「最近、No.2が守りに入った」と感じたら、それは組織が成長している証拠だ。
創業期、僕たちは「阿吽(あうん)の呼吸」という魔法を使えた。
言葉にしなくても、目を見ればわかった。
僕がアクセルを踏めば、彼(彼女)がハンドルを握る。
僕が夢を語れば、彼が地図を描く。
二人は背中合わせの「共犯者」で、世界で一番、互いを理解しているという自信があった。
けれど、組織が急拡大し、社員数や事業規模が徐々に増えていく過程で、ふと、その魔法が解けてしまったように感じる瞬間がある。
「最近、アイツとなんだか噛み合わない」
仲違いしたわけではない。
ただ、ミーティングでの沈黙が少し長くなり、
チャットの返信が事務的になり、
かつては毎晩のように飲み明かした二人が、もう半年もサシで話していないことに気づく。
経営トップであるあなたから見ると、最近のNo.2はこう映るかもしれない。
「あんなに攻める奴だったのに、最近はリスクばかり口にする」
「僕のアイデアを、現場のリソース不足を理由にブロックする」
「なんだか、守りに入ってしまったんじゃないか」
もしそう感じているなら、安心してほしい。
それは二人の関係が終わったのではない。
組織が健全に成長している証拠であり、同時に「役割の構造改革」を迫られているサインなのだ。
「遠視」のCEOと、「近視」のCOO
なぜ、すれ違いが起きるのか。
それは性格の不一致ではなく、「焦点距離」のズレだ。
組織論的に言えば、CEOの役割は、3年後、5年後の未来を見る「遠視」だ。
まだ存在しない市場、新しい事業、非連続な成長。
遠くを見れば見るほど、足元のデコボコ(現場の混乱)は視界に入らなくなる。
対して、COO(No.2)の役割は、今の組織を守り、今日の結果を出す「近視」だ。
彼らの視界は、常に解像度が高い。
メンバーの疲れた顔、崩れかけたオペレーション、キャッシュフローの現実。
足元を見れば見るほど、CEOの語る「遠くの山」は、ただの「現実逃避」にしか見えなくなる。
創業期は、二人ともが「泥んこの中」にいたから、同じ距離感で話せた。
でも今は違う。
あなたが空を飛び、彼が地を這っているからこそ、組織は回っている。
この「視界の乖離」こそが、組織が機能している証なのだ。
「翻訳者」が「防波堤」に変わる時
米国の経営コンサルタント、ジーノ・ウィックマンは著書『Rocket Fuel』の中で、成功する組織には「ビジョナリー(構想家)」と「インテグレーター(統合者)」という二つの対照的な役割が不可欠だと説いている。
* ビジョナリー(あなた): 情熱的で、アイデアが溢れ、混沌を好む。
* インテグレーター(No.2): 冷静で、規律を守り、混沌を秩序に変える。
かつて、No.2はあなたのクレイジーなアイデアを現場に伝える「翻訳者」だった。
しかし、組織が大きくなり、現場の負荷が高まると、
インテグレーターとしての彼は、組織を守るために「防波堤」にならざるを得なくなる。
あなたが「攻めよう」と言うたびに、彼は「守らなきゃ」と身構える。 あなたが彼を「保守的だ」と嘆くとき、彼はあなたを「無責任だ」と嘆いているかもしれない。 お互いが正義のために戦っているからこそ、この喧嘩は苦しい。
AIなら喧嘩しない。人間だから摩擦が起きる
もし、CEOとCOOがAIだったらどうだろう。
おそらく喧嘩なんて起きない。
「成長率目標150%に対し、リソース不足のリスクが30%。よって、新規事業への投資配分をX%に修正します」
瞬時にデータを同期し、最適解を出して終わりだ。
そこに感情のもつれも、気まずい沈黙もない。
でも、そんな組織に「熱源」は生まれるだろうか?
僕たち人間が、あえてチームでやる意味はここにある。
「摩擦」だ。
アクセルを踏み込むビジョナリーと、必死にブレーキを調整するインテグレーター。
この二人が本気でぶつかり合う時に生じる「摩擦熱」こそが、組織を前に進める爆発的なエネルギー(=熱源)になる。
AIは「効率的な正解風なこと」しか出さない。
でも、僕たちが目指しているのは「非合理な夢(ビジョン)」だ。
だからこそ、分かり合えなくていい。
イライラしてもいい。
その「噛み合わなさ」こそが、AIには真似できない、人間だけの「創造的葛藤」なのだと思う。
「ゴム紐」のテンションを取り戻す
では、どうすればいいのか。
無理に視点を合わせる必要はない。
遠くを見る人と、近くを見る人。
この二人が引っ張り合う「ゴム紐のような緊張関係(テンション)」こそが、組織の推進力になるからだ。
ゴム紐は、緩すぎれば力が出ない。
でも、引っ張りすぎれば切れてしまう。
今、あなたたちが感じている「気まずさ」は、ゴム紐が切れそうになっている警告音だ。
必要なのは、再び同じ景色を見ることではない。
「お互いが、違う景色を見ていること」を認め合う時間だ。
アジェンダのない食事に行こう。
会社の数字の話も、人事の話も一切禁止にして。
「最近、俺には3年後の景色ばかり見えていて、現場の痛みがわからなくなっているかもしれない」
「お前には今、現場がどう見えている?」
そうやって、互いの「レンズ」を交換し合うだけでいい。
解決しなくていい。
ただ、「ああ、お前は今、そんな重たい荷物を背負ってくれていたんだな」と想像するだけでいい。
孤独を分かち合える唯一の相手
実力があるNo.2とは、世界で一番損な役回りかもしれない。
社長からは「なんで俺の気持ちをわかってくれないんだ」と言われ、現場からは「あなたは仕事が出来すぎるから私たちのことはわからないですよね、だから社長ばかりを見ているんだ」と言われる。
その孤独を理解し、労うことができるのは、世界でたった一人、リーダーのあなたしかいない。
すれ違いを感じたら、思い出してほしい。
彼が「守り」に入っているのは、彼自身のためではない。
あなたが作った、この大切な城(事業・組織)が崩れないように、
必死で柱を支えてくれているからだということを。
今夜、久しぶりにお2人で事業の将来性を語り合った「あの店」を予約してみてはいかがでしょうか?
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