第四話:侵入!人類の住まうキッチン
陽は昇り、影は沈む。
人の世界──すなわち“光界”において、それは当たり前の現象であった。
だが、陰界(いんかい)の者たちにとって、それはただの自然現象ではない。
それは神話であり、災厄であり、そして……試練の光であった。
アモ・ブリオンは今、
その光の試練に足を踏み入れんとしていた。
目の前に立ちはだかるのは、
巨大な金属の門──**“換気口”**と呼ばれる裂け目。
そこから漏れる香りは、かつての記憶をくすぐる。
油、肉、そして人の気配。
ここが“キッチン”──
人類の要塞にして、かつて五十の殻が散った、伝説の地。
「……我らの記憶は、この地に刻まれている。
我は、それを確かめに来た」
アモは静かに殻を震わせた。
その背には、二体の影が従う。
“ナイト・クラシス”の下で訓練を受けた選抜兵――
機敏なる斥候「スリーアイズ」と、重装殻兵「モズ」。
「記録者によれば、この換気口は夜明けとともに閉じる。
入るなら今しかない」
と、スリーアイズが囁く。
アモは一度だけ後ろを振り返り、そして言った。
「では行こう。過去を取り戻すために」
換気口の中は狭く、湿り気が強かった。
だが、壁面には無数のひっかき傷。
それは、かつて侵入を試み、そして戻らなかった“殻”たちの爪痕。
「……五十の殻、ここで何を見たのだ?」
その問いに、答えるものはない。
そして──彼らは抜けた。
突如、視界が広がる。
光界。
その眩しさに、三体の殻は一瞬、身をすくめた。
「……で、でけぇ……」
モズが思わず呟く。
そこに広がっていたのは、
巨大な台、深き窪み(シンク)、
四角の山(食洗器)、**燃える口(コンロ)**──
まるで古代遺跡のような、人類の台所が、今そこにあった。
アモは冷静だった。
「まずは“遺骨”を探せ。
記録によれば、かつての第五斥候隊がこの地で消息を絶った。
奴らが何を残したのか、それが知りたい」
スリーアイズが、換気扇の下に何かを見つけた。
「これ……焦げ殻だ。しかも、番号が刻まれてる」
その番号は、確かに“侵略作戦・零式”に参加した個体のもの。
殻の断面は焦げており、強烈な熱によって焼かれた跡がある。
アモはそれを手に取り、そっと胸に当てた。
「……火を恐れぬ意思が、ここにあったのだな」
その時、轟音が響いた。
ゴォォォォ……ッ!
空気がうねり、床が揺れる。
何かが動いた。
巨大な、銀の刃物のような物体が──ゆっくりと上がっていく。
「……まさか、あれは……!」
人類の手。
巨大で、温かく、だが冷酷な“あの存在”が、キッチンに入ってきた。
「潜れッ!!」
アモの号令とともに、三体は影へと飛び込んだ。
ナイフ、まな板、包丁、フライパン──
人間の調理動作は、蟲にとっては暴風にも等しい。
スリーアイズがつぶやいた。
「……五十の殻、逃げ場などなかったはずだ……」
「いや」
と、アモは言った。
「我々は“名を持っている”。それだけで、違うのだ」
その瞬間、キッチンに鳴り響く“謎の呪文”──
「ゴキブリィ!?やだあああああ!!」
人類の叫び。
警報とも祈りともとれるその声に、天が震える。
アモは、静かに構えた。
「これが、奴らの“認識”か。ならば……受け止めよう。
我々が、何者であるかを示すために」
その瞬間、彼の背中に灯る蒼き痕──
それは、かつて“光界の子”がくれた“まもりの玉”の光。
一閃。
飛び散る洗剤。
轟く水音。
だが彼は倒れない。
「アモ・ブリオン……ここに在り!」
⸻
次回予告:第五話『魔導書《ゴミ袋の檻》との死闘』
人類は、異界の者を捕らえるため、ある禁術を用いる。
その名も《ゴミ袋》──
一度入れば、再び出ることは叶わぬ漆黒の封印。
闇と熱と臭気の三重結界に、アモはどう立ち向かうのか。
Coming soon…
誰かが読んでくれている。
それだけで、続きを書く理由になります。
「スキ」やフォロー、チップなどで応援いただけたら嬉しいです。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします!
いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!