エストニアの奇妙なコインランドリー事情:口伝で伝わる使い方
エストニア滞在二日目に起きた出来事について書きます。
この日は長い旅行ならではの問題を解決するために動く計画を立てていました。
その問題とは「洗濯」です。
ヘルシンキでの滞在先には洗濯機があったのですが、ポルヴォーでの部屋にはありませんでした。
タリンで泊まったホテルにランドリーコーナーがあればと思っていたのですが、ないようですし、ホテル受付の女性に聞いてみても洗濯できる場所がタリンにあるかどうか知らないそうでした。
Googleで調べて、コインランドリーを見つける!
そこで、Googleを利用して近くにコインランドリーがないか調べてみました。
検索ワードは"laundry"で、まずいくつかの洗濯サービスが引っかかりました。それらは全てスーツや布団などを専門的に扱う業者のようで、高いお金を払って洗濯してもらうサービスのようです。
「私の服が1サイズ小さくなった!」「洗濯に出したら臭くなった!」など文句を言うレビュー投稿が多かったので、気が引けていました。
調べること約10分、ついに私はバスで30分ほどの場所にコインランドリーがあることを見つけ、そこに行くことを決意します!
どうやら近場にはここしかコインランドリーがないようでした。
東京だとたくさんあるので、感覚が麻痺してしまいますね⋯⋯
エストニアでスーパーモダンなランドリー(レビューを和訳しました)
という訳で、洗濯をしにバスに乗ることにします。
ヘルシンキでは、自分が乗るバスが来たら手を上げて運転手にアピールするのが普通だったのですが、タリンではそのような作業は必要ないみたいです。
知らなかったので、普通にめっちゃ手を上げました。
それからバスに乗って着いたのが、こちらです。

バス停のすぐ目の前にあるスーパーマーケットの奥にポツンとランドリーコーナーがありましたので、中に入ってみます。
こんな感じの見た目でした。

壁に使い方が記載されていますので、それを見ると決済は現金でもカードでも良く、非常にモダンなコインランドリーだということが分かります。
私は意を決して服を放り込み、支払いをしようとしました。
しかし、何回やってもクレジットカードで支払うことができません。
このランドリーは非常にモダンなのですが、現金はコインしか使えない様子だったので、十分な額のコインを持っていなかった私はうろたえました。
しかし、立ちすくんでいても仕方がありませんので、偶然そこにいたマダムに英語で助けを求めます。
私:「すいません、助けてください! 何回やってもお金が払えないんです」
マダム:「私も良く分かってないけれど、壁に書いてある手順通りにやれば良いはずよ」
という訳で、すでに洗濯開始作業を成功させているマダムに見てもらいながら手順を追います。
ちなみにこの時点で、他のお店ではクレジットカードが使えていましたし、近くのスーパーで紙幣を崩せばコインは手に入るため、言うほど追い込まれている訳ではありません。
私とマダムの会話(意訳)
マダム:「洗濯機の台の番号を選んで、エンターを押して、ほら払ってみて?」
私:タッチ決済のスマホを近づける。ピッと音がする。
マダム:「音が鳴ったわね。払えたんじゃない?」
私:マダムと一緒に洗濯機のディスプレイを見に行くが、洗濯開始できる状態にならない。
マダム:「うーん。変ねぇ⋯⋯」
一度一緒にやってみましたが、なかなかうまく行きません。
優しいマダムがもう一度やってみようと言うので、二人で再度手順を確認しながら作業をします。
ちなみにクレジット決済の画面はエストニア語の表示で、私には何が書いてあるのか全く分かりません。
マダム:「洗濯機の台の番号を選んで、エンターを押して⋯⋯」
私:エンターを押した後にすぐスマホを近づける。さっきと違う音がする。
マダム:「あ! 支払い完了ってディスプレイに出ているわ。さっきは出ていなかった!」
私:マダムと一緒に洗濯機を見に行くと今度は洗濯を開始できる状態になっている。
という訳で無事に洗濯を開始することができました。
私は優しく助けてくれたマダムに丁寧に感謝の意を伝えます。
私:「本当にありがとうございました。あなたのおかげで助かりました!」
マダム:「いいのよ。でも、他に困っている人がいたらあなたが助けてあげてね」
私:「はい! もちろん!」
私はマダムに快く返事をしました。
マダムの言葉の真の意味に私が気づくのは一時間後です。
エストニアのマクドナルドで時間潰し!
無事に洗濯をスタートした私は、時間を潰すためにマクドナルドに行くことにします。朝ごはんも兼ねています。
頼んだのはTasty Jrというバーガーとアップルジュースです。

見覚えのないハンバーガーだったので頼んでみましたが、普通のチーズバーガーとあまり変わらなかったです。もしかしたらパティがちょっと肉々しかったかもしれませんが、私はたまにマクドナルドを食べたとしてもビッグマックを選ぶ人間なので、勘違いかもしれないです。

こうして時間を潰した後、洗濯が終わったので私はコインランドリーに戻り、乾燥機に服を移してからまた支払いをしました。
さっきの反省点を活かして、メニューを選んでからすぐにクレジット決済をすると問題なく乾燥をスタートさせることができました。
メニューを選んでから迅速に支払いを済ませないといけないようですが、分かってしまえば何の問題もありません。
乾燥を待っている間の出来事
それから私はスーパーを見学して軽く時間を潰した後、わりと早めにランドリーに戻りました。
それ以上時間が潰せなくなったので、ランドリーの椅子に座ってぼーっとすることにします。
私がランドリールームに入ったときには一人の男性(四十代くらいのポロシャツの人)がいました。
彼は乾燥が終わり、取り込み作業をしているところでした。
私は彼がいる所から離れた場所にある椅子に座り、携帯を見つめます。
すると一人の女性(五十代くらいの花柄の服の方)が入ってきます。
彼女はしばらく壁を見つめた後で、男性のところに行きました。
英語ではなかったので何を話していたのかは分かりませんが、おそらくこんな感じです。
女性(花柄):「使い方が分からないのよ⋯⋯」
男性(ポロシャツ):「いいですよ。私が教えます」
女性(花柄):「ありがとう。助かるわ⋯⋯」
男性(ポロシャツ):「まずはあなたが使う洗濯機の番号を選んでください。それから——」
このとき私はこう思いました。
「なーんだ。やっぱり使い方分かっていない人もいるんだね」
壁にはエストニア語やロシア語、英語で使い方が書かれています。
自分の英語理解力に自信がなく、異国ということで混乱してしまったのですが、現地の人でも理解するのが難しいようです。
エストニアの首都タリンの中心部でここにしかコインランドリーがないことを考えると、使い方が分かっている人が多い訳はなかったのです。
そして歴史は繰り返される
女性の洗濯が開始されたことを見届けると、二人はコインランドリーを出て行きました。
またしばらくすると今度は別の女性が二人やってきます。どっちも六十代くらいに見えました。
彼女たちは洗濯の時間がそろそろ終わりそうなので戻ってきたようです。
私を含めて三人で佇んでいると、今度はちょっと怖い感じの推定四十代の男性が入ってきました。ちなみにこのランドリーは人気なようで、私が使い始めた後はどんどんマシーンが埋まっていってます。
男性は支払い機のあたりで何かやっていたのですが、見た目が怖かったので、私は目を合わせないように違う方向を向いていました。
少しすると男性が、そこにいた女性二人に話しかけ始めます。
何語か分からなかったので、また推定です。
男性(怖い):「洗濯機が使えないんだけれど、どうしたら良いか教えてもらえますか?」
女性1:「私もよく分からないんだけど、一緒にやってみましょうか」
女性2:「私も見るわ」
男性(怖い):洗濯機を選ぶ。エンターを押す。クレジットカードでタッチするも、支払いができない。
男性(怖い):「俺が悪いのか?」
女性1:「分からないわ。私は現金だったのよね」
女性2:「私も現金で支払ったのよ」
男性(怖い):「やり方が悪いのか? もう一度やるんで見ててもらえませんかね?」
女性1&2:「いいわよ」
男性(怖い):洗濯機を選ぶ。エンターを押す。クレジットカードでタッチするも、支払いができない。
そんな風に見えるやりとりをしていました。
男性は私と全く同じ状態に陥っているようでした。
私:「エンターを押した後に急いで!」
男性(怖い):「何?」(ここから英語)
私:「エンターを押した後、すぐにタッチすればいけると思うよ」
男性(怖い):「本当か? じゃあ、もう一度やってみるか」
男性(怖い):クレジットカードを片手で準備する。洗濯機を選ぶ。エンターを押す。速攻でタッチする→成功
男性(怖い):「すごい! できたぞ!」
私:「よかった。すぐに支払いしないとダメみたいなんだ」
男性(怖い):「俺の操作が悪いんだと思っていたよ。本当にありがとうな」
結構な勢いで感謝されて、すごいにこやかでした。
怖い顔だからといって見ないフリしてすいませんでした。
ねぇ、誰も分かってないんじゃない?
怖い顔の男性は洗濯を開始すると、笑顔で私に手を振りながら出て行きました。コインランドリーに六十代女性が二人と私の計三人が残っています。
もうちょっとで私の服の乾燥が終わりだという時に、今度は女の子が二人入ってきました。佇まい的には大学生に見えます。
女性の洗濯をあまりジロジロみるのもよろしくないと思い、私は携帯を眺めることに集中することにしました。しかし、彼女たちもまたお金を支払うところで、もたついています。
困り果てた女の子たちは、そばにいた六十代の女性に助けを求めます。
このやりとりは英語だったので意訳ですが大体あってると思います。
女の子A&B:「すいません。使い方が分からないので、教えてください」
女性1:「⋯⋯分かったわ。でも書いてある通りやれば良いはずよ」
女の子A:「洗濯機を選んで、エンターを押して⋯⋯。コインを入れました。でも、使えないんです」
女性1:「本当ね。書いてある通りなのに」
女性2:「ねぇ、彼に聞いた方が良いんじゃない?」
何となく遠くで見守っていると、女性(六十代)の一人が私の方を向いてそう言っていました。そして、手を招いて私を呼び始めます。
私:「使えませんか?」
女性1&2「そうみたい。助けてあげて」
私:「私はクレジットカードを使った時、エンターを押してからすぐに支払いをしないとダメでした。現金をすぐに投入してみたらどうですか?」
見ていた限りでは、彼女たちは、何か間違っているかもしれないと思って非常にゆっくり作業をしていました。
コインを入れ始めるタイミングもゆっくりでしたし、複数枚のコインを投入するのもおっかなびっくりで遅く見えました。
女の子A:「分かりました。じゃあもう一度やってみます。洗濯機を選んで、エンターを押して、すぐにコインを入れる! あ、できました!」
私:「良かった! 洗濯が終わって乾燥する時も急いでお金を入れるのが良いと思います」
女の子A&B:「ありがとうございます」
女性1:「私も何度もやらなきゃいけなかったけど、そういうことだったのね」
女性2:「私も最初はうまくいかなかったのよ」
こんな感じのやりとりがありました。
そうしているうちに私の乾燥が終わったので、服を畳み、コインランドリーを後にします。
帰る時にはそこにいた四人の女性にすごく丁寧にお礼を言ってもらえて、良い気分になれました。
ローカルな文化の一員になれた気分に
という訳で、エストニアの首都タリンでコインランドリーを使ってみました。
単に外で洗濯をするというタスクをこなしただけなのですが、予想外にも現地の人と交流することができました。
最初私が異邦人だからコインランドリーの使い方に苦戦したのだと思っていましたが、現地の人たちもよく分からずに使っているのだと知って、何だか肩の力が抜けました。
私が最初に困ったとき、マダムが助けてくれました。
そこで得た教訓を元にランドリーの攻略法を知ることができました。
そしてその情報を困っている人たちに伝えて私は去って行きました。
非常にローカルなんですが、「コインランドリーの使い方」という文化が口伝で受け継がれていく様子が見られた気がして、とても新鮮でした。それに一時的とはいえ、そんなローカルな文化の一員になれた気がして面白かったです。
もしかしたら今も誰かがコインランドリーの使い方を教えているかもしれません。私が気がついた「すぐに支払いを済ませる」という攻略法が失伝していないことを祈っています。
エストニア旅行は続きます。
