間に挟まってきた。で、また私がネコをどかす。二、三回だろうか、「このラリー」を繰り返した。たまらず、その救急隊員は私に若干語気を荒くして言った。

「あー、ネコ、しっかり抱いておいてもらっていいですか!動き回らないように!」

 私が何かしたわけではないが、そう言われると、ご迷惑おかけして申し訳ないという気持ちになりシュンとした。一方、私がそんな気持ちでいるとは知らないネコは不機嫌そうにフンスと鼻を鳴らすと、自ら私の腕の中におさまった。ネコは隊員と一緒に母を持ち上げる気でいた。無理だろ。

 このように、このネコだけかもしれないが「ネコは人の役に立ちたい」のだと思う。しかし、見ての通り、実際には全く役に立たない。あのときはネコの手も借りたかった緊急事態だったが、実際のネコの手はただただ邪魔なだけであった。そこにたしかに愛はあるのだが。

(1468字)

#モノカキングダム2025

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