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2024年年間ベストセラーで見る日本の社会問題【小論文対策】

更新日:2025/12/25

 小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、作文・小論文・志望理由書作成における実践的な技法をレクチャーするのが、このシリーズ【文章作成の実践】。

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(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)


社会問題のトレンドを知ることで、今後小論文問題で出題されるテーマがわかる。

 以前、下の記事でもまとめたように、今日本で起きている社会問題のトレンドを知ることもまた小論文学習に必要なことの一つです。下の記事ではこうしたテーマ学習の方法の一つとして、中学受験用教材である「重大ニュース」本の活用をおすすめしました。

 小論文で様々な社会問題が扱われているのは、小論文の学習をしていればわかるでしょう。また、それらは今の日本社会の世相や風潮が反映されているものです。では、そうした世相や風潮を知るにはどういう方法や手段があるでしょうか。

 いろいろな方法や手段があると思いますが、ここでは出版物専門商社・取次会社の一つであるトーハンから年末に発表された「2024年年間ベストセラー」の新書部門ランキングから、今の日本の社会問題のトレンドを見てみようと思います。今年日本で、どんな本が興味を持って買われ読まれたのか、見ていくことで、今年の日本の世相や時勢が垣間見えるはずです。

2024年年間ベストセラー〈新書部門〉(トーハン発表)から、今の日本の社会問題のトレンドを見てみる。

 トーハンの調査による「2024年 年間ベストセラー」(集計期間=2023年11月22日~2024年11月19日)の内、新書部門のベスト10を見ながら、今年の日本の世相を見ていきます。

10位から4位まで一気に見る。

 まずは10位から4位まで一気に見ていきましょう。それでは、カウントダウン!

10位 大常識 百田尚樹/著(新潮社)

9位 ゼロから12ヵ国語マスターした私の最強の外国語習得法 Kazu Languages/著(SBクリエイティブ)

8位 世界はラテン語でできている ラテン語さん/著(SBクリエイティブ)

7位「老けない人」の習慣、ぜんぶ集めました。 ホームライフ取材班/編(青春出版社)

6位 言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか 今井むつみ/著 秋田喜美/著 (中央公論新社)

5位 国民の違和感は9割正しい 堤未果/著(PHP研究所)

4位 メンタル脳 アンデシュ・ハンセン/著マッツ・ヴェンブラード/著久山葉子/訳(新潮社)

トーハンの調査による「2024年 年間ベストセラー」新書部門10位~4位

まず目についたのは、日本の政治に対する不信感や違和感の問題です。10位の『大常識』5位の『国民の違和感は9割正しい』は、内容の差はありますが、共に今の日本の政治に対するおかしな点をテーマとして挙げて分析をしています。『大常識』を書いた百田尚樹氏は元々作家の方ですが、現在は日本保守党の代表も務め、政治活動を行っています。この本は、ご自身の政治的な立場を表明し、その立場から今の日本の政治を批判したもの。一方、5位の『国民の違和感は9割正しい』の著者堤未果氏は国際ジャーナリストで、報道人の立場から今の生活の違和感の正体を、日本の政治や経済政策の問題として論じています。今年は日本の政治にとって激動の年で、「総理大臣も変わったこと」や「令和6年10月27日の衆議院選挙での自民党過半数割れをしたこと(15年ぶり!)」など様々な変化がある、日本の政治運営の不安定さが目立ちました。そうした不安や批判がこうした本の売り上げに反映されているのかもしれません。また今年は世界的にも「選挙イヤー」でした。そのため、国際政治の情勢も注目された一年でしたね。

 9位、8位、6位には言語をテーマとした本がランクイン。9位の『ゼロから12ヵ国語マスターした私の最強の外国語習得法』の著者Kazu Languages氏は日本で生まれ育ちながら、5年間で12ヵ国語を習得したそうです。その著者の外国語習得術がまとめられた一冊です。YouTuber(インフルエンサー)の方のようです。8位『世界はラテン語でできている』の著者ラテン語さんもX(旧Twitter)で人気のインフルエンサーの方。この本、もちろんラテン語そのものに興味がある方にも注目されるような本ですが、タイトルにあるように、ラテン語が世界の言語や文化にいかに広範囲で影響を与えているかについて解説している、ラテン語雑学本なので、外国語学習にも関わる話だとも言えます。対して6位の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』は認知科学的な言語論で、やや学術的な内容。著者は現在は慶應義塾大学環境情報学部教授である今井むつみ氏。専攻は認知科学、言語心理学、発達心理学とのこと。しかし、こちらも子どもの言語習得から言語の本質を考えさせる主旨の本なので、外国語習得に関係している内容と言えます(※著者は他に英語習得法に関する本なども書いています)。以上から、外国語習得に対する強い興味を持つ人が今の日本には多く、日本社会の国際化がより進行していることがわかりますね。

 7位の 『「老けない人」の習慣、ぜんぶ集めました。』は、タイトルからわかる通り、「老い」をテーマにした本。言わずもがな、こうした本がベスト10に入るということは、日本がいかに超高齢社会であるかを示しています。50代から大事にしたい「老けない人」の習慣を、食、メンタル、ケア、考え方、動作、仕事、脳など、さまざまな側面から紹介している本です。

 4位の『メンタル脳』は、メンタルヘルスの問題を脳科学の見地から解説した本。現代社会はストレス社会、多くの人が心の問題を抱えています。そんな時代だからこそのベストセラー入りなのでしょう。『スマホ脳』の著者でもあるスウェーデンの精神科医のアンデシュ・ハンセン氏が、不眠により受診する10代がこの20年で10倍に増えたというスウェーデンでの現状を受け、10代のメンタルヘルスに対して大きな危機感を感じ、児童文学作家のマッツ・ヴェンブラード氏と共にこちらの本を書いたとのこと。したがって、ここでは主に「若者の心の問題」を題材としており、そこから、どうしてそのようなメンタルの問題が引き起こるのかを解析しその解決法を示しています。

 さて、この後は一つずつ見ていきます。まず第3位!

3位 話す力 心をつかむ44のヒント 阿川佐和子/著 文藝春秋

 以前、私もこの本を別記事で紹介しました。テレビでもおなじみ、エッセイスト・タレントの阿川佐和子氏が書いた「〜の力」シリーズ最新刊が、この『話す力』です。タイトルの通りコミュニケーション術についての本。雑誌やテレビ番組で対談企画を行っている著者ならではのエピソードを基に会話の「コツ」についてまとめた本です。こうした本が売れる背景には、やはりコミュニケーションに不安を感じる人が多いということがあるのだと思います。

 よく「今の教育は今の社会問題を反映する」と言います。今。社会で必要になっていることや問題となっていることを克服できるように公教育のカリキュラムは作られるのです。たとえば受験勉強の激化から「受験ノイローゼ」が社会問題化したことで「ゆとり教育」政策は生まれました。よいか悪いかを別にして、今の教育のあり方を見ると、国や社会が、社会で問題となっていることに対して、それをどう乗り越えようとしているのか、わかります。別記事でも書きましたが、今年は2022年から始まった新学習指導要領に基づく新課程入試のスタート年。プレゼンや面接試験などで決まる総合型選抜(旧AO入試)の実施が盛んになったことなどを見ると、これからの社会でプレゼン能力やコミュニケーション能力が求められていくということがわかります。そうした「話す力」の社会的必要性を受けてこうした本が売れるのでしょう。

2位 世界は経営でできている 岩尾俊兵/著 講談社

 最近の出版界のブームなのでしょうか。こうして見ると「世界は〇〇でできている」というタイトルの本が最近発刊された本の中にはとても多いですね。8位は「世界はラテン語でできている」でしたが、こちらは「世界は経営でできている」です。ここでは挙げませんが、他にも「世界は〇〇でできている」は結構ありました。

 それはともかく、著者の岩尾俊兵氏は、東京大学史上初の博士(経営学)を授与され、現在は慶應義塾大学商学部准教授の方。経営学の観点から生活のあらゆるものを見つめ直すことで、経営学的思考を身につけようという趣旨の本。したがって、企業や事業の経営にとどまらない広義としての経営がここでのテーマのようです。

 近年の日本社会では、「コスパ(コストパフォーマンス)」のみならず、一時話題になった「ファスト動画(時間短縮のために倍速で動画を見ること)」など、「タイパ(タイムパフォーマンス)」が求められるといった、何かと効率化が尊ばれる風潮になっています。「24時間戦えますか?」的な「モーレツ社員」の「残業してでも仕事を終わらせる責任感やガッツ」を求める昭和的な考えが退潮し「残業しなくても時間通りにタスクを終えられる能力や時間管理術」が求められる令和時代とは、この経営学的思考は非常に相性がいいと言えます。筆者は本書で「誤った経営概念によって人生に不条理と不合理がもたらされ続けている。」と主張しているようですが、こうした「人生における無理や無駄(不条理と不合理)」をいかになくして合理的に目標を達成するかという思考は、近年の「ファスト思考」の台頭ととてもマッチします。これがこうした本が売れる背景なのでしょう。

1位 なぜ働いていると本が読めなくなるのか 三宅香帆/著 集英社

 今年いろいろなところで、このタイトルを目にしました。とても話題になっていた本と言えるでしょう。こちらの本が堂々の1位でした。1位だけあって、noteでも書評を書いている人が多いようですので、ここでは、あくまでこうした本が売れる背景とそこに現れる日本の世相について述べていきます。

 この本は一見タイトルから「読書」がテーマだと思われがちですが、そうではないと思います。たしかに著者は文芸評論家ですが、これは文芸評論家の立場から語る「仕事論」です。序章は「労働と読書は両立しない?」という題で始まります。これでわかる通り、仕事(労働)に対置する概念として「読書」を置き、なぜ仕事をしていると読書ができなくなるのか、そしてそうした事態を回避するにはどうしたらよいか、について考察していくわけです。この場合、レジャー・趣味としての読書は仕事とは反対の非生産的・非合理的な「純粋余暇(こんな言葉があるかわかりませんが)」の代表例として扱われ、「仕事や経済が求める効率性や生産性」とは無縁と考えられるために、それに対する「ノイズ」となり遠ざけられる(読書ができなくなる)のでは?」という仮説を前提としているわけです。では、いかにして読書に時間を割けるように仕事をするのか、それに向けて、本書は展開していくのだと思われます。ですから、ここで問題とされていることは、実は2位の『世界は経営でできている』とも通底するテーマであると思います。つまり、「生活や仕事上で『無理』や『無駄』をどのようになくしていくか」です。ただし、『世界は経営でできている』はその「無理」、「無駄」をなくしどのように効率化や合理化を進めていくかであるのに対して、この『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、「仕事はあくまで『無理』、『無駄』をなくし効率的に行うべき、だからこそ関わり方は全身全霊ではなく『半身』でいい」、そして「そうやって余力で仕事をちゃっちゃと効率的・合理的に終わらせた分、余分な時間が生まれ、その時間はそうした効率性を求める必要のない自分の好きなこと(読書)に費やすべき」ということなんだと思います。ここでも「効率性や合理性を求める社会との関わり方」が問題とされており、どうしたら、そうした社会から距離を置いて自分の本当のやりたいことがやれる時間が確保できるのかについて述べていると言えます。

まとめ ~ベストセラーから見る、今年の日本の世相と社会問題のトレンド~

 以上から、ベストセラーよりこうした日本の社会問題のトレンドが見えてきます。

・激変する政情の中で生まれた、「日本の政治に対する不信感や違和感」。

・日本社会のさらなる国際化に伴う、「外国語習得の必要性」。

・「超高齢社会」下での、「健康に対する不安感」。

・ストレス社会における「メンタルヘルスや心の健康の問題」。

・現代社会で要請される「プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力の獲得」。

・ファスト思考に代表される「効率性・合理性重視の現代社会をどのように生きていくべきか」。

 こうしたことが日本の社会の問題点として見えてきます。ですから、このような問題が小論文の出題テーマとして選ばれやすいのでは、と私は予測しています。いわゆる入試問題の出題予想です(うわっ!言ってしまった!)。今年発刊した本なので今年の入試問題にどんぴしゃで出題されるということはまずあり得ませんが、今年の受験生で「そのテーマと同じの出たよ!」という人は入試が終わった後教えてください。〆野はきっと小躍りして喜びます(笑)。

 ということで、今年のベストセラーから近年の日本の社会問題のトレンドを見ていきました。受験生は参考にしてみてください。


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