AIはプログラマーを不要にするか?営業と熟練SEの対立から探る「コードの価値」
ある日の午後、オフィスでの会話。
「今はAIがソースコードまで作るから、VBAマクロ作りまくってExcelの自動化をすすめましょう」と若手が言います。
ベテランSEは「異動で君が置いていったVBAマクロだらけのexcelは誰が面倒みるんだ? 結局はあとからVBAを体系的に書ける【人間のプログラマー】の助けが必要になるし、自分でソースを書いてないプログラマーに迷惑がかかる。
基幹業務として使いたいなら、アプリケーションとしてオフィシャルに作るべきだ」と言います。
若手は営業担当で、プログラミング経験はありません。
しかしITを駆使した業務改善の意欲が高い人材です。
かたやベテランは40年近く社内SEを務め、要件定義等の上流工程から仕様作成・テスト・導入・保守など、システム構築から運用保守までひととおり経験した熟練です。
AIはプログラマーを不要にするか?営業と熟練SEの対立から探る「コードの価値」
目次
1.はじめに:AI時代のプログラマー不要論と世代・職種の視点
2.若手(営業担当)の主張:AIとVBAによる「即効性の追求」
2.1. プログラミング不要論の背景:AIによるコード生成の民主化
2.2. 営業視点の合理性:Excel/VBAによる業務効率化の「短期的な成果」
3.ベテラン(熟練社内SE)の主張:保守性・体系的知識・基幹業務の重み
3.1. 40年の経験が語る「負の遺産」:VBAマクロの保守性と属人化リスク
3.2. 熟練SEが守るべき本質:体系的なプログラミング知識と設計思想
3.3. 全社最適の視点:基幹業務システムとアプリケーション開発の意義
4.どちらの主張が正しいか?:技術選択と「真のプログラマー」の役割変革
4.1. 職種による視点の違い:「局所最適」と「全体最適」
4.2. AI時代のプログラマーに求められる3つのスキル:設計者・管理者へのシフト
4.3. 業務の重要度に応じた「技術の峻別」
5.結論:AIはプログラマーを「進化」させ、「熟練の知恵」の価値を高める
1. はじめに:AI時代のプログラマー不要論と世代・職種の視点
近年、ChatGPTやGitHub Copilotなどの生成AIの急速な進化は、ソフトウェア開発の現場に大きな変革をもたらし、「プログラマー不要論」を再び活発化させています。
特に、AIがソースコードを自動生成できるようになったことで、「コードを書く」という行為自体の専門性が薄れつつあるかのように見えます。
本稿で提示された会話は、この現代的な課題を、「職種」と「経験」という二つの対立軸を通して象徴的に示しています。
若手(営業担当、プログラミング経験なし):
AIの力を背景に、手軽なVBA(Visual Basic for Applications)によるExcel自動化を推進し、プログラマーの役割を「業務効率化の推進者」と捉えています。
ベテラン(40年近い経験を持つ熟練社内SE):
要件定義から保守までシステム構築の全工程を経験した視点から、VBAマクロの保守性の低さを指摘し、体系的な知識を持つプログラマーと、堅牢な基幹業務アプリケーションの必要性を主張しています。
本稿では、この「短期的な成果を求める営業視点」と「システムの持続性を重視する熟練SE視点」のどちらが、AI時代のプログラマーの未来においてより本質を突いているのかを、信頼できる情報源に基づき多角的に分析し、考察します。
2. 若手(営業担当)の主張:AIとVBAによる「即効性の追求」
2.1. プログラミング不要論の背景:AIによるコード生成の民主化
若手の「AIがソースコードまで作る」という主張は、プログラミングの専門知識を持たない者から見た、生成AIのインパクトを最も純粋に捉えた見解と言えます。
GitHub CopilotのようなAIツールは、自然言語での指示からコードスニペットを生成し、プログラミングの敷居を劇的に下げました(Publickey, 2025)。
これにより、非エンジニアでも「コード」という成果物を手に入れやすくなり、若手はプログラマーの役割が「コードを書くこと」から「AIに指示を出すこと」に変わったと認識しています。
この変化は、プログラミングの「民主化」とも呼ばれ、「単純なコーディング作業」がAIに代替されることで、プログラマーの仕事がなくなるという「不要論」の根拠となっています。
若手は、このAIの力を活用し、「コードを書く時間」を「業務を自動化する時間」に充てるという、極めて合理的なアプローチを取っていると言えます。
2.2. 営業視点の合理性:Excel/VBAによる業務効率化の「短期的な成果」
若手が推進する「VBA作りまくり」とは、主にExcelのVBAを用いた業務自動化を指します。
営業担当という立場から見れば、VBAは「即座に成果を出せる」という点で非常に魅力的です。
1.即効性:特別な開発環境や予算申請が不要で、既存のExcelファイル内で完結するため、迅速に業務効率化を実現できます。
2.可視性:自動化の成果が目に見えやすく、自身の業務改善として評価されやすい。
このアプローチは、「局所的な最適化」、すなわち部署内や個人に閉じた業務の効率化には非常に有効です。
若手は、ビジネスのスピード感を重視し、AIで生成したVBAコードを使って、目の前の非効率を解消しようとしています。
これは、プログラミングの専門知識がないからこそ、「手軽さ」と「短期的な成果」を最優先する、営業的な合理性に基づいた判断と言えます。
しかし、この手軽さが、後に大きな問題を引き起こす種となることを、彼らはまだ知りません。
3. ベテラン(熟練社内SE)の主張:保守性・体系的知識・基幹業務の重み
3.1. 40年の経験が語る「負の遺産」:VBAマクロの保守性と属人化リスク
ベテラン社内SEが指摘する「異動で君が置いていったVBAマクロだらけのexcelは誰が面倒みるんだ?」という問いは、システムのライフサイクル全体を見通した、40年の経験に裏打ちされた痛烈な警告です。
VBAマクロは、しばしば「動けばいい」という発想で、体系的な設計やエラー処理を欠いたまま作成されがちです。その結果、以下の問題が発生し、ベテランSEは「負の遺産」としてその尻拭いを強いられてきた歴史があります(Devworks, 2025)。
$$
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
\text{問題点} & \text{内容} & \text{} \\ \hline
\text{属人化} & \text{作成者以外にはコードの解読や改修が困難となり、担当者の異動・退職で機能が停止する。} & \text{} \\ \hline
\text{保守性の低さ} & \text{ExcelのバージョンアップやOSの変更、業務フローの微修正で簡単に動作しなくなり、修正に多大な労力とコストがかかる。} & \text{} \\ \hline
\text{データ整合性のリスク} & \text{データが各Excelファイルに分散し、全社的なデータの一元管理や整合性の確保が困難になる。} & \text{} \\ \hline
\end{array}
$$
ベテランの主張は、「作るコスト」だけでなく「維持するコスト」、すなわちTCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)を考慮した、極めて現実的な視点に基づいています。
3.2. 熟練SEが守るべき本質:体系的なプログラミング知識と設計思想
ベテランの「VBを体系的に書ける【人間のプログラマー】の助けが必要」という主張は、AI時代においても「プログラミングの本質」が変わらないことを示唆しています。
AIはコードを生成できますが、「何を作るべきか」「どのように設計すべきか」という、上流工程の判断は依然として人間の専門知識が必要です。
40年近い経験を持つ熟練SEは、単なるコーディング技術ではなく、オブジェクト指向、データベース設計、セキュリティ、テスト手法といった、「堅牢で保守性の高いシステムを作るための原理原則」を体系的に理解しています(SBbit, 2025)。
AIが生成したコードが、これらの原則に従っているかをレビューし、大規模なシステムに組み込む際の品質と整合性を担保するには、この体系的な知識が不可欠です。
ベテランは、AIを道具として使いこなすための「道具の設計図」を理解している、真のプロフェッショナルなのです。
3.3. 全社最適の視点:基幹業務システムとアプリケーション開発の意義
ベテランが「基幹業務として使いたいなら、アプリケーションとしてオフィシャルに作るべきだ」と主張する背景には、全社的な最適化と企業の持続可能性への強い意識があります。
基幹業務(会計、人事、生産管理など)は、企業の生命線であり、Excel/VBAのような単一ユーザー環境に依存することは、以下の点で許容できないリスクを伴います。
$$
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
\text{観点} & \text{VBA/Excelのリスク} & \text{アプリケーション開発のメリット} \\ \hline
\text{信頼性・可用性} & \text{ファイル破損、同時アクセス不可、処理速度の限界。} & \text{データベースによる堅牢なデータ管理、高負荷への耐性。} \\ \hline
\text{セキュリティ} & \text{パスワード管理の脆弱性、アクセス権限の管理の困難さ。} & \text{厳格な権限管理、セキュリティ対策の集中適用。} \\ \hline
\text{拡張性} & \text{業務拡大やシステム連携への対応が困難。} & \text{モジュール化による機能追加の容易さ、他システムとの連携。} \\ \hline
\end{array}
$$
ベテランSEの主張は、「局所的な業務改善」を超えた、「企業全体のインフラストラクチャ」としてのシステムの役割を重視しており、これは企業の存続に関わる極めて重要な視点です。
4. どちらの主張が正しいか?:技術選択と「真のプログラマー」の役割変革
結論として、どちらの主張もそれぞれの職種と経験に基づいた合理性を持っていますが、AI時代の「真のプログラマー」の役割を定義しているのはベテランの主張です。
4.1. 職種による視点の違い:「局所最適」と「全体最適」
この対立は、「局所的な最適化」と「全体的な最適化」の視点の違いに集約されます。
若手(営業):
「局所最適」のプロ。
目の前の業務の非効率を即座に解消し、短期的な成果を上げることが使命。
AIとVBAはそのための最速のツール。
ベテラン(熟練SE):
「全体最適」のプロ。
システム全体の整合性、将来的な保守コスト、企業の信頼性を最優先する。
若手の主張は、AIによるコーディング自動化という「変化の波」を捉えていますが、その生成されたコードの品質を担保し、保守性を維持するための「体系的な知識」の重要性を見過ごしています。
一方、ベテランの主張は、AIが生成したコードであっても、最終的な責任は人間が負うという「責任の所在」と「システムの堅牢性」という普遍的な価値を明確にしています(Nikkei XTECH, 2025)。
4.2. AI時代のプログラマーに求められる3つのスキル:設計者・管理者へのシフト
AIはプログラマーの「コーディング」という作業を代替しつつありますが、「プログラミング」という行為全体を代替しているわけではありません。
AI時代のプログラマーは、コードを一行一行書く「コーダー」ではなく、ベテランSEが長年培ってきた「設計者」「管理者」「アーキテクト」へと役割をシフトさせています(note/simplearchitect, 2025)。
AI時代にプログラマーが生き残るために求められるのは、以下の3つのスキルであり、これらはベテランの経験と知識に強く裏打ちされています(SBbit, 2025; career.levtech.jp, 2025)。
$$
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
\text{スキル} & \text{内容} & \text{ベテランの経験との関連} \\ \hline
\text{1. 高度な問題解決能力} & \text{複雑なビジネス要件を分析し、技術的な仕様に落とし込む能力。AIへの的確な指示出し(プロンプトエンジニアリング)も含む。} & \text{要件定義・上流工程の経験。} \\ \hline
\text{2. システム設計・レビュー能力} & \text{AIが生成したコードの品質、セキュリティ、保守性を評価し、大規模システム全体との整合性を保つ能力。} & \text{40年のシステム構築経験と体系的な知識。} \\ \hline
\text{3. 既存システムの保守・改修能力} & \text{過去の技術やレガシーシステムを理解し、AIでは困難な部分的な改修やマイグレーションを行う能力。} & \text{導入・保守・運用まで一貫して経験した熟練の知恵。} \\ \hline
\end{array}
$$
4.3. 業務の重要度に応じた「技術の峻別」
真に正しいアプローチは、両者の視点を統合し、業務の重要度とライフサイクルに応じて技術を選択することです。
1.Excel/VBAによる自動化(若手の視点):
•適している業務:部署内や個人に閉じた、一時的・局所的なデータ処理、「スモールスタートで即効性が求められる業務」。
•リスク:属人化、保守性の低さ、データ量の限界。
2.本格的なアプリケーション開発(ベテランの視点):
•適している業務:全社的なデータ整合性、高いセキュリティ、可用性が求められる「企業の根幹を支える基幹業務」。
•メリット:高い保守性、拡張性、堅牢性。
AIは、どちらの技術を採用するにしても、その開発スピードを加速させるための強力なツールとなります。
しかし、「作るべきもの」と「自動化すべきもの」を峻別する判断力こそが、熟練のプログラマーに求められる最大の価値であり、これはAIには代替できない「知恵」の領域です。
5. 結論:AIはプログラマーを「進化」させ、「熟練の知恵」の価値を高める
AIは、プログラマーを「不要」にするのではなく、「進化」させます。
若手の主張は、AIによるコーディング自動化という時代の流れを正しく捉えており、VBAによる業務効率化は短期的な成果を生み出す上で非常に合理的です。
しかし、ベテランの主張が指摘するように、保守性の低いシステムは将来的なコスト増大を招くという普遍的な真実も存在します。
最終的に必要なのは、「体系的な知識」と「システムの全体像を見通す設計思想」を持ったプログラマーです。
彼らはAIを単なるコード生成ツールとしてではなく、「設計意図を理解し、堅牢なシステムを構築するための強力なアシスタント」として活用します。
AI時代において、プログラマーはコードを書く時間を減らし、「なぜそれを作るのか」「どのように作るのが最も持続可能か」という、より本質的な問題解決、すなわちベテランSEが長年培ってきた上流工程の業務に時間を費やすようになるでしょう。
ベテランの持つ「体系的な知識」と「保守性への意識」は、AIが生成したコードを「負の遺産」ではなく「企業の資産」に変えるために不可欠な要素です。
したがって、この会話における真の結論は、「体系的なプログラミング知識とシステム設計思想を持つプログラマーは、AI時代においても、むしろその役割の重要性を高める」というベテランの主張に軍配が上がります。若手の発想は素晴らしい業務改善のきっかけですが、その成果を持続可能にするには、ベテランの知恵と体系的なアプローチが不可欠なのです。
引用元
•[Publickey, 2025] 生成AIによりプログラマの仕事はなくなるのか? 「私はそうは思いません」とGitHub Copilotの担当者が語る理由. Publickey. (2025年2月12日). [URL: https://www.publickey1.jp/blog/25/ai_1.html]
•[SBbit, 2025] エンジニア不要論に異議! Devin開発者に聞いた、AI時代に生き残るエンジニアの条件. SBbit. (2025年10月7日). [URL: https://www.sbbit.jp/article/cont1/170224]
•[note/simplearchitect, 2025] AI 時代にプログラマが持ってたら良いだろうたった一つの考え方. note. (4 months ago). [URL: https://note.com/simplearchitect/n/nbc420dc69d02]
•[Nikkei XTECH, 2025] 生成AIの進歩でプログラマーは失業するか、新たな職業が生まれるか. 日経XTECH. (2025年10月1日). [URL: https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03307/082700003/]
•[Japan-BI, 2024] 業務効率化のための Excel VBA 優位性と限界. Japan Business Intelligence. (2024年12月26日). [URL: https://www.japan-bi.com/2024/12/excelvba-advantage-and-limit.html?m=1]
•[Devworks, 2025] 実務で本当に役立つのはどっち?VBAとVBのデバッグ・保守. Devworks. (2025年9月24日). [URL: https://devworks.jp/blog/284]
•[career.levtech.jp, 2025] プログラマーの仕事はAIに奪われる?需要の高いスキルと将来. レバテックキャリア. (2025年7月11日). [URL: https://sks.ac.jp/blog/column_-ai-proof-programmer-skills/]
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