スタートアップが「パートナーセールスを始めたい」と思ったときに読むべき基礎知識
こんにちは、BtoBマーケティングとスタートアップのグロースを専門としている株式会社マイノリティ代表の柳澤大介です。
最近、多くのBtoBスタートアップからこんな質問をいただきます。
「うちの会社でもパートナー販売を導入すべきか」 「どんなタイミングで代理店モデルに移行するのが効果的か」「代理店を増やしたけど、思ったより売上があがらない」
デジタルマーケティングが主流となり、自社で直販する方法が発達したいまでも、実はパートナーセールスはBtoB企業にとって非常に効果的な販売手法です。
特に成長フェーズに入ったスタートアップにとっては、次のステージに進むための重要な戦略オプションとなっています。
よく耳にする「T2D3」という成長曲線。いわゆる「3倍3倍、2倍2倍2倍」の急激な売上成長を、自社の営業部隊だけで実現するのはかなりの難易度です。そこで多くの経営者がパートナーセールスの導入を検討し始めるわけです。
しかし、いきなりパートナーを増やしても思うような結果は得られません。適切なタイミングで、適切なパートナーと、適切な関係構築をしなければ、かえって工数ばかりがかかってしまいます。
この記事シリーズでは、パートナーセールス(=代理店販売)について「知っておくべき基礎知識」から「具体的な実践方法」まで、数回に分けて解説していきます。
今回はまず基礎編として、パートナーセールスの基本概念について解説します。
そもそもパートナーセールスとは何か?
まず、パートナーセールスの基本的な定義から確認します。これは、自社の商品やサービスを直接エンドユーザーに販売するのではなく、他社(パートナー企業および代理店)を通じて販売する手法のこと。
簡単に言えば、「自社で営業部隊を抱えて直接販売する」直販モデルとは異なり、「販売のプロである他社に販売を委託する」モデルのことですね。
具体的には、メーカーが商社や販売代理店を通じて自社製品を市場に流通させたり、BtoB企業がSIerなどのパートナー企業を通じて自社のソフトウェアを提供したり、媒体社が広告代理店を通じて広告枠を販売したりする形態などが挙げられます。
例えば製造業であれば、自社で製品を開発・製造したメーカーが、全国各地の商社や販売店に製品を卸し、そこから最終的なエンドユーザーに販売される流れが多く見られます。
この場合、メーカー自身は直接エンドユーザーと接点を持つことなく、パートナー企業を介して製品を市場に届けることになります。
業界や文脈によって、この販売形態は「パートナーセールス」「代理店販売」など、さまざまな呼び方をされており、さらにその位置づけも大きく異なります。
製造業や建設業では主流の販売方法
日本の伝統的な製造業や建設業では、パートナーセールスはむしろ基本的な形態と言えます。例えば、三菱電機やオムロンといった大手製造業メーカーは、基本的に「商社」と呼ばれる代理店を通じて製品を販売しています。
例えば、北海道にある企業が三菱電機のセンサーを購入したいと問い合わせても、実際に連絡が来るのは三菱電機本体ではなく、その地域を担当する商社から、というケースが一般的ですね。
ただし例外もあります。同じ製造業でもキーエンスは代理店を通さない直販モデルを採用しています。
これは、顧客の声をダイレクトに製品開発へ活かすという戦略的な判断によるものです。
オムロンが代理店網を通じて日本全国の市場を効率的にカバーする戦略を取るのに対し、キーエンスは自社の営業担当による顧客理解と課題解決提案を重視する戦略を取っており、両社ともそれぞれのやり方で好調を維持しています。
建設業界においても、建材メーカーが直接建設会社に販売するのではなく、建材商社を通じて販売する形態が主流ですね。昔からある大手企業ほど代理店販売が主流となっています。
IT企業は“PMF”の後に本格化
一方、ITサービスやSaaS業界では、事業立ち上げ当初は直販モデルからスタートするケースが多数派です。
まずは自社の営業部隊がエンドユーザーと直接対話し、製品の価値を伝えながら市場を開拓していきます。そして製品が市場に受け入れられ、いわゆるプロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成すると、資金調達と同時にさらなる成長加速が求められます。
そこで初めてパートナーセールスを取り入れようとする企業が、近年は増えています。特にスタートアップの場合は自社の人的リソースだけでは急速な市場拡大に限界があるためです。
(※PMFと営業手法の変化についてはこちらをご覧ください)
SmartHRやfreeeといった国内の有力SaaS企業も、PMFを終えて成長フェーズに入ってからパートナープログラムを本格的に展開し、税理士や社労士、ITベンダーといったパートナーとの連携を深めています。
広告業界も特殊な商流を持っています。ソフトバンクやドコモ、ユニクロといった大口の広告主は、紙媒体からデジタルまで膨大な種類の媒体へ広告を出稿します。
そのため、テレビや新聞、Webメディア、Google、ヤフーなどの個々の媒体社と直接取引するのではなく、電通や博報堂のような総合広告代理店を窓口として依頼を一元化するのが一般的です。
媒体社側から見ても、この商流に乗ることが重要であり、例えばスマートニュースのような新しいメディアでも、広告売上の大部分を代理店経由が占めるというビジネスモデルが成り立っています。
このように、業界によってパートナーセールスの位置づけが大きく異なるのがおもしろいところです。
直販vsパートナーセールス、どちらがいい?
パートナーセールスを検討する上では、直販モデルとの違いを正しく理解しておくことがまずは重要です。
当然、どちらか一方が優れているというわけではなく、自社のビジネスモデルや成長フェーズ、リソース状況に合わせて最適な販売戦略を選択したり、組み合わせていく必要があります。
いくつかの点から両者を比較してみます。
まず、「顧客との接点と市場理解」の観点では、直販モデルのほうがメリットありです。自社の社員である営業担当者が直接顧客と対話するため、顧客のニーズや課題を詳細に把握できます。
こうしたフィードバックを製品開発やサービスの改善に活かせる反面、自社の営業リソースには限りがあるため、アプローチできる顧客数やエリアはどうしても限定的になりがち。
一方のパートナーセールスでは、パートナー企業が持つ販売網や既存の顧客基盤を活用できるため、自社だけではリーチできなかった地域や顧客層へもアプローチでき、事業を素早く拡大できる可能性があります。
ただし、顧客との間にパートナー企業が入るため、エンドユーザーとの直接的な接点は減少します。そうなると市場理解のためは別の情報収集の仕組みが必要になるかもしれません。
次に、「コスト構造と営業リソース」の観点から見ると、ここは大きく異なります。直販モデルを維持するには、営業部隊の採用、育成、給与、福利厚生、オフィススペースなど、とにかく多額の費用が発生します。
私も前職で経験がありますが、営業組織の規模を急拡大させることは簡単ではないです。でもその代わりに、自社で直接コントロールできる営業部隊を持つことができます。
これに対してパートナーセールスは、自社の営業リソースを抑えながら、パートナー企業の営業力を活用できる点が魅力です。しっかりと設計できれば、少ない初期投資で大きな営業力を手に入れられます。
もちろん、パートナーへ支払う手数料やマージンは発生しますが、自社で営業部隊を維持するコストに比べると低くなります。
わかりやすいところでは、「利益率」は直販モデルの方が有利です。パートナー企業へのマージンが発生しないため、製品やサービスが売れた際の利益率は高くなります。
パートナーセールスの場合、パートナーへのインセンティブとして、一般的に売上の10~20%程度のマージンを支払う必要があるため、その分、売上あたりの利益率は直販よりも低くなります。
例えば、月額10万円のSaaSサービスを販売する場合、直販なら10万円が売上になりますが、パートナー経由でマージンが15%なら、自社の取り分は8.5万円です。
ここは利益率を取るか、販売量の拡大を取るか、というトレードオフの関係になりますね。
「営業の質とコントロール」の面でも違いがあります。直販では、自社の営業担当者に対して、製品知識や営業手法などを浸透させ、手厚い教育のもとで営業活動を展開できます。
一方のパートナーセールスでは、パートナー企業の営業担当者は自社の社員ではないため、営業の質を一定に保ったり、活動内容を細かくコントロールしたりするのは難しいです。
パートナーは非常に多くの商材を扱っているため、自社製品の知識習得や販売活動にどれだけ注力してくれるかは、パートナー次第という側面もあります。
以上の比較から、直販とパートナーセールスにはそれぞれの強みと弱みがあることがわかると思います。
このような特性を理解しておくと、スタートアップが成長段階でパートナーセールスを取り入れる際に、よりスムーズに営業戦略を転換できるはずです。
実は「代理店になる会社」もさまざま
特にパートナーセールスとの親和性が高いとされるSaaS製品について、実際にどのようにパートナーセールスが機能しているのか、その特徴をさらに掘り下げてみます。
主にBtoBのSaaS製品では、立ち上げ初期はPMFを目指し、直販で顧客理解を深めることが重要だというのは先ほど書いたとおりです。
その上で、PMFを達成した後にパートナーセールスでさらに成長を目指すべき理由としては、その製品特性とビジネスモデルが挙げられます。
SaaS特有のサブスクモデルや従量課金モデルは、パートナーにとっても継続的なレベニューシェアなどの収益が見込めるため、販売するインセンティブが働きやすいという側面があります。
そして実は、さまざまな業界の企業や専門家がそのようなSaaS製品を「担いで」いるんです。
たとえばfreeeやSmartHRのような中小企業向けのSaaSは、税理士や会計事務所といった専門家、さらに地方銀行と連携することで、彼らの顧客への導入提案を進めています。
また、大塚商会やUSENのような全国的な販売網を持つITベンダーや、その土地ごとの地元企業との連携によって、自社だけではリーチしにくい顧客層にも浸透させています。
今回はパートナーセールスの基本的な概念から、直販モデルとの比較、そして業界による特徴の違いまでをまとめてみました。
次回は、より具体的な「パートナー戦略の立て方と選定方法」を解説します。よかったらnoteをフォローしてお待ちください。
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