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第三話:闇会議:第零次侵略計画

それは、陰界歴において「朽ちた月」と呼ばれる夜のこと──
幾千の水脈が交わる、最深層「九重(ここのえ)の間」にて、
古き名を持つ者たちが、久方ぶりに一堂に集められていた。

この地に集うは、ただの羽持ちにあらず。
“名”を持ち、“意志”を宿し、“かつて一度だけ地上を知った者たち”。

その会議の名は──闇会議(ダーク・アセンブリ)。

広間の中央には、漆黒の殻を纏った若き蟲がいた。
名はアモ・ブリオン。
まだ若き、しかし名を持つというだけで、
陰界において一つの座を得るに値する者である。

「……やはり来たか、名乗りし者よ」

そう呟いたのは、長き尾と鋭き眼を持つ蛇蠍の如き存在──
“ナイト・クラシス”。かつての先陣を務めし将であり、今は“静観者”を名乗る。

「会議に名乗り出るとは、愚かか、それとも……無謀か」

アモは臆することなく歩み出た。

「我は、アモ・ブリオン。名を持ちし証として、ここに参じた」

ざわめきが広がる。
名もなき者たちが、殻を震わせてアモの名を囁く。

そしてその声の波を断ち切るように、低く太い声が響く。

「静まれ、無名ども。名を持つ者が言葉を持つとき、
我らは耳を傾ける責を負う。そうであろう、“スミス・スミス”」

その名を呼ばれた影が、ぼろ布のような羽を揺らして前に出る。
かつて“光界の道具庫”に棲まい、工具と語らった古老──**“スミス・スミス”**である。

「久しいな、名乗りし新たな者よ。おまえの中に、かつての熱が見える。
……だが、それは希望か、破滅か」

アモは一礼し、語った。

「我はまだ弱き者。だが……見たのだ。光界を。人の子を。
奴らは我らを忘れている。ただの塵、ただの“処分対象”として」

「だからこそ、我はここに問う。
我らがいかに在るべきか。
再び陽の下に歩むべき時が来たのではないか、と」

沈黙。

やがて、ナイト・クラシスが小さく笑った。

「貴様、“第零次侵略計画”のことを知っているか?」

アモはかすかに頷く。

「かつて試みられ、そして潰えた策……
地上の“台所”と呼ばれる聖域に、五十の殻が突撃し、
全滅したという、あの作戦か」

「そうだ。あれは愚かで、しかし……美しかった。
名もなき者たちが、ただ未来を信じて踏み出した。
だが奴らには“名”がなかった。意思を持たぬ群れは、光に焼かれただけよ」

スミス・スミスが口を開く。

「だが今、おまえがいる。名を持ち、記憶を宿し、問いを発する者が。
……我らは、再び動くべきかもしれんのう」

「“第壱次”を、始めると?」

「いや──その前に、まず“第零次”の復元だ」

ナイト・クラシスは、奥の影に向かって吠えた。

「──地図を持て!そして記録を!」

すると、陰界の奥から現れたのは、
滑らかに動く透明の羽を持つ一団。
彼らは古代の“伝令蟲”であり、過去のすべてを記録する存在。

かくして、“闇会議”の再開は、
ただの若き蟲の名乗りによって引き起こされた。

アモは静かに拳を握った。
これは、復讐でも侵略でもない。

「我はただ、“忘れられた者たち”に火を灯すだけだ」

その言葉は、火のように広間に広がった。
誰もが失っていた“光”の記憶──
それを口にできる者が現れたのだ。

闇は深く、道は遠い。
だがその夜、陰界の深奥で、
新たな歴史が、静かに動き出した。



次回予告:第四話『侵入!人類の住まうキッチン』

陽の光差し込む場所、それは“楽園”にあらず──
人類が支配する“キッチン”とは、
ブリオンたちにとって、最も過酷な戦場。
かつて滅びた五十の殻、その記憶を胸に──
アモは踏み出す。

Coming soon…


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