ショートショート「捺染婆」※毎週ショートショートnote11/30お題
染める。染める。
私は文字を刻む。
刻んだ文字は、その人の人生であり、軌跡であり、結果である。
似たような人生はあれど、全く同じ人生はない。
藍に染まる者もいれば、愛に染める者もいる。
ああ、言葉が足りない。
色が足りない。
人の一生を、数色で、数文字で表現することなど、出来やしない。
キャンバスは狭く、刻む文字も色も、私の語彙も技術も、何もかもが足りない。
この男は、一人の女を愛し待ち続け、一発の銃弾に倒れた。藤色の凶。
この子どもは、親の愛を疑い、罵声を浴びせて家出した。蘇芳の忘恩の徒。
女、老人、青年。
キャンバスはたくさんある。
でも、足りない。足りない。
染められない。刻めない。
染めた傍から、緋色が邪魔をする。
私に見せておくれ、お前の人生を。
お前の色を、染めさせておくれ。
お前の文字を、刻ませておくれ。
泣き喚いてたら、手元が狂うんだ。
さぁ、じっと、私の目を見ておくれ。
………ああ、良い色だ。
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