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第二話:記録の囁き

夜の帳が下りた森に、風がひとすじ吹いた。
その風は、まるで言葉のように、リオンの耳元をかすめていく。

──記せ。
──忘れるな。
──語り継げ。

だがそれは声ではない。
むしろ「声の残滓」とも呼ぶべきものだった。

リオンは焚き火のそばで膝を抱え、胸元に包んだ黒き殻に視線を落とした。
その殻は、不思議なことに温もりを持っていた。
ただの物体ではない。明らかに、そこに“命”が息づいている。

「アモ……おまえは何者だ?」

つぶやいた刹那、殻の内側に淡い光が灯った。
まるで反応するかのように、リオンの脳裏に情景が溢れ出す。

──蠢く黒い蟲の群れ。
──崩れ落ちる石造りの都市。
──名を喰らうもの。
──そして、語りの使命を背負った“ひとつの蟲”。

それは、リオンが夢に見たものと同じだった。
だが今度は、もっと明瞭だった。
まるで、自身の記憶であったかのように。

「記録……いや、記憶そのものが、俺の中に流れ込んできているのか……」

リオンは顔をしかめる。
記録を読み取っているというよりも、“記録される側”にされている。
その感覚が恐ろしくもあり、同時に甘美でもあった。

ふと、焚き火の炎が不規則に揺れた。
風ではない。何かが、近づいてきている。
──音も気配もないのに、確かに“それ”はそこにいた。

リオンは直感で振り向く。
そこには、ぼんやりとした影のような存在が立っていた。
黒い布をまとい、顔もなく、輪郭すら曖昧な存在。

──記録を狙う者、“名を喰らう影”。

語り部の系譜を絶やそうとする、“忘却の使徒”たち。

「やはり……俺は選ばれてしまったのか」

殻が微かに震える。
それは恐れではない。むしろ“共鳴”だった。

リオンは立ち上がり、震える手で殻を握りしめた。

「……逃げはしない。名を受け取った以上、俺は語り部だ。
おまえを護る。そして、おまえを語る」

黒き影が、一歩踏み出した。
そのとき、リオンの足元に魔方陣のような光の模様が浮かび上がる。
彼がまだ知らぬ、語り部の力──
“語の結界”が発動したのだった。

風が吠え、焚き火が弾ける。
記録の囁きは、リオンの中で言葉へと昇華されていく。

「語れ」ではない。
「語り継げ」と。

そして、夜が明ける。
闇に浮かぶその殻は、静かに脈動していた。

つづく──

第3話予告:『名を喰らう影』

黒い影は音もなく進み、地を這うようにリオンへ迫った。まるで“記録”を喰らうかのように──。

Coming soon…


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