今日もよく支えてくれているところ
カタカタカタ。
自転車を漕ぐと何かが引っかかっているような鈍く高い音がする。
後ろの車輪を見る。泥よけを支えている細い金具にも、タイヤのまわりにも、どこにも当たっているところは無さそうなのに。
時間がない。
このまま乗っていこう。
カタカタカタカター
坂道を下ると、音は勢いよく住宅街に響いた。
フレイル予防ヨガの教室は、いつも以上に賑やかな声であふれていた。
初めてお会いする職員さんたちと挨拶を交わし、前に立つ。
やがてお喋りがやみ、みんなの呼吸が部屋に落ち着いていった。
「痛い所、動きにくい所を困ったところとして見るのではなく、今日もよく支えてくれているところとして感じてみてください」
一人ひとりが、時間をかけて動いているのを見つめた。
レッスンの後、数人の生徒さんと職員さんたちと残って話す。
地域の人たちが集まる場所で、誰でも一緒にできる呼吸の体操を作れないかという話が、去年から少しずつ出ていた。
「この前のレッスンの帰り道、呼吸がすごく楽になって嬉しくて。思わず手伝いたいって手をあげてしまいました」
隣にいた生徒さんが透き通るような目で私を見て、言葉を続けた。
「私、足手まといにならないかしら。九一歳になりました」
ふふふっと口元を手で覆い、背中を丸めて笑った。
励まされるような気持ちのまま、次に集まる日を決めた。
帰りに近くのバイク屋さんに自転車を持っていく。
「すみません、なんかカタカタ音がしちゃって」
そう伝えると、おじさんは一瞬で後ろのライトのネジを緩めて、音を解消し、流れるような手つきで、タイヤの空気を入れ、配線の折れを直し、ブレーキをチェックした。
迷いなく、淡々と、手を止めることなく進んでいく。
「ここ、よく見ててね。ブレーキをかけても右しか反応してないね。少し時間くれたら直せるよ」
そう教えてもらって、自転車を預けて家に帰った。
お昼を食べて、しばらくパソコンの前で仕事をして、夕方、車に乗りこむ。
図書館に本を返し、自治会の会計さんのところへ集めておいた町内会費を届けに行く。
仕事から帰ってきたばかりなのか、青いストライプシャツを着た男性が出てきた。
「集めるの大変でしたよね。ありがとうございます」
この後にまとめて、報告までしてくれるのは会計さんの方なのに、
町内をまわって預かっただけの私にまでそんな風に声をかけてくれる。
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
頭を下げて後にした。
ガソリンスタンドに着くと、手前の給油機はどこも埋まっていた。
眼鏡をかけた男性店員さんが笑顔で近づいてくる。
「このままここでお待ちになることも出来ますし、ぐるっと回ってあの奥で給油する作戦もあります」
作戦。
なんてかっこいい。
「じゃあ、その作戦で」
そう言うと、その男性はにこっと笑って
「オーライ!オーライ!」と声を上げた。
