ショートショート「レシートの裏側」 ※シロクマ文芸部
「レシートに導かれるまま、僕は君に出会ったんだ」
こんなことを言うと、きっと君は大笑いするだろうけれど。
その日、僕は玉子の特売目当てに、スーパーに行った。
県内に三店舗しかない、けれど僕の住むアパートから最も近いことだけが取り柄の、マイナーなスーパー。
お目当ての玉子を手に入れて、自動ドアをくぐったとき、レシートを踏んだ。
そのまま無視しても良かったのだけれど、不自然に立ち止まってしまったせいで、すれ違う女性に怪訝な顔をさせてしまった。
これで立ち去ってしまったら、何だか僕が、レシートを落としておきながら拾わない無作法者と思われないかと、心配になった。
仕方なく、レシートを拾い上げた。
日付は今日。
購入品は、玉子と牛乳。
それから、バターと小麦粉。
カステラでも焼くのかなと、くだらないことを考えて、ふと、裏面を見てみた。
『21:00 絶対に忘れないように!』
可愛らしい丸文字で、だけど、確固たる決意を感じさせる力強さで書かれたメモ。
きっと、人生の重要なことが今日の21:00に待っているのだろう。
そんなメモを見てしまったら、このままゴミ箱にダンクすることが躊躇われた。
捨てることもできず、かといって持ち主を探す手がかりもないまま、何となくポケットにレシートを突っ込んだ。
僕のアパートが見えた頃、近くの家からバターと小麦粉が焼けるいい匂いが漂ってきた。
まさか、と思ったけれど、『………ぐりぐら〜ぐりぐら〜』等と、独特の音階で歌が聞こえてしまったら、それは確信に変わった。
不審者以外の何者でもないが、意を決してインターホンを鳴らした。
「それで結局、単にテレビ番組を録画するためのメモだったわけだけど」
僕が非難がましく向けると、君は言う。
「ザ・不審者に言われたくないわ。ちょうど切らした玉子が、カモネギよろしくやってきたのは助かったけど」
君は、焼けたパンケーキを皿に切り分ける。
「また、パンケーキ作ってる」
僕は半ば呆れながら、笑って言う。
すると、君もやっぱり笑いながら言う。
「いいじゃない。好きなんだから。好きに、なったんだから」
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