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ショートショート「入学式の養殖」※毎週ショートショートnote3/29お題



 今日、私の人生にまた一つ、黒歴史が刻まれた。 
 夕陽に萎れる自分の影とにらめっこしながら、帰宅していると、道端に行商人が鎮座していた。
 近くで見ると、水槽の底にビー玉のようなものが眠っている。
 行商人は目深に被った帽子の影から、ギョロリとした視線を向けてきた。

 「あんた、入学式でびゅうに失敗したね?」

 私の事情を見透かされ、心臓が跳ねた。

 「お代はいらない。好きな入学式を選びな」

 私は、吸い込まれるように、一つのビー玉を手に取る。

 瞬間。

 私は壇上に立っていて、私の小粋なジョークを交えた挨拶に、参列者全員が爆笑していた。
 ああ、何と理想の入学式だろうか。

 『毎度あり』

 得体のしれない焦燥感を一瞬感じたが、この甘美な夢から醒めることを、私は拒否した。

 


***

 男の前には、主人を失った靴が寂しげに転がっている。 

 「また、増えた。でも、足りない。まだ、消えてくれない…」

 独り言は誰にも届かず、男の姿は夕闇に溶けて消えた。
 
 





こちらの企画に参加させていただきました。


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