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第五話:語り継がれる名

リオン・ブリオン。
名を継いだ少年の足取りは、かつての旅路とは異なるものとなっていた。

もう彼は、ただの放浪者ではない。
記録を背負い、語り部として生きる者。
そして今、彼の言葉には、かつてアモ・ブリオンが伝えられなかった“想い”が宿っていた。

彼は語る。
廃棄された魔導蟲のことを。
拒絶され、恐れられ、それでも何かを残そうとした存在のことを。

最初は、誰も耳を貸そうとはしなかった。
だが──

「かつて、名なきものがいた。
それでも、記録を遺した。
それが今、語られているということは──
忘れられなかった証だ」

その言葉が、ある村の年老いた語り手の心に届いた。
彼はリオンを自らの炉辺に招き、静かにこう言った。

「名を継ぐとは、呪いでもある。
だがそれ以上に、灯火でもある。
どれほど闇が深くても、おまえの語る記録は、誰かの夜を照らすだろう」

その夜、リオンは初めて“観衆”の前で語った。

焚き火を囲む小さな集落の人々。
子ども、老人、働き終えた者たちが耳を傾ける。

アモ・ブリオン。
語られざる存在だったその“蟲”の名が、言葉として空に放たれた。

誰かが囁いた。
「そんなもの、作り話だ」と。

だが別の誰かが言った。
「でも、誰かが語ってくれたことを、私は忘れない」

語り終えた後、リオンは静かに殻を抱いた。
それはもう、ただの記録ではない。
彼自身の一部であり、旅の仲間でもあった。

そして彼は旅を続ける。
言葉と記録を携えながら。

語るべき“物語”はまだ無数にある。
滅びた王の末裔、名を捨てた勇者、声なき魔女──
それら全てが、この世界のどこかに眠っている。

その名を、誰かが語らねばならない。
忘れ去られる前に。
消えてしまう前に。

そして──
アモ・ブリオンの名もまた、リオンの語りによって次第に“伝承”となっていく。

ある者はそれを“蟲の英雄譚”と呼び、
ある者は“忌まわしき記録”として封じた。
だが確かに、語られた。

名は力となり、物語は次の語り部へと渡されていく。

語り部はいつか死ぬ。
だが、語られた“名”は、生き続ける。

最後の夜。
リオンは丘の上に座り、かつて自らが選ばれし聖域を見下ろしていた。
星空の下、殻がかすかに脈動する。

「おまえは、もう独りじゃない。
俺も──もう、独りじゃない」

その言葉に、殻が答えるように光った。

夜風が吹く。
語られた名が、風に乗って世界を巡る。

──こうして、アモ・ブリオンの名は、
“語り継がれる名”となった。


ココまで読んでくれて、ありがとう。
語り部が途絶えるなら、物語もまた、静かに眠る。
だが、語る者がいれば、名もなき者たちは、また動き出す。

──次なる章、更新を待て。



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