退職願いを書いた日 〜33年の葛藤と決断〜
昨年の6月、退職する日の2カ月前のこと。
私は人生で二度目となる退職願いを書いた。
前回はまだ20代。
本を見てドキドキしながら書いた記憶があるけど、今回は違う。
いまやネットで「退職願いの書き方」と検索すれば、簡単に必要な情報が手に入る。
パソコン画面に表示された見本を見ながら、ふと思った。
「便利になったなあ…」
そんな時代の流れを感じ、思わず感心する。
けどつぎの瞬間、 「いかんいかん!」 と首を横に振り、再び画面に集中する。
我に返った私は、画面を見ながらキーボードを打ち始めた。
しかし不思議だ、書き進めるうちに奇妙な感覚が襲ってきた。
『ドキドキしていない。むしろ波一つ立てず湖面にぽつんと立ってるかのように冷静な自分がいる。』
そう、これまで33年間も勤めてきた会社を辞めるというのに、感情がまるで湧いてこないのだ。
淡々と文章を打ち込む自分に、ふと問いかける。
「こんなもんなのか?」
そして、すぐさま自分で答えを出す。
「いや、こんなもんさ!」
パソコン画面に表示された「退職願い」の文字。
それを見つめながら、過去の自分がそっと顔をのぞかせる。
◇33年前、夢中になったあの日
33年前、私は24歳で中途入社した。
きっかけは、たまたま見かけた求人広告だった。
当時はネット求人なんてなく、新聞の折り込みチラシを見た瞬間、なぜか直感的に『ここだ!』と思ったんです。
すぐに電話し、面接の日程からトントン拍子に話しが進み、翌週には勤務してたのを、今も鮮明に思い出される。
しかし、ろくな採用試験もなく、どう見ても定年間近(いや嘱託だったかも)のオジさんの世間話を面接で聞くという違和感だらけ。
振りかえれば、このときブラック企業だと見抜けなかった自分が未熟だったと痛感してます。
でも、初めて足を踏み入れた製造工場。
ベルトコンベアの上で次々と缶コーヒーが流れていく様子。
大きな音を出して動く機械たちが、まるで生きもののように感じた。
その光景に、心がワクワクしたのを今でも覚えています。
それからは
「中途で拾ってくれた会社を良くしたい!」
「家族に自慢できる会社にしたい!」
そんな気持ちで、仕事に向き合う日々。
現場での業務改善提案、業績向上のためのプロジェクト…。
毎日が挑戦の連続だった。
いつしか、夜中まで残業、休日出勤が当たり前の生活にもなっていた。
さらに、現実は厳しかった。
◇パワハラ軍団の支配
この会社には、 「パワハラ軍団」 と呼ばれるグループがいた。
いや、代々継承されると言っていい。
大声で怒鳴る、部下のミスを笑いものにする、理不尽な命令を出す…等々。
他にも法令違反も芋づる式に出てくる出てくる…。
そもそも上層部がパワハラをする連中なので、当然パワハラを継承する部下たちを優遇し出世させる。
現場では、パワハラ軍団たちの攻撃に耐え、泣いている担当者たち。
なんとかして泣いてる彼らを救いたい。
クソ真面目で正義感が強かった私は、理不尽さに何度も立ち向かった。
上司に訴え、改善案を提示したが組織は変わらなかった。
孤軍奮闘では組織には叶わない。
経営層が変わらないかぎり、下の頑張りで組織なんて変わらない。
結局、パワハラを受け継ぐ者が部長や役員へと昇進していく構図は崩れなかった。
「悪い奴らを成敗する!」
「V字回復だ!」
そんなドラマのような展開を期待したこともあったが、現実には起こらなかった。
◇自分の未来を選ぶ勇気
自分の力では会社を変えることができなかった。
でも、 自分の未来を変えることはできる 。そのことに57歳になってやっと気づいた。
「変わらない組織に固執するのではなく、自分の未来を選ぶ勇気を持とう」
そう決意したとき、心が軽くなった。
会社が人生の全てじゃない。もっと外に目をむけよう。外へと旅に出よう。
退職願いを書き上げたあと、上司に提出するために席を立った。
いざ渡す瞬間、手が震えているのが分かった。
頭の中に、 「この選択は間違っていないか?」 という声が響く。
でも、その声を振り払うように深呼吸して、上司に退職願いを差し出した。
「長い間、お世話になりました。ありがとうございました」
そう伝えた瞬間、心がふと軽くなった気がした。
◇未来への一歩
会社は変わらなくても、自分の人生は自分で変えられる。
本来なら、会社員時代に副業や次の仕事を見つけておくのがセオリーだろう。
しかし、会社に固執しすぎていた私は、その準備も知識もなかった。
ただ、これ以上この環境にいたら、自分までブラックへと染まってしまう。
そう思えての決断。
早期退職して半年。
いまも自分のやりたい仕事を探す旅の途中。
でもいつか振り返ったとき、きっと思うだろう。
「あの日、早期退職を決断して本当によかった」 と。
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