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「Solaria 3rd Stage 第三話|Start of Our Dream」

 まぶしいスポットライトが、一瞬だけ視界を真っ白に染めた。

 次の瞬間、会場いっぱいに歓声が響き渡る。

「Solariaー!」

「準優勝のSolariaだー!」

 期待と熱気が春の空気を震わせる。

 

 ステージ中央。

 六人はまだシルエットのまま立っていた。

 軽やかなイントロが流れ始める。

 ゆっくりと光が差し込み、その輪郭が少しずつ浮かび上がっていく。

 水瀬あゆみは、小さく息をのんだ。

(ここが……)

(私の、初めてのステージ……)

 隣を見る。

 天野ひなたが、ほんの少しだけ頷いた。

 それだけで、不思議なくらい肩の力が抜ける。

 そして歌が始まった。

 六人は音楽に合わせて、一斉に動き出す。

 あゆみもフォーメーションへ飛び込んだ。

(大丈夫……)

 

(さくら先輩が隣にいる)

 視線が合う。

 小鳥遊さくらが優しく頷く。

 あゆみも小さく頷き返した。

 まだ身体は少し硬い。

 練習通りには動けていない。

 それでも確かに、自分はこのステージの一員だった。

 客席から向けられる視線は温かい。

 歌声に合わせて、六人のラインが少しずつ形になっていく。

 完璧ではない。

 それでも、みんなで揃おうとしている。

(怖くない)

 朝、校舎でかけられた言葉が胸によみがえる。

『応援してます!』

 続いて、さくらの声。

『"楽しむ気持ち"を大切にね』

 自然と表情が柔らかくなる。

 仲間の声は、こんなにも人を前へ進ませてくれる。

 サビ前。

 

 フォーメーションチェンジ。

(次、右……!)

 身体が音よりほんの少しだけ早く動いた。

(……あっ)

 一歩。

 ほんの一歩だけ位置がずれる。

 一瞬だけ六人のラインが崩れた。

 けれど誰も止まらない。

 ひなたも、あかりも、しおりも、ゆいも、さくらも。

 まるで最初から決まっていたかのように自然に位置を修正し、流れは途ぎれることなく続いていく。

 

 客席は、その小さな乱れに気づくことさえなかった。

(やっちゃった……)

 頭が真っ白になる。

 そのまま、次のソロパートが始まった。

 マイクを握る手が、わずかに震える。

(どうしよう……)

(今の……)

 その時だった。

 

「Solaria——!!」

 客席から大きな声が飛ぶ。

 一拍置いて、さらに続く。

「あゆみちゃん、頑張れ——!!」

 胸が熱くなった。

 

 朝、校舎で応援してくれた男子生徒の姿が浮かぶ。

『応援してます!』

(見てくれてる……)

(私を)

 目を閉じて、大きく息を吸う。

(……大丈夫)

(私は、ここにいる)

 そしてもう一度、さくらの言葉がよみがえった。

『一緒にこのステージに立ててること、感じてみて?』

(……うん)

 ゆっくりと顔を上げる。

 少し震えながらも、まっすぐ前を向いて歌い始めた。

 その歌声は、少しずつ客席へ届いていく。

 サビ。

 六人のフォーメーションが一気に広がる。

 あゆみは必死に合わせ続ける。

 さくらはさりげなく位置を整え、

 しおりは正確なリズムで全体を支え、

 

 ひなたがセンターから引っ張り、

 あかりが力強く支え、

 ゆいが歌をひとつにまとめていく。

 六人の心が、少しずつ重なっていく。

 そして最後のポーズ。

 ほんのわずかに揃いきらなかった。

 それでも。

 一瞬の静寂のあと、会場は大きな拍手に包まれた。

「すごい……!」

「やっぱりSolaria!」

 あゆみは肩で息をしながら、その場に立ち尽くす。

(終わった……)

 ゆっくりと顔を上げると、五人が笑っていた。

 その笑顔を見て、あゆみも少し遅れて笑う。

(……楽しかった)

 だけど。

 胸の奥には、別の感情も残っていた。

(悔しい)

 もっとできた。

 もっと上手く踊れた。

 もっと、六人でひとつになれたはずだった。

 

 夕焼け色に染まるステージ。

 六人の影が静かに伸びていく。

(完璧じゃなくてもいい)

(今はまだ)

(始まりの一歩だから)
 

 夕方。

 ダンス練習室には、オレンジ色の光が差し込んでいた。

 ライブの余韻がまだ静かに残っている。

 六人は床に円を描くように座っていた。

 しばらく誰も口を開かない。

 やがて、しおりが静かに口を開いた。

「……さっきのフォーメーション」

 あゆみの肩が小さく震える。

「……はい」

「ズレてた」

「……すみません」

 短い沈黙。

 やがて、しおりは少しだけ表情を和らげた。

「でも」

 一拍置いて続ける。

「止まらなかったのは、良かった」

 あゆみは思わず顔を上げた。

「ライブは、一人で作るものじゃないから」

 ひなたも軽く頷く。

「そうそう。ちゃんと最後まで届けられたじゃん」

「あれ、ちゃんと伝わってたよ」

 あかりが優しく笑う。

 ゆいも続けた。

「うん。"伝わるステージ"になってたと思う」

 さくらは何も言わない。

 ただ、あゆみを見つめて、静かに微笑んだ。

 その優しさが、かえって胸に響く。

(でも……)

(私は……)

 あゆみは小さく息を吸った。

 

「……悔しいです」

 その言葉に、ひなたは少しだけ笑う。

「いい顔してるじゃん」

 窓の外では、夕焼けが校舎を赤く染めていた。

 あゆみはその光を見つめながら、静かに拳を握る。

(次は——)

(もっと、ちゃんと)

 それが、彼女にとって本当のスタートだった。

——Start of Our Dream

 
第三話 Start of Our Dream (終)
 
  
▶ Solaria 3rd Stage 第四話|
重なる声、まだ見えない自分 ― へ続く

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