【改訂版】チャールズ・スペンサー・チャップリン  笑いながら世界に噛みついた小さな放浪者の巨大すぎる反撃


考えすぎる時代に感じることを取り戻せ

チャップリンの言葉として、まず置きたいのはこれだ。

「私たちは考えすぎ、感じなさすぎる。機械よりも人間性が必要だ。賢さよりも、優しさと思いやりが必要だ」

これは1940年公開の映画『独裁者』の終盤、チャップリン演じる床屋が語る演説に含まれる言葉である。厳密に言えば、日記の片隅に書かれた人生訓ではない。映画の中で登場人物の口を借りて放たれた言葉だ。しかし、その声はどう考えてもチャップリン本人の腹の底から出ている。作品の枠を越えて観客席にいる人間の胸ぐらをつかみに来ている。

この言葉の怖いところは機械を否定していない点にある。チャップリンは、便利さそのものを悪者にしているわけではない。彼が刺しているのは、便利になったのに人間が貧しくなるという文明の妙な逆立ちである。パンを焼く機械は進化した。工場の歯車は高速で回る。飛行機もラジオも人間同士の距離を縮めた。にもかかわらず孤独は減らない。優しさは自動化されない。心の腹筋だけが、なぜか一向に鍛えられない。

チャップリンはこの問題を机上の思想家として語ったのではない。彼自身が、社会の端っこで冷たい風に吹かれた人間だった。

1889年4月16日、チャールズ・スペンサー・チャップリンはロンドンで生まれた。父も母も舞台に立つ芸人だったが、家庭は安定からほど遠い。父の早すぎる死、母ハンナの病、貧困。彼と兄シドニーは幼いうちから自力で生きることを強いられ、母が精神的に不安定となった後には、救貧院や寄宿学校に送られた。いきなり人生がハードモードである。しかもチュートリアルなし。初期装備はほぼゼロ。あるのは観察眼と、飢えと、舞台の匂いだけだった。

貧困は彼から笑いを奪わなかった。むしろ笑いの材料置き場になった

チャップリンのすごさは貧しさを単なる不幸話にしなかったことだ。

普通なら幼少期の傷は隠したくなる。人はつい、成功した途端に過去のボロ靴を押し入れの奥へしまいたくなる。ところがチャップリンは、そのボロ靴を映画の中心に置いた。しかも、ただ置くだけではない。履いた。歩いた。滑った。転んだ。観客は笑った。けれど笑い終わったあと胸に小さな棘が残った。

1914年、映画界に入ったチャップリンは、キーストン社で活動を始める。そこで生まれたのが小さな放浪者だった。小さすぎる上着、大きすぎるズボン、ぶかぶかの靴、山高帽、ちょび髭、ステッキ。衣装だけなら、社会からサイズを間違えて渡された人間である。人生の制服がぜんぜん合っていない。だが、その不格好さが世界中に通じた。『キッド』でこの姿が登場し、やがて映画史に残る人物像となった。

小さな放浪者は、決して強者ではない。金も地位もない。恋もだいたいうまくいかない。社会の扉を開けようとしてだいたい顔面をぶつける。しかし、彼は完全には折れない。背筋だけは妙にしゃんとしている。帽子を直し、ステッキを持ち替え、また歩き出す。貧しさの中にほんの少しの誇りを残す。そこがたまらない。

チャップリンは、弱者をかわいそうな人として描かなかった。彼は弱者を、笑えて、ずるくて、見栄っ張りで、優しくて、たまに迷惑で、でも生きる資格だけは誰にも奪わせない存在として描いた。そこにリアルがある。人間は困っているときでさえ、きれいな被害者だけではいられない。腹も減るし、嘘もつくし、見栄も張る。チャップリンの人間観は、やたら温かいのに、砂糖菓子みたいには甘くない。

売れた芸人ではなく仕組みを作った反逆者

チャップリンは、ただ人気者になったわけではない。売れたあとに、もっと大きなことをした。自分の表現を守るため映画産業の仕組みに手を突っ込んだのだ。

1917年にミューチュアル社との契約が終わると、彼はより自由に映画を作るため、自分のスタジオ建設へ動いた。さらに1919年4月、メアリー・ピックフォード、ダグラス・フェアバンクス、D・W・グリフィスとともにユナイテッド・アーティスツを設立した。これはスターが雇われる側から、自分たちの作品を自分たちで配給する側へ回る試みだった。要するに、チャップリンは人気者になったあと、人気を換金して豪邸の蛇口を金にしただけではなく、創作の主導権を取り戻すための会社を作った。

ここが現代の我々にも刺さる。

才能だけでは足りない。情熱だけでも危うい。表現を守りたいなら、表現が生き残る仕組みまで考えなければならない。チャップリンはスクリーンの中では頼りない放浪者を演じながら、スクリーンの外ではかなり強烈な独立者だった。内股でよちよち歩く男が、業界の首根っこをつかみに行く。なんというギャップ。かわいい顔をした革命である。

沈黙を守るという時代への逆張り

映画に音がついたとき、チャップリンはすぐにはしゃべらなかった。

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