第58回理学療法士国家試験 午後46-50の解説
46.1950年代、北欧での知的障害者の人権改善運動の発端となった取り組みはどれか。(58回午後46)
1.バリアフリー
2.ノーマライゼーション
3.ユニバーサルデザイン
4.ソーシャルインクルージョン
5.IL <Independent Living>運動
【答え】2
【解説】
社会福祉の歴史的な経緯を問う問題で、難問になります。出題委員が受験生に得点させたくない意図がみえみえの問題です。
1・2・3は聞いた事があると思いますが、4・5は初出だと思います。これを機会に1〜5について学びましょう。次回以降は4や5の内容が出題されるかもしれませんので解説に詳しく書きました。
ポイントとしては「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」は「ノーマライゼーション」の具体的方法になります。
1.バリアフリー:×
バリアフリーはノーマライゼーションの一つの方法で、障がい者や高齢者など身体的弱者が日常の中で感じる「障壁(バリア)」を無くすための工夫や取り組みです。すなわちバリアフリーは「現在ある障壁を無くす」取り組みです。
2.ノーマライゼーション:○
ノーマライゼーション (normalization:正常化する)とは、「障害を持つ人と健常者とともに暮らせる社会づくりをする事」です。
ノーマライゼーションは、1950年代にデンマークの社会省担当官だったニルス・エリク・バンクーミケルセンにより提唱されました。同氏は当時決して良いとは言えない環境に置かれていた知的障害児の存在を問題視しており、知的障害者も一般的な人々のような生活を送るべきだと考えていました。「障害の有無に関わらず、人々にはより快適に当たり前の生活をする権利があり、社会全体でそれを実現していく必要がある」という考え方は徐々に社会的な運動へと発展していき、1959年にデンマークで「知的障害者福祉法」が制定され、世界で初めてノーマライゼーションの理念が法律に導入されることとなりました。
3.ユニバーサルデザイン:×
ユニバーサルデザイン(universal design:普遍的デザイン)とは、障がい者だけではなく、全ての人が使いやすい・扱いやすいデザインの事で、「そもそも障壁がないものを作る」事を意味します。この意味で、元からある障壁(バリアー)を取り除く「バリアーフリー」とは意味が異なっています。
4.ソーシャルインクルージョン:×
Social (社会の)Inclusion (含む事)とは、「すべての人々を排除せず、包摂し、共に生きることができる社会を目指す考え方」です。
これは1970〜1980年代にフランスで提唱された概念です。この頃、ヨーロッパ全体とりわけフランスでは若者の失業問題が社会問題化しました(フランスっていつも若者の失業問題がクローズアップされています。フランス人ってどちらかというと勤勉ではないんですよね)。
失業していた若者が社会の一員としてなかなか受け入れられないという事が問題となり、社会に受け入れられていない事を「ソーシャルエクスクルージョン (Social exclusion: 社会的排除)」と呼ばれていました。そして、そういう人たちを排除しないように取り組もうという考え方・運動が「ソーシャル・インクルージョン(Social inclusion: 社会的包摂)」です。
このように、ソーシャルインクルージョンと聞くと、障害を持つ人を社会の一員として考えるみたいなイメージがあるかもしれませんが、障害者だけに限定する考え方ではありません。たとえば外国からの移民も社会から孤立しやすいですが、企業が積極的に外国人からの移民を雇用しようという取り組みもソーシャルインクルージョンに含まれます。
5.IL <Independent Living>運動:×
Independent livingとは自立生活の事です。自立生活運動は以下のように1968年にアメリカで生まれました。
1968(昭和43)年に鉄の肺を使用していた重度身体障害を持つエド・ロバーツ氏がカリフォルニア大学バークレー校に入学するにあたり、学生寮にバリアがあって入居できなかったために、大学の保険センターを寮として使用しました。そして同氏が大学を卒業する時に、市内に生活しやすい場所がなかったことに伴い、アメリカカリフォルニア州の重度の障害がある学生たちが中心になって、自立生活(Independent Living:IL)運動を活発に展開したと言われています。そうして、1972年カリフォルニア州バークレーに障害者が運営し、障害者にサービスを提供する”自立生活センター”が設立されました。
自立生活センターは、運営委員の過半数と事業実施責任者が障害者であるという利用者のニーズが運営の基本となるシステムを持っています。
47.臨床実習中の守秘義務で正しいのはどれか。2つ選べ。(58回午後47)
1.学生用パソコンのウイルス対策ソフトを実習前に最新のものに更新した
2.患者の経過が記された報告書を同級生にメール添付し送信して相談した
3.症例報告用のレジュメを実習終了後にシュレッダーで処分した
4.実習生同士がファミリーレストランで担当症例の検討をした
5.病院カルテの内容を自身のスマートフォンで撮影した
【答え】1,3
【解説】
守秘義務に対する基本的な問題ですね。常識の範囲で答えられると思います。
1.学生用パソコンのウイルス対策ソフトを実習前に最新のものに更新した:○
パソコンがウイルスに感染すると、パソコンの中にある情報が流出するおそれがあります。ウイルスは日々新しいものが出てきますので、ウイルス探索ソフトを最新のものをインストールすべきです。
2.患者の経過が記された報告書を同級生にメール添付し送信して相談した:×
メールで送信する場合、誤って別の人に送ってしまうと、患者情報が流出してしまうので、患者情報が入ったものをメールでやりとりするのはダメですね。
3.症例報告用のレジュメを実習終了後にシュレッダーで処分した:○
実習終了後は保存すべき資料以外はシュレッダーで処分し廃棄すべきです。
4.実習生同士がファミリーレストランで担当症例の検討をした:×
ファミリーレストランで声に出して相談したりすると、隣の席の人に情報が漏れてしまう恐れがあります。また声に出さなくても、隣から資料が見えてしまう恐れもありますので、ファミリーレストランで症例の検討はすべきではありません。
5.病院カルテの内容を自身のスマートフォンで撮影した:×
カルテは法律で作成が定められた書類です。許可なくコピーしたり、撮影してはいけません。
48.介護予防事業の基本チェックリスト質問項目でないのはどれか。(58回午後48)
1.「転倒に対する不安は大きいですか」
2.「15分ぐらい続けて歩けますか」
3.「この1年間に転んだことがありますか」
4.「何もつかまらずに床から立ち上がっていますか」
5.「階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか」
【答え】4
【解説】
「こんな事聞かれても…」という問題です。出題委員は何を意図して出題しているのでしょうかよくわかりません。58回午後46と同様に、受験生に絶対に得点させたくないという意図がみえみえの問題です。
以下は介護予防事業の基本チェックリストです。

https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1477975526354/simple/tyekkurisutomanyuaru.pdf
このうち
1〜5は、日常生活関連動作についての質問
6〜10 は、運動器の機能についての質問
11〜12 は、低栄養状態かどうかについての質問
13~15 は、口腔機能についての質問
16〜17 は、閉じこもりについての質問
18~20 は、認知症についての質問
21~25 は、うつについての質問
だそうです。
設問では、6〜10の運動器の機能についての質問から出題されていますが、選択肢4が「何もつかまらずに床から立ち上がっていますか」ですが、正しくは「椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか」です。
・・・・・・・・・・
ひどいですね。ひどすぎる。鬼だわ。
・・・・・・・・・・
こんなもの、日常的にそれをチェックする業務に当たっている人は自然に違いがわかるでしょうが、受験生にそれを求めるのは酷です。この基本チェックリストを一言一句覚えるのは受験生には不可能です。この問題を出題している試験委員に聞きたいです。あなたはすべての分類を一言一句正確に覚えていますか?と。そんなの無理ですよ。
1点問題ですから、今後このような問題が出るかもと言って、必死で覚えるのは時間の無駄です。このような問題は捨てても良いと思って受験勉強する事が合格への近道です。
国試出題委員はこのような問題は出題しないようにしてもらいたいです。
49.理学療法士が行う院内感染対策として適切でないのはどれか。(58回午後49)
1.手指衛生
2.感染経路の把握
3.ガウンテクニック
4.院内ガイドラインの遵守
5.感染者の病室の配置管理
【答え】5
【解説】
この問題は、国試が終わって問題文を見せてもらった時に不適切問題になると思いましたが、厚労省発表では不適切問題になりませんでした。答えは5の「感染者の病室の配置管理」ですが、たしかに理学療法士が病室の配置管理を行う事はありません。実際は医師や看護師が入院患者の状況を見て総合的に判断するのでしょうが、理学療法士がやって「適切でない」という事ではありません。理学療法士も意見を言っても良いと思います。
また「感染者の病室の配置管理」は実習程度でなかなか遭遇できず、実感できない話です。出題者は、「不適切」というなら、明らかに不適切な内容を提示すべきです。
1.手指衛生:○
→感染対策の基本です
2.感染経路の把握:△
→実際問題として、理学療法士が感染経路を調査して把握すべきものでしょうか?甚だ疑問です。理学療法士は理学療法を指示された患者に対して、十分感染対策を行った上で施行すべきです。もし、患者が感染源であると疑われるのであれば、医師から理学療法を中止するように指示があるはずです。感染経路の把握は理学療法士の主要な業務ではありません。
3.ガウンテクニック:○
新型コロナウイルスなど感染性(特に接触感染性)が高い患者に接する場合、ガウンテクニックが必要な場合があります。
4.院内ガイドラインの遵守:○
院内・院外を問わずガイドラインは遵守する必要があります。これは二重のひっかけの罠が仕掛けられてます。
まず「院内」ガイドラインとして、通常広く知られている(院外の)ガイドラインとは区別している所です。では「院外」と「院内」のガイドラインがあり、それぞれの記載が異なっていればどちらを遵守すべきでしょうか?謎ですね。わざわざ院内などと書かなければいいのに…。受験生を混乱させようとする罠ですよね。
2番目の罠は「遵守」という言葉です。難しい言葉ですね。その意味がわからない受験生もいたのではないでしょうか?「遵守」の中に「守」という文字があるので「守る」事なのかなとわかる受験生もいると思いますが、「遵守」という単語に意味がわからなかった受験生もいると思います。「遵守」でなくて単に「守る」で良いと思いますが…。そんな細かいところで受験生を惑わすような事しなくても良いのに…というのが率直な感想です。
5.感染者の病室の配置管理:△
解説の最初で書いたように、理学療法士の主要な業務ではありませんが、理学療法が行って適切でないとも言い切れません。「適切でない」というのは、「やってはいけない」という意味です。どう考えてもこの問題は不適切問題ですね。
50.検査と身体状況の組み合わせで正しいのはどれか。(58回午後50)
1.BBS ― 体格
2.FIM ― 呼吸機能
3.MMSE ― 平衡機能
4.NRS ― 疼痛
5.VAS ― 認知機能
【答え】4
【解説】
このあたりは受験生を惑わす問題のオンパレードですね。
1.BBS ― 体格:×
BBSとはBerg Balance Scaleの略でFBS (Functional Balance Scale)の別名です。体格ではなく、バランス障害の程度を表すスケールです。わざざわ別名を出さずに、一般的に用いられるFBSと書かないところが国試の嫌らしいところですね。
2.FIM ― 呼吸機能:×
FIM (Functional Independence Measure)はご存じのとおりADLの指標です。
3.MMSE ― 平衡機能:×
MMSE (mini mental state evaluation)はHDS-Rと並んで有名な認知症の評価スケールです。
4.NRS ― 疼痛:○
NRS (Numerical rating scale)とは疼痛の程度を数字(Numericalは数字 [number]から派生した「数字の」という意味です)で表したスケールです。
NRSは直線を〈痛みがない:0〉から〈最悪な痛み:10〉までの11段階に区切って、患者さん自身に現在の痛みに相応する数値を示してもらい、痛みを評価します。

https://knowledge.nurse-senka.jp/226068/
5.VAS ― 認知機能:×
VAS (Visual Analogue Scale)も痛みの程度を視覚的(visual)に表すスケールです。VASは紙の上に10cmの線を引いて、左端に0(全く痛みなし)、右端に100(今までで一番強い痛み)と書きます。患者さんに「あなたの痛みはどれくらいですか?」と質問して、0〜100の間のどのあたりになるのかを指し示してもらうことによって、痛みを評価します。

痛みの程度を表すスケールとしては、NRS、VASの他にフェイススケールというものもあります。フェイススケールは痛みの表現を言語や数値ではなく、人の顔の表情によって評価するスケールです。患者さんに自分の心情に近い表情を選んでもらい、痛みを評価します。

Dr. Sixty_valleyの第61回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
