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シェアワールド〈双月三界〉 公式設定書(ver.1.0)

概要

本ページは、smoglogによる創作世界「双月三界(そうげつさんがい)」の公式設定および利用ガイドラインをまとめたものです。
本作は**〈前衛〉と〈後衛〉という役割構造を通じて、ジェンダーギャップや社会的役割の寓話を描く**シェアワールド・プロジェクトです。
この世界観は、他の作者による派生作品・解釈・拡張を歓迎します。

利用ガイドラインと注意

本設定集の作成には、一部でAI支援ツールを用いています。
しかし、AIの関与は単なる制作補助ではありません。
誰が物語を紡いだのか”という問いそのものが、この世界の主題の一つでもあるからです。

双月三界は、作者だけの所有物ではなく、
「語り継がれ、書き換えられ、誤解され、継承される物語」という構造そのものを抱えています。
このページをAIに読ませ、あなた自身の解釈や物語を派生させることも、
そんな“世界の循環”の一部になり得るでしょう。

本ページには、小説『XXX and the 異世界』本編の主要な設定が記載されています。

本編はこちらで公開:


利用ガイドライン

・本設定は、現実の性別・民族・宗教・政治などを直接批判する目的で作られたものではありません。
 〈前衛/後衛〉という寓話的構造を通して、社会の偏見・格差・構造的暴力を“比喩的に見直す”ためのものです。

物語上、差別・偏見・迫害を描くことがありますが、
 これらは現実の特定集団への攻撃を意図するものではなく、
 
構造そのものを考えるための“寓話的表現”です。

派生作品においては、実在の個人・集団・政治思想への当てはめや、
 特定属性に対する直接的な侮辱・中傷を目的とする表現は避けてください。

 寓話であるという前提を守りつつ、あなた自身の物語を創ってください。

・派生作品を公開する際は、出典として「双月三界@smoglog」を明記してください。
 SNS用のハッシュタグは、「#双月三界」または「#sougetsusangai」です。
 本ページのリンク、本編作品ページの併記は任意です。

© smoglog 2025
この作品および「双月三界」設定は Creative Commons 表示-継承 4.0 国際ライセンス(CC BY-SA 4.0)のもとで提供されています。
派生・改変・商用利用は自由ですが、出典の明記と同条件ライセンスの継承をお願いします。


双月三界シェア創作指針

本書に記された歴史・宗教・風俗・地理などの記録は、いずれも“双月三界における一つの解釈”に過ぎない。
時代や地域によって異なる伝承や記述が存在するのは当然であり、むしろそれがこの世界の自然なあり方である。

双月三界において、唯一不変の原則は〈前衛〉と〈後衛〉の存在である。
この二つの役割のあいだに生じる関係、支配、依存、反転、協働――その相互作用こそが、この世界を形づくる根幹である。
歴史も信仰も社会制度も、すべてはこの関係の変化を語るための文脈にすぎない。

したがって、作者はどの時代を描くにせよ、〈前衛〉と〈後衛〉という概念を中心に据える限り、世界の一貫性を損なうことはない。
王国史・民話・寓話・未来譚――いかなる形式の物語も、すべて双月三界の“別の真実”として受け入れられる。

また、以下の要素については、各作家の創意に委ねられる。
貨幣・食文化・風俗・言語・方言・宗教儀式・暦法・地理・行政制度・建築様式・芸術・哲学など。
それらは地域・時代・登場人物によって自由に再解釈してよい。

双月三界は、単一の歴史を共有する世界ではない。
それは、同じ構造を持つ“多層の現実”であり、無数の語りが交錯する舞台である。
〈前衛〉と〈後衛〉――この二つの光と影さえ存在すれば、どんな世界も、すでに双月三界である。


①世界観の基本構造(最重要)

1.双月(そうげつ)

この世界には、赤と青、ふたつの月が存在する。
赤い月は〈前衛〉の象徴、青い月は〈後衛〉の象徴。
人々はそれを「双月」と呼び、神々が棲まう領域として崇めてきた。

一年は十二か月・三百六十日
一か月は常に三十日で固定されており、月の満ち欠けがそのまま暦の基準となっている。
この暦法は「双月暦(そうげつれき)」と呼ばれいる。

片方の月が新月状態で、片方が30日かけて月齢変化していく。
この交替こそが、〈前衛〉と〈後衛〉という社会的役割の象徴でもある。

一ヶ月の終わり、両方の月が同時に新月を迎える夜がある。
その日は「月籠(つきごもり)」と呼ばれ、王国のあらゆる営みが一斉に止まる。それ以外の休みは、自由裁量。

そのため、この世界には七日で一週間という概念が存在しない。
四年に一度、〈双月〉という両方の月が満月の年がある。


2.〈前衛〉と〈後衛〉

人々は生まれながらにして、**魔力の「向き」**によって二つの役割に分かれる。
それは単なる象徴ではなく、肉体的な性質として備わっている。

内側へと循環する魔力を持つ者は〈前衛〉に、
外側へと流れる魔力を持つ者は〈後衛〉となる。
男性も女性も、あるいは人種や身分の別なく、五分五分の確率で〈前衛〉または〈後衛〉として生まれる。
この性質は血流や神経のように生命構造と結びついており、
社会のあらゆる制度や文化は、この区分を前提として築かれている。

ただし、絶対的な固定ではない。
歴史上、**役割変更(ロール・チェンジ)**と呼ばれる術も存在してきた。
投薬、手術、儀式、契約、呪具による肉体改造など、方法は時代や地域によって異なり、宗教的・倫理的論争を常に呼んできた。
ある時代では公に認可された医療行為とされ、別の時代では魂を汚す禁忌と見なされる。
どのように扱うかは、作品の舞台やテーマによって変化してよい。

前衛と後衛のイメージ

〈前衛〉:自らの内側に宿る魔力を増幅する者。
〈後衛〉:自らの魔力を他者へと流し形質変化させる者。

この区分は身体的特徴や性別によって決まるものではない。
重要なのは、この「役割」が社会的・象徴的な構造として作用するという点である。
つまり、個人の能力ではなく、時代や文化がどちらの役割を“上位”とみなすかによって、社会全体の価値観が変化する。

ある時代には〈前衛〉が「攻め」「主導」「力」の象徴として崇められ、
〈後衛〉は「支え」「調和」「感情」の象徴として従属的立場に置かれる。
しかし、魔導具が発達した時代には〈後衛〉が主導権を握り、〈前衛〉が従属する存在として扱われる。
また、〈後衛〉が魔物使いとして活躍する時代には、〈前衛〉は不要とされるだろう。

社会的に優位に立った役割は、理性・自立・攻め・強さの価値観を担い、
下位に置かれた役割は、感情・協調・守り・優しさと結びつく傾向を持つ。
こうして、この世界では「役割」が性差そのものを代行する概念として機能している。

この世界では、地球の社会に見られる「男性/女性」にまつわる通念は、そのまま当てはまらない。
〈前衛〉と〈後衛〉の役割分担は、性別とは独立しており、
「強い/弱い」「外向的/内向的」「支える/支えられる」といった価値観は、性よりも“役割”によって揺れ動く。

たとえば、この世界の「夜道でひとりの無防備な女性」は「超危険人物」の可能性が高い。
力や脅威のイメージは社会的役割によって決まり、性別では決まらない。

〈前衛〉と〈後衛〉という対になる構造は、現実の性別・階級・労働の分断を寓話的に映す鏡である。
この二つの揺らぎと結びつきこそが、双月三界の物語の核となる。

具体例は『XXX and the 異世界本編』を参照。


例:王国歴300年の場合(魔王戦争)

魔王が魔物を使役して侵攻。〈後衛〉が魔物を使役することは禁忌となる。

  • 前衛 × 後衛 = 神聖パーティー(正統)

    • 後衛が供給 → 前衛が倍化 → 実効火力・持久力が最大化。損耗も少ない。

  • 前衛 × 前衛 = 臨時パーティー(例外)

    • どちらも自走可能だが、相互強化が起きない。資源効率が悪く、長期戦に不向き。

  • 後衛 × 後衛 = 禁忌パーティー(無効)

    • 互いに供給しかできず、倍化も起きない。魔力が循環するだけで実戦効果がない。


例:王国歴400年の場合(魔王戦争後の平和と分裂)

勇者が魔王を倒して百年。
勇者とそのパーティーメンバーは結ばれ、
史上初の〈後衛〉の王が即位した。
以来、長い平和が続いている。

かつて〈禁忌パーティー〉とされた〈後衛〉同士の組み合わせは、
〈非推奨パーティー〉と名を改め、
制度上は廃止されたが、完全に忘れられたわけではない。

一方で、〈後衛〉の地位向上を掲げる扶助団体と、
旧来の価値を守る伝統派が対立を深めている。
陰謀と扇動が国中に広がりつつある。

表向きは平和。
だが、人々の心には、再び〈前衛〉と〈後衛〉の亀裂が走りはじめていた。

そのころ、辺境では魔王の術を継ぐ魔物使いの集団が生き延びていた。
魔物の使役は今も禁忌とされ、王国は**家畜のいない〈人力文明〉**として発展している。
しかし彼らがもたらす恩寵――食肉、蜂蜜、絹、そして〈後衛〉の新たな役割――は、王国の秩序に大きな衝撃を与えることになるだろう。

②双月暦(そうげつれき)

この世界では、赤と青、ふたつの月の満ち欠けによって暦が定められている。
ひと月は三十日、上弦・満月・下弦・新月を基準に四区分(7.5日)され、
人々はこの周期を生活のリズムとしている。


1.四分割の基本構造

区分 ー月の状態 ー地球的換算 ー異世界での感覚
第1区分 ー新月~上弦前 ー新しい周期の始まりー 再生・祈り・始動
第2区分 ー上弦~満月ー 成長・成熟の時期ー 労働・収穫・活動
第3区分 ー満月~下弦 ー盛りから衰えへ ー感謝・振り返り
第4区分 ー下弦~新月ー 闇と静寂 ー休息・準備・浄化

2.名称の違いと文化的用法

〈貴族暦〉

上弦期、満月期、下弦期、新月期
貴族や官僚が使う正式表記。儀礼や政務、戦の開戦日などに用いられる。

〈宗教暦〉

若月世(わかづきよ)、成月世(せいげつよ)、満月(みちづき)世、痩月(やせづき)世
神殿暦とも呼ばれる。双月信仰の教義に基づき、神事・葬祭・祝祭を定める。

〈平民暦〉

芽の月、葉の月、実り月、眠り月
農耕生活に根づいた呼び名。種まき、草刈り、収穫、冬支度といった農事の象徴。


3.祝日と休息の慣習

この世界で公式に定められた唯一の祝日は〈月籠(つきごもり)〉である。
赤月と青月が同時に新月となるこの日は、
人々が神の休息世界の静まりを象徴的に共有する日とされている。
魔力の流れや自然現象に変化はないが、
社会的な取り決めとして「すべてを止める日」として扱われている。

王国法・宗教規則で月籠の日を強制休業日として定め、
商店や工房、学校、行政機関まですべてが休みになる。
経済的な理由ではなく、「働かないことが人としての節度」と考えられているからだ。
人々はこの日を家で静かに過ごし、
前月の労をねぎらい、翌月の無事を祈る。

それ以外の休みは完全な自由裁量である。
働く者も、休む者も、時間をどう使うかは本人の選択に委ねられる。
この考え方は、**「時間を他者に支配されない」**という双月三界の倫理に根ざしている。

農民は天候を見て休み、職人は製作の節目で休み、
貴族は儀礼と季節行事の合間で休む。
決まった週や曜日の感覚は存在せず、
それぞれが自分の「休むタイミング」を知っている。

この仕組みは、
“決まった休みしか休めない世界(地球)”への緩やかな対抗思想として存在する。
誰もが働くことも止まることも選べる社会。
〈月籠〉の日は、その自由を再確認するための象徴的な一日なのだ。

③度量衡体系

暦王時代第十一月を司る〈勤労王〉は、王国史上初めて度量衡の統一を実現した。
それまで、地方ごとに異なる長さ・重さ・容積の単位が混在し、交易や徴税の混乱を招いていた。
勤労王はこれを「怠慢の温床」と断じ、全国規模の統一制度を制定する。

「働く者が同じ単位を使わぬ国に、同じ努力は存在しない」

ーー出典不明、 勤労王の言葉とされる

以後、王国では建築・商業・軍事・魔導計測に至るまで、
すべてがこの度量衡を基準として運用されるようになった。
単位体系は、王都の標準石柱に刻まれた寸法と重石によって定められ、
現在の王国においても地球と同等の尺度が使用されている。
その理由については諸説あるが、
勤労王が“転生者の記憶”をもとに設計したためと伝えられている。

もっとも、彼の後を継いだ時代には、
この制度を「効率を極めたがゆえに人を追い詰めた王の遺産」と呼ぶ声も多い。
働きやすさと休みづらさ、その矛盾の象徴として、
度量衡統一は王国に今も息づいている。


1.基本方針

この世界の度量衡(長さ・重さ・時間・温度)は、地球のそれと同一である。
メートル法・時間単位(秒、分、時、日、月、年)・重力加速度などの値に乖離はない。
作中ではあえて“現代地球の単位”を使用する。

それは便宜のためではなく、設定上の必然である。
なぜこの世界が地球と同一の物理常数を共有するのか――その理由は、
歴史の深層、あるいは“世界そのものの設計”に関わる問題として、ここでは語られない。

ただし、学術的にはいくつかの仮説が存在する。


2.学術仮説(史学院禁書目録 第三巻より抜粋)

同一設計仮説
 古代魔導文明が〈天球〉の力を借りて世界を再構築した際、
 既存の地球的法則を参照した結果、物理常数が同一になったとする。

原界投影仮説
 この世界そのものが“別層の地球”であり、
 双月は異なる宇宙観測点から見た地球と月の投影であるという。

転移者補正仮説
 転移者が無意識に地球基準の単位を思念で再現し、それが文明に根づいたという。
 この説は異端扱いだが、史学院では密かに支持者が多い。


3.測定と単位の扱い

王国史の時代以降、正式な度量衡は「王立計量院」によって管理されている。
使用される単位は以下の通りで、地球と一致する:

長さ:メートル(m)
重さ:キログラム(kg)
時間:秒・分・時・日・月・年
温度:摂氏(°C)
面積・体積:平方メートル、立方メートル

王国暦の一年は十二の月からなり、暦王制の体系と一致する。
一日は24時制、30日周期の“月籠”が安息日にあたる。


※補記:度量衡の扱いについて

この世界では、地球と同一の度量衡体系が採用されている。
ただし、これは便宜的な設定であり、必ずしも物語中で使用する必要はない。

創作においては、数値よりも情景と雰囲気を優先してよい。
登場人物が「三キロ先」ではなく「遠く霞む丘の向こう」と言うのも、同等の正確さを持つと考えられている。

史学院ではこれを“観測単位の自由原則”と呼ぶ。
すなわち、「世界の法則が地球的である」ことと、「それをどう表現するか」は別問題である。
作家や編纂者は、必要に応じて単位を曖昧にしたり、詩的に言い換えたりして構わない。

設定上、正確な度量衡は存在するが――
それを明示しないことこそが、この世界を生かすひとつの流儀である。

④魔力とは

魔力のイメージ

1.魔力の本質

この世界における魔力とは、
意思を持つ存在の願望を叶える作用をもつ未知の素粒子・エネルギー・思念体である。

人が「こうありたい」と強く願うとき、その思念が世界の根底を流れる微細な粒子に干渉し、現実へと影響を及ぼす。
魔力を吸収するだけで、生物はより強靭になり、飢えや脱水に強くなる。
この作用が可視化・体系化されたものが、現代における〈魔術〉と〈魔法〉である。

登場させる魔術・魔法は、エセ科学であっても、理屈を説明できる範囲の効果にすること。時間操作や瞬間移動もSF的解釈が用意できるなら問題ない。
魔術は「身体や魔導具の内で起こるもの」、魔法は「世界を書き換えるもの」と認識してほしい。

魔力は意志を媒介とするため、単なる燃料ではなく、人格的な傾向を持つとされる。
暴力を好む者の魔力は粗く、治癒を志す者の魔力は穏やかに流れる。
そのため、「魔力量」とは単なる出力量ではなく、“世界との交信能力”をも示す。

一部の学派では、魔力を「双月の残響」と呼ぶ。
赤月は情動、青月は理性の波としてこの粒子に干渉し、
個々の精神状態と相互に共鳴することで形を変えると考えられている。


※補記:創作上の自由について

魔力の定義はあくまで“理論上の仮説”にすぎない。
学派や時代、地域によって解釈は異なる。
物語内で「魔力とは何か」を断定する必要はない。

作中では、雰囲気・感情・象徴性を優先してよい。
魔力は説明されるものではなく、「感じられるもの」として描いても構わない。
――まるで、世界そのものが“誰かの願い”でできているかのように。


2.魔力と経路(マナライン)

〈後衛〉は対象と魔導経路(マナライン)と呼ばれる繋がりを結ぶ。
この操作はきわめて繊細で、通常は杖などの補助魔導具
を介して行われる。

魔導経路は、目に見えない生命の導線であり、〈後衛〉が対象の体内に微弱な魔力信号を送り、その回路を開くことで魔力の授受が可能になる。
この接続を維持するには、〈前衛〉側からの**同調(フォロー)**も欠かせない。
双方の魔力経路が噛み合うことで、初めて高効率な倍化反応が起こる。

魔導経路の有効範囲は、術者の技能に依る。
短くて数メートル、最大でも十数メートルくらい。

〈前衛〉は自身の体内魔力を増幅し、身体強化を行う。
〈後衛〉は自らの魔力を他者へと流し、属性付与回復などの効果を与える。

ただし、魔力の伝達や効果の仕組みについては、古来より「神の恩寵」や「奇跡」として語られ、理論的な研究は進んでいない。願いに対して相手の無意識が勝手に行う。


3.魔術(Sorcery)

魔術は、〈前衛〉と〈後衛〉の二者の連携によって発動する“相互作用の術”であり、直接的な現象ではなく、生体や魔導経路に干渉する補助的技法として発達した。
魔術はあくまで“身体の延長”であり、対象の内側――すなわち生命の流れにのみ作用する。
そのため、火球を放つことも、雷を呼ぶこともできない。
出血の停止、筋力増幅、反応速度強化、組織修復など、生存のための“現実的魔力運用”に特化している。

ただし、〈役割変更(ロール・チェンジ)〉の魔術や、〈完全復活(トゥルー・リザレクション)〉の魔術など、現在の理論体系では再現できない魔術は、準魔法としてカテゴライズされる。

この世界の人々にとって、魔術とは説明不能な現象であり、
効率は悪く、個人差も大きい。
なかには触媒を用意(これが最も原始的な杖だった)したり、呪文や舞踊などの儀式を行い、効果と効率を高める者もいる。
だが、異世界から来た者にとっては事情が異なる。
彼らは魔力を理屈で理解しようとするため、
その操作効率が飛躍的に高まり、既存の常識を覆す結果を生む。


魔力運用の主な例(一般魔術)

  1. 身体強化:〈前衛〉に魔力を与え、筋出力と反応速度を上げる。

  2. 倍化発動:〈前衛〉の体内で魔力が倍化し、戦闘力として顕現する。この効果は、一般に証明されておらず、〈後衛〉の地位向上に繋がっていない。

  3. 再生補助:自然治癒力を高め、傷を修復する。部位欠損は空気中の元素が置き換わっているなどで説明(この場合は準魔法)。

  4. 解毒:細胞活動を活性化。毒素や損傷を除去するなど。

  5. プロテクション:皮膚を硬化させ、衝撃や斬撃を軽減する。

  6. 結界形成:弱い魔物を引き寄せない(匂いや電磁パルス)。病気予防等。

  7. 痛覚麻痺:神経伝達を制御し、痛みを一時的に遮断する。

  8. 精神安定化:脳波の同調で恐怖や混乱を抑える。

  9. 抑制:〈前衛〉の魔力暴走を止める。

  10. 魔力回復:消費した魔力を再循環させる。

  11. 五感拡張:神経伝達を増幅し、感覚範囲を拡張する。

  12. 疲労低減:乳酸分解を促し、長時間行動を可能にする。

  13. 反魂:〈前衛〉の魔力と相互反応させ、停止した生命活動を再開させる。高度な魔術。

  14. 避妊:ごく初歩の身体内魔術。受精のプロセスそのものを停止させる。
    本来は治療術の副産物として発見された基礎魔術のひとつ。この魔術の存在により、男女間の性行為は社会的リスクをほぼ失い、結婚や恋愛は“性別”ではなく〈前衛〉〈後衛〉の相性や役割分担を中心に成立するようになった。


転生者・転移者の魔術(理論派)

転生者や転移者は、魔術を理屈で理解しようとする傾向がある。
この世界の人々にとって魔術は神の奇跡であり、感情や祈りによって発動するものだが、彼らは魔力を物理や生理の延長として分析し、効率的な運用を行う。
そのため、現地では奇跡とされる現象を再現・改良し、
〈後衛〉の魔力操作技術を飛躍的に高めてしまうことがある。

ただし、直感や感情を媒介とするオカルト色の強い一般魔術は苦手とされる。
祈りではなく計算で魔法を成立させるため、
共感を重んじる文化圏では異端視されることも多い。


  1. シャープネス
     手を高速振動させ、刃物につたえ分子レベルで切断力を高める。
     同時に細胞負荷を微弱な修復魔力で補正する高等術。

  2. トゥルー・リザレクション
     心臓に電気ショックを発生させると同時に肺を強制的に作動させる。
     医療的知識と魔力制御の融合による蘇生法であり、
     「願い」による復活しか知らない現地人には再現できない。準魔法。

  3. スリープ
     脳波をアルファ波からシータ波へ導くように魔力を制御する。
     わずか十分で深い睡眠状態に入り、短時間で疲労を回復させる。

  4. 肩こり取り
     血流と筋収縮を微細に制御し、凝りをほぐす。
     即効性があるが、過剰に行うと筋肉痛が残る。筋トレ魔法にも転用できる。

  5. ライトニング
    自然界の電気ウナギと同様に、生体内に“発電細胞(エレクトロサイト)”を模した魔力構造を形成し、そこに蓄えた魔力を一斉放電する術式。電気ウナギが自分の電撃で死なないのと同じく、術者は魔力によって自分の神経伝導を絶縁制御する。もし制御を誤ると、神経系がショートして筋痙攣を起こす。

  6. 二日酔い覚まし
    脱水やホルムアルデヒドなどの原因をピンポイントで解消することで、現地人の魔法よりも素早く解毒することができる。


4.魔法(Magic)

神話の時代に行使されたと語られる、“世界そのものを書き換える力”。
魔術とはまったく異なる体系、それが魔法である。

世界の法則を直接ねじ曲げる禁忌の御業とされ、現代では秘匿され、存在すら一般には知られていない。
双月教の聖典には暗示的に触れられているが、歴史資料では“神の怒り”として寓話化され、具体的な記述はほぼ残っていない。
使い手として〈東の賢者〉最有力候補となっている。
古代魔導文明期には、天候操作・物質変換・念動・空間跳躍なども確認され、まさに神の領域に踏み込んだ技術であった。
一説によれば、人類には大きすぎる力であり、
この魔法行使こそが、古代魔導文明崩壊の一因になったという学説が根強い。

ゆえに、現代王国において「魔法」は禁忌であり、
“神話にだけ残る危険な遺産”として扱われる。

1.〈火炎球〉の魔法 ― ファイヤーボール

空気中の酸素濃度・温度・流速そのものを一瞬で組み替え、
大気を爆燃させて火球を生成する
魔術師の手から放たれた瞬間、周囲の温度が跳ね上がるため、自然界では起こりえない“火の塊”が飛ぶ。


2.〈雷〉の魔法 ― サンダーボルト

大気中に架空の導線を引き、
雷雲のない場所に落雷を発生させる
電位差の創造そのものが世界法則の改変であり、魔術とは完全に別系統の現象。


3.〈風剣〉の魔法 ― ウインドカッター

流体の密度と流速を強制的に分割して、
“切断面を持つ風”という存在しない物質を形成する
空気を物質のように扱う時点で、魔術では到達不能。


4.〈泡〉の魔法 ― キャビテーション・ブレード

水中に“真空の泡”を大量発生させ、
その爆縮エネルギーで対象を粉砕する水の刃
水の性質を一瞬で捻じ曲げるため、古代でも禁呪扱いだったと伝わる。


5.〈レンズ〉の魔法 ― 太陽収束

はるか上空に巨大な凸レンズ構造を形成し、
太陽光を一点に収束させて地上を焼き払う。
物質のない“光学機構”を生成するという人智を超えた行為。


6.〈真空〉の魔法 ― 空間消失

局所空間を完全な真空に書き換え、
圧力差による爆縮を発生させる“空洞爆弾”
瞬間的に空気を“なかったことにする”ため、地形そのものを変える力がある。

⑤魔力演算と戦闘出力理論(基礎設定)

1. 概要

この世界では、〈前衛〉と〈後衛〉の組み合わせによって戦闘能力が決まる。
個々の絶対的な魔力量よりも、魔力の相互作用による倍化が最も重要な要素である。
魔術は感情や才能ではなく、数値的に計算可能な現象として扱うことができる。

本体系は、〈魔力出力〉を中心とした一連の擬似物理式で構成される。
あくまで“作中での整合性を取るための指標”であり、
魔術行為そのものを科学的に再現するものではない。


2. 魔力量の基準値

この世界における魔力量の平均値は、便宜上「100」と定める。
一般成人の〈前衛〉と〈後衛〉は共にこの数値を基準とし、そこから個人差が生まれる。

〈前衛〉は、自身の魔力を体内で増幅(倍化)する能力を持つため、平均的な戦闘時の魔力出力は「200」前後となる。
一方、〈後衛〉は魔力を他者に供給する性質を持つため、単独では「100」前後にとどまり、戦闘面では非力である。

辺境で活動する上位冒険者〈辺境クラス〉の魔力量は「120〜150」とされる。
この階層では倍化率も高く、「2.5〜3倍」。
結果として、辺境クラスの〈前衛〉はおおよそ「300〜450」、〈後衛〉は「120〜150」程度の出力を持つ。

そのさらに上に位置するのが、勇者階級である。
勇者の魔力量は「165」、倍化率は「3.3倍」、理論上の最大魔力出力は「545」に達する。


3. 魔力出力の基礎構造〈通常支援〉

この世界における魔力運用の基本は、〈前衛〉と〈後衛〉の性質の違いにある。
〈前衛〉は自身の内側で魔力を倍化し、身体能力を強化する。
〈後衛〉は魔力を他者に与えることができるが、倍化は〈前衛〉の体内でのみ起こる。
この根本的な差が、両者の戦闘力と社会的役割を決定づけている。


[単独で行動する場合]

〈前衛〉は平均的に魔力量100、倍化率2倍とされ、魔力出力は約200となる。
同じく魔力量100の〈後衛〉は、倍化を行えないため、出力はそのまま100である。

辺境クラスの熟練冒険者になると、この差はさらに広がる。
〈前衛〉では魔力量120〜150、倍化率は2.5倍から3倍に達し、魔力出力はおおよそ300〜450となる。
〈後衛〉は倍化を持たないが、純粋な魔力量そのものが高く、120〜150程度の出力を発揮する。

勇者クラスに至ると、魔力量は165、倍化率は3.3倍となり、理論上の魔力出力は545前後に達する。
これは人間の肉体が制御できる限界に近く、一般的な戦士では到底扱えない領域である。


[後衛 × 後衛 の場合]

後衛同士が魔力経路を結んだ場合、倍化は発生しないが、魔力の総量が単純加算される。
一般的な組み合わせでは、魔力量100+100で魔力出力200となる。

辺境クラス同士の場合は、魔力量120〜150をそれぞれ掛け合わせるため、
総出力は240〜300前後に達する。


[前衛 × 後衛 の場合]

この組み合わせが、最も基本的で、かつ戦闘面で理想的なペアとされる。
ただし、単純な足し算では成り立たない。
倍化処理はあくまで後衛からの魔力供給のあとに発生するため、
「①魔力を受け取る → ②体内で倍化する」という二段階の手順を踏む必要がある。

もし単純に加算と倍化を同時に処理してしまえば、
“後衛不要論”が成り立ってしまう――つまり、前衛の単独出撃のほうが強く見えてしまう。
その矛盾を避けるため、魔導理論上も倍化は供給後の順次発動とされている。

具体的な出力は以下の通りである。

・一般的な〈前衛〉と〈後衛〉の組み合わせ:
 まず、〈前衛〉の魔力出力200に対して〈後衛〉が魔力100を供給し、合計で300となる。
 次に〈前衛〉の体内で倍化が行われ、300×2倍=出力600に達する。

・辺境クラス同士の組み合わせ:
 まず、〈前衛〉の魔力出力300〜450に対して〈後衛〉の魔力120〜150を加える。
 この時点で総魔力出力は420〜600。
 その後、〈前衛〉の体内で倍化処理が発動し、
 最終的な魔力出力はおよそ840〜1800に達する。


この構造によって、
単独行動時よりも〈ペア運用〉のほうが圧倒的に効率が良く、
“二人で一つの戦闘単位”という社会的・軍事的前提が確立している。
百年前の魔王戦争期において、〈非推奨パーティー〉が弾圧されたのも、
この魔導理論の実戦的優位性によるものである。


4.最後の切り札〈多重支援〉

〈前衛〉ひとりに対して複数の〈後衛〉が同時に魔力を供給する禁断の戦術である。理論上は莫大な魔力を瞬時に集約・倍化できるが、二人掛かりでも〈前衛〉の負担は甚大である。〈前衛〉の肉体が持たない、〈後衛〉も攻撃の余波の巻き添えを食らう場合が多い。
ゆえに、双月教では「神の領域を侵す行為」として使用を禁じている。
それでもなお、〈多重支援〉は戦局を覆す“最後の切り札”として語られる。英雄譚においては、命を賭して放たれるその一撃が戦いの象徴となり、後世では“情動の奇跡”と呼ばれた。現在の魔導理論では、〈前衛〉と〈後衛〉がひと組で完全な循環を成す――すなわち〈二人こそ至高〉という思想が支配的である。

⑥魔導具(マギア・デバイス)の理論

魔導具の中枢には宝玉(コア)が組み込まれている。
コアは魔力を蓄えるための結晶体であり、いわば魔力のバッテリー
に相当する。

〈後衛〉はこの宝玉に魔力を充填(チャージ)することができる。
一度魔力が満たされれば、魔導具は〈後衛〉の存在を必要とせず、
〈前衛〉でもスイッチのように操作して使用
できる。
灯をともすランタン、熱を発する調理器、音を伝える通信具など、
魔導具はこの単純な仕組みによって動作している。

コアに込められた魔力量が尽きれば、、再び〈後衛〉による充填が必要になる。

このため、〈後衛〉が魔導具を充填し、〈前衛〉がそれを使うという分業体制が確立している。
魔導具は戦場でも家庭でも不可欠な道具であり、
魔力社会のインフラを支える、いわば「魔力版の電化製品」として普及している。

1.最古の魔導具〈杖〉

最も一般的な魔導具は**〈後衛〉の杖である。
杖は魔力経路の形成・対象との接続・維持を補助する装置であり、
〈後衛〉にとっては必需品だが、その分柔軟性を損なう*
*という欠点を持つ。


2.武器魔導具と防具魔導具

魔王戦争後、〈後衛〉の地位向上を目的として武器魔導具の開発が進められた。
しかし最終的には、魔力を貯蔵した魔導具を身体能力に優れる〈前衛〉が使用したほうが効率的であると判明する。
以後、武器魔導具は〈後衛〉の護身用として扱われるようになった。

同様に防具魔導具も存在するが、
多くの後衛は「防御に魔力を回すより、前衛の強化に注ぐほうが有効」と考える。
過剰な武器や防具を携えることは、
「前衛を信頼していない」という意思表示とみなされ、
パートナー関係に亀裂を生むことすらある。


3.投射型魔導具

遠隔操作を目的とした投射型武器魔導具には一定の可能性が見られた。
しかし、平均的な〈後衛〉の魔力経路形成距離は短く、
安全距離からの攻撃にはブースターや中継機となる補助魔導具が必要になる。
そのため、実戦投入にはコストと準備がかかり、
戦争のない現代ではほとんど使われていない。


4.魔導柱(マギア・タワー)

魔導柱のイメージ

魔王討伐後に発明された大型の魔導具で、
街道沿いに等間隔で設置されている。
主な機能は街灯、魔物よけの結界、魔導通信の中継
王国の安全と通信を支えるインフラとして、
現在も改良が続けられている。


5.真実の宝玉

〈後衛〉が魔力経路を接続すると、
発言が本音である場合に青白く発光する魔導具。
前衛は魔力経路を形成できないため使用できない。
貴族の裁定儀式などで使われるが、
魔力の感情干渉による誤作動も多く、万能ではない。


6.魔導車両・魔導人形(古代魔導文明期)

古代魔導文明の遺産として知られる魔導具。
魔導車両は魔力を動力源とした浮遊式の輸送具、
魔導人形は魔力制御による自律兵器である。
現在では失われた技術とされ、研究は再現段階にとどまる。


7.魔楽器

魔楽器のイメージ

戯曲王の遺産として数えられる。
魔力を使うことで音を増幅することが可能。
そのため、タップ演奏など、電子楽器に使われるような奏法が可能となる。
本編中で使用された楽器のイメージは、チャップマン・スティック、ハンドパン、オンド・マルトノ、ハーパジなど。

⑦大陸地理

三つ葉大陸の形状イメージ(あくまでイメージです)

舞台となる大陸は、三枚の葉が重なるような形をしており、
その輪郭から「三つ葉大陸(トリリーフ)」と呼ばれている。
総面積はおよそ 7,700,000平方キロメートル
地球でいえばオーストラリア大陸に近い広さに相当する。

三葉はそれぞれが広大な地形的単位をなし、
王都が置かれるのは東寄りの第一葉である。
中央から西へ進むほど気候は乾燥し、
肥沃な平原から荒涼とした岩砂漠へと移り変わる。

霧吹きのような雨がいっとき降るだけで、年中気温も一定で過ごしやすい。


1.大陸の形と地勢

三つの葉は山脈と大峡谷によって緩やかに接しており、
その境界部には風が常に渦を巻く。
海に面した沿岸は複雑で、断崖・岩礁・深い入り江が連なっている。
港として利用できる土地は極めて少ない。
沿海部には強い潮流と霧が発生しやすく、
古くから「怪物の棲む地」として避けられてきた。

人々の生活圏は、陸路によってのみ繋がっている。
航海術や外洋交易の概念はほとんど存在せず、
街道と河川網がこの世界の交通のすべてを担っている。


2.王都と辺境

王都西門より王城を望む景観イメージ

王都は第一葉の東寄りの中心部に位置し、
平原と丘陵に囲まれた穏やかな気候帯にある。
都市は石造りで整然とし、行政・宗教・学術の中枢として機能している。
王城を中心に、北を商業地区、南を旧市街、西を冒険者・新地区、東を貴族地区となる。
スラムは存在しない。
政治が安定しているというよりも、常に魔物の脅威にさらされ、家畜がいないため農作業にも人手が必要で、防衛と富国の両面で人材が絶えず求められる国家だからだ。

辺境の玄関口の街イメージ

これに対し、辺境と呼ばれる地域は
第二葉および第三葉の大部分を占める広大な未開地である。
その九割近くは探査が進んでおらず、
旧魔王領に隣接する荒野や廃墟、魔物の支配域が続く。
古代魔導文明の遺跡も数多く存在し、冒険者のメッカとなる。
玄関口となる街を越えると、その先は冒険者の最前線都市となる。


3.端域(はしいき)と伝承

大陸の外縁――いわゆる「世界の果て」――は、
濃い霧と『見えない壁』に覆われている。
海があるとされてはいるが、
実際に戻ってきた者は少なく、
地図にも白い余白のまま残されている。

人々はその領域を「外海(そとかい)」と呼び、
そこに棲む怪物や消えた船の伝承を語り継いでいる。
このため、王国の世界観は内陸志向であり、
“外”という概念は、常に恐れと憧れの両方を帯びている。

五百年前に〈東の賢者〉が、使徒とともに〈聖なる阿呆船(アーク・ナレンシフ)〉に乗って流れ着いて以来、王国建国から四百年、難破船どころか漂流物ひとつすら打ち上がらない。

⑧人種

1.東部人と西部人

古代魔導文明時代、かつて三つ葉大陸には、明確な民族的分断があった。
失われた記録には、王都を中心とする東部は〈青人〉、辺境と旧魔王領を含む西部は〈赤人〉と呼ばれていた。
〈赤人〉=支配階層、〈青人〉=被支配階層という構図が存在した。

この「青」「赤」は肌の色を指すものの、地球的な意味での白人・黒人ではない。
人々の外見は多様で、いわば「アニメキャラクター的」な自由さを備えている。
これは、アニメキャラクターを肌の色で人種的に分類しようとする
一部海外の価値観への皮肉でもある。

しかし、建国から四百年が経った現在、
両者の混血は進み、もはや遺伝的に区別することは不可能に近い。
現代の王国社会では、外見よりも教育や出身地、職能による差異が重視されている。
文化的には、現代アメリカに近い“多民族社会の中の統一王国”といえる。
やがて、この違いも遠い昔話となるだろう。
学者の中には、数世代後には文化的な差異さえ消えると予測する者もいる。

〈前衛〉〈後衛〉役割差別を明確にするため、人種差別表現はないとするのが鉄則だ。


2.転移者と転生者

かつて世界には、異なる時代や世界から“呼ばれた”者たちがいた。
彼らは〈転移者〉と〈転生者〉の二種に分けられる。
作品に登場させる場合は、以下のルールを遵守のこと。

彼らは異常な知識や言語能力、
この世界には存在しない思想や倫理観を口にすることがある。
ときに、特殊能力を持つものも現れる。
その結果、正気を保てずに狂気や妄信に陥る者、弾圧を受ける者も多く、
双月教ではこれを「魔人」と呼び、慎重に扱う。

〈転移者〉

突発的な時空転移によって、現代の肉体を保ったままこの世界に出現した者。
彼らの出現には一定の“法則”があり、現代文明の遺物(スマートフォン、電子機器、化学繊維など)は持ち込めない。
転移の瞬間に、それらの物質はすべて分解・無効化される。

また、身体的にも“この世界の理”に適応した状態で現れる。
歯科治療などの時代にそぐわない人工的痕跡は失われ、インプラントなどもすべて消滅する。地球由来のタトゥーなども消える。

これは“世界が異物を拒む”ための自動調整とされ、
転移者はそのまま放り出されても、生存可能な程度に再構成されている、とされる。

〈転生者〉

魂のみが転生し、この世界で生まれ直した者。
いつ、どの瞬間に前世の記憶が甦るかは完全にランダムである。
幼少期に思い出す者もいれば、死の間際まで忘れている者もいる。

転生者の多くは、自分が転生者であることすら知らずに一生を終える。
だが、稀に――完全な記憶を取り戻す者がいる。

転移者・転生者の特殊能力例〈月籠〉

転移者・転生者の中には、一定の周期で〈月籠〉と呼ばれる現象を起こす者がいる。
この現象は、双月の位相が新月の日に発生し、〈前衛〉と〈後衛〉の役割が強制的に入れ替わる。

〈月籠〉の最中、彼らは著しい魔力制御の乱れ、感情の不安定化、幻視などを経験する。
理性(青月)と情動(赤月)の均衡が崩れ、両月の加護が一時的に失われるためである。
この現象は、生理的・精神的周期の暗喩としても捉えられており、
特に転移者や転生者においては、外来の魂と現世の身体との不調和が顕在化したものと解釈されている。

〈月籠〉の日、当人は戦闘や支援の能力を失い、静養に入ることが推奨される。
古くから「月に籠もる」という表現は、穢れではなく“再調律”を意味し、
双月教でも〈月籠〉は“理と情の均衡を取り戻す神聖な休息”として認められている。

⑨王国史(概略)

書籍『非現実王国正史』のイメージ

王立史学院編纂『非現実王国正史』

建国四百年の節目に改訂された最新版。
革装丁の皮紙はまだ硬く、鞣された革と乾かぬインクの匂いが漂う。
表紙には二つの紋章――王家の双月の紋章と、
本にとまる**八咫梟(レイヴンオウル)**の意匠が箔押しされている。

編纂は王立史学院。監修は公爵H・D・リヴァード=カッパーアーカイヴン
王命により改訂されたが、執筆には多くの史官と宗教家が関わっており、
その内容は必ずしも中立ではないとされる。


第一章 古代魔導文明の滅亡(約五百年前)

王国史は、古代魔導文明の崩壊から始まる。
この時代は失われた技術と神々の干渉が入り混じるため、
史実というよりは伝承と神話の時代である。

古代魔導文明滅亡後の百年間、各地に小王国と女王制国家が乱立した。
人々はその時代の十二の支配者を**歴王(れきおう)**と総称し、
後の暦(十二ヶ月)にその名を冠した。
六人の王と六人の女王は、生没年こそ定かでないが、
建国以前の文明的・宗教的礎を築いたとされる。

名を持たぬ二柱の月の神に倣い、歴王たちの本名は記録されない。
彼らは死後、その功績によって称号を授かる

歴王十二座

王国歴では一年を十二の月と十二の王(女王)に対応させる。
各月の支配者は〈歴王〉と呼ばれ、彼らの名は今も暦に冠されている。
神話上の順序は、創造から破壊、そして再生へと循環する。

九月 野蛮王(やばんおう)
原初の始まり。文明前の力と本能の象徴。
人々を隷属し、使役した。
収穫の余熱とともに新年が開く。

十月 魔導王(まどうおう)
知と技が芽吹く。
魔法体系を確立し、伴侶〈野蛮王〉の堕落に反旗を翻す。

十一月 勤労王(きんろうおう)
働きと共同の季節。社会の基礎を築く。

十二月 美食王(びしょくおう)
実りを祝い、宴を開く。感謝と豊穣の月。

一月 戯曲王(ぎきょくおう)
物語と芸術の月。人は役割を演じ、社会を模倣する。

二月 遊戯王(ゆうぎおう)
競技と試練の季節。力と規律を競い合う。

三月 発明王(はつめいおう)
秩序と装飾の完成期。魔導具や機械を多数発明する。

四月 沈黙王(ちんもくおう)
熟成と内省の月。余白と静けさを尊ぶ。
哲学王の異名を持つ。

五月 祈祷王(きとうおう)
祈りと信仰の季節。人々は天を仰ぎ、双月教を興す。

六月 夢想王(むそうおう)
夢と幻が現実を曖昧にする。神話と狂気の境界に立つ。

七月 農耕王(のうこうおう)
過ちを悔い、再生を誓う。収穫と労働の季節。

八月 征服王(せいふくおう)
祭りと終焉の月。成果と秩序の完成を象徴し、ここで年が閉じる。


第二章 征服王と統一王朝の成立(建国元年)

最後の歴王〈征服王〉が、
諸王を討伐し、初代王として王国を統一した。
史書によれば、一万人の〈前衛〉と〈後衛〉を動員し、
わずか七日で王都を築いたという。

誇張と見る学者も多いが、記述の熱量からは
当時の人々がこの神話を信じたかったことがうかがえる。

以後、年表の記録は一気に精緻化し、
王権の系譜が混沌と並ぶようになる。
だが同時に、歴王の功績が曖昧になり、
後代の王たちが、その威光を借りて権威を世襲していく過程が見える。
たとえば、飽食三昧に明け暮れると〈美食王◯世〉を世襲し、
特別なにもしていない王様は〈夢想王◯世〉を世襲する。
〈野蛮王◯世〉を世襲する王様は、政治を混乱させた暗君だ。
彼らは、心神喪失による退位が続き、政体は混迷を極めた。


第三章 後衛王と魔王戦争(王国歴三百年)ま

魔王戦争のイメージ

百年前、王国は魔王戦争と呼ばれる大災厄を経験する。
魔王が魔物を率いて侵攻し、土地は荒廃した。
人々は互いを疑い、異なる思想を弾圧し合った。

この時代に現れた勇者パーティーの活躍により、
魔王は討たれ、戦争は終結する。
その後、勇者パーティーの一人――〈後衛〉王子が王が即位し、
史上初の〈後衛王〉が誕生した。

以後、王国は長い平和期に入るが、
同時に“後衛の時代”を象徴する新たな社会対立を生むことになる。


現代(王国歴四百年)

表向きは繁栄と平和の時代。
だが、後衛扶助を掲げる改革派と、
伝統を守ろうとする保守派が対立を深め、
互いを「偽神」「魔王の残党」と罵り合っている。

史書に記された英雄たちの理想は風化し、
「征服」「統一」「勇者」「後衛王」といった言葉だけが
政治と信仰の旗印として使われ続けている。

⑩王国体制

1.人力文明

人力文明のイメージ

この世界の文明は、魔力を媒介にした人間の労働によって成り立っている。
動物はすべて魔物化の危険を持つため、馬車も牛も家畜も存在しない。
しかし、人は〈前衛〉と〈後衛〉という二種の魔力循環によって、
その欠損をむしろ魔力技術の発展の起点へと変えた。

国防と富国の両面において、人手が必要な国家運営のため、浮浪者や野党といった犯罪者はすくなく、それに落ちる者たちは、独自の哲学を持つことが多い。


移動手段

主な移動は徒歩。
家畜がいない。馬も牛もラクダも存在せず、荷車すら人が押す。
だから、徒歩移動は身分を問わず、王族も商人も農民も冒険者も、基本は同じ速度で同じ距離を歩く(RPGにおいて、王族の勇者が徒歩で冒険に出る違和感への回答)。
旅は特別な行為ではなく、生活のどこにでもある“長い歩行”として扱われる。

人々は“歩くための暮らし方”を身につける。

・歩きやすい衣服
・負荷を分散する荷物の工夫
・宿場町の発達
・街道沿いの水場

旅が日常化しているので、出立や帰宅に大げさな儀式はつかない。
歩行速度や持久力は、〈前衛〉にとって〈後衛〉へのアピールポイントになる。
恋愛で「歩調が合う」は比喩ではなく、文字通りの相性判断となる。

長距離輸送では「搬車(はんしゃ)」と呼ばれる手押し車が使われる。
〈前衛〉が引き、〈後衛〉が助手席に乗って魔力を供給する。
軸と軸受の強度の問題で、移動速度は徒歩と変わらないが、運搬力は8トントラックに引けを取らない。

〈前衛〉が背負子に〈後衛〉を乗せる形態がもっとも早い移動手段である。
ただし、それは単なる歩行ではない。
〈前衛〉は魔力による身体強化を常時行い、
〈後衛〉は後方から魔力を供給して持久力を補う。


建築・労働

建築現場では、滑車クレーン装置が一般的だ。
原理はてこや滑車だが、〈前衛〉と〈後衛〉が魔力支援によって重機以上の働きをこなす。

農業においても犂を引くのは人である。
農作物の魔物化を防ぐため、〈後衛〉が〈魔引き〉をする。


文化的影響
文明は労働を軽くする方向には進まず、
むしろ**“魔力を使って働くこと”そのものを誇り**とする。

双月教ではこの価値観を「人は神に似て創造する存在」と教え、
“魔物を使役せず、人の魔力で世界を動かす”ことを神聖な行為とする。
ゆえに、魔導具を多用する社会でありながら、
それを“自然破壊”とは見なさず、“人の理性の証”とみなす文化が根付いた。


国防と富国

この社会では、人こそが最大の資源である。
家畜も奴隷も存在しないため、国防も生産もすべて人の労働力に依存している。
そのため、国家運営の根幹には「全員参加の労働倫理」がある。
働くことは生存であり、同時に信仰である。

結果として、浮浪者や野盗といった犯罪者は極めて少ない。
労働の余地が常に存在し、国が人手を欲しているからだ。
それでも堕ちる者たちは、往々にして独自の哲学や思想を抱いた異端者である。
彼らは社会の外側から、世界の価値観を問い直す存在として物語に深みを与える。


作者向け注記

この世界の技術は、機械ではなく魔力エネルギーによる生体工学的文明である。
エンジンも油も不要。かわりに、人と魔力が労働単位の中心にある。
作中では“人力”という言葉が残っているが、
それは単に「魔力を使う人間の力」という意味である。
家畜も奴隷も使わず、人の魔力で文明を支える世界――
これこそが、王国の誇る“倫理的近代”である。


2.社会構成:貴族・平民・冒険者

双月王国における階級は、もはや封建的支配ではなく、「何を食べるか」「何を着るかか」で象徴される。
戦争の終結以降、貴族の世襲は固定化し、社会的な流動はほとんど失われた。
だが、階級の境界は今も“食性”によって明確に分かたれている。
平民はよりよい暮らしを望むものの、最低限飢えることもないので、貴族に成り代わろうという気概はない。
ちょうど日本の現代社会の一般人と政治家のような関係だ。

貴族は〈魔物加工物を食い、まとう者〉である。
彼らは魔物の肉を糧とし、革をまとい、権力の象徴とした。
しかし、バランスを欠く食事は栄華と退廃を同時に象徴するものとなった。
農作物は下賤な食べ物とするが、食材の姿がわからないほど加工した、酒やスープは飲むという矛盾。

平民は〈農作物を食い、まとう者〉である。
彼らの食卓に並ぶのは、〈後衛〉が魔力を抜いた穀物や野菜――いわゆる〈魔引き〉によって清められた食糧だ。
そのため、身体は小柄ながら均整が取れ、健康的で寿命も長い。
彼らの健全さこそが、王国の実質的な土台を支えている。

冒険者は〈両方を食い、まとう者〉である。
身分を失った者たちは、生きるために魔物を狩り、食料を得る。
魔物も農作物も、彼らにとっては同じ糧だ。
そのため、冒険者の身体は逞しく、時に貴族を上回るほどの体躯を誇る。

こうした食と衣の階層構造は、単なる嗜好の違いではなく、
魔力と生命の循環に対する〈立場〉そのものを表している。


3.王権と三大公爵家

王家の双月紋のイメージ

王は神聖不可侵とされ、双月信仰の象徴でもある。
即位すると名前が奪われ、単に「王」と呼ばれる。
死後、功績に則った冠を頂く。

王統を継ぐのは、基本的に〈前衛〉の第一子である。
建国400年で42代の王が交代している。
平均在位10年だが、基本は1~3年で心神喪失によって退位するパターンが多い。
最長在位期間は、〈後衛王〉の69年。他の王に比べると段違いに長い。
次点の初代国王の〈征服王〉でさえ37年だ。

民衆の感覚はこうなる。
「王は祈りの器。長く保てるほうが珍しい。」
つまり、彼らにとっては短命な王のほうが自然現象に近い。

いちばん不吉なのは、「長く在位しすぎる王」。
後衛王の時代は、政治・文化面で大きな変化があった。
ゆえに〈後衛王〉は不気味な存在となる。


ゴルディロッド家(後衛貴族)

紋章イメージ

王国最古の後衛名門。
魔力伝達や医療、神殿運営など〈後衛〉文化の中枢を担う。
宗教・医療・学問の後見人として王権を支えるが、
その影響力はしばしば“神学政治”と揶揄されるほど強い。

シルヴァーナイトレイ家(前衛貴族)

紋章イメージ

王国最大の軍事貴族。
〈前衛〉の象徴として武と名誉を掲げ、騎士団や国境防衛を統率する。
英雄家系でもあり、“力による秩序”を理想とする。

カッパーアーカイヴン家(内政貴族)

紋章イメージ(実際は三本脚の八咫梟)

王国の行政・財務・記録を掌握する官僚貴族。
“記録こそ秩序”を信条とし、歴史編纂・文書管理・徴税・測量を司る。
史学院と深く結びついている。


4.王国の上位貴族制度

王国の統治機構を支える実務貴族層。主に公爵家の分家や古参貴族から成る。

侯爵:王国と辺境をつなぐ中継領を統治。交易を担う。
伯爵:都市単位の行政権を有し、徴税と司法を管轄。
子爵:地方領主として、複数の村落を統治。
男爵:単一の領地を保有し、王国軍への兵役義務を負う。

いずれも〈前衛〉系統が多く、土地を直接支配する立場にある。
彼らは名誉と権威を誇るが、辺境の脅威から最も距離が遠い階層でもある。

5.叙任貴族 ― 騎士爵とその派生

王国では、市民・冒険者の中から功績を挙げた者に爵位を授与する制度がある。
これが〈叙任貴族〉であり、もっとも下位ながら社会的影響力を持つ。
中世日本の朝廷と武家社会を連想するといいだろう。

  • 騎士爵(ナイト)
     剣と杖の均衡を象徴する爵位。
     冒険者にとって到達目標とされる“名誉の称号”。
     辺境での活躍や魔物討伐、探査報告などによって叙任される。
     領地は与えられないが、市民権と同等以上の社会的保障が付与される。

  • 準騎士(エスクワイア)
     騎士爵候補。組合推薦や貴族庇護によって叙任試験を受ける権利を得る。
     従士・副官として貴族の軍務や研究に従事し、戦功を積むことで正式な叙爵を受ける。

騎士爵は“冒険者上がり”の称号として、平民にとって唯一の上昇機会である。
多くの若者が冒険者を志す理由のひとつが、**「名を得る」**こと――つまり爵位そのものだ。
また、身なりのよい冒険者のことを〈騎士〉と言い習わす。


補記:なぜ貴族は辺境を望まぬのか

建国より四百年。王国の西方には、いまだ地図に描かれぬ広大な未開の地――いわゆる〈辺境〉が横たわる。肥沃な土地も鉱物資源も眠るとされるにもかかわらず、なぜ貴族たちは領土を広げようとしないのか。 その理由は、単なる恐怖や怠慢ではない。信仰・経済・生態・文化・歴史、五つの封印が、王国の拡張を根本から阻んでいるのだ。

一、魔力圏の壁(迷信)

辺境には「魔力圏」と呼ばれる領域がある。
空気そのものが濃密な魔力を帯び、人間の身体が長く晒されれば、魔導経路が乱れ、理性を蝕まれると信じられている。
竜種が棲むこの地帯は、目に見えぬ壁のように人の侵入を拒む“生存の限界線”として語り継がれてきた。

王国の年代記では、幾度となく軍勢がこの地に遠征し、いずれも帰還したと記されている。
表向きには「魔力汚染による撤退」と説明されるが、実際には竜種の圧倒的な脅威によって敗走したにすぎない。
貴族たちはその屈辱を“魔力のせい”と呼び換え、自らの無力を覆い隠したのだ。

つまり、〈魔力圏の壁〉とは自然現象ではなく、恐怖と敗北が生んだ神話的な防衛線である。
迷信の名を借りた人間のプライド――それが、辺境を“未知”のまま保ち続けている。

二、禁忌の技術〈屍結〉

征服王時代、死体を魔力で固定し防壁とする〈屍結〉の術が用いられた。
これにより辺境を一時的に支配下に置いたが、
後に双月教が成立すると、魂を冒涜する行為として禁じられた。
以降、辺境開発は宗教的に不可能となった。
「辺境を広げること=信仰への背反」となったのである。

三、経済的停滞と自給化

〈魔引き〉の発明により、王都周辺の農地は高い生産性を維持している。
食糧も資源も内需で完結し、輸送費の高い辺境開発は採算が取れない。
貴族にとって辺境は、富を生む投資ではなく“損を出す冒険”でしかない。
豊かすぎる中央が、冒険の意義を忘れたのだ。

四、狩猟文化の喪失

かつて貴族は自ら魔物を狩り、その肉を食らうことで力(権威)を得ていた。
しかし戦争の終結とともに、冒険者組合が設立すると、魔物は冒険者が狩り、肉は供給されるようになった。
もはや狩ることは貴族の務めではなく、嗜みとなった。
辺境に赴くことは、彼らの“神話的出自”への逆行であり、
それは文明社会の誇りに背く行為と見なされている。

五、〈辺境喰い〉の伝説

112年前、ある辺境伯が開拓遠征を行い、
その一族ごと地図から消えたという記録がある。
以降、“辺境が人を喰った”という噂が広がり、
「辺境喰い」という語は王都での禁句となった。
恐怖と迷信が、理性の名の下に沈殿した結果、
誰もその地に踏み出さなくなった。


補記:なぜ冒険者は辺境へ向かうのか

辺境は、王国の外縁にして終端――すなわち「未知」と「死」の境界である。
それでも人はそこを目指す。
貴族が恐れ、平民が避ける場所へ、あえて足を踏み入れる者たち――それが冒険者だ。

その動機は単純な蛮勇ではない。
そこには、信仰とも政治とも異なる、**“人間の根源的衝動”**が潜んでいる。

一、英雄願望と救済衝動

王国では、〈前衛〉と〈後衛〉の適性が個人の価値を左右する。
社会に居場所を見出せなかった者たちは、
戦場という極限で自分の意味を取り戻そうとする。
彼らにとって辺境は、英雄として再誕するための舞台なのだ。

二、報酬と名誉の制度化

辺境調査や魔物討伐は、国家主導ではなく冒険者組合を介して行われる。
その成功者には、莫大な報酬と名誉、市民権の回復、さらには騎士爵位の授与が待っている。
これは中世の〈フォーローン・ホープ(絶望的先遣隊)〉――
死を覚悟した突撃者への栄誉制度に近い。
“生き残ること”自体が、彼らの最高の勲章なのだ。

三、領土防衛の最前線

冒険者たちの活動は単なる私的な挑戦ではない。
彼らの討伐と探索は、竜種植物の繁殖拡大を抑制し、
人類の生存圏を維持するという国家的防衛にも直結している。
いわば、彼らは生態系の防波堤として機能しているのだ。

四、辺境という「空席の玉座」

王国の政治構造が停滞する中で、辺境は依然として“空席の地位”である。
新たな都市を築き、資源を開拓し、名を上げれば、
そこから政治家・領主・公爵家分家への道が開かれる。
辺境は、没落者にも出世者にも等しく開かれた“第二の王国”なのだ。

五、信仰的背景:双月の試練

双月教の教義では、「未知への挑戦」は理性と情動の均衡を試す聖なる行いとされる。
辺境を越えることは、赤月(情動)と青月(理性)の狭間を渡る行為。
その危険をくぐり抜けた者は、神々に“均衡を見出した者”として尊ばれる。
勇者や英雄譚が途絶えぬ理由は、ここにある。


冒険者とは、文明が閉じた後の最後のフロンティアで生きる人々である。
彼らは領土を広げるのではなく、“生存圏を維持するために戦う”。
そして――誰もが心のどこかで、こう思っている。

「いつか、自分も勇者になれるかもしれない」と。


補記:奴隷制が存在しない理由

王国には、古来より奴隷制が存在しない。
それは単なる理想主義の結果ではなく、
宗教・経済・生態・政治のすべてが“奴隷を成立させない構造”で成り立っているためである。

一、双月教の倫理

双月教では、「理性と情動は等価である」という教義に基づき、
いかなる人も“他者の理性を奪うこと”を最大の罪と定めている。
奴隷化とは、理性(青月)を封じて情動(赤月)のみを支配する行為に等しい。
ゆえに宗教的には“月の均衡を壊す冒涜”とされ、
奴隷の所有は神への反逆と見なされる。

二、食料と生産の自足

農業技術〈魔引き〉の発展により、食料供給は常に安定している。
人手不足は存在しても、飢えや貧困は制度的に解消されている。
そのため“働かせて食わせる”という前提自体が成り立たない。
奴隷は経済的に非効率なのだ。

三、家畜の概念の欠如

この世界には動物というものが存在せず、すべてが魔物として自我を持つ。
したがって、人が生き物を完全に支配するという概念がそもそも発達しなかった。
「家畜を飼う」「所有する」という発想が文化的に異端なのである。

四、反乱のリスク

〈前衛〉と〈後衛〉が連携すれば、一つの小隊で都市を滅ぼすほどの力を発揮できる。
もし奴隷化した者たちが、魔導経路を繋ぎ合えば、一夜にして国家転覆が起こる。
ゆえに、強制労働よりも“説得と均衡”のほうが安全という結論に至った。

五、社会的代替:契約奉公〈魔境送り〉

奴隷の代わりに存在するのは、期限付きの〈契約奉公〉制度である。
罪を犯した者、借金を負った者は、自らの〈役割〉を国家に貸し出す形で贖罪する。
主な苦役に、〈魔境送り〉がある。
魔物を狩り、命を賭して王国に貢献すれば、再び“名”を取り戻せる。
この制度は、苦役と再生を兼ねた社会的贖罪の仕組みであり、
王国はこうして“奴隷を作らずに罪を償わせる”道を選んだ。
魔王戦争後、冒険者組合が設立して、冒険者がこの契約奉公制度の代替となった。


こうして、奴隷制は宗教が禁じ、経済が不要とし、理性が恐れた制度となった。
そして今も人々は語る――

「月に理性と情動がある限り、人は人を所有できない」。

ーー対話篇『双月綴』

6.冒険者組合

地方の冒険者組合のイメージ

概要

王都や各地方都市に設けられた、〈前衛〉と〈後衛〉の雇用・契約を統括する公的機関。
旗印は、剣と杖が交差した紋章。この国における“自由職の象徴”である。

設立者は、百年前の魔王戦争で活躍した勇者パーティーの一人とされる。
戦後、行き場を失った兵士・傭兵・孤児たちが社会不安の火種になることを見越し、
彼らを雇用と身元保証の枠組みに組み込むために創設された。
それは、“戦争で生まれた力を、再び社会に還す”ための制度的受け皿だった。


制度

初期の〈ランク制〉は早期に廃止された。
「高ランク=万能」という評価が、専門分野ごとの力量を無視し、
現場との摩擦を生んだからである。

現在は保証制度が導入されており、各冒険者に担当職員(監査官)が付き、
活動内容・実績・適性に応じて依頼を仲介する。
この仕組みにより、引退した冒険者の再雇用(=職員登用)も進み、
組合の質そのものが向上した。

  • 「机」:中央ホールで仲間探しの段階。

  • 「壁」:依頼掲示板の常時依頼をこなす初心者層。

  • 「部屋」:職員に呼ばれ、使命依頼(指名・特命)を受ける中堅・上位層。

この符号は公式なランクではないが、冒険者間では自然とステータス指標として通用している。


社会的役割

王国では、子供は十三歳までに市民権を得なければならない。
得られなければ、法の上で「身分を失う」。
身分を失った若者の多くは、冒険者として登録し、
命を賭して資金を稼ぎ、市民権を“買い戻す”道を選ぶ。

冒険者として実績を積み、相棒を得て、ふたりで依頼をこなす。
それが“自立の第一歩”とされる。
引退後は店を開き、農民や職人、組織職員、兵士として第二の人生を送る者が多い。
こうして冒険者組合は、貧困層と社会をつなぐ循環装置として機能している。


文化的意義

組合は、単なる雇用機関ではない。
〈前衛〉と〈後衛〉が“出会い、信頼を結ぶ場所”でもある。
互いの魔導経路を繋ぎ合う関係は、すなわち“生涯の相棒”を意味する。
そのため冒険者組合は、しばしば**「結婚相談所」**にもたとえられる。

一つの依頼を共に生き抜いた相棒は、
婚姻よりも深い絆で結ばれることも珍しくない。
この文化が、後の王国社会における「恋愛と契約の融合」へと発展した。


補記:建築と雰囲気

剣と杖が交差した紋章の旗がなびいている。
建物は石造りの吹き抜け構造で、広いホールに柱が立つのみ。
奥にカウンターと個室がある。
裏手に素材買い取り所がある。
左右の壁一面の掲示板には依頼がびっしりと貼られ、
若い冒険者たちが群がる光景は、いつ見ても活気に満ちている。

年齢層は若年層が圧倒的に多く、市民権を失う13歳以前に登録する者も多い。
男女比はほぼ五分五分。
〈前衛〉と〈後衛〉が半数ずつ存在することが、この世界の性と役割の平衡を象徴している。

※ここに込めたメタ批判。「魔法使いが冒険者になる」というのはファンタジーの定番だが、どうしてわざわざ3Kな冒険者になるのか。
経済合理性の観点から見れば、まったく割に合ない。
自然に考えるなら、安定・安全な生産職に就いたほうがいいのではないか。
地球でいえば、博士号持ちが自ら傭兵や発掘作業員になるようなもの。それをロマンで解決していいものだろうか?

生産職、魔導具への魔力供給など、インフラ面での〈後衛〉への雇用は、市民権を得た人材が登用されている。


7.後衛扶助組織〈目覚めの虹〉協会

目覚めの虹の会員証ペンダントのイメージ

〈目覚めの虹〉協会は、王都の魔導具工房を母体として生まれた後衛扶助組織である。
魔導具の発明と流通によって莫大な富を築き、〈後衛〉の社会的地位向上を掲げる革新派貴族の支援を受けて、政治的影響力を拡大した。

設立当初の理念は明快だった。
――“安全で、快適な、〈後衛〉が居場所を持てる世界の実現”という思想である。
教育支援や貧困層の保護など、初期活動は理性的かつ実効性を伴っており、王国社会からも広く支持を集めた。

しかし、その理念は次第に過熱する。
「平等を求める運動」は、いつしか「対立を求める運動」へと変質した。
前衛の特権を糾弾する集会、街道を封鎖しての抗議、儀礼や装備の破壊など、象徴的な行為が相次ぐ。
それでも彼らの主張――“支援の名を借りた隷属構造を壊せ”――には真実があり、王国政府は強硬に弾圧することを避けている。

政治的にも、この問題は深く根を下ろしている。
王国議会では、保守派貴族が協会の活動を「秩序の破壊」として非難する一方、改革派は「人道的再編」として擁護する。
どちらも正義を名乗るが、どちらも利権と結びついており、民衆の信頼は薄い。
その結果、王都では――
「協会の主張は正しい。だがやり方が間違っている」
「貴族の懸念は理解できる。だが動機が汚い」
――という“中庸の意見”がもっとも攻撃されるという皮肉が生まれている。

王国は、沈黙によって均衡を保つ。
統治者も宗教勢力も、彼らを完全には否定せず、完全にも認めない。
放置された理想は熱を帯び、やがて炎となる。
それが、今の〈目覚めの虹〉協会である。


8.恋愛と婚姻の倫理観

この世界では、恋愛は〈前衛〉と〈後衛〉の魔力的な結びつきを基盤としている。
魔力の流れは信頼と精神の共有を必要とし、その最も安定した形が現代においては“愛”とされる。
ゆえに、性別や身体的性質よりも魔力の相性こそが重要視される。


貞操観念

避胎魔術によって、「性的な交わり=人生に大きな責任・代償を伴うもの」という古典的な前提が揺らぐ。
結婚前の自由恋愛における性行為は、
・快楽を得る
・親密さを築く
その二つが重要視されるようになる。

とはいえ、これは“やりたい放題の奔放な文化になる”という意味ではない。
生殖リスクが消えるぶん、むしろ別の領域に新しい倫理が発生する。

性行為は“危険のない娯楽”ではなく、
二人の信頼を可視化する〈交渉〉であり〈合意技術〉になる。

……と言うのは建前で、避胎があるからこそ軽く扱う者もいれば、
避胎があるからこそ慎重になる者もいる。
性行為の倫理観については個人差があり、地球と変わらない。


婚姻制度

結婚とは、単なる愛の契約ではなく魔導経路の永続的共有と定義されている。
一度結ばれた経路を他者に移すことは、魂の一部を分け与えるのと同義であり、
これを裏切る行為――つまり姦通――は“魔力の汚染”として扱われる。「誠実さ」「合意」が、倫理の中心に据えられる。

・避胎魔術を使う/使わないの宣言は必須
・魔術の無断使用は重大な裏切り
・避胎せずに性交する=重大な契約行為(生殖契約)
こういう“魔術前提型の貞操観念”。

身体的危険が消えて、心理的信頼の比重が爆増する。

双月教では、姦通・不倫・重婚・多重契約(ポリアモリー)をいずれも禁じており、
「魔導経路を二度結ぶことは、魂を裂く行為」として重罪に分類する。
これを犯した場合、公的断罪または火刑が科された記録も残る。


補記:〈避胎(ひたい)〉の魔術について

この魔術の存在によって――

  • 男女の性行為が社会的リスクをほぼ伴わなくなった

  • 性行為の罪悪・忌避・禁忌・抵抗感がなくなった

  • 結婚制度は“役割の結びつき”に重点が置かれるようになった

  • 性別による規範は希薄化し、〈前衛〉〈後衛〉の役割偏差が社会的バイアスの主軸となった

特筆すべきは、〈避胎〉は“倫理的に中立な魔術”として扱われる点である。
王国ではこの魔術を若年層にも教えるため、
望まぬ妊娠による人生破綻という概念が歴史的に存在しない。

これにより、双月世界は次のような構造を獲得した。

性差とリスク差がほぼゼロ化

妊娠のリスクが消えることで、
「女だけが性行為のリスクを負う」といった構造が成り立たない。

● “結びつき”の価値が変質

前衛後衛の絆=魔導経路を結べるかどうかが、人間関係の軸となる。
恋愛よりも“魔力の相性”が結婚の基準となった。

● 避胎の主導権が後衛側にある

前衛は“避胎の権利を委ねる側”となる。
→ 貞操権が後衛に寄る。
〈前衛〉は「本当に自分と相手の子か」を確信できない(前衛の女性でも『いつの子』なのかわからない)。
〈後衛〉は“確証”を持つ。
〈前衛〉は“信頼”でしか埋められない。
地球での、父性の不確実性と同じ状況を〈前衛〉の男女は背負う。


同性愛観

同じ性別同士でも、魔力の“向き”さえ補い合えば結びつける。
そのため、同性間の恋愛や婚姻は社会的に禁忌ではない。
特に、戦場で魔力を共有する関係は“戦友婚”と呼ばれ、古くから詩や歌の題材にもなった。
日本の武士社会や海賊の絆に近い、精神的・実利的な結合である。


倫理と象徴

双月教の教義では、愛は理性(青月)と情動(赤月)の均衡によって生まれる。
どちらかに傾いた愛は破滅を招くとされ、
過度な情熱は「赤の罪」、過度な冷淡は「青の罪」として説かれる。

この世界における愛とは、
単なる感情ではなく、魔力と魂の均衡の儀式なのだ。

⑪双月教 ― 二つの月と沈黙の神々

祈祷王と赤の書、青の書のイメージ

1.祈祷王と双月教の誕生

歴王時代〈祈祷王〉の治世、王国史上最初の体系的信仰〈双月教〉が誕生した。
当時の人々は、赤月と青月をそれぞれ神の座と崇め、
信仰の数だけ神の名があり、祝詞も儀式も異なっていたという。
その結果、月をめぐる信仰は争いと分裂を生み、互いの神を否定しあうまでになっていた。

祈祷王はこの混乱を憂い、
“名と形に縛られた神”を解体し、ひとつの思想へとまとめあげた。

彼女はこう記したと伝えられる。

「神は二つの月に在す。
だが、それは天に棲む神々ではない。
それを神と見なす人の心こそ、月に神を宿すのだ。」

ーー対話篇『双月綴』

祈祷王は、神の実在を否定したのではない。
むしろ、“神の存在をどう受け止めるか”こそが人の理性と情動を試す鏡だと説いた。
その思想により、赤月は〈情動の神〉、青月は〈理性の神〉として整理され、
かつて無数の名を持っていた神々は沈黙の象徴へと変わった。

こうして双月教は、
“神に名を与えぬことこそ最大の敬意”とする新しい信仰体系として成立した。


2.神観と宇宙観:「二つの月は、神と人のあいだ」

この世界では、赤月と青月は実在する神の住処であると信じられている。
赤月には〈情動の神〉、青月には〈理性の神〉が宿る。
だが、双月教は彼らを“人格神”とは認めない。

教祖・祈祷王はこう説いた。

「神は確かに在る。
だが、人がそれを“神”と呼んだ瞬間に、神は堕ちる。」

ーー『青の書』より(理性篇 2–14)

彼女にとって神は存在そのものであり、
人の言葉で定義された時点で“偶像”に変わる。
したがって、双月は“神の在処”ではあっても“神そのもの”ではない。

それは「神を信じることを、正しく恐れる宗教」である。


3.教義の特徴

懐疑の義務
信者は祈る前に教義を疑う義務を持つ。
祈りの締めには「我、疑うことを忘れず」と唱える。
それは“信仰が理性を腐らせぬための楔”。

二つの聖典

  • 青の書:理性・観察・秩序を説く。

  • 赤の書:感情・詩・祈りを記す。

いずれも双月の言葉ではなく、“人間の解釈”として書かれている。
信者は、必ず二冊を照らし合わせながら読むことを求められる。

祈り=検証
祈りとは神に語りかけることではなく、
「自分の信仰が理性と情動のどちらに傾きすぎていないか」を点検する行為。
寺院の祭壇には鏡や水面が多く使われ、信徒は自らの姿を見つめて祈る。

救済より調和
神は救わない。
神は“理性と情動の釣り合い”を与えるだけだ。
人がその均衡を保つ限り、神は沈黙を守る。
それこそが、世界の安定を意味する。

神官=心の測量士
双月教の神官は、説法者ではなく“測定者”。
信徒の心の傾きを診断し、どちらの月(理性/情動)に偏っているかを見極める。
彼らは神の声を聞くことよりも、人の心を測ることを重んじる。


4.教祖の逆説

双月教は“神を信じることの危険”を教えるために作られた。
だが皮肉にも、信者たちは祈祷王自身を“二柱の神に選ばれた預言者”として崇めた。

祈祷王の言葉に従えば、それは最大の冒涜である。
だが、人々にとってそれこそが“神の沈黙を破る唯一の声”となった。

「神を呼ぶな。
だが、神を感じよ。」

ーー『赤の書』より(心火篇 4–3)

この矛盾こそが、双月教の根幹にある“二重信仰”である。
信者たちは知っている。
神は沈黙している――
けれど、その沈黙を誰かが語らねば、世界が崩れてしまうことを。


5.〈赤の治療院〉と〈青の教会〉

双月教は「赤は情動、青は理性」という二柱の書に基づき、
医療と精神のケアをあえて分離する体制を整えている。

〈赤の治療院(レッド・サンクトゥム)〉:肉体の癒し

赤の書は情動と“生命の火”を司るとされ、
治療院では〈後衛〉たちが身体魔術を中心に治療を行う。

  • 外傷治療

  • 発熱や衰弱などの生命維持

  • 〈避胎〉の魔術の施術

治療院は極めて実務的で、技術が重視される。
〈前衛〉が激務の社会であるため、治療院は常に満床に近い。


〈青の教会(ブルー・バシリカ)〉:精神の調律

青の書は理性・調和・内省を司る。
教会は精神的ケアと儀式の場として機能する。

  • 悲嘆や喪失への寄り添い

  • 月籠の精神混乱期の支援

  • 対話による“理性の再配置”

  • 儀式としての告白・祈り

二つを分けた理由

祈祷王は、「情動と理性は同じ器に収めてはならない」と説いた。

「熱は熱によって癒され、
心は心によって静まる。
どちらも満たされてこそ、人は立って歩ける。」

ーー対話篇『双月綴』

肉体と精神は同じ“個”に属していても、
癒しのアプローチはまったく別だという思想が根底にある。

そのため、患者は“身体が壊れたら赤へ、心が揺れたら青へ”向かうのが一般的だ。

⑫魔物

1.魔物とは

魔物とは、魔力に適応・依存して変質した生命体の総称である。
魔力は「意思を持つ者の願望を叶える作用」を持つため、
魔物とは本能そのものが現実化した存在――“生存欲求の具現化”である。

彼らは理性によって動かず、願望の最短経路を突き進む。
そのため極端に目的的で、しばしば人間には理解不能な行動を取る。
人を襲うのは、「ニッチの頂点=人類」という構造的本能――つまり、生存の象徴を奪うためである。


2.魔物の分類

◆ 獣魔類
哺乳類・爬虫類・鳥類・昆虫などの動物が魔力を取り込み変質したもの。
筋肉・骨格・感覚器官が極端に強化され、闘争と捕食のために進化する。
願望の方向性は〈支配・捕食・繁殖〉。

◆ 植魔類
植物が魔力を吸収して変質したもの。
魔力を光や水分の代わりに利用し、根や花弁を動かして獲物を捕らえる。
群体意識を持つものも多く、森全体がひとつの生命として行動する例もある。
願望の方向性は〈安定・支配・永続〉。

◆ 幻魔類
魔力変質性ウイルスによって発生する感染型魔物。
宿主の神経系に侵入し、願望を増幅・暴走させる。
感染者は自我を保ったまま欲望のみが拡大し、やがて“思念の魔物”と化す。
感染は空気・接触・祈り・言語など情報媒体を通して拡散する。
願望の方向性は〈欲望の増幅・同化〉。
※双月教では「幻魔病」を信仰の過剰として禁忌視している。
寄生虫などが宿主を操るアンデット系も含まれる。

◆ 竜種
古代に絶滅した生物――恐竜、古代魚、哺乳の巨獣、昆虫の王種などが、魔力によって生きながらえた存在。
竜種は特定の“竜種植物”が発する魔力波形を生命維持に必要とするため、
限られた環境でしか生きられない。
願望の方向性は〈存続・回帰・支配〉。
強力かつ特殊な魔法を使う。

⑬王国史資料編

〈東の賢者〉と〈聖なる阿呆船(アーク・ナレンシフ)〉を描いた壁画のイメージ

第一節:東の賢者

国史の古層――それも、正史には記録されない“周縁の物語”の中で、〈東の賢者〉は最初期の伝説的人物として語られてきた。

その最初の登場は、北西の果てから〈聖なる阿呆船(アーク・ナレンシフ)〉と、〈百十一人の使徒〉とも呼ばれる謎めいた随伴者たちとともに現れたというものだ。

その船からフードを深くかぶった賢者が立ち上がり、
古代魔導文明が崩壊の危機に瀕した時、西部辺境の地よりこの賢者が立ち上がり、隷属されていた無辜の民を引き連れて、いまの王都が築かれる場所へと〈東方出立=エクソダス〉した――と記されている。

だが、この逸話は王国正史には一切残っていない。
あくまで民間伝承――地方の石碑、祭祀歌、古写経の余白にのみ散発的に残る“語り”であり、
その真偽は今なお議論の的である。

『賢者は天を仰ぎ、二つの月の名を呼びて、民を導きぬ。かくして彼らは、赤と青の狭間に、己が影を見出した。』

――西部辺境の古石碑

それ以降、東の賢者は「時代の節々に姿を見せる謎の人物」として、繰り返し歴史書に現れる。年代も姿も記述ごとに異なるが、いずれの時代でも「変わらぬ目を持つ者」として語られている。

王立史学院の研究では、「東の賢者は一人の人物ではなく、同一理念を継承した賢者たちの系譜である」という説が有力とされる。一方、民間信仰では“永遠の旅人”として語られ、「賢者が現れる時、時代は転換する」との俗信が根強く残っている。

東の賢者は、後世の〈勇者譚〉の原型ともいわれる。勇者リヴェイオスを筆頭とする“救世の英雄像”は、古くはこの賢者の逸話――「民を導く者」「二つの月の調停者」――を基に構築された可能性が高い。

とくに〈聖なる阿呆船〉の伝承は、赤と青の月を象徴する双翼の船として描かれることが多く、後の双月教における“救済の比喩”にも転用された。

『賢者は舟に乗り、沈む文明の海より人々を救い出した。その舟は夜空を渡り、いまも二つの月のあいだを行き交うという。』

 ――『古祀伝・月間篇』

現代でも〈東の賢者〉の名は、“理と慈悲の均衡を象徴する存在”として用いられる。史学院では「神話的建国期の精神的指導者」、双月教では「両月の導き手」、冒険者や学徒のあいだでは「真理の旅人」として語られる。

賢者が実在したか否かは、いまも議論の的である。だが、その記録の多くは、“時代が混乱に向かうほどに、賢者が現れた”という奇妙な共通点を持つ。

『辺境より来たる者、いつも剣杖を手にし、その影は人より長く、言葉は風より遅い。』

――民間詩篇『風語集』

〈聖なる阿呆船(アーク・ナレンシフ)〉については象徴的比喩とされるが、一部の考古学者は“古代魔導文明の移動都市装置”であった可能性を指摘している。賢者が導いたとされる民の一部は、現在の王都南区の基礎となった移民集団に一致するという説もある。


第二節:歴王時代(建国以前)

王国の歴史は、いわゆる〈歴王時代〉に始まる。
この時代は十二の王と女王による百年続く戦国時代である。
それぞれの名は死後に授けられた象徴名である。
彼らの功績は神話と史実のあいだを揺れ動き、
その影響は現代の政治・宗教・技術の基礎にまで及んでいる。


● 野蛮王(9月)

最初の歴王として記録される人物。
古代魔導文明崩壊ののち、最初に人々をまとめ上げ、王の概念を生み出したとされる。
当時の資料は乏しいが、後の史学院によれば、野蛮王の治世は「秩序なき力の時代」として記されている。
伴侶であった魔導王に討たれる。

遺産は〈屍結〉。死体に魔導経路を結び、血抜きや保存を可能にする技術。
飢饉の救済として生まれたが、やがて禁忌とされ、双月教では死者冒涜の象徴とされた。


魔導王(10月)

魔導王は、散逸していた〈後衛〉の魔力操作を体系化し、初めて“学問としての魔術”を築いた人物とされる。
それまで感覚頼りだった支援魔力を精密に測り、記録し、分類し、ついには世界初の〈魔導具〉を生み出した。

もっとも有名な遺産が〈杖〉である。
杖は魔導経路を補助し、弱い後衛でも安定した支援ができるように設計されたが――同時に“杖なしでは魔術が行えない身体”を作り出す枷にもなった。

後世の学者は語る。
「魔導王は〈後衛〉の自由を広げたのか、それとも奪ったのか」
魔導具の恩恵は計り知れないが、人々はいつしか“素手で魔力を扱う技法”を忘れたとされる。

魔導王の残した体系は、王国の繁栄を支える礎となったが、同時に〈後衛〉の可能性の一部を封じた――
その功罪を含めて、もっとも“現代に生きる歴王”と評されている。


勤労王(11月)

社会の最適化に心血を注いだ王。
労働と休息の均衡を“文明の呼吸”と考え、時間の流れに秩序を与えた。

遺産は〈双月暦〉〈度量衡〉
一ヶ月に一度の“月籠(つきごもり)”と呼ばれる強制休息日を定め、
それ以外の労働や休暇はすべて個人の自由裁量に委ねた。
地球と同じメートル法などを広めた。

この暦の思想には、彼が信じた“自由と責任の均衡”が宿る。
人はいつでも休めるが、同時に、働かないことを選ぶ勇気も試される。
それは皮肉にも、後の時代において“勤勉の美徳”として誤解され、
王国の労働倫理を決定づけることとなった。

史学院では、彼を“社畜王”と呼ぶ俗説もあるが、
本来の理念は「働くことは義務ではなく、選択である」という革命的な思想にあった。

勤労王は、労働を怠らぬための覚悟を示すように、みずから魔竜ゾッキの巣へ赴き、ただ一振りの鎌(“首になる”の暗喩)だけを携えて挑んだ。
ゾッキは炎ではなく“怠惰”を吐き、人々の心を折ろうとしたが、王は一度も手を止めなかった。
双月が満ちて欠けるころ、ついに魔竜は根負けして逃げ去り、その戦いで落ちたゾッキの指の長さを基準に、王国の〈一メートル〉が定まったという。


● 美食王(12月)

豊穣の季節を司るこの王は、「人は食べることで世界とつながる」という信念を持っていた。宮廷に珍味を集めることを好んだが、それは贅沢のためではない。王は、ひとつの料理の背後には、土を耕す者、魔を抜く者、運ぶ者、調理する者――無数の“見えない手”があると説いた。

ある年、王国中の畑が枯れ、食糧危機が訪れた。民は怯え、貴族たちは蓄えを抱えたまま門を閉ざした。
美食王は宮殿の大広間を開き、己の食卓をすべて民に分け与えた。卓上に残ったのは、豆と香草と塩だけ。
王はそれを鍋に入れ、静かに煮込んだ。
「これは“誰かのために作られた最後の一杯”だ」
そう語り、民に振る舞った。

その質素なスープを囲んだ夜、赤月と青月が重なり合い、長い雨が降った。干上がった畑は息を吹き返し、翌月には豊穣が戻った。
民はそれを“美食王の恩寵”と呼んだが、王自身は最後までこう語ったという。
「奇跡は、空ではなく、人のあいだに生まれるのだ」と。

この出来事から、12月には“感謝の杯(カリックス)”を掲げる風習が生まれた。食卓を囲み、誰かと分け合うことこそが豊穣の証だとされる。

遺産は〈双月料理〉
その中のひとつ、豆せんべいは、そら豆を枯草菌で発酵させて焼き固めた保存食。
酪農のない世界で、発酵文化を発展させた。
香気が強烈すぎるため、未だに賛否が分かれる。


● 戯曲王(1月)

彼女は、魔導経路を“身体の外へ伸びる感情”と捉え、その流れを楽器に結びつける方法を見出した。こうして誕生した遺産〈魔楽器〉は、触れた瞬間に奏者の魔力と共鳴し、音色そのものが変化する“生きた楽器”となった。

戦場では士気を高め、儀礼では精神を整え、物語の朗唱に合わせれば情景を呼び覚ます。
〈前衛〉の鼓動を増幅するリズム、〈後衛〉の魔力の流れを導く和音――音楽は魔術の一部となり、文化そのものが変わり始めた。

彼女が作り上げた最初の魔楽器は、二本の魔導経路で異なる旋律を奏でる“語り部の杖”。
その音色は「言葉と心は二重で響く」という彼女の信念の象徴として、今も王国で語り継がれている。

魔楽器の代表例は以下の通り:

  • リュミエラ:指先の魔力を通じて弦を鳴らす多弦楽器。
    チャップマン・スティックに似た構造で、指で叩くタップ演奏により旋律と和音を同時に奏でる。

  • オルドマル:魔力振動を円盤に伝え、金属の果実のような音を響かせる。
    現代でいうハンドパンやオンド・マルトノに近い。

  • ハーパジア:浮遊する音板を両手で挟み、魔力波を介して共鳴させる演奏法をもつ。
    感情の純度が高いほど、音は透き通る。


● 遊戯王(2月)

遊びと競技の精神を王国にもたらした人物だった。
彼は、戦や流血ではなく、「勝敗は遊戯で決するべきだ」という思想を掲げ、王国中に遺産〈双月遊戯〉と呼ばれる多種多様な競技文化を根付かせた。

代表作が、今や誰もが知る手遊び〈ネイム・ネイム〉である。
もとは儀礼的な“魂呼び”の所作だったものを、
剣・杖・本(麦)の三すくみによる勝負へと昇華させ、
遊びの形にまで落とし込んだのが彼だ。

また、盤面全体を見渡す思考力を競う〈双月盤棋〉、
物語づくりと戦略を融合させた〈語り札〉、
旅先で広まった賭博性の強い〈街路骨遊び〉など、
遊戯王の遺産は王国の余暇と文化を底から変えた。

「争いは、力ではなく機知でこそ測られる」
――その理念は、王国史において静かだが大きな革新として記録されている。


● 発明王(3月)

理性を礎に文明を再構築した、王国史屈指の“思考の王”とされている。
彼は魔術に頼らず、観察・計算・再現性によって世界を理解しようとした最初の人物であり、
その成果の総称が、遺産〈再現機構〉である。

発明王はまず、古代魔導文明の遺構を徹底的に分解・記録し、
「魔力なしで動く仕組み」を解き明かそうとした。
これによって、重力と水位差を利用した水道橋、
均一な活字を刻んだ歯車式の印刷機、
日の巡りを正確に刻む機械式時計など、
後世でも再現可能な“理性の奇跡”が次々と生まれた。

彼が残した遺産〈再現機構〉の理念は、
「奇跡とは再現できる技術にほかならない」という思想であり、
人々は初めて“神秘を神秘のままにしない態度”を学んだ。

この精神はやがて、祈祷王の編んだ〈青の書=理性の聖典〉へと流れ込み、
王国における科学・倫理・制度設計の根幹を形づくることになる。


● 沈黙王(4月)

沈黙を愛し、沈黙の中に世界の輪郭を見た女王。

彼女は、人が魔導経路を通じて“感じられるもの”の限界を知っていた。
経路は便利だ。思考をつなぎ、力を渡し、連携を完璧にする。
だが沈黙王は、それを“人の関係のすべて”にしてしまう危うさを恐れた。
沈黙王はむしろ“禁忌とされる関係”を、沈黙のうちに心を通わせる
“人の進化の可能性”として讃えた。
この思想は、やがて〈愛〉という名の遺産としてまとめられる。

沈黙王の理念は、後の双月教の倫理体系に深く影響を与え、
「理性と情動の均衡の中に、真の愛は生まれる」という教義の基礎となった。
いつしか“魔導経路の結びつきそのもの”を指す言葉へと変質していった。
沈黙王が恐れた「力の繋がり=心の繋がり」という誤解が、
彼女の遺した言葉を覆い隠してしまうことになる。

一説によると、戦友婚……特に男性同士のそれを『びいえる』と呼称して推奨したと言われている。


● 祈祷王(5月)

遺産〈双月教〉を立ち上げた女王。
赤月と青月をめぐって無数の宗派が割拠し、地方ごとに異なる神名が乱立していた時代。
祭儀同士の衝突は日常で、時に村を焼き、同族を裂くほど深刻だった。
その混迷のただ中に立ち、信仰を“ひとつの思想”へ統合したのが祈祷王である。

彼女は、従来のように月を人格神とみなすのではなく、
青=理性、赤=情動を“人の内に宿る二つの力”として捉えなおした。
信者は神の名を唱えるのではなく、
自身の心の偏りを見つめる――そのような革新的な教義を編んだ。
これが後の〈双月教〉の基礎となる。

しかし、この思想があまりにも新しすぎた。
古来の神名を捨てることは、民の祖霊を否定する行いと受け取られ、
祈祷王は各地の旧派から激しい反発を受ける。
求心力を増す双月教に恐れを抱いた過激派たちは、
女王の身にある“悲劇”を招いたと伝わる。

それでも祈祷王の死後、彼女の思想は拡散し、
やがて王国全土の精神基盤を支える柱となった。
二つの月は、人を裁く神ではなく、人を映す鏡である。
その教えは、争いの時代を越えて、今も王国を照らし続けている。


● 夢想王(6月)

虚飾と妄想に愛された王。
彼は魔術を“戦うための技”とは考えず、
**世界の理そのものを震わせる詩(うた)**だと信じていた。

戦場に響くべきは号令でも咆哮でもない。
精緻な魔力操作でもない。
魂を揺さぶる言葉の連なり――
それこそが真の魔力を引き出す、と。

こうして夢想王は、
魔術の型に“詠唱”という儀式的装飾を持ち込み、
後世に遺産〈詠唱書〉として残る数多の“技名”を生み出した。
それは、いまでは滑稽にすら思われるほど長大で芝居がかった
詠文から成り、魔術師たちはこれを競うように声にした。


● 農耕王(7月)

土地と作物を深く愛した、温和にして剛毅の女王。
彼女が遺した〈魔引き〉は、後の王国の存亡を左右する大発明となった。

魔力は願望を叶える――ゆえに、植物は“より強い姿”を求めて容易に魔物化してしまう。
かつて古代魔導文明が滅んだとき、荒れ狂う〈魔草〉が人々を飢えさせたと伝えられている。

農耕王はこの悲劇を繰り返さぬよう、
魔力を“祓う”のではなく、“抜き取って食料に変える”という逆転の発想に至った。
後衛が作物に魔導経路を結び、余剰魔力だけを安全に取り除く。
それが〈魔引き〉の始まりである。

この技術によって、
そら豆や麦、果実、根菜に至るまで、あらゆる作物が安定して栽培できるようになった。
料理文化も飛躍的に発達し、王国は“飢えない文明”となる。


● 征服王(8月)

最後の歴王にして、統一王国の初代王。
彼は分断されていた十二の理念と国々をまとめ上げ、“秩序の王”として知られる。

征服王の時代には、すでに歴王たちの名を封じる慣習が存在した。
彼らは生前に名を持ちながらも、死後にその名を神へ返し、功績に由来する称号だけを残す。
この風習を“制度”として定めたのが征服王である。

征服王は〈統一剣〉を振るい、神と人との境界を断ち切った。
以後、王は人の名を棄て、“双月の代理人”としてのみ在ることを定められた。
この儀礼ののち、王は一切の個を失い、ただ「王」と呼ばれる存在となった。

それは、神を名乗らずに神の意志を代行する者としての覚悟でもあった。
以降、王国の支配者は個名を持たず、冠位と時代によってのみ記録される。


第三節:現代王国への継承

建国後の歴代王たちは、古代の〈暦王〉が築いた威光を借りる形で、その名を世襲してきた。
功績が乏しい王ほど、むしろ歴王の名にすがる傾向が強い。
放蕩に明け暮れた王は「美食王○世」
遊宴と気晴らしばかりに注力した王は「遊戯王○世」
政治的にほとんど何もしなかった王は「沈黙王○世」と継名される。
残虐な政策をとった王は、揶揄を込めて「野蛮王○世」と呼ばれ、
信仰に深く傾倒した王は「祈祷王○世」と記される。

この慣習は、歴王が実在した時代に由来するわけではない。
むしろ“歴王の名は理想の象徴であり、現王はその器に自分を当てはめられている”という寓話的な装置に近い。
現在の王もまた例外ではなく、魔導具の革新が著しい時代を象徴するため、
死後には**「発明王」**の名を継ぐだろうと目されている。

ただし、特筆する大業を成した王は、歴王とは異なる“固有の名”を戴く。
その最も顕著な例が、史上初の〈後衛〉出身の王、
すなわち 〈後衛王〉 の出現である。
このような例外は稀だが、ゆえにこそ、
“歴王の名を継がぬ王”は特別視され、
王国史において新たな時代の節目として扱われることが多い。

⑭双月世界博物録

1.月桂樹

古来より〈月の神の恩寵〉を宿すとされる神聖植物である。魔力汚染に耐性を持ち、高濃度の魔力環境下でも成長する数少ない種のひとつ。
葉を煎じて飲めば心の乱れを鎮め、枝を門前に掲げれば魔物を遠ざけると信じられている。
双月教では、月桂樹は「理性と情動の調和」の象徴とされ、冠や香として儀式に用いられる。魔力に侵されぬ緑の葉は、神々の沈黙の証――すなわち、〈人の理性が神意に耐え得る〉ことを示す聖なる徴とされた。

2.剣杖(けんじょう)

剣杖のイメージ(いわゆる仕込み杖)

時代の節目に現れる賢者たちが所持していたと言われる武器。
仕込み杖のような形式で、杖と剣の両方の機能を併せ持つ。
賢者たちは、歴史の裏側の存在であるため、一般にそのような武器があるとはあまり知られていない。

3.赤月鉱(せきげつこう)

伝承で「赤神の棲む月の欠片」と呼ばれる伝説の鉱石である。
赤月が満ちる夜に流星のように落下し、その破片から採掘されるという。
そのため武具素材として最上級とされ、赤月鉱製の武器は“不滅”と称される。
だが通常の鋼との合金比率は秘伝であり、扱える刀匠もごくわずか。
双月教では情動の神の化身とされ、採掘や鍛造には神への鎮魂歌を要する。

4.聖剣〈マルドレイク〉

聖剣〈マルドレイク〉を持つ銀の勇者

赤月鉱を鍛えて造られた、勇者リヴェイオスの愛剣にして伝説の武器。
身の丈を超える巨剣で、立てればまるでオベリスクのような威容を誇る。
緋色の刀身には文様が浮かび、戦いのたびに脈動するように輝いたという。
製作したのは、百年前のシルヴァーナイトレイ家お抱えの名工グレイヴ。
勇者候補だった主人の子息を退けた平民出身のリヴェイオスを快く思わず、「振れるものなら振ってみろ」と、常人には持ち上げることもできない巨重剣を作り上げた。
マルドレイクとは古語で“悪意の竜”を意味し、その名と文様には、鍛冶師の皮肉が込められている。

5.豆せんべい

そら豆を枯草菌で発酵させ、焼き固めた保存食。
酪農の存在しない双月世界において、発酵文化が独自に発展した象徴的な食品である。
発酵によって強烈な香気を放ち、その匂いのために“悪魔のせんべい”と揶揄されることもあるが、滋養価と保存性に優れており、冒険者や辺境の民に重宝されている。
一部の料理人は、砕いてスープに入れることで芳香がまろやかになり、深い旨味を生むと評する。
美食王の食卓に献上されたのが最初の記録であり、以来、王国では人気はないものの、暦王由来の料理として受け継がれ続けている。

6.ネイム・ネイム

古代に起源をもつとされる三すくみの手遊び。
剣・杖・本(麦)の三象徴で勝敗を決する。
剣は杖に勝ち、杖は本に勝ち、本は剣に勝つ――力が理に勝ち、理が知を御し、知が力を制すという寓意を持つ。
役が重なったときには「タブリス(被った、揃ったの意)」と唱えて次に移る。
掛け声「ネイム・ネイム、リーベロ・トゥルア・ボー」は古語で「どうか、どうか、私のもとへ帰ってきてください」を意味するが、現在では意味が失われてしまっている。
もとは、失われた魂を呼び戻す祈祷儀式の一部であり、遊戯ではなく鎮魂の呪だった。
時を経てその意味は忘れられ、名を懸けた勝負――すなわち、誇りを賭す遊びとして庶民の間に定着した。

7.魔竜ゾッキ

魔竜ゾッキのイメージ

勤労王と魔竜ゾッキの逸話は、王国史の中でもひときわ奇妙な輝きを放つ。
怠惰を憎む王は、労働を怠らぬ覚悟を示すため、ただ一振りの鎌だけを携えてゾッキの巣へ向かったという。
鎌は“首になる”を暗に示す象徴で、臣民への戒めでもあった。
巣穴で待ち構えていた魔竜ゾッキは炎ではなく“怠惰”を吐いた。立ち働く気力を奪う瘴気のような吐息で、人の心を折ると伝えられる。
しかし王は一度も手を止めず、岩を砕き、道を拓き、巣を掃き清めるような勢いで作業を続けた。
双月が満ちて欠けるほどの長き攻防ののち、ついに根負けしたゾッキは巣を捨てて逃げ去る。残された指の欠片は異様にまっすぐで、その長さが後に〈一メートル〉の基準となったと史書は記す。

※日本語スラングの 『ゾッキ 』は偽物/まがい物/粗製のコピー/代用品
といったニュアンスがあります。

⑮派生世界(双月パラレル)概念集

双月三界のあらゆる派生は、〈前衛〉と〈後衛〉という二重構造を保つ限り、すべて正史の“別解”として扱われる。
以下は、その代表的な派生例である。

1.魔導具禁止世界

魔王が魔導具を兵器化して侵攻した結果、王国では魔導具が禁忌とされた。
〈魔力を封じる社会〉で、魔導具職人を志す若者の物語が始まる。
文明の進歩と信仰の均衡、そして「便利さ=罪」という問いを扱う世界。

2.二分王国世界

王国が〈前衛〉国家と国家に分裂。
それぞれが力と支援、攻撃と癒やしを極端に追求した社会を築く。
〈前衛〉夫婦から〈後衛〉が生まれた場合など、両国は〈取り換え子条約〉を結び、均衡を保つ。
異国の教育制度、軍制、結婚観がまったく異なる並行世界。

3.偏出生世界

未知の奇病により、〈前衛〉または〈後衛〉の出生率が極端に偏った世界。
希少化した性が権力と神聖視を集め、社会の構造そのものが歪む。
宗教的狂気、遺伝操作、そして愛の多様性が試される。
バランスの崩壊が、世界の根幹を揺るがす実験的パラレル。俺ツエー、ハーレムものにしやすい。

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