物語『激突』
『激突』
(裏課題「透明」・約3450字)
昔、地元の結婚式専用の会館で、従兄弟の結婚式が昼から行われることになっていました。
叔母さんが、自分の息子の一世一代の晴れ姿ってことで朝から張り切っていて、式の直前でも忙しく走り回っていたんです。
「ゴォーン‼️」
大きな音が新郎の控え室の前まで聴こえました。
音のした方へ人の流れができたので、私も流れに乗りました。
そうしたら叔母さんが、会館の裏側の出入口付近で倒れて大騒ぎになっていたんです。
詳しく説明すると、両側のドアが透明な全面ガラス製の自動ドアがありました。片側が嵌め込みのように全く動かない片側だけの自動ドアになっていて、その左右を間違えて開かない右扉の透明なガラスの方に叔母さんは、思いっきり走っていってしまったようなのです。突っ込んで、激突して、ぶっ倒れてしまったみたいです。
黒留袖を着たまま、仰向けの大の字になって、暫く動きませんでした。
「おばさーん!」
私は思わず駆け寄りました。
「叔母さん、大丈夫ですか?」
その声で目が覚めたように、叔母さんはすぐに立ち上がり、まわりの来客の人たちに頭を下げて、それから左側のドアから外へ出てゆきました。
「おばさーん、どうかした?」
「忘れ物!、新郎の式用の草履を家まで叔父さんが取りに帰っているの、もう式の時間なのに来ないから心配で」
そう言って駐車場の方へ、また駆け出しました。
物凄い音に驚いて集まっていた来賓客たちも、見ていた人から説明を聞いて、少しずつ会館の中へ戻ってゆきました。
何事があったんだろう?って後から出てきて集まった人たちも、まだ残っていた人たちから伝言で伝えられて、少しずつ状況が分かってくると、みんな下を向いて、笑いそうになる顔を必死に堪えているような感じで、やがて、みんな会館の奥へ消えました。
あとから見た叔母さんの顔は、たんこぶが出来ていて、式の終わりごろにはかなり大きくなっていて、少し痛々しかったです。
その数年後。
ある夏休みの終わり頃、私たち家族は姉の四人の子供も連れて、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンに遊びに行きました。
USJの最寄り駅のすぐ側にあるホテルに宿泊しました。
近くにいろんなレストランもあり、ファーストフード店もコンビニもありました。
特に連泊の二日目にはホテルに馴れてきて、ホテルの大きなロビーのある玄関とは反対側にある、裏の出入口を見つけていました。
その裏の出入口を出たら、すぐ真横にコンビニがあることに気づき、何度もそちらの出入口を利用するようになっていました。
あの二日目の夜も、私は一人でホテルの部屋を出て、コンビニで買い物をするため廊下を早歩きで急いでいました。
まぁ、馴れてはいたのですが、財布やホテルのキーカードやスマホなど大事な物を持っているか忘れていないか不安になり、ホテルの廊下やエレベーターの中でも何度もあるか確かめていました。
実は初日に父がカード型のキーを部屋に置いて出て部屋にどうしても入れず、大騒ぎをしていました。
二日目も母が財布を部屋に置いてホテルを出て、外で財布が無いから盗まれたか落としたと言って大騒ぎになりました。
それにこの夜は遊び疲れたのか、両親も連れていった姉の四人の子供たちもみんな寝ていたので部屋に置いて私一人で出掛けたのです。起きたら大丈夫かなって、それも心配になって、私はかなり急いで、慌てるように走っていました。
(情報として部屋は2部屋が扉で繋がっているコネクトルームで最大8人部屋でした)
私は病的な心配性でもあります。
それでも寝る前に私のビールとつまみと子供たちのおやつとジュースを買いに出掛けたのでした。
そして、走りながらまた持ち物が心配になり、バッグの中の財布などを確かめていたら、
ドーンっ!
バタっ!
私の視界には、星が何個もキラキラと浮かんでいるように見えていました。
永遠のようでした。
時間が止まっていました。
そして、永遠に感じた数秒後、なんとなく何かに強く激突したことは理解してきました。
そうです。
私は、あの従兄弟の結婚式で透明な自動ドアに激突してみんなに笑われていた叔母さんと、まったく同じことをしてしまったようでした。
頭というか顔面がジンジンと痛みました。
猛烈に、強く、ジンジンと、いや、ガツンガツンと痛いのです。
そうすると、真っ先に思ったのが恥ずかしさです。
痛みよりも恥ずかしさが緊急事態の人間の優先事項では上でした。
しっかりと目を見開いて、1階の裏口へと続く細く長い廊下の、エレベーターのある方面を振り返りました。
誰もいない。うん。いない。
ホテルの裏口になる、私がぶつかった出入口付近の自動ドアの周りにも誰もいない。うん。いない。
そして、自動ドアの透明なガラス越しに見える外の景色も目をこらして見ました。
夜遅い時間でしたが、外の通りにはまだ遊んでいてやっと帰ろうと駅に向かう人たちがいっぱい歩いていました。でも、自分たちの会話にみんな夢中みたいで、ホテルの透明なドアの内側の様子を確かめて見ているような奇特な人は誰もいませんでした。
「よしっ!」
私は心の中で、強く、ガッツポーズをしました。
それが分かれば十分です。
急いで立って、何もなかったように出入口の自動ドアの状態を確かめました。
自動扉は左右両側全面透明ガラス。
左側が開閉式で右側ははめ込みで動かない。あの結婚式の会館と同じタイプでした。
左右ともに額がくっつく距離で見てもガラスが無いように見えるくらい透明で、廊下の上の照明が反射して僅かに映り、それでガラスがあることを認識できる感じでした。
私は右の扉に激突していました。
それも、かなりの全力疾走で、私的にはオリンピック選手並の大激突をぶちかましていました。
そうすると、
次に気にしたのはガラスが割れていないか?です。
旅先で高額の賠償なんて私の人生が終わります。
こんな高級ホテルの玄関の扉なんて、きっと、給料何ヵ月分とかだ。
きっとそうです。
下手すりゃ年収越えか~〜〜?????
しかし、よーく確認のためガラス扉を見つめると、ほとんど跡さえ残っていませんでした。
さすが一流の高級ホテルです。
ガラスもきっと高級で頑丈だった?のでしょう。
「号泣ホテル」にならなくて良かった〜〜〜です。😅
ふぅ~~~。
心でため息。
小さく、セーフのゼスチャーをしていました。
そして左の扉からそとへ出ました。
私は急いで買い物をしてからホテルの部屋に戻りました。
子供たちはまだ寝ていました。大丈夫でした。
すべて大丈夫。
うまくいっている。
ん?
うん。
私が記憶を抹殺すれば、何もなかったことにできるはず。笑
でも、この時点でも、まだ思い返すととても恥ずかしくて、顔が火照って赤くなるのが分かりました。
戦利品?のビールとおつまみを食べてから、子供たちは起きなかったのでジュースは冷蔵庫に入れて、明日、チェックアウトして帰るための荷物の整理も少ししてから、私はパジャマを取り出しました。
寝る前に、忙しくてまだだったシャワーを浴びようと浴室に向かったのです。
浴室の前の洗面台の前で、先に歯を磨こうとしてふと鏡に映る自分の顔を見ました。
えっ?
おでこが血だらけだった。
前髪の上のあたりを強打して、かなり出血していたみたいなのです。
鏡に映る血だらけのその顔で、私はコンビニやファーストフード店へ行っていたと思うとゾッとしました。
考えてみれば、確かにこの夜はコンビニでの買い物中、人とよく目が合うとは思ってはいました。少し私の顔がイケメンでカッコ良く見えるのかな?って…勘違いしたくなるほど見つめられていました。
みんな私に魅とれているのかも?って、本当に少し本気で思って浮かれていました。
痛々しい。涙
私は馬鹿が付くほど、楽天家でお調子者だったことを思い知った夜でした。
翌朝、朝食の買い出しに、今度はみんなであの出入口の自動ドアを使ってコンビニに行きました。
じっくり、朝の明るい中で見れば見るほど、その自動ドアのガラスは『透明』でした。
分かっていても無いように見えるほどの綺麗な透明さ、だった。
もうホテルの掃除の人を褒めるしかない。
パチパチパチパチ‼️
そう、思った。
若き日の失敗談。
フィクションかどうかは不明。
そういう事にしておいて欲しいです。笑
【終わり】
この記事はカタリ記事コンテストに応募しています
