Photo by
yullyart
内緒だからな【せりふ三題噺】
卒業式の前日、私は見てしまった。
駐輪場で、岡林君が他人の自転車のタイヤに釘を刺してパンクさせているのを。
「内緒だからな」
近くのショッピングモールに連れて行かれた。口止め料は、フードコートのたい焼きだった。
また、私は見てしまった。
岡林君は、バーコード決済をするときに音だけ鳴らして払ったふりをしていた。
「内緒だからな」
手を引かれて逃げるように外のベンチに向かう。憧れの男子と並んで座ると、私は胸の高鳴りが止まらなかった。
あんこの甘さが私の頭を冷静にしてくれた。
明日はきっと、岡林君の第二ボタンを巡って争奪戦が繰り広げられる。十人以上の女子に囲まれるはずだ。今がチャンスかもしれない。
「岡林君……。よかったら、第二ボタン……」
言いかけて、私は口ごもった。第二ボタンはすでに無くなっていた。
「さっき、亜津子先生にあげたんだ。実は付き合ってる」
「嘘でしょ……?」
亜津子先生は50歳過ぎの国語教師。特に美人というわけでもなく、男子からはババア呼ばわりされている。しかも、私たちと同じ高校生の息子がいる既婚者。
「内緒だからな」
「いいよ。全部、誰にも言わない」
私は、手元に残ったたい焼きの尻尾を口に放り込んだ。
「その代わり、私の嫌いな子の自転車もパンクさせてきてよ」
私たちの関係は、第二ボタンなんかよりずっと強固な「罪」で繋がった。
