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「Solaria 第一話|はじまりの坂」(前編)

ー 光を探して ー

あの日、すべてを失った。

居場所も、仲間も、
当たり前だと思っていた日常も。

それでも――

心のどこかで、まだ終わりたくなかった。

これは、ひとりの少女が“光”を見つけるまでの物語。

そして、やがて5人の物語が始まる、最初の一歩。

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 春の風が、やわらかく頬をなでた。

 ひらひらと舞い落ちる桜の花びらが、まるで時間をゆっくりにしているみたいで――

 天野ひなたは、校門の前で立ち止まっていた。

 丘の上にある星ヶ丘学園。
 その門の向こうには、街が広がっている。遠くには、うっすらと山の稜線が見えた。

 そして――坂の下。

 まだ誰もいないその道を、ひなたはじっと見つめる。

 胸の奥が、少しだけそわそわする。

 何かが始まる前の、あの感覚。

 理由なんて分からない。

 でも、確かに――

(……今日、何か変わる気がする)

 ふっと、小さく息を吐いた。

 そしてひなたは、くるりと振り返る。

 桜の花びらが、視界いっぱいに広がった。

 ――あの日、ここから全部、始まったんだ。

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 それは、ほんの少し前のこと。

 体育館に響く、軽やかなステップ音。

「もう一回いこう!」

 明るく声を上げたのは、ひなただった。

 音楽に合わせて体を動かす。
 仲間と息を合わせる。
 それだけで、世界が少しだけ輝いて見えた。

 ダンス部は、全部で十二人。

 笑って、ぶつかって、また笑って。
 そんな時間が、ずっと続くと思っていた。

「今の、揃ってたね」

 落ち着いた声が隣から聞こえる。

 水瀬しおりは、冷静に全体を見ながら言った。

 その少し後ろで、
 白石ゆいがやわらかく微笑む。

「うん、すごく良かったよ」

 その一言だけで、空気がふっと軽くなる。

 ひなたは笑った。

(この時間、ずっと続けばいいのに)

 本気で、そう思っていた。

 ――でも、その時間は、あまりにもあっさり終わった。


 

 春休み前。

 三年生の引退の日。

「これからは、あなたたちの代だからね」

 先輩の言葉に、体育館は拍手に包まれた。

 けれど、その音はどこか――

 少しだけ、揃っていなかった。

 その違和感は、すぐに形になる。

「これからは大会を目指すべきだと思う」

「いや、もっと自由にやりたいでしょ?」

 放課後のミーティング。

 いつもと同じ場所なのに、空気がまるで違った。

 言葉がぶつかるたびに、少しずつ温度が下がっていく。

 ひなたは、思わず口を開いた。

「えっと……楽しく踊るのが一番じゃない?」

 一瞬、静かになる。

 その中で――

「楽しいだけじゃ、続かないよ」

 しおりの声が、静かに響いた。

 責めるような言い方じゃない。
 ただ、事実を置くように。

 でもその一言は、ひなたの胸に小さな棘みたいに残った。

 そして、数日後。

 ダンス部は、二つに分かれた。

 九人は、新しくチアリーディング部を作った。

 残ったのは…

 ひなた、しおり、ゆい。

 たった三人。

 広すぎる体育館に、足音が虚しく響く。

 あれだけ賑やかだった場所が、嘘みたいに静かだった。

「……人数が足りないから、君たちは部ではなくて同好会になるね」

 先生の言葉は、あまりにもあっさりしていた。

 渡された紙には、こう書かれている。

 ――ダンス同好会

 その文字を見たとき。

 ひなたは、何も言えなかった。

 帰り道。

 夕焼けは、やさしい色をしているはずなのに。

 その日の帰り道は、どうしてか少しだけ、胸に刺さった。

 オレンジ色に染まる空。

 長く伸びる影。

 三人で並んで歩いているのに、誰も話さない。

 風の音だけが、やけに大きく感じる。

 全部、いつもと同じなのに。

 隣を歩くふたりとの距離だけが、ほんの少し遠く感じた。

「……私は、3人で踊るの、好きだよ」

 沈黙を破ったゆいの小さな声は、やわらかくて、あたたかかった。

 その言葉に、ひなたは一瞬だけ救われる。

「……うん」

 返した声は、自分でも分かるくらい、少しだけ弱かった。

 坂を下る。

 桜の木はまだつぼみで、色はほとんどない。

 季節はもうすぐ変わるのに、自分たちはどこにも進めていない気がした。

(……なんか、違う)

 その違和感は、言葉にできないまま、心の奥に沈んでいく。

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 翌日、放課後の練習室。

 音楽は流れている。

 ステップも踏んでいる。

 でも――

 どこか、空っぽだった。

「いち、に、さん、し……」

 数を数えながら、体を動かす。

 鏡に映る自分たちは、ちゃんと踊れている。

 でも。

 前みたいに、楽しくて仕方ない、という感覚がない。

 ふと、ひなたの足が止まった。

 音楽だけが流れ続ける。

「……ひなた?」

 しおりの声。

「ごめん、ちょっと……」

 うまく言葉が続かない。

 鏡の中の自分と目が合う。

 笑っていない。

(……私、なんで踊ってるんだっけ)

 その問いは、思った以上に重くて。

 答えは、どこにも見つからなかった…


 

 その日の夜。

 部屋の電気を落として、ベッドに転がる。

 スマホの光だけが、ぼんやりと顔を照らしていた。

 特に見るものもなく、なんとなく画面をスクロールする。

 流れていく動画、写真、知らない誰かの日常。

 その中で――

 ひとつの映像に、指が止まった。

 ステージ。

 まぶしい照明。

 揃ったダンス。

 そして――

 笑顔。

 観客の歓声が、画面越しでも伝わってくる。

 歌声とリズムが重なって、空気を震わせていた。

「……これ」

 小さく、声が漏れる。

 “スクールアイドル”

 画面の中の彼女たちは、楽しそうだった。

 本当に、心から。

 踊って、歌って、笑って。

 その全部が、ひとつになって輝いている。

 ひなたの胸の奥で、何かが動いた。

 もう一度、再生する。

 ステップを踏む。

 声を重ねる。

 誰かに届ける。

(……ダンスだけじゃない)

 気づく。

(歌って、届けて……)

 画面の向こうの誰かが、笑っている。

 その笑顔を見て、また誰かが笑う。

(こんなふうに……なれたら)

 心臓が、少し速くなる。

「……やりたい」

 気づいたときには、そう呟いていた。

 ベッドの上で、体を起こす。

 スマホを握る手に、少しだけ力が入る。

「やりたい……!」

 それは、久しぶりに感じた“前に進む気持ち”だった。

 ダンスは、好きだ。

 ずっと続けてきた。

 でも。

(それだけじゃ、足りない)

 胸の奥で、小さな火が灯る。

(もっと……輝きたい)

 その言葉は、まだ誰にも言っていない。

 でも確かに、そこにあった。

 そして――


 朝。

 春の空気は、少しだけやわらかい。

 桜並木の坂道を、一歩一歩登る。

 花びらが、風に乗って舞い上がる。

 足元に落ちて、また転がっていく。

 ひなたは、ふと立ち止まった。

(……あ)

 思い出す。

 昨夜の映像。

 あの光。

 あの笑顔。

 ゆっくりと、振り返る。

 坂の下。

 まだ誰もいない道。

 でも――

(ここから、始まるかもしれない)

 理由はない。

 確信もない。

 それでも。

 胸の奥が、少しだけ高鳴る。

 風が吹く。

 桜が、また舞う。

 ひなたは、少しだけ笑った。

「……やってみよう」

 その一言は、春の空に溶けていく。

 遠く。

 坂の下に、ぼんやりと人影が見えた気がした。

 まだ、誰かは分からない。

 でも――

 確かに、物語は動き出していた。

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  それは、ほんの小さな一歩だった。

 でも――

 確かに、世界は動き出していた。

 あの日、あの坂で始まった物語は、まだ始まったばかり。

 光は、これからもっと強くなる。

 そして次に出会うのは、
 誰よりも熱い想いを持った少女。

▶ Solaria 第一話|はじまりの坂 (後編)
 ― はじまりの歌 ― へ続く

※本作はオリジナルスクールアイドルプロジェクト「Solaria」の物語です。
X(旧Twitter)にてビジュアルと連動しています。



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