第58回理学療法士国家試験 午後36-40の解説
36.高次脳機能障害と症候の組み合わせで正しいのはどれか。(58回午後36)
1.観念失行 ― 敬礼などの単純な口頭指示に従った動作ができない
2.純粋失読 ― 文字を指でなぞっても読めない
3.伝導失語 ― 物品呼称ができない
4.観念運動失行 ― 適切に道具を使用できない
5.肢節運動失行 ― 習熟した行為の遂行が稚拙になる
【答え】5
【解説】
高次脳機能障害は国試頻出問題(中枢神経の臨床問題の最重要ポイントといっても良いぐらいです)ですね。国試までにしっかり勉強するようにしてください。
1.観念失行 ― 敬礼などの単純な口頭指示に従った動作ができない:×
→ジェスチャーや真似ができないのは、観念運動失行です。
国試では観念失行と観念運動失行が頻出です。その2つの区別が時に混乱してしまいます。
観念失行は物の観念(意味)がわからない状態です。優位半球の頭頂葉角回の障害です。物の概念がわからないので、たとえば道具の使い方がわかりません。使い方がわからないので、無意識で(自分から)物を使う事はできませんが、誰かに見本を示してもらうと真似する事ができます【重要】。

2.純粋失読 ― 文字を指でなぞっても読めない:×
純粋失読とはその名のとおり、読字ができない障害です。読字以外は障害されません。視覚は障害されていないので、文字は見えていますが、読めません。日本人では漢字もカタカナも読めないようです。書字は可能です。
Gerstmann症候群は知っていると思います。頭頂葉の角回の障害で失算・失書・左右失認・手指失認が4大徴候でした。
Dejerineの報告によると、下図右のように後頭葉の内側面にある舌状回と側頭葉内側面にある紡錘状回が障害され、ここが障害されると角回と後頭葉の視覚野とを連絡する線維が障害されるそうです。
Gerstmann症候群の失算・失書に連なって、すこし後ろに行くと純粋失語が出てくると覚えれば良いと思います。視覚の統合の障害ですので、感覚の障害はないと考えてください。純粋失読では、点耳のような文字を指でなぞると少し読める事があります。

https://twitter.com/hajiwii/status/1519250479988895744
3.伝導失語 ― 物品呼称ができない:×
伝導失語は「復唱ができない」ことが特徴の失語症です。失語に関連する脳の部位としては、前頭葉のブローカ野と側頭葉のウエルニッケ野がありますが、その2つの部位をつなぐ線維束として弓状束があります。この3つ(ブローカ野、ウエルニッケ野、弓状束)のどこかに障害があると復唱ができなくなります。伝導失語は弓状束の障害で、ブローカ野の障害がないので言語は流暢ですし、ウエルニッケ野の障害がないので言語理解も良好です。
一方、ブローカ失語では言語が流暢でなくなるとともに復唱もできなくなります。またウエルニッケ失語では、言語理解が障害されるとともに復唱もできなくなります。

伝導失語の特徴としては、「みかん、みたん」「ねがね、めまめ」と似たような韻を踏むだけで復唱ができなくなります(音韻性錯語といいます)。
なお、ブローカ失語で復唱ができるものを超皮質性運動性失語といい、ウエルニッケ失語で復唱ができるものを超皮質性感覚性失語といいます。
ただし、失語症の詳細については作業療法士で頻出問題であって、理学療法士での出題の頻度は少ないです。
4.観念運動失行 ― 適切に道具を使用できない:×
→適切な道具に使用法を使用できないのは観念失行です。
観念運動失行というと、「○○の真似ができない」で覚えている人が多いと思います(息子もそうでした)。それが今回のように、口頭指示に従った動作ができない」と書かれると、観念失行?と(何回問題をやっても)間違ってしまうのです。今回のように、観念失行と観念運動失行の両方はが選択肢に出てくればわかる場合もありますが、対比する観念失行の選択肢がないと、ほぼ確実に間違えていました。それで、国試直前に復習し直しました。
観念運動失行は優位半球頭頂葉の縁上回の障害です。観念運動失行は運動の観念(運動をする事)がわからない状態です。たとえば「真似をする」という真似の概念がわからないので真似ができません。「○○しなさい」と指示されても○○するという運動の概念がわからないのです【重要】。
観念運動失行は観念失行とは違って物の使い方はわかっていますから、無意識で(自分から)使う事はできます。しかし、「真似して」と言われても真似という運動の概念がわからないので真似ができません。同様に「○○して」と指示されても「○○して」という運動の概念がわからないので指示に従えないのです。この説明をして、やっと息子は観念失行と観念運動失行の違いを理解できるようになりました。

5.肢節運動失行 ― 習熟した行為の遂行が稚拙になる
肢節とは四肢の関節の事です。肢節運動失行とは運動麻痺や感覚障害がないにも関わらず、四肢の細かい動きができなくなる高次脳機能障害です。
中心溝の後ろにある中心後回(運動野)と中心溝の前にある中心前回(一次体性知覚野)の間に責任病変があり、運動と知覚の連携・統合がうまくいかない事から細かい運動ができなくなると考えられています。
左脳の障害では右上下肢の、右脳の障害では左上下肢の運動が稚拙になります。

37.がん検診の実施が規定されているのはどれか。(58回午後37)
1.介護保険法
2.健康増進法
3.生活保護法
4.障害者総合支援法
5.健康日本21(第二次)
【答え】2
【解説】
問題文の「がん検診の実施が規定されているのはどれか」と読んで「なんじゃこりゃ?そんなん知るか!」と思われるかもしれませんが、安心してください。冷静に考えれば、誤りを除外し正解にたどり着けます。国試では、正解を覚えていなくても、他の4つが誤りだと分かれば正解できるというパターンがあります。この問題は正にそのパターンです。
1.介護保険法:×
介護保健の被保険者は1号保険者が65歳以上、2号保険者が40歳以上65歳未満でした。したがって、対象者は40歳以上で、40歳未満は対象ではありません。
しかし、がん健診は40歳以上でなければ受けられないというのは、どう考えても間違いですね(若くてもがんになる人ありますから)。
2.健康増進法:○
1・3・4・5を間違いとして、残った2を正解として選択します。健康増進法について、詳しく勉強する必要は一切ありません。
3.生活保護法:×
生活保護の人だけ、がん健診が必要な訳はありませんから、これも間違いです。
4.障害者総合支援法:×
同様に障害者だけ、がん健診が必要な訳はありませんから、これも間違いです。
5.健康日本21(第二次):×
がん健診がこんな訳のわからない「健康日本21(第二次)」で規定されているわけありませんよね。ちゃんとした法律で規定されているはずです。
38.装具と疾患の組み合わせで正しいのはどれか。(58回午後38)
1.Williams装具 ― 側弯症
2.Milwaukee装具 ― 腰部脊柱管狭窄症
3.交互歩行装具(RGO)― 二分脊椎(機能残存レベルTh12)
4.Oppenheimer型装具 ― 正中神経麻痺
5.スウェーデン式膝装具 ― 大腿神経麻痺
【答え】3
【解説】
装具の名前と適応を問う問題ですね。装具全般への知識が必要です。
1.Williams装具 ― 側弯症:×
側弯症に対する装具は2つ覚えなければなりません。
Milwaukee(ミルウォーキー)装具をBoston(ボストン)装具です。ミルウォーキーもボストンのアメリカの都市の名前です。
頂椎といって、側弯の曲がりの頂点になる脊椎の位置によって、頂椎が12椎ある胸椎の半分より上の高位胸椎ではミルウォーキー、頂椎が胸椎の半分より下の下位胸椎ではボストン装具を用います(国試頻出ポイントです)。

ミルウォーキーとボストンの覚え方ですが、下図のように、ミルウォーキーでは首を台に乗せるような感じで固定しています。そこから「台の上にミルクを置く」→「ミルク置き」→「ミルウォーキー」と覚えました。
もう一方の装具については、台にミルクではなく「ボストンバック」と奥とイメージするようにしました。「ボストンバック」→「ボストン」です。
この覚え方が、息子もニコニコですぐ覚えました。

Williams装具は、腰痛体操にもWilliams体操って出てきたように(58回午後10の解説を参照してください)腰痛に対する装具です。後ろから見てW の形になっていると覚えました。腰痛に対する装具では他にナイト型・テーラー型・スタインドラー型もあります。

2.Milwaukee装具 ― 腰部脊柱管狭窄症:×
選択肢1の解説のようにMilwaukee装具は側弯症に対する装具です。
腰部脊柱管狭窄症に対してはWilliams型やナイト型装具を用います。腰部脊柱管狭窄症では、後屈で痛みやしびれを生じるので、腰部後屈(腰椎伸展)を制限するような装具が良い適応になります。
3.交互歩行装具(RGO)― 二分脊椎(機能残存レベルTh12):○
58回午後29で解説したように、二分脊椎のTh12残存レベルでは、骨盤帯付き長下肢装具が用いられます。
交互歩行装具 (RGO: Reciprocation Gait Orthosis)は、下図のように腰椎装具と両側長下肢装具を股継手で連結したもので、一方の股関節屈曲が他方の股関節伸展をきたす構造で両下肢を交互に振り出す交互歩行が可能です。

https://www.po-tamura.com/users/child_kashi
4.Oppenheimer型装具 ― 正中神経麻痺:×
正中神経麻痺では、典型的には母指内転筋が対立不能・母指球筋萎縮ととなる猿手が見られます。

https://en.wikipedia.org/wiki/Ape_hand_deformity
正中神経麻痺に対する装具としては、対立装具が用いられます。対立装具には手関節を軽度屈曲位で固定する長対立装具と、手関節を固定しない短対立装具があります。
正中神経麻痺のうち、高位麻痺では、手関節屈筋群の筋力低下のため手関節が掌屈困難となります。この場合、手関節を軽度背屈位で固定しつつ対立医を保持する目的で長対立道具が用いられます(手関節が掌屈できないからといって、掌屈位で固定する訳ではないのに注意してください。良肢位は軽度背屈位です)。一方、手根管症候群のような低位麻痺では、手関節屈筋群の筋力低下がないので、短対立装具が適応となります。

Oppenhaimer型装具は橈骨神経麻痺に対する下垂手に用いられる装具です。下垂手には下図のように、主に3つの装具が用いられます。Thomas型装具やOppenheimer型装具はその形(TやO)から覚えると良いでしょう。

5.スウェーデン式膝装具 ― 大腿神経麻痺:×
スェーデン式膝装具は下図のような装具で、反張膝に適応になります。大腿神経は腰神経叢から出て、大腿部前面の筋肉(縫工筋・大腿四頭筋・腸腰筋・恥骨筋)を支配します。大腿四頭筋、縫工筋は膝関節伸展作用があり、筋力低下により膝折れになりやすく、反張膝を防ぐスェーデン式膝装具は適応にはなりません。

39.温熱の局所反応で正しいのはどれか。(58回午後39)
1.加温によって血液の粘性が増加する
2.Aδ線維がC線維よりも温度変化の影響を受けやすい
3.組織温度が1℃上昇すると代謝率は2〜3倍に増加する
4.反射性血管拡張作用は加温部位の循環が増加する現象である
5.組織温度が1℃上昇すると神経伝達速度は0.2m/sex増加する
【答え】2
【解説】
物理療法の温熱療法に関する問題です。選択肢3や選択肢5はだれも知らない知識でしょう。過去の国試問題でも出てきていない内容です。このような知識は(今後も)覚える必要はありませんが、この問題では選択肢2(引っかけ)をクリアできるかどうかにかかっています。選択肢2の中でも書いてますが、この問題は不適切問題だと思います。
1.加温によって血液の粘性が増加する:×
加温と冷却で粘性がどうなるかイメージしずらいかもしれませんが、加熱すると分子のブラウン運動が活発になるので、血液がドロドロからサラサラになるとイメージしてください。逆に冷却すると、分子のブラウン運動が少なくなるので、血液がサラサラからドロドロになるとイメージしてください。
2.Aδ線維がC線維よりも温度変化の影響を受けやすい:△
選択肢5にもありますが、神経伝導速度は、組織温度が1℃上昇するごとに約2m/秒速くなります。この神経伝導速度の変化は、無髄神経線維よりも有髄神経線維が、また、大径線維よりも小径線維が大きくなります。痛みを伝える感覚神経で考えると、小径の有髄線維であるAδ線維が、無髄線維であるC線維よりも温度変化の影響を受けやすいといえます。
選択肢2の文章は間違っていませんが、この問題は温熱に対する局所反応について問われています。
一般的に寒冷療法(冷やす方)では、疼痛部を冷却すると伝導速度が低下するため、急性痛に対しては寒冷療法が推奨されます。しかし、温熱刺激はこの線維の伝導速度を早めることになり、痛みの増悪につながる可能性もあります。温熱療法は鎮痛作用がありますが、その機序としては組織を温めて血管をひろげ、痛みの原因となる物質を除去するためと考えられています。
したがって、よく勉強されている受験生にとっては、温熱(温める)について問われているので、神経伝導速度に対する影響は違うでしょ?と思うと思います。そうすると、通常覚えていない選択肢5(選択肢3は多分間違いとわかる)を選んで不正解になるでしょう。選択肢5に誘導するのが出題委員のワナなんですよね、きっと。
このようにこの問題は、試験委員のあからさまなひっかけです。この内容を問うのであれば、寒冷療法についてとして出題しなければなりません。個人的にはこの問題は不適切問題だと思います。出題された方がもしこれを見たのであれは、こんな意地悪で不適切な出題はしてはいけないと反省してください。この出題は非難されてしかるべき問題です。
3.組織温度が1℃上昇すると代謝率は2〜3倍に増加する:×
→組織温度はたった1℃上昇したただけで代謝率が2〜3倍に増加するなんてよく考えればあり得ないですよね。これが本当なら、サウナ風呂入っているだけで、どんどん痩せる事になりますね。また熱帯地方には肥満の人はいなくなります。そんなことないですよね?
一般的には組織温度が10℃上昇すると、代謝率は2~3倍に増加します。あるいは組織温度が1℃上昇するごとに代謝位率が約13%増加します。これをファント・ホフの法則といいます。
4.反射性血管拡張作用は加温部位の循環が増加する現象である:×
→反射性血管拡張作用とは、身体のある部分を加温すると、加温部位とは別の部位の血管が拡張して循環が増加する現象をいいます。
5.組織温度が1℃上昇すると神経伝達速度は0.2m/sex増加する:×
→神経伝導速度は、組織温度が1℃上昇するごとに約2m/秒速くなります。
したがって、疼痛部位を冷やす事によって、Aδ線維やC線維の伝導速度を低下され疼痛につなげるのが寒冷療法の主なメカニズムです。間違っても温熱療法のメカニズムではありません。
40.持久力に必要なエネルギー供給系の説明で正しいのはどれか。(58回午後40)
1.ATPは大量に体内に保存できる
2.解糖系の過程をTCA回路という
3.解糖系は無酸素性エネルギー供給系である
4.酸化系は無酸素性エネルギー供給系である
5.ATP-CP系は有酸素性エネルギー供給系である
【答え】3
【解説】
生体内のエネルギー供給系についての設問です。ここでもまた出題委員の惑わせ作戦が見てとれます。選択肢5のATP-CP系という用語は過去一度も国家試験に出題されていません。このように初出の用語は略語ではなく、内容が分かる表記にすべきです。ここではATPはわかるでしょうが、CPという単語がよくわかりません。これが、CP (creatine phosphate: クレアチンリン酸)という表記にすれば、勉強している受験生にはある程度想像がつくようになります。それをいきなりATP-CP系はありません。出題委員の先生、惑わし作戦のやり方が不適切です。ATP-CP系については選択肢の中で解説します。
1.ATPは大量に体内に保存できる:×
ATPは生体内でのエネルギー源の一つです。ATP→ADP + Pi (Piはリン酸イオン)や、ADP→AMP+Piに分解されてPiを放出する際に大きなエネルギーを生み出します。なおATPはadenosine tri-phoslate、ADPはadenosine di-phosphate、AMPはadenosine mono-phosphateといって、アデノシンにリン酸 (Pi)がそれぞれ3つ、2つ、1つ結合しているものを言います。
ATPは筋肉内にごくわずかしか貯蔵されていないので、運動を続けるためには細胞内で常に作り続けられなければいけません。
2.解糖系の過程をTCA回路という:×
下図は一般的な細胞でのエネルギー産生過程です。細胞質内にあるグルコース(糖)がピルビン酸まで分解されるのが解糖系です。解糖系でできたピルビン酸はミトコンドリアに取り込まれて、さらにクエン酸回路 (TCA回路)でエネルギーを産生します。クエン酸回路 (TCA回路)の事を酸素を消費しながらエネルギーを産生するので、酸化系といいます。
したがって、酸化系の過程をTCA回路といいます。

https://hatchobori.jp/blog/5937
解糖系では酸素を消費せずにATPを2分子産生します。その後、ピルビン酸がミトコンドリア内に取り込まれ、クエン酸回路に入ると、酸素を消費しながら34分子のATPを産生します。もし、ピルビン酸がミトコンドリアに取り込まれない場合、ピルビン酸は乳酸に変換され処理されます。

3.解糖系は無酸素性エネルギー供給系である:○
上記のように、解糖系は酸素を消費せずにATPを産生する無酸素性エネルギー供給系です。
4.酸化系は無酸素性エネルギー供給系である:×
酸化系はクエン酸回路 (TCA回路)を介してATPを産生する系です。酸素を消費しながら34分子のATPを産生する事ができます。
5.ATP-CP系は有酸素性エネルギー供給系である:×
生体内、とくに筋肉内では解糖系ークエン酸回路でATPを産生する以外にもエネルギーを供給する系が存在します。それがATP-CP (クレアチンリン酸)系です。
下図左のようにATPからPi (リン酸イオン)が1分子外れADPとなる際に大きなエネルギーが生じます。筋肉内でATPやADPが枯渇すると、筋肉が十分活動する事ができなくなります。そんな時に備えて、筋肉内に存在するクレアチンがあらかじめPi (リン酸)と結合して、クレアチンリン酸として筋肉内に蓄えられています。
激しい運動によってATPやADPが枯渇した場合、筋肉内のクレアチンリン酸からPi (リン酸イオン)が分離してADP + Pi → ATPというようにATPを再合成する事ができます。この反応には酸素を必要としません。

Dr. Sixty_valleyの第61回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
