第四話:継承の儀式
空がわずかに白み始めた頃。
リオンは小高い丘の上に立っていた。
その手には、未だ温もりを失わない黒き殻──アモ・ブリオンの記録がある。
影との邂逅を経て、リオンは“語る”という行為が、単なる記録ではないことを理解した。
語るとは、名を繋ぐこと。
語るとは、魂を残すこと。
語るとは、運命に抗う術であるということを──
その朝、彼は導かれるように、丘の奥にある祠の扉を開いた。
そこは石で築かれた古代の語り部の聖域。
時の流れに削られ、苔むした石壁には、かつての語り部たちの名が彫られていた。
「ここが……語り継ぐ者たちの場所か」
リオンは静かに歩を進め、祭壇の前に立つ。
その瞬間、黒き殻が震えた。
まるで、ここに帰ってきたことを喜ぶかのように──
否、それは“継承”の刻が来たことを告げる震動だった。
殻から漆黒の光が溢れ、祭壇の石面に吸い込まれていく。
刻まれていた名が光り、ゆっくりと浮かび上がった。
『第十一代語り部候補:リオン・ブリオン』
リオンはその名を、まるで他人のように見つめた。
それは、彼自身の名でありながら、彼の人生が“ひとつの物語”として語られ始めた証でもある。
──名を継ぐとは、命を継ぐこと。
──語るとは、遺すということ。
「俺は……語り部になるのか」
静かに目を閉じたリオンの前に、再び“声なき声”が現れる。
──記せ。
──継げ。
──そして、繋げ。
リオンはゆっくりと息を吐き、殻を祭壇に置いた。
その瞬間、殻は自らの意思を持ったかのように浮かび上がり、彼の額に触れる。
時間が止まった。
世界が闇に包まれたかと思うと──
──アモ・ブリオンの記憶が、奔流のようにリオンの意識を満たした。
蟲として生きた日々。
誰にも認められず、恐れられ、拒絶され──
それでも語ろうとしたその“記録”。
かつての語り部たちがアモに与えた役目、そしてその使命を果たせぬまま散っていった哀しみ。
その全てが、リオンの中で形を持った。
──名を護る者として。
──物語を紡ぐ者として。
リオンはそれを拒まず、ただ静かに受け入れた。
額から殻が離れたとき、彼の眼には新たな光が宿っていた。
そして、祭壇の光が収まり、リオンの名が石に刻まれた。
『語り部第十一代:リオン・ブリオン』
その刻印は、もう誰にも消せない。
リオンは振り返り、静かに口を開く。
「俺は、語り継ごう。
アモ・ブリオンのことを。
忘れ去られた命の尊さを──」
新たな語り部の誕生。
名を受け継いだ少年は、語り手としての旅を始める。
彼が語るその先には、さらなる試練と、記録されざる物語が待ち受けている。
つづく──
第5話予告:『語り継がれる名』
リオン・ブリオン。名を継いだ少年の足取りは、かつての旅路とは異なるものへと変わっていく──。
Coming soon…
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