ショートショート「駅で鯛を釣る」 ※毎週ショートショートnote 8/17お題
「おい、何で電車止まってんだよ!大事なアポあんだよ!」
サラリーマンが、キスしそうな距離でクレームを入れてくる。
俺のせいでもないのに、平謝りで難を逃れた。
「はぁ……」
ため息をつきながら、駅の事務室に戻る。
すると、休憩中の先輩が、バケツやトングを準備していた。
「あれ?先輩、何してるんです?」
「ああ、鯛を釣りに行くんだよ」
鯛?勤務中に釣り?全く意味が分からなかった。
呆けていると、先輩が俺にトングを渡してくる。
「ああ、そうか。お前は初めてだったな。まぁ、行けば分かる」
無表情に先輩が言って、歩き出す。
そして、今。
俺は線路に降りて、鯛を釣っている。
ビチビチ跳ねていて、活きがいい。
何で駅に鯛がいるんだろう?
「電車が止まると、必ず鯛が落ちてるんだよ。それを釣るのも俺らの仕事だ」
先輩は慣れた様子で鯛をトングで掴んで、バケツに入れていく。
俺もそれに倣って、鯛をバケツに入れていく。
鯛の無機質な目と、目が合った気がする。
これは本当に鯛なんだろうか?
「鯛だよ。鯛だと思うんだ」
先輩の疲れたような呟きが、線路にこびりついた赤錆に溶けていった。
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