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第58回理学療法士国家試験  午前16-20の解説

16.80歳の女性。左片麻痺。夫と自宅で2人暮らし。ベットから車椅子への移乗は夫に手を添えてもらう程度で可能だが、車椅子からベットへの移乗では立ち上がる際に腰を引き上げてもらう。FIMの移乗動作は何点か。(58回午前16)
1.6点  2.5点  3.4点  4.3点  5.2点


【答え】4
【解説】
 FIMの問題ですね。これは50回午後17と同じ問題です。国試では過去10年のうち、5年以内では類似問題(すこし変えてくる)となり、6年から10年では同じ問題がでる事があるので、すくなくとも過去10年分の問題は確実にしておきたいです。
 ADLに関する問題は午前も午後も出題されるので、昼の休憩時にかならず見直すように息子には指示していました。

FIMの段階付けの基本は以下の通りです。
7点:完全自立
6点:修正自立
5点:監視・準備
4点:最小介助(介助の程度が25%未満):具体的には手が触れる程度
3点:中等度介助(介助の程度が25%以上50%未満):手で触れる以上
2点:最大介助(介助の程度が50%以上75%未満)
1点:全介助(介助の程度が75%以上)

そして【ベット・イス・車イスの移乗】のポイントですが
4点:まさかのために触れる程度   触れるだけ
3点:軽く引き上げる        持つ
2点:しっかり引き上げる、回す   しっかり持つ
1点:全介助・機械浴
となります。

 問題文では2つの状況があり、「ベットから車椅子への移乗は夫に手を添えてもらう程度で可能」というのはFIMの4点ですが、「車椅子からベットへの移乗では立ち上がる際に腰を引き上げてもらう」は3点となります。
 
 
17.75歳の男性。2型糖尿病でインスリン療法中。腎症、高血圧症および増殖前網膜症を合併しており、週3回血液透析と理学療法のため外来通院している。運動療法で正しいのはどれか。(58回午前17)
 
1.透析日の運動は禁忌である
2.HbA1cの値で運動強度を決定する
3.運動前に口渇が改善するまで飲水を促す
4.倦怠感を訴えるときは低血糖症状の可能性がある
5.運動療法の主目的はインスリン分泌能の改善である


【答え】4
【解説】内部障害のリハビリ問題です(次の問題も内部障害のリハビリ問題です)。ここでは、2型糖尿病と腎不全(透析中)の患者に対するリハビリについて出題されています。

ここでは糖尿病でのリハビリと透析患者でのリハビリの2点を考えなければいけません。

1.透析日の運動は禁忌である:×
まず透析患者に対するリハビリです。透析患者は腎不全が進行し、無尿状態となっていて、水分や老廃物を排出する事ができません。通常2日に1回(週3回)1回あたり4時間程度の透析治療を受けなければなりません。

透析治療を受けていない日(非透析日)にリハビリを行う事は問題ありません。では透析日にはリハビリを行う事は可能でしょうか?

 実は透析治療って体にかなり負担がかかるんですよね。前回の透析治療から次の透析治療を受けるまで2日間ありますから、その間に蓄積した水分や老廃物を4時間の間に除去します。水分でいうと、2日間で体内に蓄積する2L〜3Lの水分を4時間で除去する事になります(健常人の1日尿量は大体1.5Lです。水分制限しても1日1Lぐらいは摂取してしまいます)。急激に水分を除去するため透析後には血圧が低下したり、全身倦怠感が強くなり、リハビリどころではなくなる事も多いです。そのような状況で無理にリハビリを行う事は患者に与える負担も多くなります。したがって、透析治療後や、透析中でも4時間の治療の後半ではリハビリを行う事は勧められません。
 しかし、透析前や透析治療中でも4時間の治療の前半ではリハビリを行ってもよいと言われています。

日本腎臓リハビリテーション学会の腎臓リハビリテーションガイドライン(https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0363/G0001074)でも CQ4 運動療法は透析患者において有用かにおいて「透析患者における運動療法は、運動耐容能、歩行機能、身体的QOLの改善効果が示唆されるため、行う事を推奨する【レベル1b】」とされ、慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)患者への運動療法の実際(エ)透析患者の運動療法の標準プロトコール(透析中)の中の<運動中のリスク管理および運動強度の設定>において、透析前か透析開始か開始30分後から透析前半の時間帯において行い、透析終了直後や透析後半は避けると記述されています。一般的な運動療法の流れとしては、ストレッチ(3〜5分)→レジスタンストレーニング(10〜15分)、エアロバイクなどの有酸素運動(10〜60分)、ストレッチ(3〜5分)の順に行うと記載されています。

以下のように透析治療中もリハビリできるんだというのを写真イメージとして目に焼き付けておいてください。文字だけでなく写真イメージを見ておくと、透析中もリハビリやっていいんだと頭に入りやすいと思います。
ただし、透析後半や透析後はだめと知っておいてください。これは国試未出題です

福山リハビリテーション病院のHPから引用
https://www.fukuyama-rh.jp/toseki/
医療創世大学のHPから引用
https://www.isu.ac.jp/releases/detail---id-2186.html

これは過去問(第52回)でも問われています(ポイントなんです)
………………………………………………………………………………
慢性腎不全患者に対する運動療法として正しいのはどれか。 (第52回 午前 44)
1. 運動によって腎血流は増加する
2. 血液透析日にも運動療法が行われる
3. 運動療法によって糸球体濾過量が改善する
4. 下肢の浮腫には起立台での起立練習が有効である
5. 病期分類ステージ5の症例では5~6METsの運動が適応となる
                                              答え:2
以下第52回 午前 44の解説です
1. 腎臓は心拍出量の20〜25%の血液が流れています。運動時には筋肉に血液が必要ですので、生体は腎血流量を減少させて筋肉に血液を回します【重要】。
2.血液透析日(血液透析中であっても)運動療法が行うのは可能です
3.運動により腎血流量が減少するので、糸球体濾過量も減少します
4.慢性腎不全患者では尿量減少によって体液が増加しており下肢の浮腫がみられることが多いです。この状態で起立練習すると重力により浮腫が悪化します。改善には下肢挙上が有効です。
5.テージ5の重症患者に5〜6METsの運動は過剰です。
………………………………………………………………………………

2.HbA1cの値で運動強度を決定する
糖尿病患者に対するリハビリについてです。糖尿病理学診療ガイドラインによると

Question2  2 型糖尿病患者にはどのような運動療法が 適していますか?
Answer  運動療法の種類は有酸素運動を基本として,レジスタ ンス運動も行うことが望ましい。運動強度は中等度(最大酸素摂取量の 40 ~ 60%)の強度,運動持続時間は 20 ~ 60 分,運動頻度は週に 3 ~ 5 回が勧められる。【推奨 グレード A】【エビデンスレベル 1】

と記載されており、さらに「運動強度 の指標は心拍数を用いることが理想であるが、2 型 糖尿病患者では自律神経障害を有している場合もあり, 米国糖尿病学会などでも,自覚症状(「ややきつい」まで)で運動強度を推定(決定ではありません)するのが有用であるとされてい る」と記載されています。

設問に挙げられているHbA1cは血糖コントロールの長期指標です(約3ヶ月間の血糖コントロールが良いか悪いかがわかります)。HbA1c高値は血糖コントロールが悪く、高血糖が持続している事が多い事を意味していますが、運動療法を行う時点での血糖を意味している訳ではなく、運動開始時点で逆に低血糖である場合もあります。また、たとえ運動開始時点で高血糖であっても運動により急激に低血糖になる恐れがあり、高血糖程ほど運動強度を上げるのは間違いです。逆に高血糖が重度の場合に起こる①ケトアシドーシスや②増殖性網膜症がある場合にはごく軽い運動にとどめなければなりません【国試ポイント:重要】

3.運動前に口渇が改善するまで飲水を促す:×
糖尿病患者が高血糖になると口渇を訴え、飲水をして血液を薄める事によって高血糖を是正しようとします。多く飲水(多飲)すると必然的に尿も多くなり、多飲多尿は糖尿病患者によくみられる症状です。糖尿病患者は運動療法中の低血糖に特に注意しなければなりません。運動療法は食後30分〜透析前半に行うのが原則です。このように運動療法中の低血糖が怖いので運動前に飲水を促し、血糖を無理に下げる事は勧められません。この設問で決定的にだめなのは、透析患者であるという事です。透析患者では、自尿がないため、水分摂取は厳格に制限されなければなりません。糖尿病を合併する事で口渇が生じますが、透析患者が過剰に水分を摂取すると高血圧や肺水腫となってしまうので禁忌です

4.倦怠感を訴えるときは低血糖症状の可能性がある。:○
 糖尿病患者の運動療法では運動により糖が消費されることによる急性低血糖に注意しなければなりません。高血糖と低血糖」の主な症状を下のイラストにまとめました。

図左 糖尿病とともに 絵で見る自己管理入門三和化学研究所
より引用・改変
https://med.skk-net.com/useful/patient/item/GLA-131.pdf
図右 DMTOWN Q&A 低血糖になったら から引用・改変
https://www.dm-town.com/qa/qa-case/qa-case_001/


5.運動療法の主目的はインスリン分泌能の改善である:×
 糖尿病患者に対する運動療法の効果についてまとめます。
 選択肢のように、たとえ運動療法を行っても、膵臓からのインスリン分泌が再び増える事はありません。糖尿病に対する運動療法の効果は以下の通りです。
【1】短期効果:血糖低下
運動によって筋肉で糖が消費され、血糖が低下する作用があります。前述のように運動により糖が急激に消費され低血糖になる恐れがあるので、運動は食後30分から2時間の間に行う事が良いとされています。これは、食後による血糖上昇により低血糖になるリスクが少なくなる事に加えて、食後の高血糖を抑える事が期待できるからです。食後高血糖は動脈硬化のリスク因子であるため、動脈硬化抑制効果も期待できます。

【2】中・長期効果:インスリン抵抗性の改善
 
インスリン抵抗性とは聞きなれない言葉でしょう。このような聞き慣れない用語は受験生を惑わすには格好の材料です。設問のようにインスリン分泌能と合わせて設問を作れば受験生は惑わされるのは必然でしょうね。ですから、設問のインスリン分泌能とインスリン抵抗性についてしっかり理解しておく必要がありますね

 インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されていても、筋肉などの組織でそれがうまく作用できない状態の事をいいます。インスリンが分泌されている事が前提ですので、インスリンがほとんど分泌されないI型糖尿病ではなく、インスリンが少ないながらも分泌されるII型糖尿病患者での話になります。

 血中の糖は運動時には筋肉で利用されるために筋肉に取り込まれます。また血中の糖を利用する必要がない場合には肝臓に取り込まれてグリコーゲンに変換されたり、脂肪組織に取り込まれて中性脂肪に変換されて貯蔵されます。

導尿病教室(3) インスリンの働きを知ろう しもやま内科HPより引用
https://shimoyama-naika.com/diabetes/act/

 筋肉は活動量の低下や運動不足が続くと、ブドウ糖取り込み能力の低下を招きインスリン抵抗性の原因になります【重要】。運動を行わないでいると筋肉が眠った状態になっていると想像すれば良いでしょう。眠っていると、宅配業者が荷物をもってきて玄関でピンポンを押しても気がつかないのと同じです。運動療法をする事によって、筋肉が活性化し、インスリンによる糖の筋肉への取り込みが改善するのです。このように、理学療法が病態改善に寄与できる点については国家試験でも繰り返し問われるポイントになりますね(出題委員もこれ知っておいてねと強調しているのです。

 なお、インスリンの抵抗性が改善すると、インスリンが効きやすくなりますね。「インスリンが効きやすい」という事は言い換えると「インスリンへの感受性が改善する」という事になります。このあたりは受験生を惑わせるには絶好の用語ですので注意してください。以下に惑わされやすい点についてまとめておきます。

 糖尿病患者に対する運動療法は
1.インスリンの抵抗性を改善する
2.インスリンの感受性を改善する
3.インスリンの分泌能は改善しない

【3】筋肉量増加による基礎代謝の向上
 
運動によって筋肉量が増加すると、基礎代謝をが増える事よって血糖コントロールの改善に役立ちます。またが筋肉量の増加は前述のインスリン感受性を高める働きもあります。
 筋肉量を増やす運動としては、おもりやダンベルなどを使用し負荷をかけたレジスタンス運動が推奨されます。糖尿病に対する運動療法に有酸素運動に加えてレジスタンス運動が推奨されるのはこの理由です。

18.78歳の男性。COPDによるII型呼吸不全。安静時および運動時に1L/分の在宅酸素療法を導入している。理学療法士による患者指導として正しいのはどれか。(58回午前18)
 
1.上肢の挙上動作を反復して行うように指導する
2.吸気時間を延長するために口すぼめ呼吸を指導する
3.呼吸困難に応じて酸素流量を増量するように指導する
4.体調や呼吸器症状が日誌への記録をもとに生活指導を行う
5.主に心理的なリラックスを得るためにリラクセーションを指導する


【答え】4
【解説】
COPDに対するリハビリテーションは内部障害リハの一つのヤマです。いくつかのポイントがありますので、設問を見ながら解説を加えます。

1.上肢の挙上動作を反復して行うように指導する:×
上肢の挙上動作は胸郭の動きを制限するため避けるべきです【国試既出】。過去にも以下のように出題されています。
………………………………………………………………………………
慢性閉塞性肺疾患のADL動作で最も息切れが生じやすいのはどれか。 (第52回 午後 39)
1. 食事   2. 排尿    3. 歯磨き
4. 洗髪   5. ズボンの着脱 
                                               答え4
………………………………………………………………………………

2.吸気時間を延長するために口すぼめ呼吸を指導する:×
  →呼気時間を延長するために口すぼめ呼吸を指導する(正しい)
COPDでは腹式呼吸と口すぼめ呼吸がポイントです【重要】。ここではCOPDの病態を理解して正確に理解しておく必要があります。COPDは慢性閉塞性肺疾患といい、気道に閉塞をきたしますが、呼吸の吸気や呼気のうち、いつ閉塞を起こすでしょうか?下図のように、吸気時には胸郭が広がる事により、胸腔内圧の陰圧が強くなり、肺が広がりますが、同時に気管支など末梢気道も外に引かれるため、気管支が拡張します。一方、呼気時には、広がっていた胸郭が元に戻るため、胸腔内圧の陰圧が弱まり、肺が縮小し、気道内圧が陽圧になることによって、肺の中の空気が外に出て行きますが、気管支などの末梢気道も外から圧迫を受けます。

正常では呼気時に末梢気道が閉塞する事はありませんが、COPD患者では喫煙の影響で慢性気管支炎となっており、末梢気道が狭くなっています。この状態がひどくなると、呼気時に外から気道が圧迫された際に閉塞をきたしてしまうのです。したがって。COPDの気道閉塞は呼気時に起こります【重要】。一方、吸気は気管支が拡張するため、気道が閉塞する事はなく、吸気が延長する事はありません【重要】。

べーリンガー COPDの呼吸リハビリテーションに役立つ「口すぼめ呼吸」より引用改変
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/sites/default/files/2020-10/pdf_spo_mts_t_l_everyday01.pdf

口すぼめ呼吸は呼気時に口をすぼめる事によって、呼気の呼出を遅らせる(呼気時間を延長させる)事によって、気道内圧を高く保つ事ができ、呼気時の気管支など末梢気道の閉塞を防ぐ事ができます。それにより、呼気がスムーズになり、残気量も減らす事ができます。

3.呼吸困難に応じて酸素流量を増量するように指導する:×
患者の自覚症状は時に信頼できない事があります。呼吸状態が重症で経皮的酸素飽和度が低値であっても、呼吸困難が長期になるとそれに慣れてしまって呼吸困難を自覚しない場合もありますので注意が必要です。酸素吸入をしている場合は経皮的酸素飽和度を指標に観察しながらリハビリを実施しますが、理学療法士が直接酸素流量の変更を指導してはいけません。酸素流量の調節はかならず医師の指示の下に行うようにしましょう。この設問では2つの間違いがあります。一つ目は「患者の自覚症状に合わせて酸素流量を調節する」ですが、2つめは「理学療法士が酸素流量の調節を指導する」です。またCOPD患者ではたとえ経皮的酸素飽和度が低値でも急に高濃度酸素を吸入させると、CO2ナルコーシスとなったり、場合によっては呼吸停止をきたしたりするので、患者が呼吸困難を訴えた場合はかならず医師に相談するようにしてください。

4.体調や呼吸器症状の日誌への記録をもとに生活指導を行う:○
選択肢4の記載に問題はありません。

5.主に心理的なリラックスを得るためにリラクセーションを指導する:×
COPDの呼吸リハについて、もう一つ重要な事は腹式呼吸と呼吸筋のリラクセーションです。COPD患者では浅くて速い胸式呼吸をしている事が多いです。しかし胸式呼吸は疲れやすく、浅くて速い呼吸は死腔換気が多くなり、呼吸効率が悪く、息切れを生じやすくなります。COPD患者は呼吸にエネルギーを多く使うため、痩せ型の人が多いのも特徴です。胸式呼吸を行っているCOPD患者では胸郭の呼吸筋や頚部の呼吸補助筋が過緊張になっている事が多いことから、これらのリラクセーションが有効です(心理的なリラックスを目的としている訳ではありません)。また胸式呼吸による負荷を減らすため、腹式呼吸を積極的に取り入れる事も重要です

環境再生保全機構 すこやかライフ COPD患者のための家庭でできる運動療法を引用改変
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/42/report/report08.html


19.68歳の男性。NYHA心機能分類class IIIの僧帽弁閉鎖不全に対して経皮的僧帽弁形成術を受け、術後経過良好で退院することになった。退院時の運動機能評価として適切なのはどれか。(58回午前19)
 
1.クリニカルシナリオ分類
2.マスターシングルテスト
3.Nohria-Stevenson分類
4.ハンドグリップテスト
5.6分間歩行テスト


【答え】5
【解説】
 NYHA class IIIの僧帽弁閉鎖不全で心不全があった患者が手術(僧帽弁形成術)を受け、術後心不全が回復し、退院時の運動機能を評価する場合の評価法についての設問です。僧帽弁閉鎖不全では、左心室から左心房へと血液が逆流し、重症だとうっ血性心不全になります。手術方法は人工弁で弁を置換する方法と弁はそのままで弁輪を縫縮(縫い縮める)する弁形成術があります。それぞれの手術法の利点・欠点については、人工弁置換術では逆流を完全にゼロにする事ができますが、縫縮術ではいい感じに縫い縮めるのが難しく、すこし逆流が残る場合もあります。また人工弁置換術では術後に抗凝固薬を飲み続けなければいけませんが、弁形成術では抗凝固薬を飲む必要がないという利点があります。
 普通に勉強していれば2のマスターシングルテストと5の6分間歩行テストは見た事があると思います。1.3.4の選択肢は見た事がない人も多いのではないでしょうか?
 国試テクニック的にはこのような場合(過去に出題のない選択肢がたくさん出た場合)は、見た事のない選択肢が正解になる事はまずありません。正解は2か5になりますが、後に解説するように正解は5になります。以下、選択肢について説明を加えますが、その前にスタンダードな心不全評価の方法も復習します。

心不全の評価方法
【1】NYHA分類
New York Heart Assiciation分類(ニューヨーク心臓協会の分類)
自覚症状に基づいた分類です。

簡単には以下の通りです
NYHA class I: 正常:通常の身体活動では症状なし
NYHA class II: 階段や坂道を登ると症状(息切れ)が出る
NYHA class III: 平地を歩いても症状(息切れ)が出る
NYHA class IV: 安静時でも症状(息切れ)が出る

【2】フォレスター分類
 これは集中治療室(ICU)や冠疾患集中治療室(CCU)でスワン・ガンツカテーテルという器具を用いなければ評価できない分類です。スワン・ガンツカテーテルで心拍出量の指標である心係数と肺動脈楔入圧を測定して患者の状態を4つに分類します。ちなみに肺動脈楔入圧は左室拡張末期圧を反映すると言われています。
 下図のY軸で心係数(=心拍出量)が2.2より上は心拍出量が保たれている事を表します。X軸で肺動脈楔入圧が18mmHg以下は肺うっ血がすくない事を表します。一番状態が良いのはサブセットI(心拍出量が多くて、肺うっ血がなりい)で、一番状態が悪いのはサブセットIV (心拍出量が少なくて、肺うっ血がある)事になります。ただしこのような分類はICUやCCUでのみ使用する指標で、通常の医師でも使いません。ましては理学療法士が利用する事は皆無です。ただしこれを理学療法士でも利用しようとしたものが、後述するNohria-Stevenson分類になります。

日経メディカル フォレスターの分類は生きている から引用
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/murakawa/201906/561017.html



1.クリニカルシナリオ分類:×
クリニカルシナリオ分類は急性心不全で運ばれてきた患者を収縮期血圧とその他の所見からいくつかのパターンに分類し、治療を早期に行おうという分類方法です。当然医師が用いる分類方法で、理学療法士が用いる事はありません。したがって、それについて詳しく学ぶ必要はありませんが、選択肢として出題される事があるのでその存在は知っておいてください(正解として選ぶ可能性はほぼゼロです)

小田あかり 心不全の分類ってなに?最新の心不全の分類を徹底解説 より引用
https://hatoraku.com/20230112/

2.マスターシングルテスト:△
 マスターシングルテストは一段9インチの高さの凸型の階段の昇降を、年齢、性、体重に応じた一定の昇降回数で1分30秒間(シングル)、または3分間(ダブル)で行い、運動の前後で心電図記録を行い、心筋虚血の有無を調べる方法です。心不全の運動負荷耐容能の評価にも使えますが、基本的には狭心症の検査です。

3.Nohria-Stevenson分類:×
フォレスター分類が医師(とくにICUやCCU)でしか使用できないものであったため、医師以外の職種でも心不全の状態が推定できるように出てきたものがNohria-Stevenson分類です。これは心不全の病初期に病態を把握するために用いられるもので、回復期の運動負荷耐容能を見るものではありません。

医学書院 医学会新聞 [第2回] 心不全の病態を把握しよう より引用
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3481_05
日本離床学会 Q&A Vol.155【触ってわかる】ノーリア分類を正しく理解していますか? から引用
https://www.rishou.org/activity-new/qa/qa-vol-155#/

 縦軸に関して、フォレスター分類で縦軸はスワンガンツカテーテルを用いて測定する心拍出量(心係数)でしたが、Nohria-Stevenson分類ではその代用として、四肢が暖かい(WARM)か冷たい(COLD)かで分類しています。心拍出量が多いと四肢は暖かく、心拍出量が少ないと冷たい(COLD)になることを利用しています。心拍出量が少ない(低灌流)の所見としては、四肢冷感・小さい脈圧・傾眠傾向・低Na血症・腎機能悪化などが挙げられます。
 横軸はフォレスター分類では肺動脈楔入圧(左室拡張末期圧)を指標としていますが、これが高いと肺に血液がうっ血し、肺水腫になっていきます。うっ血所見としては起座呼吸・頚静脈圧の上昇・浮腫・腹水・肝頚静脈逆流などが挙げられます。

このような未出題の新しい検査方法や分類が出題された場合、翌年にそれを問うような問題が出題される場合があるので、要注意です。以下に59回の予想問題をお示しします。

【予想問題】
……………………………………………………………………………
心不全を低灌流の所見(warm or cold)とうっ血の所見(dry or wet)で評価し、4つのカテゴリーで評価するのは以下のどれか
1.NYHA分類.
2.クリニカルシナリオ分類
3.マスターシングルテスト
4.Nohria-Stevenson分類
5.6分間歩行テスト                
                                     
予想問題の答え4
……………………………………………………………………………

4.ハンドグリップテスト:×
ハンドグリップテストはハンド(手)でグリップ(把握)する方法で行うテストです。具体的には握力計を用いて、最大握力を測定した後、最大握力の約70%程度の負荷で5分間握力計を握り続けることで心臓に負荷(とくに後負荷)をかけ、その前後で血圧や心拍数の変化を評価します。いわゆる等尺性収縮を起こし、血圧が上昇するので、心不全評価の第一選択とはなりません。。血圧上昇を伴うので通常医師が行う検査法です。

なお、ハンドグリップテストは50回午後46で出題されています。
……………………………………………………………………………
運動負荷量を段階的に増加させる評価法はどれか。(50回午後46)
1. Bruce法
2. 踏み台昇降テスト
3. 12分間歩行テスト
4. ハンドグリップテスト
5. マスターシングルテスト
                                                                   50回午後46の答え:1
……………………………………………………………………………

5.6分間歩行テスト:○
6分間歩行テスト (6 minutes walking test: 6MWT)は屋内の30mの直線コース(廊下など)を患者さんが可能な限り速く歩いて往復し、6分間で歩行した距離を測定します。6分間歩行テストは運動耐容能を評価できる良い指標と言われています【重要】。歩行という日常動作で検査できるのが特徴です。

中外製薬 6分間歩試験 より引用
https://chugai-pharm.jp/contents/cb/022/09/?viewas=3

一般に200m未満では外出不可、400m以上で歩行自立、外出可能と言われています。


20.74歳の女性。変形性膝関節症に対して人工膝関節全置換術が行われた。術後に使用するCPM装置で正しいのはどれか。(58回午前20)
 
1.筋力増強を目的としている
2.徐々に屈曲角度を大きくする
3.できるだけ速い速度で関節運動を行う
4.CPM装置の動きに抵抗するように力をかける
5.CPM装置は決められたアーム長のものを使用する


【答え】2
【解説】
58回午前9の膝OA患者の骨切り術後の理学療法でも解説しましたが、膝関節の術後ではCPM装置が良く用いられます。
CPMとはcontinuous passive motionの略で持続的受動的動作という意味です。
 膝関節置換術の術後後、しばらく膝関節を動かさない状態が続くと、膝関節が硬くなり、膝のROMが制限されることがあります。膝のROM制限を防ぐために、術後の早い段階から、膝関節の曲げ伸ばしなどを行う可動域改善運動を行うことが大切です。
 また安静により下肢に深部静脈血栓症を起こしやすいので、荷重せずに膝を動かすリハビリが行われます。

関節治療オンライン 膝の人工関節置換術後のリハビリ方法について医師が解説 より引用
https://seikei-online.jp/column/knee/10669


1.筋力増強を目的としている:×
 CPMはその名の通り受動的(passive)に膝関節を動かすものですので、筋力増強トレーニングにはなりません。前述のように、主に関節可動域訓練と下肢深部静脈血栓予防目的に行われます。

2.徐々に屈曲角度を大きくする:○
 術後早期から行うために、授動とともに術部出血のリスクもありますので、最初は小さい屈曲角度から始め、徐々に屈曲角度を大きくしていきます。

3.できるだけ速い速度で関節運動を行う:×
 ゆっくりとした関節運動で行います。
 
4.CPM装置の動きに抵抗するように力をかける:×
 筋力増強運動でないので抵抗をかける必要はありません

5.CPM装置は決められたアーム長のものを使用する:×
 アームの長さは患者の下肢の長さに合わせて調節します。当然ですね。

なお、CPMに関して、知念 弘らは「人工膝関節全置換術に対するCPMの使 用経験(整形外科と災害外科36 (1): 63-66, 1987)において、以下のように記述しています。

(1) ROM の改 善 お よび創 部 の 浮 腫 につ い て
CouttsらはTKR術後の症例に対しCPMを1日20時間、平均14日間使用し、ROMの獲得の改善および創の浮腫や関節腫脹の軽減が認められたことを報 告し、更にLagranaらは皮膚の伸縮運動が創治癒を促 進することを動 物 実験により証明した。

(2)術後出血量 につ いて
O'Driscollらは,ニュージーランド兎 の 膝 に抗凝固性の自家血を注入し、CPM使用群の関節血腫のクリアランスが有意に高いことを報告している。

(3)疼痛につて
Frankらは、リズミカルな関節運動がpain-spasm reflexを阻止すると考えており、Salterらは関節運動の繰り返しが固有刺激となって中枢に働き、痛み刺激が脳に入るのを阻止する、いわゆるgate control theoryを唱えている。さらにCouttsらは、TKR術後の患者にCPMを使用することにより鎮痛剤の使用量が減少したと述べている。

(4) CPMの使用期間について
CPMの使用期間に関しては、疾患・目的によって種々異なると考えられている。島崎らは3週間以上CPMを使用した家兎で筋萎縮が著明であったと述べており、漫然とCPMを続けることに批判的である。知念らはTKR術後2週間でCPMを中止しているが、この時期はすでに積極的なリハビリテーションが開始されており、その後のROMの獲得も良好で、現在のところCPMの使用期間は2習慣で十分であると考えられていると述べている。

(5) CPMの開始時期について
知念らは関節の拘縮および癒着の防止、ROMの獲得の点から考えると、CPMの開始時期は早ければ早い程良いと思われると述べている。



Dr. Sixty_valleyの第61回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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