ショートショート「月見バーバー」 ※毎週ショートショートnote 9/6お題
カランカラン。
「おや、もうそんな季節かい」
月見バーバー店主は、来客を見るなり呟いた。
「ええ、いつものお願い」
美しい女。
艶のある長い黒髪、陶器を思わせる白い肌。
この世のものと思えぬ、見る者を魅了する切れ長の目に長い睫毛。
店主は、一つしかない椅子に女を案内し、手慣れたハサミさばきで髪を整えていく。
「何年目だい?」
毛深い店主が、短い足を使ってトリートメントしながら尋ねる。
「千年かしら。未練がましいでしょ」
店主は答えず、優しげに口元を緩ませる。
「お疲れ様。美人がもっと綺麗になったよ」
「ありがとう」
鏡を見ながら、女は満足そうに細部を確認する。
女は立ち上がり、入り口に向かう。
透き通った扉の前で立ち止まり、扉越しに潤んだ瞳を、暗黒に浮かぶ青い星へと向けている。
店主は、女に声をかけず、新聞を開く。
カランカラン。
ドアベルとともに女は出ていった。
「あんないい女を待たせるなんて、どんな色男なんだろうね」
店主は長い耳をピクピクと動かしながら呟き、新聞をめくる。
『地球で宇宙ロケット完成。月面戦争間近か』
そんな見出しに店主の目が留まる。
店主は目を細め、深いため息をついた。
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