【姉のこと|エピソード20】「偽善者」と呼ばれて〜姉との決別、犠牲の果てに〜
父が亡くなり、重石が外れたはずなのに問題は山積みでした。
「一人で住むのは寂しい、怖い」と
泣く母。
あんなに父を嫌っていたはずなのに、一転して悲劇のヒロインを
演じる母の面倒を誰が見るのか。
その矛先は、当然のように私に
向けられました。
姉は「絶対に住まない」と拒絶し、
妹は経済的な理由で不可能。
消去法で、私だけが取り残されました。
夫は「いいよ」と言ってくれましたが、私の心は悲鳴を上げていました。
(なんで、私なの? 私だって嫌なのに……)
父の相続を放棄し、
身の丈に合わない豪華な二世帯住宅のローンを背負い、
母の虚栄心を満たすための家づくりが始まりました。
不安と重圧に押しつぶされそうな日々。
それでも「これが家族のためなら」と
自分に言い聞かせていた、
その時でした。
姉から一本の電話が入りました。
「お父さんが建てた家を壊すの?」
暗く、淀んだ声。
姉は続けました。
『実家の土地は一番広いでしょ。
そこをあんたが独り占めして新しい
家を建てるなら、他の二つの土地の
評価額を調べなさい。
その差額を、お母さんが死んだ後に
私にきっちり払いなさい。
そうじゃないと、
私は絶対に許さないから』
耳を疑いました。
押し付けられた母、
背負わされた多額のローン、
自分の人生を犠牲にした決断。
その全てを無視して、
姉が口にしたのは「金」の話でした。
溢れそうになる怒りを抑えて、
私は言いました。
「私も好きで住むわけじゃない!
みんながいやだというから、自分を
殺してそうせざる得なかった。
みんなのために決めたことなのに……
勝手だよ。
もういい加減にしてよ!」
すると姉は、冷笑するようにこう言い放ったのです。
「自分を殺してる? みんなのため?
何言ってんの?
そんなのあんたの自己満足じゃん。
あんたが周りに『いい人だ』と
思われたくて、勝手にやってることを私のせいにしないでよ」
さらに姉は続けます
「私はね、あんたが人の気持ちが
わかるいい人だなんて、これっぽっちも思ってないし認めない。
結局は人のためとか言って全部
自分のためでしょ
そんなのは偽善っていうの。
あんたはただの偽善者なんだよ』
怒りさえ湧いてこない。
ただ、胸の奥で、静かに糸が切れた
30年以上かけて繋ぎ止めていた
何かが、ぷつりと音を立てて切れた
瞬間でした。
幼い頃から、姉や妹の身代わりに
殴られ、家族の顔色を伺い、
両親の望む言葉を言い続けてきた。
誰よりも「いい子」でいることで、
この壊れた家族を繋ぎ止めてきた。
本当の自分を見失っても尚、自分を殺してきた。
そうしないと生きてこれなかった。
その必死な私の生き方を、
姉は「偽善」の一言で踏みにじった。
(ああ、もう無理だ)
あの葬儀の日、
あんなに辛い思いをして
「許す努力をする」と言った
あの決意は、一体何だったのか。
何度、この人からの許しを受け入れ
何度傷つけられるのか。
私はもう、
この人の「妹」ではいられない。
「……うん、もうわかった」
私はそれだけを言って、電話を切りました。
それが、30年以上続いてきた
「姉」という存在との、本当の意味での終わりの始まりでした。
私は、誰のためでもない、
私自身の人生を守るために、
この絆を自ら断ち切る決意をしたのです。
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