見出し画像

市場化の時代に見直す江戸期商人道_4■ウチ/ソト振り分け二分法(全19)


平成24年2月24日(金)
2023年度 明誠舎 早春セミナー
市場化の時代に見直す江戸期商人道
立命館大学経済学部教授 松尾 匡 氏

石門心学文集(三)「こころをみがく」2013年発刊より抜粋

4■ウチ/ソト振り分け二分法


 組織が閉鎖性を促進していたのは、実は、反営利的倫理です。「金銭取引は汚い。一方的な奉仕は美しい」という理念を掲げても、いつでも誰に対してもできるわけではありません。身内だからということを理由に、金銭の絡まない、美しい一方的な奉仕が正当化されるのです。

すると、金銭取引は身内とするものではなく、身内の利益のための止むを得ない汚れ仕事、即ち、目的のための手段となり、その対象は「外」になります。金銭取引は手段なので、外部を食い物にして内部のために尽くすのなら、正義に適っているということになります。この考え方は、「ウチ/ソトの振り分け二分法」です。

市場取引の中で金銭に飲まれてしまわないために理念を掲げても、身内第一主義の非営利倫理は市場取引に合っていないため、「ウチ/ソトの振り分け二分法」が出てきて腐敗してしまうということがわかりました。

 このことは、非営利の事業体だけではなく、普通の営利企業にも無縁ではありません。企業内部の仲間に対して、お金では割り切れない身内としての忠誠を求め、個々人の利益には還元されない共同の便益を提供することを美しい価値として掲げている企業は、日本には多くあります。このような理念を掲げて市場取引に従事すると、必ず「ウチ/ソト振り分け二分法」による色んな問題が出てきます。

今世紀に入って、雪印乳業事件(〇〇年六月発覚)、三菱自動車工業事件(同七月発覚)、ニセ温泉事件(〇四年七月から相次ぎ発覚)、保険金不払い事件(〇五年一月から相次ぎ発覚)、不二家期限切れ原料使用事件(〇七年一月発覚)、関西テレビ「発掘!あるある大事典」捏造事件(〇七年一月発覚)など、日本企業の不祥事が続出しました。

最近の典型的な例では、福島第一原子力発電所の放射能漏れにまつわる東京電力の対応があります。

共通点は、身内の都合を優先し、その裏側で外部に不誠実を働き、異論者・告発者を迫害すること。可能な限り隠蔽を図り、散々たたかれた末、言い逃れができなくなってから頭を下げること。

そして外部に対して責任逃れをすることなどです。これが「ウチ/ソト振り分け二分法」です。

不祥事が起こると、お金の動きばかり追求すべきではない、戦後教育が悪い、仲間への奉仕の心を持て、自己犠牲的な武士道を持てなどとよく言われます。

しかし、そういうことを追求していくと、却って不祥事が悪化していくのです。大人は誰でも「自分のことばかりではなく、人のことも考えなさい」と子供に教えます。

そんなことを不祥事の関係者が知らなかったはずはありません。大抵の人は人並みに道徳的であろうとしている善良な人であり、道徳を失っているのではありません。

ところが、身内第一の倫理を掲げて市場取引に従事するので、「ウチ/ソト振り分け二分法」が発生して腐敗してしまうのです。

もっと大きな身内集団、例えば国家に忠誠心を持つよう企業エゴを抑えたとしても、全く解決策にはなりません。グローバル化が進み、取引相手やエンドユーザーが世界に広がっている時代にそんなことをすれば、国際スケールで「ウチ/ソトの振り分け二文法」が発生します。

大切なのは、身内第一の非営利倫理は市場取引とマッチしないので、掲げる倫理をはき違えてはいけないということです。

5■社会関係の二大原理
<ジェイコブズの「二つの倫理」> へつづく



いいなと思ったら応援しよう!