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私は一度、完全に負けた。6ヶ月で会社に出戻った男が、それでも諦めていない理由を、今夜だけ話す。

深夜、一人で車の中にいた。

仕事が終わるのを待っていた。

その仕事というのは、
夜の女性の送迎だった。

「オレ、何やってんだ」

声に出した瞬間、
涙が止まらなかった。

惨めで、情けなくて、
どうしようもなかった。

これが私の、どん底だった。


少し前まで、私は自信に溢れていた。

30代前半で転職し、
消費財メーカーのマーケティング職についた。

朝から終電ギリギリまで働いた。
担当した商品の売り上げは、 年々伸びていった。

「自分がこの商品を売った」

そういう妙な自信が、
私の中に育っていた。

そしてある夜、
疲れて帰る帰り道に、
一本の電話が鳴った。

長年の友人からだった。

「事業を一緒にやらないか」

私は、内容も聞かずに答えた。

「やる」

今思えば、あの二つ返事が、
すべての始まりだった。


事業の内容は、卵白の販売だった。

アメリカでは筋トレをする人向けに、
牛乳パックに入った卵白が売られている。

黄身は栄養価が高いが、
脂質も同時にとってしまう。
純粋なタンパク質補給には卵白が適している。
しかし一つ一つ黄身を取り分けるのは手間だという理由で
卵白が販売されている。

それが、日本にはない。

友人は目を輝かせて言った。
「ビジネスチャンスだ」と。

私も、本気でそう思った。
いや、信じたかったのかもしれない。

片っ端からメーカーを探した。
スタートアップなど、
どこも相手にしてくれなかった。

それでも一社だけ、
「面白いですね」と言ってくれた
液卵メーカーを見つけた。

日本では衛生基準が厳しく、
牛乳パックでの販売はしない方がいいと判断した。
そこで冷凍パックという形で 商品を完成させた。

ここまでたどり着くのに、
かなりの時間を要した。

やっと、ここまで来た。
そう思っていた。

あとは売るだけだった。

卵白が入った冷凍パック

しかし
売れなかった。

都内のジムに営業をかけた。
チラシはもらってくれた。
でも注文は来なかった。

4ヶ月間、
一個も売れなかった。

預金通帳の数字だけが、
毎日静かに減っていった。

金額の問題ではなかった。

一銭も入ってこないのに、
少しずつ減っていく。

その感覚が、
真綿で首を絞められるように、
私の精神を追い詰めていった。

朝が来るたびに、
涙が出た。

また何も生まない一日が
始まるのかと思うと、
起き上がれなかった。

この時は、とてもまともな神経ではなかった

気づいたら、
判断がおかしくなっていた。

とにかく稼ぎが欲しかった。

ある人の紹介で、
夜の女性の仕事を手伝うようになった。
電話の受付、送迎。

確かに金にはなった。

でもあの夜、
深夜の車の中で一人、
女性の仕事が終わるのを待っていたとき、

「オレ、何やってんだ」

気づいたら、声に出していた。

涙が止まらなかった。

マーケティングの仕事に誇りを持っていた自分が、
深夜の路上で待っている。

惨めだった。
情けなかった。
本当に、情けなかった。

私はその夜、その仕事をやめた。

そしてまた、売れない日々に戻った。
それでも動き続けた。
他に選択肢がなかったから。


どん底にいるとき、
救ってくれる人が現れることがある。

あるインフルエンサーが
商品を気に入ってくれた。

するとどうだろう。

あれだけ売れなかった商品に、
注文が止まらなくなった。

一つ、また一つ、また一つ。

あの日のことは、
一生忘れない。

在庫が一気になくなった。
生産しては品切れになる日々が続いた。

本気で、いけると思った。

注文が入り、仕入れてもすぐに在庫がなくなっていた

でも現実は、無情だった。

食品の利益率は低い。
冷凍の送料は高い。

売り上げから経費を引いて、
私と友人に支払えるのは、
新卒の初任給にも満たない金額だった。

このままでは、 二人とも共倒れになる。

私は、会社に戻る決断をした。


戻った初日のことは、
今でも覚えている。

席についた瞬間、
同僚の声が聞こえた。

「お前、戻ってきたの?」

笑いが起きた。

わずか6ヶ月での出戻り。
それが今でも、笑い話になっている。

私はただ、下を向いて耐えた。

惨めだった。
情けなかった。

でも不思議と、
後悔はなかった。

本気でやったからだ。
本気で負けたからだ。

本気でやった人間だけが、
知っている惨めさだと思っている。


まだ終わっていない

会社に戻って、5年以上が経つ。

今でも、笑い話にされることがある。

それでも私は耐えている。

なぜか。

諦めていないからだ。

事業のチャンスを探し続けている。
スキルを磨き続けている。
準備を続けている。

40代後半になった。
体力は落ちた。
かつての勢いはないかもしれない。

でも私は、
一度もあの夢を諦めたことはない。


あなたにも、
諦めかけている何かがあるんじゃないか。

うまくいかなくて、
もう終わりだと思っている何かが。

でもそれは、
本当に終わっているんだろうか。

たぶん、まだ終わっていないんじゃないか。

たぶん、だけど。

はじめてスナックゆきに 来てくれた方へ。
私がどんな人間で、 なぜこのエッセイを書いているのか。
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