ショートショート「好き化粧」※毎週ショートショートnote2/8お題
氷の刃のような水で顔を洗い、化粧水で乾いた大地に水を染み込ませる。
下地を薄く整え、目の下のクマを、恨みがましい目をマシにするため隠す。
ファンデーションの独特な匂いに、ささくれだった心を鎮めていく。
落ち着いた心と寛大さを、眉の丸みに託して。
流し目が、少しだけ涙を流しているように見えるよう、睫毛を立たせていく。
すっかり冷めきった体温を、それでも脈づかせるように頬を赤く染める。
赤。
赤は好きだ。
最後に、唇に真っ赤なルージュを乗せていく。
私の人生を、生きる意味をのせていく。
「準備は出来たか?」
背中に野太い声がかかる。
私は、彼から鏡越しでも見えないように表情を作り、振り返る。
「おはようございます。だんな様」
無言で踵を返して、足早に進んでいく背中を、ままならない着物の裾を整えながら追いかけていく。
私の体温は、もう冷え切っているけれど、心の奥底に燻る赤い情念だけが、私を生かしている。
この感情は、何と呼ぶんだったか。
愛と、そう呼んでも差し支えはないはずだ。
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