ショートショート「トイレットペーパードライバー」※毎週ショートショートnote5/3お題
最初に、暴力的なまでに時を盗む風がぶつかる。
次いで、風を切る音が耳をつんざき、遥か彼方へと走り去る。
魂に刻まれた興奮を抑え込み、空を仰ぐ。
「教官。こちらでしたか」
白いドライバースーツに包まれた優男が、背後から声をかけてくる。
「教官はやめろ。今の俺は、ルー・ロールだ」
「教官は、いつまでも教官です」
頑固な性格と、確かな才能は未だ健在だった。
ただ、その足に痛々しいギプスが巻かれている。
俺は目を細めて、視線をサーキットコースへと戻す。
「お前の足は、お前自身の未熟さが招いたものだ」
「…当分、ペーパードライバーです」
しおらしい態度に反して燃える瞳に、俺は自然と笑みが浮かぶ。
そして、優男からヘルメットをふんだくると、サーキットコースへと歩きはじめた。
「何故、トイレットペーパーなんです!?」
背中に叫ぶ声が聞こえた。
「教官は、教え子のケツを拭くもんだろ?」
振り返ってそれだけ言うと、初めて優男は悔しそうに唇を噛んだ。
「あの…パンツから白い尻尾が伸びてますよ」
マシンの隣に控えていたメカニックの言葉に、空を仰いだ。
風がやけに冷たかった。
こちらの企画に参加させていただきました。
イギリス英語で、トイレットペーパーをルーロールと呼ぶらしいですよ。
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